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野獣死すべし/無法街の死 日本ハードボイルド全集2 [読書・冒険/サスペンス]


野獣死すべし/無法街の死: 日本ハードボイルド全集2 (創元推理文庫 M ん 11-2)

野獣死すべし/無法街の死: 日本ハードボイルド全集2 (創元推理文庫 M ん 11-2)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/10/19
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 日本ハードボイルド小説の勃興期を俯瞰する全集、第2巻は大藪春彦。
 デビュー作の中編「野獣死すべし」を筆頭に長編1作、短編8作を収録。


「野獣死すべし」
 大学院生・伊達邦彦(だて・くにひこ)が、大学の入学金強奪を実行する話。
 序盤は彼の生い立ちが語られる。第二次世界大戦前の中国で生まれ、終戦による混乱から脱出、必死の思いで帰国を果たす。
 名門高校へ進学し、演劇部を通じて複数の女性と関係するが、その一人が自殺し、その葬儀の場で自分の心の中に「野獣死すべし」という幻聴を聞く。
 大学では欧米のハードボイルド小説を研究、大学院に進学してから本格的に犯罪に手を染めていく。警官を殺して銃を奪い、同級生の真田を利用して現金強奪計画を推し進めていく・・・
 伊達邦彦は冷静沈着で怜悧な頭脳の中に、破壊への衝動を併せ持つダーク・ヒーローだ。wikipedia によると、彼の物語はシリーズ化され、日本はおろか世界を股に掛ける "ワン・マン・アーミー"(一人だけの軍隊)として様々な事件に関わっていく。


「無法街の死」(長編)
 東海道線沿いの街・杉浜(すぎはま)では、戦前から根を張っている和田組と、戦後の新興勢力・共和会という二つのヤクザ同士の間で抗争が起こっていた。警察幹部もヤクザから流れる金で買収されていて、まさにここは "無法街"。
 主人公・高城(たかぎ)は、ヴァイオリンケースに収めた短機関銃を武器とする殺し屋だ。彼が共和会に雇われ、杉浜にやってくるところから物語が始まる。
 それを嗅ぎつけた和田組のチンピラが高城を拉致しようと待ち構えているが、彼はあっさりと返り討ちにする。驚くのは、そこからラストに至るまで、暴力と殺人が延々と続いていくことだ。
 高城の行動は先のことはほとんど考えていない短絡的なもので、ひたすら目の前の障壁を突き破ることが最優先。だからストーリーはあってないようなもの。
 二組のヤクザの対立は、高城という "火種" が加わったことによって爆発的にエスカレートしていく。


「狙われた女」
 主人公の私立探偵・田島は、オリンピック射撃競技の候補にもなっている男。彼の元に「私は狙われている。守ってほしい」という女性からの依頼が。引き受けた田島だが、彼女の "藤倉秋子" という名乗りからして偽名らしい・・・


「国道一号線」
 私立探偵の "俺" は、宮田幸子という女性を探す依頼を受ける。3年前、高校2年生だったときに失踪したのだという。国道一号線沿いの深夜食堂での目撃情報だけを頼りに探し始めるのだが・・・


「廃銃」
 過去5年間で、摘発などにより暴力団等から押収した拳銃・散弾銃、さらに老朽化した警察用拳銃など、併せて一万挺近い銃器が、鉄工所の溶鉱炉に投げ込まれる寸前に強奪されてしまう。警視庁捜査第四課の秘密捜査官の "私" は、暴力団への潜入捜査に臨むが・・・


「黒革の手帖」
 警視庁淀橋署捜査一課の三村警部補は、関森組のヤクザ・大塚を正当防衛を装って射殺、彼が所持していたヘロインを奪う。しかしそれに感づいた "ジョー" という男が現れて・・・。いわゆる "悪徳警官" もの。


「乳房に拳銃」
 園井は保守党の有力者の娘・麻矢子と結婚したが、5年後の今はほとんどヒモ状態にあった。麻矢子の所有する宝石店は順調に発展し、園井の営む銃砲店は赤字続き。イタリア人ヤクザから借金の返済を迫られた園井は、麻矢子のもとへ向かうが・・・


「白い夏」
 享楽的に生きる若者・登志夫は、右翼の若者ともめ、ナイフで刺し殺してしまう。その直後、かつて仲間と共に輪姦した美子(よしこ)という女に出くわし、二人でドライブに出かけるのだが・・・


「殺してやる」
 豊島組組長の妻・悦子は、準幹部の石井と浮気していた。ある日、組長の豊島に呼ばれた石井は、対抗組織の花谷組組長の暗殺を命じられる。報酬は大幹部への昇格。ただし、警察に捕まっても、あくまで個人で行ったことだと証言することが条件だった・・・


「暗い星の下に」
 土井は友人の加藤から3000万円の物件を紹介される。土井の婚約者・順子の父は退職金を前借りして購入を決めるが、加藤はその金を持ち逃げしてしてしまう。物件の所有者・中田の元へ相談に行った順子は、その場でレイプされ、土井の前から姿を消す。すべてを喪った土井の復讐が始まる・・・


 ほぼ全作が犯罪小説/暴力小説。それも銃器がらみの話がほとんど。
 作者のデビューは衝撃的だったらしいが、それも理解できる。「野獣-」の伊達邦彦のキャラ造形は極めて刺激的だし、「無法街-」の、ほぼ全編にわたるガンアクション・シーンには圧倒される。

 巻末のエッセイでは、作家・馳星周氏が、高校2年生の頃に大藪春彦を読みまくった経験が綴られている。私も、この異様な熱気を纏う小説群を思春期に読んでいたら、その後の読書人生がいささか変わっていたかも知れない。

 また、そのエッセイの中では、純粋なハードボイルド作品や冒険小説が減っていることに懸念を示している。出版不況の現代では、その手の小説は "売れ筋" ではないらしい。
 馳氏はこのジャンルの復興を願ってエッセイを締めているが、私もそれには期待したい。大藪春彦的なバイオレンス小説はちょっと胃にもたれるが(笑)、冒険小説の傑作はぜひ読みたいものだ。



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