幽霊城の魔導士 [読書・ファンタジー]
評価:★★★☆
魔導士の訓練校になっているネレイス城には、幽霊が出るという噂があった。城の下働きの少女ル・フェ、訓練生のセレスとギィ。城で出会った三人は、城の秘密にまつわる騒動に巻き込まれていくが・・・
著者のデビュー作『魔導の系譜』から始まる〈真理の織り手〉四部作の前日譚にあたる物語。
* * * * * * * * * *
異民族の子であることから虐待を受け、口がきけなくなってしまった孤児ル・フェ。12歳となった彼女は魔導士の訓練校・ネレイス城で下働きをすることになり、孤児院を出た。
働き出した最初の夜、城中で迷子になってしまったル・フェは、ローレンという少年と知り合う。なぜか彼の前では、自然に言葉が出てきて話ができることに驚くル・フェ。そして彼と語り合ううちに、彼女は自分の中に魔導士の資質が眠っていることに気づいていく。
ネレイス城には、魔導士を目指す訓練生が集う。ここで実力を認められれば、魔導士の最高機関〈鉄(くろがね)の城〉の幹部候補への道が開かれる。
訓練生のギィは、他人との軋轢を嫌う事なかれ主義がモットーなのだが、頼み事をされると断れない人の良さも併せ持つ少年。
同じく訓練生のセレス・ノキアは天才との呼び声がある少女。訓練生の中にも派閥があり、彼女を自分の陣営に引き込もうという動きはあったが、彼女は全く相手にしないで孤高の状態を貫き、"氷の魔女" という通り名を持っていた。
ネレイス城で働き始めたル・フェは、城の中で不思議な光景に出くわす。廊下の先の闇の中に、豪華な宴とその中で踊る人々の姿が浮かび上がった。そこはかつて大広間があったが、100年前に起こった戦争で燃えてしまい、改装された場所だった。彼女は100年前の光景を見たらしい。
怪異はさらに続く。城の書庫番が何者かに襲われて負傷し、ついには死者まで出てしまう。そしてル・フェにはその殺人容疑が掛けられてしまう・・・
最初はバラバラだったル・フェ、ギィ、セレスが物語の進行とともにひとつになっていき、城の秘密を解き明かしていく、というのが本書のストーリーの縦糸。
横糸は、ハリー・ポッターみたいな学園ものの趣で、訓練の様子や生徒たちの確執も描かれていくところだろう。
他に印象的なキャラとしてはリューリ・ウィールズがいる。彼も訓練生でギィの友人なのだが、セレスとはまた違った性格で、自由闊達に生きることが心情らしく群れることを嫌う。
多くのキャラが登場するが、善玉/悪玉(主役3人に対して宥和的/敵対的)が比較的はっきりしているので、ストーリーはわかりやすい。
謎の少年・ローレンの正体はだいたい見当がついてしまうが、読んでいてそれがマイナスには感じられない。作者はそこまで見越して語っているのだろう。
記事の冒頭にも書いたが、本書は著者のデビュー作『魔導の系譜』から始まる〈真理の織り手〉四部作と世界を同じくする(時代はかなり過去)。登場人物も一部共通しているので、四部作を読んだ人なら「あのキャラの若い頃はこんなだったのか!」的な発見ができるのも本書の楽しみのひとつだろう。
タグ:ファンタジー
コメント 0