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大雪海のカイナ [TV] / 大雪海のカイナ ほしのけんじゃ [映画] [アニメーション]


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 「大雪海のカイナ」は、全11話のTVアニメ。そして映画「ほしのけんじゃ」は、その続編かつ完結編に当たる物語。

 TVシリーズを見ずに映画を観に来る人はほとんどいないと思ってたが、ネットの感想を読んでみると、そうでもないみたい。極端な話、TVシリーズを全くの未見でも映画は理解できないわけではないが、TVと映画を通しで観ることにより、ひとつの作品として完成するので、本作を充分に楽しむためにも、ここは観てからの鑑賞をお勧めしたい。


 とりあえず、まずはTVシリーズを振り返る。
 Wikipediaの記述をベースに一部編集したものを掲げる。

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 舞台となるのは、地表が雪原(この世界では雪海[ゆきうみ]と呼ばれる)で覆われた世界。かつては高度な文明が栄えていたがそのほとんどは喪われ、断片的な技術が残るのみ。文字についても、ほとんどの者は見たことすらない。

 地上には巨大な樹木「軌道樹」が多数存在し、人間たちはそこで得られる水を求めて樹の根元に小都市を築いて暮らしている。ヒロインとなるリリハはそんな都市国家のひとつ、アトランドの王女だ。しかし「軌道樹」が産出する水は近年減少しており、近い将来に枯渇するのではないかと心配されていた。

 また「軌道樹」は、はるか上空にあって惑星全体を覆っている「天膜」をも支えていた。そこにもわずかな人間が集落を作って生活している。主人公のカイナはそこで暮らす少年だ。集落の老人から学んだことで、文字を読む力を身につけている。

 あるとき、アトランドの水を狙って移動戦闘国家バルギアが侵攻してきた。リリハはアトランドを救うべく、伝説の「賢者」を求めて「天膜」へと昇る。

 リリハと出会ったカイナは彼女と共に軌道樹を降りていき、初めて地上の雪海に降り立つ。だがそこでリリハはバルギア兵にさらわれてしまう。

 カイナはリリハの弟ヤオナとバルギアに乗り込み、リリハの奪還に成功するが、バルギアは古代兵器「建設者」(過去の超科学の遺物)を持ち出してアトランドへの侵攻を開始する。
 しかしカイナの働きで「建設者」は倒され、アトランドとバルギアの間に停戦が成立する。

 文字が読めるカイナは、アトランドの地下にある旗が巨大な軌道樹「大軌道樹」への地図になっていることに気づく。そこに行けば豊富な水が得られると考えたアトランドは、バルギアと協力して「大軌道樹」の探索を開始することになる。
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 というのがTVシリーズのあらまし。
 こう書いてくると、よくできたシリーズのように見えるが、実際に観てみるとちょっとバランスの悪さを感じる。
 主役たるカイナもあまり見せ場はなく、クライマックスの「建設者」破壊の場面もいささか唐突であっけなく感じる。
 意地悪く捉えれば、TVシリーズは映画に向けての世界設定の説明とキャラの紹介を兼ねた、壮大な ”前日譚” になっているとも言える。


 ではそれを受けた映画の方はどうか。今度は映画公式サイトから。

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文明が衰退し雪海(ゆきうみ)に沈んだ惑星。
人類は巨木「軌道樹」から広がる世界でかろうじて暮らしていた。
文字が読める少年・カイナと雪海の王女・リリハは
水源となる「大軌道樹」へと向かうが、
そこにあったのはビョウザン率いる独裁国家・プラナトだった。

「建設者」と呼ばれる兵器を自在に操り、
人類のためとして大軌道樹の破壊をもくろむビョウザン。
そして、失われた「文字」を読み解き、
滅びゆく世界の謎に迫るカイナとリリハ。

終末世界を舞台に展開するポスト・アポカリプスファンタジー超大作!
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 こちらはもう、全編にわたってアクション/スペクタクル・シーンの連続で、TVシリーズを「静」とすれば映画が「動」だろう。
 後半では、カイナとリリハは世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれていく。
 エンタメ作品としてはとても良くできていて、とても楽しむことができた。


 全編を通してみた私の第一の感想は
「これは 弐瓶勉版『未来少年コナン』だなぁ」
 だった。

 一応説明しておくと『未来少年コナン』とは、言わずと知れた宮崎駿の初TV監督作で、1978年にNHKで放映された全26話のアニメ作品だ。
 『未来少年コナン』を観たことのある人ならば、『カイナ』との間に多くの類似点を見いだすことができるだろう。

 誤解されないように書いておくと、それが悪いということでは全くない。物語には、いくつかの ”王道展開” と呼ばれるパターンがある。王道故に普遍的な感動とカタルシスを観客に約束する。だから古今東西、多くの作品にモチーフとして繰り返し用いられてきた。

 辺境に生まれ育った少年が一人の少女と出会う。
 少女によって少年は世界の存在を知り、人間たちの社会へ迎えられていく。
 やがて、人間たちの社会を危うくさせる脅威が出現、
 少年は少女とともに世界の命運を賭けた戦いに身を投じていき、
 そしてラストは大団円を以て幕を閉じる。

