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王とサーカス [読書・ミステリ]


王とサーカス (創元推理文庫)

王とサーカス (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/08/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

発表された2015年、各種ミステリランキングで
軒並み1位を獲得した作品だ。


2001年6月。新聞社を退職してフリージャーナリストとなった
大刀洗万智(たちあらい・まち)は、雑誌社から
海外旅行特集の仕事を受けてネパールの首都・カトマンズにやってきた。

しかし現地取材を始めた矢先、王宮で皇族たちの大量殺戮事件が発生する。
国王も王妃も殺害され、犯人だった皇太子も自殺を図ったという。

急遽取材対象をこの事件へと切り替えた万智。
彼女が投宿していたロッジの女主人の知人に
事件当夜の王宮警備をしていた軍人がいるという。

その軍人・ラジェスワル准尉との接触するべく、万智は
深夜、一人きりでという条件を呑み、廃ビルの一室で彼と会う。

しかし彼が語るのは、ジャーナリズムそのものへの批判、
そして不信感だった。
事件の情報をほとんど引き出せずに、ラジェスワルの言葉への
反論もできずに万智は煩悶する。

しかしその翌朝、街中の空き地の一角でラジェスワルの死体が発見される。
その背中には、皮膚を切り裂いて文字が描かれていた。
「INFORMER」すなわち ”密告者” と。

准尉は万智と接触したために殺されたのか?
彼女は異境の地で真相を追い始める。


文庫で450ページほどの長編だが、ミステリとしての進みは緩やかだ。
王宮の事件が起こるのが100ページあたり。
ラジェスワル准尉との単独取材に臨むのが180ページあたり。
そして彼の死体が発見されるのは210ページあたり。
ほぼ半分まで進まないと殺人事件が発生しないのだ。
そしてその後200ページほどを費やして万智の調査が綴られ、
ラストの犯人指摘に至る。

しかし、緩やかだからといって中身が薄いなんてことは全くない。
カトマンズの風景や風俗の描写も濃厚だし登場する人々もさまざま。
現地人はもちろん日本人やアメリカ人などもいて
ネパールという国に滞在している理由も様々。

王宮に対する一般民衆の思考もまた独特。
日本の皇室とはまた違った見方が提示される。

現地の日常を詳細に描き込んであって、
ネパールに行ったことのない人でもカトマンズの日々を疑似体験できるし、
もちろん、その中には多くの伏線も仕込んである。

観ようによっては、一種の ”特殊状況下ミステリ”、
あるいは同じ作者のファンタジー・ミステリ『折れた竜骨』と
同じような ”異世界ミステリ” と考えることもできる。


そして、この「王とサーカス」という変わったタイトルは
万智とラジェスワル准尉との対話の中で彼が語った言葉に由来する。
このあたりのやりとりは、ページ数にすれば20ページほどに過ぎないが
まさにこの部分こそが本書で語りたかったことなのだろう。

ある国の中で起こった出来事を、他国から入り込んだジャーナリストが
外の世界へ向けて伝えることにどれほどの意味があるのか。

 ちょっと前に、中東へ取材に入って、現地ゲリラに拘束された
 フリージャーナリストがいて世間の耳目を集めたが、
 読んでいるとそんなことも頭に浮かぶ。

「それでも伝える意味はある」とジャーナリストたちは言うが
それは外の人間の論理ではないのか。
中の人間は果たしてそれを望んでいるのか。

このあたり、一朝一夕に答えの出る問題ではないのだろうが、
考えされることではある。


本書からミステリ要素だけを取り出して書いたら、
おそらく半分以下の分量ですむのではないかと思うが
残りの半分の方にこそ、本作の価値があるのだろう。
むしろ、ランキングの順位を押し上げたのは
そちらの方の要素だったのだと思う。

実際、ページ数が増えてもそれに見合う分くらいの
内容の濃さがあるので、読んでいて不満は全く感じなかったけれど、
私としてはやっぱりもう少し
ミステリ成分が濃い作品の方が好みだなあ。

nice!(4)  コメント(4) 
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コメント 4

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-01-24 23:55) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-01-24 23:55) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-01-24 23:55) 

mojo

xml_xslさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2019-01-24 23:55) 

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