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この本を盗む者は [読書・ファンタジー]


この本を盗む者は (角川文庫)

この本を盗む者は (角川文庫)

  • 作者: 深緑 野分
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13
評価:★★☆


 主人公の御蔵深冬(みくら・みふゆ)は高校1年生。
 彼女の曾祖父・嘉市(かいち)は、"本の町" と呼ばれる読長(よむなが)町に巨大な書庫「御蔵館」(みくらかん)を作った。 
 しかしある日、「御蔵館」から蔵書が盗まれたことで〈ブック・カース〉(本の呪い)が発動し、町が物語の世界へと変貌してしまう。
 元の世界に戻すためには本を取り戻すしかない。深冬は謎の少女・真白(ましろ)とともに、本泥棒を追って物語の中へと入り込んでいく・・・


 女子高生・御蔵深冬の曾祖父・嘉市は書物の蒐集家で、巨大書庫「御蔵館」を建設した。彼の娘・たまき(深冬の祖母)は、受け継いだ「御蔵館」から大量の書物が行方不明になっていることを知り、「御蔵館」の閉鎖(外来者の入館禁止)を決断する。

 現在の管理人はたまきの子どものあゆむ・ひるねの兄妹。
 あゆむは深冬の父で、柔道の道場を経営している。
 ひるねは深冬の叔母で、名前通り、いつも「御蔵館」の中で寝ている。彼女は蔵書のすべてを読んでいるらしいのだが。

 舞台となる読長町は別名 "本の町"。書店が50軒以上あり、国内から海外、新刊から古書、絵本に稀覯本まで揃う。ブックカフェなど書物関連の施設も充実、書物を司る稲荷神社まであるという、本好きにとってはワンダーランドだ。
 そんな物語の主人公なのだが、深冬は本が嫌いという困った設定(笑)。

 怪我をして入院したあゆむの見舞いを終え、「御蔵館」にやってきた深冬は一人の少女に出くわす。深冬と同じ高校の制服を着て、歳も同じくらい。ただ髪の毛は雪のように真っ白だ。彼女は "真白" と名乗り、深冬に告げる。

 「御蔵館」の蔵書すべてに、〈ブック・カース〉(本の呪い)が掛けられている。それは御蔵一族以外の者が書物を持ち出したら発動する。本を盗んだ者は "物語の檻" に閉じ込められてしまうのだ。

 その証拠に、読長町は見知らぬ異世界(物語の世界)へと変貌していた。元に戻すには本泥棒を捕まえなくてはならない。深冬は真白とともに異世界に飛び込んでいく。
 しかし本泥棒は次々と現れ、深冬はそのたびに姿を変える町で展開される様々な "物語" を経験していくことに・・・


「第一話 魔術的現実主義の旗に追われる」
 いわゆるマジックリアリズム。一言で説明するのは難しいが、悪夢のようなファンタジー世界、とでも云うか。日常と非日常、現実と非現実が同居するような空間を描いている。

「第二話 固ゆで玉子に閉じ込められる」
 文字通りハードボイルド・ミステリ。私立探偵リッキー・マクロイの活躍する世界。

「第三話 幻想と蒸気の靄に包まれる」
 スチーム・パンクSF的な世界。圧政を敷く帝国、そして謎の巨大生物。

「第四話 寂しい町に取り残される」
 読長町からすべての人の姿が消えてしまう。土俗的ホラーな世界、かな。


 変貌してしまう読長町にあって、住民たちはどうしているのかというと、彼らもまた物語り世界の登場人物に "変異" してしまう。例えば私立探偵マクロイは深冬の学校の体育教師だったりとか。もちろん本人は意識までその人物になりきっているのだが。

 そして「第五話 真実を知る羽目になる」に至り、物語の根底に関わる謎が明らかになっていく。
 そもそも〈ブック・カース〉を引き起こす力の源は何なのか?
 「御蔵館」からの大量書物紛失事件の真相とは?
 いつも寝ている叔母・ひるねに隠された秘密とは?
 そして真白の正体とは?・・・


 こうやって内容を書いてみると、とても面白そうではある。でも本書を読むのは、ちょっと難儀だったよ。

 思うに、「第一話」のマジックリアリズム世界のエピソードに馴染めなかったのが躓きの原因かな。どうやら私は、ファンタジー世界でもそれなりに筋が通っていないとダメみたいで、何でもありのこの世界にはなかなか入り込めなかった。
 そのせいか「第二話」以降のエピソードに入っても乗り切れず、ストーリーを追うだけで精一杯。

 まずはハードボイルド世界かスチームパンク世界から始めて、マジックリアリズムは後半にあったほうが、私のアタマには優しかったのかも知れない(笑)。

 ラストで描かれる深冬と真白の関係がちょっと感動的だったりと、読みどころも少なくないんだけどね。

 本書を通じて、作者が 本/書物/物語 というものに対して、限りなく大きな愛を抱いてるのは痛いほど分かるのだが、それを受け止めるだけの器量が私にはなかったようです。



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