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炎舞館の殺人 [読書・ミステリ]


炎舞館の殺人 (新潮文庫)

炎舞館の殺人 (新潮文庫)

  • 作者: 月原 渉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/07/28
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

 ロシアの血を引く(と覚しき)クールビューティなメイド・栗花落静(つゆり・しずか)さんが活躍する『使用人探偵シズカ』シリーズ第5作、って思って読み始めたのだけど、ちょっと話が違うみたいで・・・。


 時代は明治。陶芸で財を築いた夏季屋肇(かきや・はじめ)は、山陰地方の山間に館を築いた。炎舞館(えんぶやかた)と呼ばれたその建物は、耐火煉瓦を積上げて造られ、窓は一切なく、狭い2つの通用口といくつかの通風孔を除けば外界への出口はない。

 夏季屋はそこへ籠もって製作に打ち込んでいたが、齢50を超えて病を得、余命幾ばくもない状態にあった。彼には妻子はなく、若い弟子たちの中から後継者を選ぶことになったのだが、指名する前に失踪してしまう。

 夏季屋の6人の弟子は、彼が自ら選んで連れてきた者たち。彼らにはある共通点があった。体の一部に何らかの ”欠損” を抱えていたのだ。
 巴(ともえ)は右手、亜希人(あきと)は左手、京介は右足、摩季(まき)は左足、大和(やまと)は視力、透子(とうこ)は声をそれぞれ失っていた。

 後継者の座を巡って葛藤の中にある6人。亜希人が野心を示しているが巴を押す者もおり、どちらが後を継いでも、弟子たちのうち何人かは館を出ていくことになるだろう。

 そんなとき、夏季屋の手紙を持った少女が新しい弟子として炎舞館にやってきた。一見して明らかに異国の血が入っていると分かるその少女は「しずか」と名乗るが、日本語が話せない(ロシア語は話せるようだ)。そして何より、彼女の身体にはどこにも欠損がなかった。

 師匠の意図を訝しみながらも、しずかを受け入れて生活を始めた矢先、事件が起こる。
 工房の床に血だまりがあるのが見つかった。そこから窯の一つにまで血痕が続いている。窯の口は耐火煉瓦で塞がれていたが、しずかがその煉瓦を打ち壊す。その中にあったのは大和の死体。しかも手・足・首とバラバラにされて、胴体だけが持ち去られていた。
 さらに殺人は続いていく。館は外界と孤絶しており、犯人は弟子たちの中にいると思われるのだが・・・


 死体を切断するというのはミステリの定番だけど、それだけの合理的な理由がなければならない。本書で示されるのは充分に納得できる必然性だ。
 思わず「そうか、なるほど」って呟いてしまったよ。

 身体に欠損を抱えた人物が大量に登場するのだが、こういう演出があまり好きでない人もいるだろう。私もそうだ。
 しかしラストの謎解きでは、これも単なるミステリ的雰囲気を盛り上げるお飾りではなく、本書の根幹を成すものであったことが明かされる。すべての事象・描写は伏線のためにあった。まさに脱帽です。

 「しずか」と名乗る、異国の血が入った少女。作者のシリーズキャラクター「栗花落静」との関係は明らかにされないまま、ストーリーは進行していく。
 本書がシリーズの中でどういう位置づけにあるのか。そこもまた本書の読みどころだろう。



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