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人類資金 全7巻 [読書・冒険/サスペンス]

※長文注意!


人類資金1 (講談社文庫)

人類資金1 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫




人類資金2 (講談社文庫)

人類資金2 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫




人類資金3 (講談社文庫)

人類資金3 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/09/13
  • メディア: 文庫




人類資金4 (講談社文庫)

人類資金4 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/10/16
  • メディア: 文庫




人類資金5 (講談社文庫)

人類資金5 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫




人類資金6 (講談社文庫)

人類資金6 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/02/14
  • メディア: 文庫




人類資金7 (講談社文庫)

人類資金7 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: 文庫




評価:★★★★☆

「人類資金」という映画のために、作者がストーリーを作成し、
それを脚本と小説という2パターンで世に出した、ということらしい。

 同様のパターンで作られたのが「ローレライ」だった。
 小説版は「終戦のローレライ」。
 私はこの小説が福井作品で一番好きなんだが、
 映画に関してはいろいろ残念な想いがある。
 それをいちいち挙げるのは場違いなので控えるが。

薄めの文庫本(約200ページ)に分割したものを、
月刊ペースで短期集中的に出す、という出版形式も特殊だった。
たぶん1冊ごとの単価を下げて、
買いやすくしたかったんだろうけどね・・・

でも、6巻まできたらパタッと刊行が止まってしまい、
完結の7巻が出たのは、それから1年5ヶ月も経ってからだったよ。
それも約700ページと、6巻までと打って変わっての分厚さにビックリ。
それまでの薄さは何だったんだろう・・・

7巻の冒頭には20ページほど、1~6巻のあらすじが載っている。
これも刊行に間が空いてしまったことへのフォローでしょうか。

ちなみに写真を見てもらうと分かるんだが、
この厚みのアンバランスさ。おかしいだろうこれ。

Mfund.jpg
さて、本書は全7巻、総計で1800ページを超えるという長大な作品。
全体を構成する7つのパートのページ数を記すと以下のようになる。

序 幕(1巻:約80ページ)
第一幕(1~2巻:約280ページ)
第二幕(3~4巻:約330ページ)
第三幕(4~5巻:約220ページ)
幕 間(5~6巻:約260ページ)
第四幕(7巻:約590ページ)
終 幕(7巻:約70ページ)

なにしろ大長編なので、どの程度まで紹介したらいいのか悩む。
内容としても、従来の福井作品とはやや毛色が異なるので
読み始めてみて、やや違和感を感じる人も
いるかも知れない(私がそうだった)。

なので、序盤についてはやや丁寧に紹介した方が
親切なのかも知れない、とは思うんだけど・・・
なるべく未読の人の興を削がないように書くつもりだが
どうしても内容に深く踏み込んでしまう部分があると思う。

これから読もうという人は、以下の文章に目を通さずに
書店へ直行することを推奨する。


1945年8月15日、日本銀行の地下金庫から、
600トンの金塊が運び出され、姿を消す。
首謀者は陸軍大尉・笹倉雅実。
この金塊は、終戦後の日本の復興を影から支え、
やがて "M資金" と呼ばれるようになった。

M資金の管理のために "財団" を立ち上げ、
その初代理事長となった笹倉雅実は、戦後日本の経済界の黒幕となり、
"財団" は笹倉一族によって受け継がれてゆく。

そして69年の時が流れ、笹倉雅実の七回忌が営まれた2014年、
M資金専門の詐欺師・真舟雄一の前に、石優樹と名乗る男が現れ、
「 "財団" に関わる仕事」を依頼する。

真舟はかつて、育ての親とも言うべき恩人・津山を
"財団" がらみの事件で喪っており、
M資金の真実、そして事件の真相を求めていた。

依頼人の "M" は、ITベンチャー企業の若き社主だった。
彼の目的はなんと「M資金を盗む」こと。そしてさらに告げる。
「僕といっしょに、世界を救ってみませんか?」

いったんは返事を保留した真舟だったが、その彼の前に
防衛省情報局・M資金監視担当要員である高遠美由紀が現れる。
(要するに福井作品でお馴染みDAISのメンバーだ)
美由紀もまた、笹倉一族に連なる者だった。

