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罠 [読書・ミステリ]


罠 (角川文庫)

罠 (角川文庫)

  • 作者: 深木 章子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/01/22
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

 舞台となるのはP県槻津(きづ)市。ここを舞台に起こる事件の数々と、その裏で暗躍する ”便利屋” なる正体不明の男を描いた連作短篇集。

 ”便利屋” とは、いわゆる ”何でも屋” なのだが、依頼されれば何でもやる。それも「アリバイ確保・物品投棄」など非合法なことも請け負う。要するに、金さえ払ってくれれば、事後従犯として犯罪の片棒を担いでくれるというのだ。
 さまざまな窮地に陥った者が、犯罪行為を以てそこから逃れようとするとき、便利屋はその ”背中を押してくれる” というわけだ。

「第一話 便利屋」
 市会議員・権田滋の息子・透が誘拐された。犯人からの要求は5000万円。
 権田は警察に知らせず、秘書の木戸に命じて事務所にある現金5000万円を持ってこさせるが、途中で木戸が襲われ、現金を奪われてしまう。
 その金は権田が賄賂で手に入れた、”表に出せない金” だった・・・

「第二話 動かぬ証拠」
 会社社長・綱島圭介のもとに、匿名の手紙が届く。彼の妻・麻利絵が浮気していると。相手は異母弟・昭彦と睨んだ圭介は、弁護士・藤代(ふじしろ)に相談、浮気の証拠を押さえるために、出張と称して家を空けた。
 しかしその昭彦が自宅で殺されてしまう・・・

「第三話 死体が入用(いりよう)」
 中堅商社の部長・奥田は追い詰められていた。背任や横領などの罪を重ね、発覚は時間の問題だ。彼は便利屋を呼び出し、自分の身代わりとなる死体を用意するよう依頼するが・・・

「第四話 悪花繚乱」
 片倉繭子はカリスマ美容師兼教育評論家だ。その放蕩息子・憲太は「人を殺してしまった」と母親に泣きついてきた。繭子は弁護士・藤代に相談するが・・・

「第五話 替え玉」
 私立向徳院高校の理事長・丸川は、自校の優秀な生徒を使って替え玉受験を行った過去がある。懇意の理事の息子を希望の大学に押し込んだのだ。
 そして今年、丸川は自分の息子を大学に入れるため、再び替え玉受験を画策していたのだが・・・

「第六話 旅は道連れ」
 老舗ゴルフ場の社長・鷲尾は借金取りから逃れるためにある秘策を思いつき、便利屋を呼び寄せる。彼への依頼は、鷲尾になりすまして妻・里加子とともに東北へのツアー旅行に参加すること。
 しかしそのツアーの2日目の朝、十和田湖に水死体が浮かぶ。里加子はその死体を夫だと証言するが・・・

「第七話 飛んで火に入る」
  3年前、槻津信用金庫の理事長・加地は、不正の内部告発を目論んでいた部長・五十田(いそだ)を食中毒を装って殺害した。その片棒を担いだ宴会場社長・飯山は、裏で暴力団ともつながりを持っていた。
 しかし加地のもとへ、3年前の殺人を告発する脅迫状が届く・・・

 本書の舞台となっているP県槻津市は、不正腐敗が蔓延し、警察の上層部もそれらと癒着していて、町全体が背徳の色に染まっている。
 その街で、犯罪者に手を貸す便利屋とは何者なのか。

 連作短篇の形式なのだけど、もちろん個々の短篇はミステリとしてしっかり出来上がっている。その一方、複数の作品に登場する人物もいて、第一話~第七話まで物語は緩やかにつながっている。

 中でもP県警捜査一課の警部補・都築は要所要所で顔を出す、ほぼレギュラーといっていいキャラクター。彼はいわゆる悪徳警官で、事件を利用して私腹を肥やそうと企む役回りなのだが、それにはどうにも便利屋が邪魔になり、その正体に迫ろうとするわけだ。
 後半になると警官を辞して私立探偵となるが、やっていることは基本的に変わらない。というか、官憲でなくなったぶん、より自分の欲に忠実になって行動がエスカレートしていく。
 この都築と便利屋の ”追いかけっこ” も本書の読みどころだろう。

 そして「第八話 狼たちの挽歌」に至り、便利屋の正体、そしてそれまでの七話分の背後に隠された ”企み” が明かされることになる。

 とにかく、各話の登場人物がほとんど悪人・悪党ばかり。それがお互いに欺し、欺されていく話が延々と続く。
 ミステリとしての切れ味は抜群なんだが、時々、誰が誰をどのように欺しているのか混乱するときもあった。
 それくらい技巧を凝らしてあるんだろうけど、私のアタマの処理能力をいささか超えてますね(笑)、これは。



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