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人魚は空に還る [読書・ミステリ]

人魚は空に還る (創元推理文庫)

人魚は空に還る (創元推理文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

時代は、日露戦争の記憶も新しい明治40年代。

主人公・里見高広は、両親を失って遠縁の家の養子となった。
養父は高広を実子と分け隔てなく育ててくれたが、
ある "いざこざ" がもとになって
高広は養家を飛び出し、現在は雑誌記者となっている。

もう一人の主役は、天才とも評される超人気絵師・有村礼(れい)。
彼が表紙を描いた雑誌は売れ行きが数倍に伸びるという。
礼本人も、彼が描く美麗な婦人画に負けず劣らすの超絶美形。

こう書いてくると礼が探偵役かと思われそうだが
実はその逆で、礼は高広に事件解決を "強要" (笑)するという
"押しかけワトソン役" だったりする。

この二人が、帝都・東京で出会う事件を解決していく
《帝都探偵絵図》シリーズの第1巻。


「第一話 点灯人」
 10歳の少女・森桜が高広の勤務先である至楽社を訪れる。
 兄・恵(さとし)が失踪したので尋ね人の広告を出したいという。
 恵は中学生ながら広告図案募集で入賞、一等賞金100円を手にしていた。
 残された写生帳に描かれた風景画を手がかりに、捜索をはじめる高広。
 その途上、ライバル記者の佐野から入手した情報を追ううちに
 清文館という倒産した印刷所にたどり着くが・・・
 この第一作で、シリーズのレギュラーメンバーがほぼ全員、
 顔を出すのもよくできているけれど、
 謎を解いた先に浮かび上がる森兄妹の哀しみも切ない。
 高広が彼らに寄り添えるのも、彼自身の生い立ちがあるからだろう。

「第二話 真珠生成」
 芸者屋が買い込んだ新品の金魚鉢。
 しかし、その底に敷き詰められた白石の中に一粒の真珠が。
 それは、銀座通りに店を構える美紀真珠から盗まれた
 3粒のうちの1つだった。しかも、真珠が盗まれた当日に
 店を訪れていたのは高広のかつての養父と義姉。
 結婚が決まった娘のために、真珠の購入に来ていたのだ。
 高広は義姉のために真相究明に乗り出し、
 美紀真珠で働く従業員・珠子に会いに行くが
 彼女自身にも、資産家の御曹司との縁談が進んでいた・・・
 作中で言及されるのは、ホームズ譚の一つ「六つのナポレオン」。
 もちろん本作の真相はそれとは異なるのだけど
 すべてが丸く納まる結末は、やっぱりいいものだ。

「第三話 人魚は空に還る」
 浅草六区の見世物小屋で興行を打つ「蝋燭座」。
 その目玉は、人間なら10歳ほどかと思えるような "人魚"。
 その美しくも悲しい歌声に魅せられて連日満員の大盛況。
 新進作家・小川健作に連れられて見物にきた高広と礼。
 そこで出会ったのは大富豪夫人・花遊鞠子(かゆう・まりこ)。
 なんと人魚は彼女のもとへ売られていくことが決まったという。
 引き渡しの日、「観覧車に乗りたい」という
 人魚の最後の願いを聞き入れた座長。
 しかし人魚は、乗っていたゴンドラから
 シャボンの泡となって消えてしまう・・・
 密室状態からの "人魚消失" 事件。
 脱出のからくりも気になるが、本作のキモはそこではない。
 最後の謎解きで明らかになる、人々の情の厚さが心にしみる。

「第四話 怪盗ロータス」
 帝都に出没する怪盗ロータス。高価な美術品のみを狙い、
 盗んだ富は貧しい者に分け与えるという噂から
 庶民の人気を集めていた。
 そんな中、呉服橋の袂で起こった交通事故。
 高広の目前で事故を起こしたのは、米相場で大儲けをした大黒重治。
 はねた少年に対して横柄な態度をとる中、
 そのに居あわせた青年が大黒の鼻を明かしてみせるのだった。
 その大黒のもとに、怪盗ロータスからの "予告状" が届く。
 収集している洋画のコレクションを頂く、という内容だ。
 警戒をする大黒邸だが、ロータスは意表を突く方法で
 易々と侵入に成功し、目的を果たしてしまう。
 ロータスを追う高広の前に、再び "あの青年" が現れるが・・・
 今回はアルセーヌ・ルパンを気取る怪盗が登場する。
 ロータスは今後も不定期に登場する準レギュラーキャラらしい。
 大黒が心に秘めた意外な "真意" にも驚かされる。

「第五話 何故、何故」
 隅田川の川沿いにある質屋に入った強盗は、
 現金1000円を盗んだが、船で逃走しようとした際に
 警察に発見され、現金と共に船に火を放って遁走した。
 高広は、礼とともに礼の大伯父の浮世絵師・歌川秀芳を訪ねる。
 家の真ん前に水練場を建てられ、
 しかもその持ち主から嫌がらせを受けているという秀芳の話から
 高広は強盗事件との関連を見つけるのだった・・・
 文庫化の際に書き下ろされたボーナストラックだ。


高広は一を聞いて十を知るような天才型ではなく、
関係者への取材や話を聞いているうちに真相にたどり着く。
事件に関わる人々の感情の機微にも鋭敏で、
被害者や弱い者の側に立って
解決を目指していこうとする "優しい" 探偵だ。
それはやはり両親を早くに失うなど
苦労の多い半生を過ごしてきたからだろう。

このシリーズは現在のところ3巻まで出ているが、
続巻も手元にあるので、近々読む予定。

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コメント 3

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-05-22 22:04) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-05-22 22:05) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-05-22 22:05) 

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