美由紀は真舟を捕らえようとするが、間一髪、石に救われ。
しかし二人はDAISの執拗な追跡を受けることになる。

本書は今までの福井作品と異なり、ミリタリー要素はほとんど無いので
アクションシーンは少ないが、その分こってりと書き込まれている。
バイクを駆使したカーチェイスや、
東京の巨大な地下空間を利用した逃走劇など
迫力充分なシーンが続く、序盤のクライマックスだ。

ここまでが、1~2巻。

3巻に入ると舞台はロシアへと移る。
日本を脱出した真舟と石は、"財団" のロシア支部とも言うべき
ヘッジファンドオフィス・ベタプラスをターゲットに定める。
マネージャー・鵠沼英司に偽の情報を吹き込み、
"財団" から10兆円を奪取することを目論む。

このあたりはとてもよくできたコン・ゲーム小説になっていて
福井晴敏は派手なドンパチ以外にも、
こんな緻密な話も書けるんだなあと素直に感心した。

しかし最後の詰めの直前に "仕掛け" がバレてしまい
すべては水泡に帰すかと思われた瞬間、意外な人物が現れる・・・


さて、ここまできて「読んでみようかな」と思った人は
そろそろやめて書店へ行きましょう。

以下の文章は、かなりストーリーの根幹に触れる部分が
あるように思うので、そのつもりで。


4巻に入ると "M" の正体、さらに彼と美由紀との関係が明かされる。
彼がM資金を利用して実現しようとしたのは、
戦後の世界経済を支配する "ルール" に異を唱え、
"新しい世界" を築くこと。
そのために彼は、東南アジアにある世界最貧国の一つである
カペラ共和国に於いて、壮大な実験を始めようとしていた。

富める者がますます富み、貧困に苦しむ者が
さらに搾取され続ける世界ではなく、
人間の持つ善意を "システム化" し,
貧しい者に等しく "チャンス" と "可能性" を与える世界にする。

"M" の掲げる理想が正しいのか間違っているか、
読者の受け取り方はそれぞれだろう。

私は経済についてはド素人で、
株の売買すらやったことがない人間なのだけど、
それでも "M" の理想が万人に納得できる話でないことくらいは分かる。

でも、本書の根本にあるテーマは、
現在の世界のありように疑問を提示し、
"より良き世界" を目指して、自らの力を持って
それに立ち向かっていく、そういう理想を持った人間を "是" としよう、
というということだと思う。
(これは前作「小説・震災後」でも扱われたテーマでもある。)

物語の根幹は "M" の理想と現在の世界経済の "ルール" との相剋。
ならば、本書を楽しむには、"M" の理想を "作中是" として
(少なくとも本書を読んでいる間は)受け入れることが必要なのだろう。

彼が何故そんなふうな理想を持ち、
さらにそれを実行に移す決断に至ったかもまた、
かなりのページを割いて描かれている。

本書に限らず、福井作品が長大になりがちなのは
リアリティを担保するための書き込みが半端ない、
というところにも原因がある。
それを楽しんで読めるか、冗長に感じるかで
福井作品に対する評価もかなり決まるんじゃないかな。


さて、そんな "M" の行動を許さない者もまた存在する。

よくフィクションの世界では「世界を裏から操る影の存在」
なんてものが出てくるが、本書でもそれに相当する組織が登場する。

それが、物語後半から表舞台に出てくる「ローゼンバーグ財閥」。
世界経済を数百年の昔から影で操ってきたとされる存在で、
まさに戦後資本主義世界の "ルール" そのもの。
M資金を管理する "財団" でさえ、ローゼンバーグ財閥の支配下にある。

カペラ共和国の "実験" が始まった直後、
"ルール" への挑戦者である "M" は、
ローゼンバーグ財閥によって捕らえられてしまう。
彼の命はまさに "風前の灯火" となった・・・


ここまでが1~6巻までのおおよそのあらすじ。

「経済」という慣れないフィールドで、
ともすればややアウェイな雰囲気も感じられて
かなり慎重に、そしてちょっと窮屈そうな書きっぷりだったのが、
7巻に入ると、文章が水を得た魚のように生き生きとしてくる。
6巻までが壮大な「序章」で、実は7巻が「本編」なんじゃないか。
そんな風にさえ思えるほど、7巻はアツい展開が続く。

