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ルカの方舟 [読書・ミステリ]

ルカの方舟 (講談社文庫)

ルカの方舟 (講談社文庫)

  • 作者: 伊与原新
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/13

評価:★★★

南米大陸最南端、パタゴニア氷床から採取された隕石は
帝都工科大学・笠見教授の研究室で鑑定が行われた。
その結果、隕石は火星から飛来したものであり、
内部からは微生物の痕跡と思われる化石が発見された。

隕石に関する論文は海外の権威ある科学誌にも掲載され、
笠見研究室は一躍、注目を集めることになった。

そんな中、科学雑誌の記者・小日向のもとに届いたメールは
笠見研究室の論文で不正行為が行われている、というものだった。
差出人のメールアドレスには ”ルカの末裔” を意味する単語が。

しかし、彼が取材に訪れた笠見教授の実験室で事故が発生、現場から
笠見の死体が発見される。漏れた液体窒素による窒息死だった。

大学にも不正告発のメールが送られていたことから
警察は他殺を疑って捜査が始まるが、その矢先、
問題の隕石が破壊されていたことが判明する。
なんと、高温で融解されて ”方舟型” に成形されていたのだ・・・

探偵役は ”天才” と呼ばれる百地理一郎教授。
小日向はワトソン役となり、科学警察研究所の
研究員・佐相(さそう)弥生などと協力して事件の解明に挑んでいく。

大学を舞台にしたいわゆる理系ミステリなんだけど、
親しみやすい小日向の性格や、百地の好好爺然としたキャラのおかげか
堅苦しい雰囲気は皆無。
専門用語も多少出てくるが、全部が理解できなくても
本作を楽しむのには問題ない。
真夜中の研究室に出没する謎の少女など、不可解な要素もあって
最後まで興味を持って読むことができる。

作中で語られるのは「パンスペルミア説」。
これは、地球の生命の起源は太古の時代に宇宙から来たという
壮大な仮説だが、本書の中で展開されるのは矮小な人間たちの物語だ。

大学教授になっても、資金集めや諸々の管理業務などに追われて
研究だけに没頭できるわけではない。
若手の研究者たちは、不安定な身分に置かれていて将来が見通せない。
”象牙の塔” の中は、一般社会と同様に悩み妬み嫉みに満ちている。

作中に登場する大学研究者がみな、
心の中に何かしらの ”闇” を抱えていそうなキャラなのに対して
学部生時代に自分の才能を見切って研究者を諦めた小日向、
大学院生から警察職員へと転身した弥生など
”象牙の塔” から遠ざかった者のほうが健全に見えるのはなんとも・・・

作者は第30回横溝正史ミステリ大賞を「お台場アイランドベイビー」で
受賞してデビューし、本書は3作目。
東大の大学院で地球惑星物理学を専攻し、博士号を取ったという
経歴の持ち主で、研究室内の描写はさすがのリアリティだが
文章は平易でキャラ同士の会話も達者で読みやすい。

これから何冊か読んでみようかと思う。


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