 本作で語られるのはそういう物語だ。冒険ファンタジーとしてはまさに ”王道展開” といえるだろう。

 日本で過去に例を探すなら、『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年:高畑勲監督)にも共通点は見いだせるだろうし、西洋に目を向ければ『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1978年:ジョージ・ルーカス監督)などもこのパターンに入るといえる。
 探せば、枚挙にいとまが無いくらい見つかるだろう。

 この『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』も、そういう物語群に列する存在になっているということだ。

 そしてもちろん、本作独自の要素もふんだんに盛り込まれている。
 雪海に覆われた地表、そびえ立つ巨大な軌道樹、空を覆う天膜。そんな世界に適応した人々の生活様式。要塞で移動する国家や過去の超文明の遺物。
 豊かなイマジネーションによって産み出された作品の世界観も、充分に鑑賞に値する素晴らしいものだ。

 そしてクライマックス。某ジブリ映画を思い出した人もいるかもしれないが、ファンタジーの衣の下に、骨太なSFの ”核” があったのが分かるシーンだ。
 そしてラストは、エンタメ作品のお手本のような、絵に描いたような大団円。お客さんは大満足で家路につけるだろう。


 ずいぶん長く書いてしまった。あとは、登場キャラについて書いて終わりにしよう。

 リリハはとても聡明だ。しかも一国の王女に収まらない視野を持っている。敵国だったボルギアの民の困窮を知ると、敵味方関係なく救おうと考える。ある意味「理想」を持っているのだが、そのぶん足下が留守になりがち。
 CVは高橋李依さん。若手の人気声優さんらしいが、気丈で果敢で凜としたリリハを好演してる。

 それに対して、カイナは地に足がついてるキャラ(TV第一話では地の上にいなかったがwww)。思慮深いというか、沈着冷静で状況判断は的確、できることとできないことを判別し、その場面での最善手を見つけ出す。
 CVは細谷佳正さん。この方も人気声優で多くの作品に出てるけど、私はもっぱらリメイク・ヤマト・シリーズの加藤三郎役でおなじみ。歴戦の猛者どもを束ねる航空隊長もよかったが、本作では打って変わってナイーブな少年を演じている。その演技の幅の大きさに驚かされる。

 このリリハとカイナは、お互いに相手を補い合う存在であり、いわば二人一組の主役といえる。
 そしてどちらも、ファンタジーの主役には珍しく、戦闘能力という意味ではどちらもほぼゼロに近い。カイナはちょっと武器を扱うけど、それはあくまでも生活のために磨いた技術だ。
 「武」(戦う能力)ではなく、「文」(知識や思考)を武器にする。そういう意味でもこの二人組は異色だろう。
 リリハは「賢者」を見つけることはできなかったが、代わりにカイナと出会った。この物語の数十年後、あるいは数世紀後には、この二人が ”伝説の賢者” と呼ばれるようになるのだろう。

 ボルギアの武人アメロテ(CVは坂本真綾さん)は、TVシリーズでは敵だったが、アトランドとの停戦が成立したので映画では味方に。個人としての戦闘能力ではおそらく最強の彼女は、実に頼もしい。
 アトランドの親衛隊長オリノガ(CVは小西克幸さん)。TVシリーズでは何度もアメロテと剣を交えていくうちに、互いに認め合う存在になっていく。映画の終盤でも、アメロテと以心伝心というか阿吽の呼吸での素晴らしい連携プレーを見せてくれる。
 この二人、そのうち男女の仲に進みそうな気配も描かれたんだが・・・1分間だけでもいいから、もうちょっと二人の絡みを見たかったなぁ、・・・というのは私の願望です(笑)。

 そして、映画での ”敵役” となる独裁者ビョウザン(CVは花江夏樹さん)。カイナと同じく、彼もまた太古の文字を読む力を持っている。
 ビョウザンが太古の記録を ”誤読” したことから、彼の ”暴走” が始まったのだけど、そのおかげで古代遺跡の発掘が行われ、そこでカイナが正しい方法を見つけ出すことができたのだから、彼の行動も無駄ではなかったということだろう。


 最期に、この記事で触れた『未来少年コナン』についてちょっとだけ。

 1979年に『ルパン三世カリオストロの城』、そして84年からの『風の谷のナウシカ』、86年の『天空の城ラピュタ』、88年の『となりのトトロ』と、宮崎駿の怒濤の快進撃が始まるのだが、『未来少年コナン』はその直前、1978年のTVシリーズ作品だ。
 そしてその中には、後に上記の映画として花開くことになるモチーフというか原型を見いだすことができる。
 長編映画の監督として話題に挙がる宮崎駿だが、その彼の原点は、彼が初監督をしたTVアニメ『未来少年コナン』にあったと私は思っている。
 未見の人はぜひ一度観てほしい。観て絶対に損はない作品だと思う。


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