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花嫁首 眠狂四郎 ミステリ傑作選 [読書・ミステリ]


花嫁首 (眠狂四郎ミステリ傑作選 ) (創元推理文庫)

花嫁首 (眠狂四郎ミステリ傑作選 ) (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/03/18
  • メディア: 文庫

評価:★★★

 「眠狂四郎」について私が知ってたことは少ない。おぼろげな記憶では、最近亡くなった田村正和がTVドラマで演じてて、「円月殺法」って ”必殺技” を持ってることくらい。

 本書を読むに当たってwikiでちょっと ”予習” をした。
 転びバテレン(棄教したキリスト教宣教師)と日本人女性との間に生まれたこと、その生い立ちのためか平然と人を斬り捨てる残虐性を持つこと、「円月殺法」を繰り出す愛刀は「無想正宗」と呼ばれること、などだ。

 そもそもこの本を読もうと思った理由はタイトルにある。このシリーズの中には、眠狂四郎が探偵役となって怪事件を解決するものもある、という触れ込みに引かれて手に取ったという次第。

 本書には21作が収録されている。タイトルを挙げると
「雛の首」「禁苑の怪」「悪魔祭」「千両箱異聞」「切腹心中」「皇后悪夢像」「湯殿の怪」「疑惑の棺」「妖異碓氷峠」「家康騒動」「毒と虚無僧」「謎の春雪」「からくり門」「芳香異変」「髑髏屋敷」「狂い部屋」「恋慕幽霊」「美女放心」「消えた兇器」「花嫁首」「悪女仇討」
 文庫で480ページほどの中に21作だから、1作あたり平均23ページほど。これは週刊誌に一話完結で連載されていたため。
 wikiでわかるだけでも単行本で十数巻分書かれたらしいから、たいしたものだ。


 収録作全部について書くのは大変なので、いくつかについて。


「雛の首」
 シリーズ第一作。スリの金八や、後に狂四郎の愛人となる美保代など、レギュラーメンバーが登場する。一話完結ながら、”サザエさん時空” ではなく、狂四郎を取り巻く人間関係はゆっくりとだが変化していく。

「禁苑の怪」
 大奥に出没する幽霊の正体を暴くため、狂四郎は江戸城に潜入する。なんでそんなことができるかというと、老中・水野忠邦の側用人・武部仙十郎がしばしば狂四郎に怪事件の探索を依頼している、という設定があるため。
 現代から見れば陳腐かも知れないが、意外な物理トリックが登場する。

「湯殿の怪」
 水野忠邦の屋敷にある湯殿で、続けて3人の女性が不審死を遂げる。外では付き人が待っていたわけで、人の出入りが不可能な密室殺人だ。
 とは言っても、このトリックはなぁ。エロチック・バカミスだね。

「疑惑の棺」
 棺をかついで進む葬儀の列を見て、棺桶の中はカラだと見抜いた狂四郎。列に突進してその場で中身を暴いてしまう。思い立ったら止まらない人なんだね(笑)。
 文化文政時代の怪僧・河内山宗俊がゲスト出演、狂四郎と腹の探り合いをする。

「家康騒動」
 駿府に隠居した家康が描いた思われる絵が発見される。しかし、時を同じくしてそっくりな絵が3枚も現れてしまう。
 狂四郎は、古美術品蒐集マニアの心理にも詳しい(笑)。

「謎の春雪」
 刺青(入れ墨)師の刺殺死体が発見されるが、現場周辺に積もった雪に犯人の足跡はない。いわゆる ”雪の密室”。このトリックはなかなか。

「消えた兇器」
  3000石の旗本が湯殿の中で刺殺された事件。衆人環視の中、凶器を持ち出すことができない不可能犯罪。なんとも古典的なトリック。有名なわりに、実際に作品中で使われたのを読んだのは初めてかも。

「花嫁首」
 新婚初夜に新婦が殺された。首は切断されて持ち去られ、代わりに小塚原(処刑場)に晒されていた罪人の首とすげ変わっていた。表題作あって、提示される謎も魅力的。結末では意外な展開が待っている。


 ミステリとしてみると、真相解明に必要な情報の提示などの ”お約束ごと” に則っていないとか、(現代の目で見れば)トリックが陳腐だったり、実現可能性に問題があったり、いろいろ不満も出てくるだろう。でもまあ「これはミステリです」とは銘打っていないので、それは仕方がないだろう。

 あと気になるのは、いわゆるエロ描写。女性が読んだらいささか不愉快に感じるところも多々あるように思う。
 でも60年以上前の作品だし、読者のほとんどは男性だったろうし(『週刊新潮』での連載だから、男性サラリーマンが通勤車内で読んでたんだろう)、これも読者のニーズに沿っていたとは言える。

 良いところも挙げなくてはね。
 登場人物が交わす会話の軽妙さとかは群を抜いてるんじゃないかな。
 講釈師の長口上なんて、韻を踏んだ言葉遊びにシャレを効かせて、次から次へと流暢かつ変幻自在に単語が繰り出されてくる。さすがはシバレン、昭和の文豪なんだなぁと、そこのところは素直に感心した。



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