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焼跡の二十面相 [読書・ミステリ]


焼跡の二十面相 辻真先版“怪人二十面相” (光文社文庫)

焼跡の二十面相 辻真先版“怪人二十面相” (光文社文庫)

  • 作者: 辻 真先
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/10/13
評価:★★★☆

 私の読書体験の原点となったのが江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズだった、というのはこのブログの中でも再三にわたって書いてきた。

 これに出会ったとき、私は小学生だった。昭和41~42年頃だったと思う。たちまち虜になり、夢中になってシリーズ作品をむさぼり読んだものだ。
 当然ながら作者の江戸川乱歩にも興味を持った。どんな人だったのだろう? しかし、たちまち私は失望することになった。乱歩は昭和40年に亡くなっていたのだ。わたしがこのシリーズを読み始めたときには、既にこの世の人ではなかったことになる。

 「もう、この続きは読めないのか・・・」
 このとき、かなり落ち込んでしまったことは今でも覚えている。

 しかし、怪人二十面相や明智小五郎をモチーフにした作品は、途切れることなく生まれ続けてきた。日本のミステリ界に多大な影響を与えたのは誰も否定できないだろう。

 前置きが長くなってしまった。本書はその「少年探偵団」シリーズの ”新作” である。
 巻末の解説によると、パロディでもなくパラレルワールド設定でもなく、あくまで本伝の「空白を埋めるもの」として書かれたのだという。


 時代設定は1945年(昭和20年)8月。日本が敗戦を受け入れた直後の東京が舞台となる。

 明智小五郎の助手にして少年探偵団団長の小林少年は、ひとり東京で明智の帰りを待っていた。
 明智は軍の委嘱を受けて日本を離れ、海外で暗号の仕事に従事していた。戦時中の明智を描いた作品はない(と思う)けれど、これは江戸川乱歩公認の設定ということだ。
 ちなみに文代夫人は軽井沢で疎開&療養されているみたい。

 8月の炎天下、小林少年が乗った自転車を1台の輪タクが追い抜いていった。輪タクというのは自転車の後ろに人力車の客席をつないだもの。そしてそれを追いかけているのは警視庁の中村警部だった。

 警部に協力して輪タクを追う小林くん。輪タクからは血が転々と垂れていることに気づく。

  やがて輪タクは池の中に転落してしまい、そこから伊崎六郎という男の刺殺死体が発見される。しかし、尾行していた中村警部によると、輪タクに乗り込んだときの伊崎はピンピンしていたという・・・

 この ”走る密室” の謎は小林少年の推理で解き明かされる。さすが名探偵の助手である。しかし事件は続く。

 軍需産業だった四谷重工業の社長・四谷剛太郎のもとへ二十面相から犯行予告状が届く。彼が所持するインドの秘仏をいただくという。それは戦争中に日本が占領した国から四谷が入手したものだった・・・


 二十面相の犯行を防ごうと奔走する小林くんと中村警部。もちろん、登場人物の中には二十面相が変装している者がいる。
 明らかに「こいつは怪しい」と読者にもわかる場合もあるのだが、中には意外な者に化けてる場合も。八割方は見破れるのだが残り二割がわからない。その案配が素晴らしい。

 文体や雰囲気、描かれる事件やキャラクターも原典を彷彿させるものだが、作者ならではの ”くすぐり” もあって、実に楽しい。

 そして今回、二十面相の行動もまた読みどころ。彼は悪人ではあるのだが、戦争で私腹を肥やし、人命を軽んじる四谷のような ”巨悪” を前に、彼はどう振る舞ったか。
 作者が描いたのは、名探偵・明智小五郎と名勝負を繰り広げ、「人の命は奪わない」がモットーの大盗賊だ。往年のファンは ”あの二十面相なら、こうするだろう” って納得しながら読むだろう。

 そしてラストはもちろん明智の帰還で締めくくられるのだけど、ここにもひとひねりが。明智は ”ある国” から帰ってくるのだが、「なるほど、そうきたか」。知ってる人にはたまらない演出が心憎い。



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