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弥栄の烏 [読書・ファンタジー]


弥栄の烏 (文春文庫)

弥栄の烏 (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/05/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

「烏に単(ひとえ)は似合わない」「烏は主を選ばない」
「黄金(きん)の烏」「空棺(くうかん)の烏」「玉依姫」と続いてきた
大河ファンタジー「八咫烏(やたがらす)シリーズ」、

その第1部の第6巻にして第1部完結編である。

まあ、第1作~第5作までをすっ飛ばして
いきなり本書を読む人はいないと思うけども
もしあなたが未読なら、ぜひ第1作から読むことをオススメする。
たぶん、とても楽しい読書の時間を味わえることと思う。


人形(じんけい)から鳥形(ちょうけい)へと
変身できる能力を持つ人々が住まう世界、「山内(やまうち)」。
彼らは「八咫烏」と呼ばれ、
その世界を支配する者は「金烏代(きんうだい)」と称される。

第1作「単」・第2作「主」では、
やがて金烏代を嗣ぐことになる日嗣の御子(若宮)の后選びと
その裏で起こっていた次期金烏代の座を巡る暗闘が描かれた。

第3作「黄金」・第4作「空棺」では、烏を喰らう謎の "大猿" が現れ、
やがて猿たちが山内への侵攻を目論んでいることが明らかになる。

当然ながら、山内側での戦いの準備も描かれていくのだが、
特に若宮の近習だった雪哉(ゆきや)の成長が目覚ましい。

山内における ”士官学校” とも言うべき勁草院に ”入学” した彼は
みるみる頭角を現し、主席で卒業する。このあたりは
”学園もの” の雰囲気も濃厚で、作者の引き出しの多さに驚かされる。

次はいよいよ決戦かとの期待があった第5作「玉依姫」では、
意外にも1995年の日本から始まり、作品の舞台裏というか
いままで描かれてこなかった側からの
シリーズ全体に関わる基本設定ともいうべき部分を描き、
物語としては正統的(?)な伝奇ホラーになっていた。

そして完結編「弥栄の烏」。1巻分待たされたけど(笑)、
今度こそ本書では大猿と八咫烏たちの最終決戦が描かれる。
本書を読むと、いままでの5巻分すべてが
この巻のための ”種まき” だったと思える。


骨太にして緻密なストーリーもそうだけど
その上で活躍するキャラクターたちの素晴らしいこと。

山内の中心にして一族を統べる奈月彦、
その桜の君(正室)、そして二人に使える近習や女房たち。
奈月彦の腹違いの兄・長束(なつか)とその腹心たち。
雪哉の勁草院時代の仲間たちは山内衆(近衛隊)となり、防衛の要となる。
みんな、しっかりと出番が与えられて物語を紡いでいく。

特に、第1部後半で実質的な主役を務めてきた雪哉は
ついに全軍の参謀役となり、対大猿戦の全権を握ることになる。

勁草院に入ったあたりから、雪哉の行動には変化が現れてきて
「あれ? こいつってこんなに性格悪かったかなぁ?」
って感じるようになるのだけど、本書ではそれが極まっていく。

彼の采配はまさに「大の虫を生かすために小の虫を殺す」非情なもの。

 まあ、戦争の司令官というのは善人なだけでは務まらないのだよね。
 海外の某スペース・オペラ・シリーズをちょっと連想してしまったよ。

しかしだからこそ、そんな雪哉が最後の最後で、
溜まりに溜まった感情をついに決壊させるシーンは強く心に残る。


さて、予定では今年の夏あたりには
第2部が開始されるはずだったらしいのだけど
未だ刊行されていないみたい。
作者は、早稲田大の院生が本業(!)だから量産が難しいのは分かってる。
焦らずに、今まで通り質の高い作品を書いていってほしいなあ。

私も焦らずに待ちます(笑)。

nice!(4)  コメント(4) 
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コメント 4

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-08-28 23:12) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-08-28 23:12) 

mojo

xml_xslさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-08-28 23:12) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-09-02 21:49) 

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