まさに6巻まではプロレスで言うところの "受け" に徹し、
7巻に至り、一気に反撃に転じる。

しがない中年男の詐欺師・真舟が、世界経済の帝王とも言える
ローゼンバーグ財閥を相手に、一世一代の大勝負を仕掛けるのだ。

"M" が命をかけて窮地を救ってくれた恩義もあるだろう。
彼の抱く理想に共鳴したこともあるだろう。だが何よりも、
自らの心の "ルール" に従い、"M" の救出を決意する。
そのために様々な才能を持つ "仲間" を集め、
"チーム・真舟" ともいうべき一団をまとめ上げていく。

迎え撃つは、ローゼンバーグ財閥の一族に連なる
M資金担当役員、ハロルド・マーカス。

カペラ共和国の "実験" を封殺しようと画策するハロルド。
それを逆手に、世界の注目をカペラに集めるべく動く真舟。

一発の銃弾も飛び交わないが、それに代わる
「株式」という武器を手に、二人の男の頭脳戦が幕を開ける。

寡兵ならではの機動力と、素人ゆえの "奇策" を繰り出す真舟。
圧倒的な "物量" (資金力)を背景に力で押し切ろうとするハロルド。
戦場ならぬ "市場" を舞台に、息詰まるような "戦い" が続く。

そして最終 "決戦" の舞台はニューヨーク。
起死回生の一打を狙う真舟たちに、ローゼンバーグの "清算人" が迫る。
これがまた「ターミネーター」みたいな不死身の超人。
世界の未来と "M" の奪還を賭けて、真舟、石、美由紀の三人が
ビッグ・アップルを駆け抜ける・・・


何と言っても真舟のかっこよさにシビれる。
腕はいいけど、所詮は一介の詐欺師にすぎない。
そんな彼が、巨大財閥にケンカをふっかけることを決意してからは
別人のように颯爽としてくる。
常に敵の二手三手先を読み、ピンチに陥っても決して諦めず、
次から次へと奇手をひねり出して切り抜けていく。

福井晴敏としては初めての「経済」をテーマにした小説。
上にも書いたけど、がんばってると思う。
この作品を企画してから経済の勉強を始めたとのとだが
少なくとも付け焼き刃的なおざなり感は皆無だ。

もっとも、その筋の専門家の人から見れば穴だらけなのかも知れないが
私くらいのレベルの人には必要充分な描写だと思うよ。

要所要所にしっかりアクションシーンも織り込んで
読者へのサービスも怠りない。
今までの福井作品のトレードマークとも言える
"火薬の量と爆発の回数で勝負" 的な要素を排してもなお、
手に汗握る緊張感と、読後のカタルシスは充分。
もちろん "福井節" も健在だ。

M資金の呪縛に囚われ、次々と悲劇に見舞われる笹倉一族の系譜とか、
"財団" の現理事長である笹倉暢彦・芳恵夫妻の泣かせるエピソードとか
終盤ではすっかりギャグ要員になってしまうヤクザの親分・酒田とか
まだまだ書きたいことはたくさんあるんだけど
もうかなり長く書いているのでそろそろ終わりにしようと思う。

「ガンダムUC」から数えると5年ぶり、
「小説・震災後」を入れても3年ぶりくらいの作品だけど
待たされただけのことはあったと思う。


最後にちょっとだけ余計なことを書く。

すべてが終わり、表舞台から去って行く時の真舟がもう最高だ。
読んでいて連想したのは「ルパン三世・カリオストロの城」で
ラストシーンでクラリスに別れを告げて去って行くルパン。
ここでの真舟は、ルパンに負けないくらい「カッコいい男」だ。

そう思って読んでると、登場人物が
「ルパン三世」に重なって見えてきたよ。
石は次元、美由紀は不二子、そしてクラリスは "M" (笑)。
五右衛門はさしづめ鵠沼君かなあ。

・・・ホント、余計なことだったね。


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コメント 1

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2015-08-28 23:37) 

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