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土漠の花 [読書・冒険/サスペンス]

土漠の花 (幻冬舎文庫)

土漠の花 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2016/08/05
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

アデン湾からインド洋にかけて出没する海賊への対処行動のために、
東アフリカのソマリア国境付近で活動する陸上自衛隊第一空挺団。

その活動拠点に通信が入る。
CMF(多国籍軍による連合海上部隊)の連絡ヘリが墜落し、
その捜索救助を要請するものだった。

隊長の吉松3尉以下12名の隊員は機動車3台にて現地へ向かう。
しかし発見したヘリに生存者は見当たらず、
迫る日没から吉松は野営を決断する。

そしてその深夜、3人の女性が野営地に現れ、
自衛隊に保護を求めてきた。
北ソマリアのビヨマール・カダン小氏族の
族長の娘・アスキラを含む3人の女性たちは、
敵対関係にあるワーズデーン小氏族の襲撃から逃れてきたという。
二つの小氏族の間には、彼らの暮らす地に眠る
石油の利権を巡っての長年にわたる争いがあった。

吉松が3人の受け入れを決断したまさにそのとき、
野営地はワーズデーンの武装勢力によって急襲を受ける。

初めての "実戦" に混乱する中、次々と倒れていく隊員たち。
吉松隊長まで失い、壊滅寸前の小隊を救ったのは
89式小銃で反撃に出た市ノ瀬1士。
それは史上初の自衛隊員による発砲だった。

辛うじて窮地を脱した彼らだったが
生き残ったのは隊員7名とアスキラだけだった。

機動車も通信機も失い、武器も乏しい状態で脱出行を始める隊員たち。
帰るべき拠点は70kmの彼方にあった。
そんな彼らに対し、ワーズデーンの執拗な追撃が続く・・・


生き残ったメンバーで最上位者は友永曹長と新開曹長。
最年長の朝比奈は階級が1つ下の1曹、
警務隊出身の由利1曹、
津久田2曹はトップクラスの射撃の名手、
梶谷士長は車の運転に秀でた整備の専門家、
そして最年少の市ノ瀬1士は元インターハイ水泳選手。

しかし彼らの中には
生まれ育ちの違いから僻みを持つ者や
過去の経緯から反目を抱えた者までおり、
とても一枚岩とはいえない関係にある。

さらに友永と新開は同階級、同年齢。
指揮権を巡る問題もあった。


そしてまた彼らは普通の人間でもあった。
初めて自らの発砲によって人を死に至らしめた市ノ瀬は
ことの重大さから腰を抜かしてしまうし、
津久田2曹は「娘を殺人者の子にしたくない」と
引き金を引くことを拒み続ける。

そんな集団が、ワーズデーンとの死闘を繰り広げながら
過去の怨恨や反発を乗り越え、新たな絆と友情を結んでいく。

ある時は追っ手に罠を仕掛け、
ある時は反攻に転じて敵の武器を奪い、
そしてクライマックスでは、廃墟となった町に立てこもり、
敵の大軍を迎え撃ちつつ脱出の機会を窺う。
彼らは知謀の限りを尽くして、生き残るための抵抗を続けるのだ。

隊員各自が特殊技能をもっており、
それぞれに応じて随所に "見せ場" が用意されている。
誰がどんな活躍を見せるかは読んでのお楽しみだが
個人的には、津久田が迷いを振り切って銃を手にするあたりが
いちばん感激したポイントだ。
彼が決断した理由がまた泣かせるんだなあ。

しかし敵の物量は圧倒的だ。
追撃を逃れる度に櫛の歯が欠けるように仲間を失っていく。
だが彼らは最後まで男として、人間としての矜持を失わない。
そんな男たちの壮絶な戦いぶりが本書の最大の読みどころだ。


本書のラストでは、友永たちの戦いがどう扱われるのかが語られる。

そこには現在の自衛隊の置かれた立場の微妙さがあり、
そして国際社会における大国のエゴ、
地下資源の利権を巡る勢力争いなど
世界の "冷酷な現実" というやつもまた明らかになる。


「海外派遣された自衛隊」というものを扱っているだけに
議論を呼ぶ作品なのかも知れない。

しかし本書の主眼は「極限状態に置かれた人間の戦い」だと思うし、
冒険小説としても超一級の面白さなのは間違いない。

第68回日本推理作家協会賞を受賞したのも納得の傑作だ。


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mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2016-11-20 00:22) 

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