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マーダーズ [読書・冒険/サスペンス]


マーダーズ (講談社文庫)

マーダーズ (講談社文庫)

  • 作者: 長浦京
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/06/15

評価:★★★★


 商社員・阿久津清春(あくつ・きよはる)と現職刑事・則本敦子(のりもと・あつこ)。2人とも、それぞれ過去に殺人を犯しながらも、それが露見せずに生きてきた。
 しかし2人の前に現れた女性・柚木玲美(ゆずき・れいみ)は「あなたたちの罪の証拠を握っている」と告げ、19年前に起きたことの調査を命じる。玲美の母が自殺し、姉が行方不明となっていた事件だ。
 清春と敦子は命じられるままに探索を開始したが・・・


 本書の冒頭は、元刑事・村尾邦宏(むらお・くにひろ)が、ある民家に侵入して住人の男・伊佐山(いさやま)をなぶり殺し(!)にするというショッキングな場面からスタートする。
 村尾は多くの未解決事件を独自の視点で追い、警察も気づいていない多くの証拠を手にしていた。伊佐山は長年にわたって複数の女性を誘拐・監禁・暴行の末に殺害するという極悪人でありながら、司法の手から逃れていたのだった。

 柚木玲美(ゆずき・れいみ)は、余命幾ばくもない村尾から彼の持つ "資料" を譲り受けた。その中から選んだのが商社員・阿久津清春と警視庁の現職刑事・則本敦子。どちらも過去に殺人を犯し、法の手から逃れていた。

 2人に接触した玲美は告げる。「あなたたちの罪の証拠を握っている」と。そしてある調査を命じる。
 19年前、玲美の母・祐子(ゆうこ)と姉・麻耶(まや)が失踪した。5ヶ月後、祐子は遺体となって見つかったが麻耶は行方不明のまま。
 祐子は自殺と判定されるが、玲美は納得できない。清春と敦子は、祐子の死の真相と麻耶の行方を突き止めるように強要されることに。

 祐子は縊死したものと思われたが、遺体の状況が似ている事件が過去に複数起こっていたことが判明する。しかも調査を進めていくうちに、それらが相互に関連を持っていたことが明らかになっていく。
 ここを突破口に、祐子を殺害した犯人に迫ろうとする2人だが、謎の妨害者が現れる・・・


 殺人犯を使って殺人犯を狩り出そうとする玲美。
 清春は大事な人を奪った者たちへの復讐のため、敦子は命に関わる悲惨な境遇から抜け出すために、2人は自らの手を血で染めていた。
 清春も敦子も、常人では持ち得ない感覚を以て殺人犯の "匂い" を嗅ぎつけ、追い続ける。

 清春は極めて有能な商社員であり、近々結婚式を挙げる妹を気に掛けている。敦子も警視庁の第一線で働きながら、離婚した夫の元に残した娘を心配する。
 外見的には普通の一般人の姿をしているが、その裏にはダークな殺人者の顔を持っている。時にそれは牙をむき、容赦なく冷酷非情な対応ができる人間として描かれる。


 玲美を含めて極悪な主人公3人組なのだが、彼らが調査の結果で "掘り当ててしまった" ものは予想外に強力な "敵"。
 この設定はいささか意表をつく。詳しく書くとネタバレになるのだが、清春も敦子も、もっと早い時期にこの "敵" に接触していたら、逆に取り込まれていたかも知れない。

 終盤に入ると、この巨大な "敵" を相手に、清春も敦子も文字通り身を挺し命を賭けて、激しい戦いに身を投じていくことになる。
 周到に罠を張り巡らせて迫る "敵" に対して、徒手空拳の清春が反撃していくあたりは、やはり ”常人” にはできない芸当だろう。こういう人物でなければ本書の主役は務まらない。
 敦子もまた、意外なところに潜んでいた "敵" に足をすくわれ、満身創痍の身となりながらも最後まで挫けることなく抗い続ける。やはり "戦うヒロイン" はカッコいい。
 このあたりのアクション描写は凄まじく、ハラハラドキドキの連続でページを繰る手が止まらない。極上のエンタメ作品であるのは間違いない。

 本書は徹底的に 殺人者 vs 殺人者 の戦いを描いていく。タイトルの「マーダーズ」にはそういう意味が込められてるのだろう。

 思えばデビュー作『赤刃(セキジン)』で、極悪非道な辻斬り集団に立ち向かうのは、自らも死に魅入られた旗本・小留間逸次郎だった。
 第2長編『リボルバー・リリー』で、軍部の陰謀から少年を守って戦うのは、50人以上の要人暗殺に関わったとされる凄腕の女スパイ・小曽根百合。
 "巨大な悪" の前に立ちはだかるためには、自らも "強き悪" でなければならない。そんなダーク・ヒーロー / ダーク・ヒロインの戦いを描き続けていくのが作者のテーマなのだろう。


 そして迎えるラストシーン。清春や敦子の運命も気になるが、それ以上に、物語を推進させてきた原動力である玲美がどんな着地点を迎えるのか。多くの読者の興味はここに集まるだろう。
 「これでいい」とうなずくか「これはない」と首を振るか。いろんな感想があるだろう。
 ちなみに私は、100%の納得はできなかったのだけど、じゃあどんな結末だったら良かったのか、って云われると頭を抱えてしまうんだよなぁ。そう考えると順当な落とし所だったのかも知れない。


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