SSブログ

アンドロイドの恋なんて、おとぎ話みたいってあなたは笑う? [読書・SF]


アンドロイドの恋なんて、おとぎ話みたいってあなたは笑う? (ポプラ文庫ピュアフル)

アンドロイドの恋なんて、おとぎ話みたいってあなたは笑う? (ポプラ文庫ピュアフル)

  • 作者: 真未, 青谷
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2018/12/01
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

昨今のライトノベル風な長めのタイトルは苦手なんだけど
買ってしまいました(笑)。

「アンドロイド」と聞いて、スマホのOSしか
思い浮かばない人もいるかも知れないので、
いちおう念のタメに書いておくと
本書で言う「アンドロイド」とは、”人間の外観を模したロボット”、
いわゆる ”人間型自律ロボット” のことだ。

そして内容もタイトルそのままに、
アンドロイドと人間と恋愛を描いたラブ・ストーリーだ。

上記のように私は本書に★4つつけた。
しかし、どこがよかったのかを書き出そうとすると
ことごとくネタバレにつながりそうで正直困っている。

というわけで、ネタバレにならない範囲でストーリーの紹介から。


ヒロイン(?)かつ語り手は、外見が人間と見分けがつかないほど
精巧に作られたアンドロイド・佐藤真白(さとう・ましろ)。
設定年齢は19歳。ある病院で受付係として働いている。
そこは脳電義肢(脳波を読み取って指先などを自由に動かすことができる)
を装着した患者のリハビリテーションに特化した施設だ。

真白がアンドロイドであることを、病院のスタッフは知らない。
人口減少に伴い、人間型ロボットの需要は高まることが予想されるが
未だに人間そっくりのアンドロイドに忌避反応を示す人は少なくない。
そこで、アンドロイドを人間と共に働かせる実証実験の一環として
真白はこの病院に送り込まれたのだ。

ある日、真白は20歳の大学生・響(ひびき)と知り合う。
交通事故で両手と右足を失い、脳電義肢を装着した響は
リハビリのために真白の働く病院へ通っていた。

義肢の操作訓練の一環として彼が行っていた
トランプのカードマジックを通じ、
真白は響と言葉を交わすようになっていく。

真白は毎日、”終業” 時にその日の記憶情報の圧縮処理を行うのだが
響と過ごす時間を重ねるうちに、
その処理作業に支障を来すようになっていく。
この状態が ”エラー” と診断されたら、次回の定期メンテナンスで
全ての記憶が初期化されてしまうかも知れない・・・

要するに真白は響に ”恋” をしてしまい、
彼と共に過ごした記憶を消去されるのを恐れるようになっていくわけだ。


「人間とアンドロイドの恋なんて、成就しないのが当たり前。
 悲恋に終わるのが目に見えているじゃないか・・・」
大方の人はそう思うだろうし、私もそう思った。
だからこそ、この ”二人の恋" をどう決着させるのか。
そこに注目していたのだけど・・・


まずSFとして。

ロボットSFは数あれど、この手の
人間に奉仕するために産み出されたロボット、
人と友好的な関係を築いたロボットを描いたものに
しばしば登場するのは、その ”健気さ” だ。

近年読んだ作品を思いつくままに挙げると、
たとえば小川一水もロボット(AIを含む)ものの佳品を書いてる。
「ろーどそうるず」(『アリスマ王の愛した魔物』所収)とか、
「イヴのオープン・カフェ」(『煙突の上にハイヒール』所収)とか。

山本弘の「詩音が来た日」(『アイの物語』収録)も忘れがたい。
女性型介護ロボット・詩音が福祉施設で介護実用試験を行いながら、
人間とのさまざまな関わり合いを経験・学習してゆき、
やがて施設の人たちにとって、”機械を越えた” 存在となってゆく様を
感動的に描き出している。

本書でも、真白が響のためにその身を挺する場面がある。
興を削ぐので詳しくは書かないけど、
ここで涙腺が緩んでしまったことは書いておこう。

しかし本書を構成する要素は、SFだけではない。

ここから先に書くことは、ネタバレではないけれど、
勘のいい人なら結末が予想できてしまうかも知れない。
なので、これから本書を読んでみようという人は
以下の文章を読まないことを推奨する。


