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天帝のつかわせる御矢 [読書・ミステリ]

天帝のつかわせる御矢 (幻冬舎文庫)

天帝のつかわせる御矢 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2012/06/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

勁草館高校吹奏楽部員・古野まほろを主人公とした
ミステリ・シリーズ第2弾。

前作『天帝のはしたなき果実』事件を解決へ導いたまほろだが、
心身に多大なるダメージを負い、
これも事件のとばっちりで日本警察を退職し、中国大陸へ渡った
二条実房警視正とともに、満州帝国の地でほとぼりをさましていた。

 前作の記事でも書いたが、本シリーズの舞台となるのは
 パラレル・ワールドの世界。
 太平洋戦争には負けたみたいだが、日本は未だ「帝国」であり、
 満州帝国もまた生き残っているし、
 その他いろいろなところが "我々の世界" とは異なっている。

しかし、折しも満州帝国は東西に別れての内戦状態にあり、
まほろたちが暮らす首都・新京までも戦火が及んできていた。

まほろは二条と別れ、日本から迎えにきた吹奏楽部部長・柏木とともに
環大東亜特急『あじあ』の乗客となる。

 『あじあ』は、新京からウラジオストクを経由、
 その後沿海州帝国内を北上し、間宮海峡をトンネルで潜って樺太へ、
 さらに南下して北海道を縦断、本州へ乗り入れる。
 そして終点は帝都・東京、という長距離寝台列車である。

乗り合わせた乗客たちはバラエティに富み、
かつ濃いキャラの人ばかり。まあこれはお約束。

生物学者に医師に外交官に製薬会社の双子の令嬢、
停戦特使を務める日本帝国の国会議員、
満州帝国特殊部隊の指揮官、
沿海州帝国の貴族とその養女、
コテコテの関西弁を操る日本男子(なぜかフランス国籍)、
ジャーナリストは男装の麗人、
さらにはやんごとなき宮様ご夫妻まで。

みな一癖も二癖もあって、叩けば壮大にホコリが出そうな人ばかり。
これもまた定石通りだろう。

さらにはこの中には『使者』(メサジュ)と呼ばれる
謎の大物スパイまでいるらしく、
まほろと柏木は、日本にいる同級生・修野まりから
『使者』への接触を命じられる。

そんな中、乗客の一人が密室状態の客室の中で
バラバラ死体となって発見される。

しかし、列車内は鉄道会社に司法権があるらしく、
警察の介入も行われないまま列車は一路、東京へ向けて驀進するが、
やがて第二の殺人が起こる・・・


異様に饒舌な語り口は今作でも健在。
頻出する引用、あふれんばかりの洪水のようなルビ、
英独仏露の多言語が飛び交い、
さらにはけっこうどぎつい台詞まわし、などなど。

文庫で約630ページの大長編だけど、
第一の殺人が起こるのは中盤あたりまで待たなければならない。
それまではまほろと柏木の "車内探検" やら
乗客たちそれぞれが順番に登場しての "キャラ紹介" が
延々と続く。まあそれもまた楽しいのだが。 

そして終盤の130ページほどが "解決編" になるのだが
ここも前作と同じく、一堂に会した登場人物たちがお互いに
それぞれの推理を述べ、犯人を告発するシーンが連続する。

人物Aが滔々と推理を述べる。
→ 瑕疵(or反証)が明らかにされ崩壊する。
→ 人物Bがまた別の推理を語り出す。
以下繰り返し。この調子でみなことごとく討ち死にした後、
真打ち・まほろの登場となる。

乗客たちによって開陳され、結局ひっくり返されてしまう解釈も、
実に多彩にして巧妙。
中には「そのネタで長編一本書けるじゃん」ってのもある。
そういう意味では一冊の中に通常の何倍ものトリックを仕込んでいて
出し惜しみしてない。これはスゴい。

そしてこれらの "誤った推理" も無駄ではなく、
これらが積み重なっていくうちに
薄皮がはがれるように真相に近づいていく。

そしてそして、犯人が分かったあとでさらにもうひと捻り。
いやはやサービス精神旺盛なことこの上ない。

しかしまだまだ「物語」は終わらない。
謎解きを終えた後のラスト50ページ、
「物語」は想定外の超展開を迎える。

 うまい例えが見つからないが、あえて言うなら、
 前作のラストが『エイリアン』なら
 本書のラストは『エイリアン2』だね(笑)。

「ミステリ」としての謎解きだけに限定すれば
前作『果実』は未読でも差し支えないが、
「物語」として読むなら、『果実』を読んでおかないと
わけが分からないだろう(特にラスト50ページは)。

あと、できれば列車ミステリの傑作『オリエント急行の殺人』も
読んでおいた方がいいかな。
露骨なネタバレはないが、真相を示唆する描写はあるので。

 もし未読なら、この機会をとらえて読みましょう。
 クリスティーの全盛期に書かれた古典的名作ですから。
 (本書を読む人で『オリエント』未読の人は少ないだろうけど)


今回も評価に困る作品だ。
決してつまらないわけではなく、むしろ物語としてはとても面白い。
(だから★4つにしたし。)

でも、読んでいて疲れる作品(笑)なのは前作同様。

今回も、取りかかりから読了まで2週間かかったが
途中で4日ほど放置してたので実質は10日くらいかかったかな。

それでも前作よりは早く読めたのは、
この作者の文体に慣れたのか、理解することを諦めたのか(笑)。
あと、物語の舞台がほぼ列車内に限定されているので、
キャラの動きやストーリーの進行を追いやすいというのもあるだろう。

とは言っても、なにせ大部で情報量が多く、とても頭に入りきらない。
解決編でいろんな証拠やら手がかりやら根拠やらが示されるのだけど
「はて、そうだったっけ?」な状態。

 読みながら詳細にメモでも取っていかないと
 ついていけないんじゃないかなあ・・・

私はこの作品を "ミステリとして" 読むには
私自身の知力が足りないんじゃないかと思う(T_T)。

そして、もしそうならば、
私はこのシリーズのよい読者ではないのでしょう。
正しく評価できるとも思えないし。

でもまあ、錆びついた頭をなんとかフル回転させて、
ボケ防止のためにも(笑)もう少しつきあってみるつもり。

ところで、本書のラストに登場する "あの人" は、
今後もシリーズキャラとしてレギュラー化するのでしょうかね?


最後に、本書を読んでいて思い出した話を一つ。

大学生の頃、坂口安吾の『不連続殺人事件』を読み始めたとき、
わずか最初の数ページで、登場する人物のあまりの多さにたまげて
一覧表を作ったことを思い出した。
読み進めながら、手がかりと思える事項にぶつかったら
自分なりの解釈を加えてメモを書き込んでいった。
そしてラストの謎解きの前にそのメモを眺めていたら
犯人が誰だか閃いたのも懐かしい思い出だ。

  そのメモを母親に見つかって、
 思いっきり呆れられたのもいい思い出だ(笑)。

ミステリにおいて、論理的に考えて犯人が当たったのは
あれが最初にして最後だったような気がするなあ。


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mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-02-27 02:08) 

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