本書に登場するのは、「人間そっくり」なアンドロイド。
SFでは頻繁に登場するけれど、実際にこれをつくるのは至難の業だ。


人間そっくりのアンドロイドをつくる上で、
「不気味の谷」という言葉がある。
これを説明すると長くなるので詳しく書かないけど、
(気になる人はググってください)
この言葉に代表されるように「人間と見分けがつかないほどのロボット」を
つくり出すには、現在の技術では未だ不十分だ。

本書の時代設定は、作中で明言されていないのだけど、
そう遠くない未来。たぶん10~15年後くらいと思われる。
はたして、それくらいの近い未来で「不気味の谷」を克服して
嫌悪感無く受容できる「人間そっくりな外見」をもち、
そして「人間そっくりに受け答えできるAI」は実現できるのか?

次に、そのアンドロイドを動かすのが自律型のAIであること。
本書は真白の一人語りで進行するのだが、
その中で真白は響への ”恋情” を隠さない。
あたかも ”感情” を持っているかのように ”内面” を吐露していく。
このような「感情(のように見えるもの)をもつAI」は可能なのか?

まあ大方の人は
「外見もAIも、そこのところはOKにしないと話が始まらないじゃないか」
ということで目をつぶるのだろうが、コメディならばともかく、
シリアス路線の本作のようなアンドロイド(及びAI)の描き方に、
どこかしら釈然としないものを感じる人もいるかも知れない。
少なくとも私はそうだった。

 これが1970年代とかの昭和の時代のSFだったら
 けっこうすんなり納得してしまうのだろうなぁ。
 (この頃に描かれたロボットは、やたらと人間ぽいのが多かった。)
 なまじ「人間そっくりのロボット」までの技術的なギャップが
 現実的に見え始めた現代だからこそ
 この手のロボットの話は描きにくいのかも知れない。


しかし、本書のストーリーは中盤過ぎに大きく大転換を迎える。
そして、上記のような「フィクションなんだから」と
スルーしてしまうようなところも、ここで納得できる説明がなされる。
(あくまで作中の設定としてだが)


終盤に入ると、さらに意外な事実が明かされ、
それにびっくりさせられたのも束の間、
ラストに至るともっと大きな ”仕掛け” が現れる。
これには正直驚かされてしまった。
実際、読んでて「えぇ!?」って口に出してしまったくらい(笑)。


デビュー作「鹿乃江さんの左手」の記事で、私は作者のことを
「ミステリもサスペンスも達者にこなす」と書いたが、
まさに本書の終盤はサスペンスに満ちていて、
それに加えて、周到に伏線が張られたSFミステリとしても
秀逸にできあがっている。


そして読み終わってみると、紆余曲折はありながらも
「アンドロイドが人間を ”愛する” ことはできるのか?」
というテーマをしっかり描いていたことに気づかされる。

そしてそれは
「人間がアンドロイドを ”愛する” ことはできるのか?」
という問と表裏一体をなしていることも。


本書を構成しているアイデアは、ひとつひとつ取り出せば
先行作品があるものがほとんどだろう。

しかしそれらを絶妙に組み合わせて、
ロボットSFでもあり、サスペンスでもあり、ミステリでもあり、
そしてなによりも感動的なラブ・ストーリーに仕上げてみせた
作者の力量は素晴らしいと思う。

とはいっても、かなり虚構性が高い作品なので、
評価は分かれるかも知れない。
私自身は、いくつになってもこのような作品が
楽しめるようでありたいとは思っているが。


最後に余計なことをちょっと。

実は本書を読む前、裏表紙の惹句を目にしたときに
私のアタマの中に浮かんだのは、マンガ『火の鳥・復活編』だった。

巨匠・手塚治虫のライフワークともいわれる
大作シリーズの一編で、ご存じの方も多いだろう。
初めて読んだのは大学生くらいの頃だったと記憶している。

『復活編』は、人間の少年・レオナが
旧式なロボット・チヒロに恋をする話だ。
もちろん ”二人” の前には様々な障壁が現れる。
”二人” はそれらを乗り越え、数奇な運命を辿っていくことになる。

いまでも印象的なシーンをいくつも覚えているし、
『火の鳥』シリーズの中では一番好きなエピソードになっている。

”人間とロボットの恋” という以外は
本書とはほとんど共通点がない作品だけど、
もし未読の方がいたら、これを機会に目を通してみては如何かと。

nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 3

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-06-07 23:45) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-06-07 23:46) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-06-07 23:46) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント