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角川映画 1976-1986 [増補版] [読書・ノンフィクション]

病気もヤマを超えてかなり好転してきたので
そろりそろりと再起動、のつもりが
かなりの長文に・・・・・どうしてこうなった。


角川映画 1976-1986(増補版) (角川文庫)

角川映画 1976-1986(増補版) (角川文庫)

  • 作者: 中川 右介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川マガジンズ
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫



往年のカリスマ出版人だった角川春樹が、
『犬神家の一族』で日本映画界に参入してから40年。

巻末に、この40年間に "角川" が送り出した
映画のリストがあるんだけど、その数実に158本。

映画製作の母体も、初期は「角川春樹事務所」だったが、
ここは後に「角川書店」に吸収合併され、
角川春樹が去って弟・歴彦が後任社長となった後も
倒産した大映を買収して「角川大映映画」になり、
これが「角川映画」へと社名変更した現在では、
書籍・マンガ・アニメ・映画・TVそしてネットまで網羅した
一大グループ企業「KADOKAWA」の一員へと移り変わった。

様々な変遷があった40年間なのだけど、
サブタイトルにあるように本書で扱うのは、
「角川映画」の最初の10年間。
作品で言えば横溝正史原作『犬神家の一族』から
片岡義男原作の『彼のオートバイ、彼女の島』まで。
本数にして45本ほどが、本書で採り上げられている。

角川春樹が陣頭に立って大作・話題作を作り続けていた、
言ってみれば角川映画が "いちばん元気だった時代"。
"いちばん元気" というのに語弊があるなら
"いちばんやんちゃだった" と言い換えてもいいかな。
映画館は満員でも評論家には酷評(あるいは無視)されるなど、
この頃の角川映画、そして角川春樹は毀誉褒貶に晒されていたから。

ちなみに、映画の出来そのものについて筆者は論評していない。
興行収入と、キネマ旬報のベストテン結果という
客観的なデータを示すのみ。
あくまで、当時の角川春樹を中心とした
映画界の内実の再現に努めている。


本書で採り上げた10年間の45本の角川映画のうち、
私自身が映画館で観たのは10本ほどか。
ざっと挙げてみると『犬神家の一族』『人間の証明』
『悪魔が来たりて笛を吹く』『戦国自衛隊』『復活の日』
『魔界転生』『悪霊島』『幻魔大戦』『里見八犬伝』
『カムイの剣』・・・これくらいかなあ。
だけど、その映画のことを思い出すと、当時のことが記憶に甦る。
映画にはそういう魅力がある。本書を読んでいると、
私の心もまたあの頃にタイムスリップしていく。

著者は1960年生まれなので、私とほぼ同世代。
「1976-1986」は高校~大学~社会人となる時期で、
これも私とほぼ重なる。

筆者は、この10年間の角川映画を
すべて映画館でリアルタイムで観たという。
本書の序文で "わが青春の角川映画" と記しているくらいだからね。
その熱意が本書を執筆させたのだろう。

もちろん、当時の角川春樹や映画界、出版界の事情を
著者が知っているはずもないので、
そこは巻末にある90点近い参考文献から再構成している。
角川春樹本人へのインタビューも行って、それも反映されている。

詳しい内容は本書を読んでもらうしかないのだけど、
今まで持っていたイメージが崩れたり、
意外に感じるエピソードもあって、楽しく読ませていただいた。

ごく一部を紹介すると、当時「風雲児」「革命児」とか呼ばれ、
なんとなく「傍若無人」なイメージがあった角川春樹が、
映画の客の入りを心配するような自信の無さを示すところとか
オーディションで出会った原田知世に一目惚れして
「結婚したい」と辺り構わず吹聴するロリコンぶり(笑)とか
(当時、知世が16歳で春樹が40歳なので24歳差。
 高橋ジョージと三船美佳と同じ年齢差だ。)
人間味溢れる(?)春樹像を知ることができる。

あと、角川春樹自身は映画というものをこよなく愛してるんだけど
自分では「名画」と呼ばれるような作品は最初から作るつもりはなく、
あくまで目的は "本を売るため" で、
"難しく考えずに楽しく見られる" ような「B級作品」が作りたかった、
とか、「映画作り」というものに対する根本的な考え方が語られる。


あと、本書には、角川映画を監督した人々も登場する。

大林宣彦は、実験的かつ芸術的な映画ばかり撮る人、
ていうイメージが私にはあったのだけど、
オファーに応じてどのようにも撮れる人だったんだね。
「○○主演でアイドル映画を」って請われれば
「アイドル映画」に徹して製作する。
それはつまり、○○のファン以外の人が観ると
苦痛にしか思えない映画でさえも作り上げてしまう、ということ。

邦画洋画問わず、「大作」と名のつくものにことごとく噛み付いて
辛辣な映画評を発信している井筒和幸も、
意外にも「大作」の代名詞のような角川映画を監督している、とか。
しかも2本も。
ちなみに『晴れ、ときどき殺人』(主演・渡辺典子)と
『二代目はクリスチャン』(主演・志穂美悦子)だけど。


社会人になってから結婚するまでの10年ほど、
私は「年に映画を12本観る」というノルマを自分に課していた。
要するに「月に1本は映画を観よう」ということだったんだけど
シネコンなんかも無い時代だったからなかなか難しくて、
休日に3~4本まとめて観てなんとか帳尻を合わせてたなあ・・・

本書を読んでて、そんなことも思い出した。
(当時の)角川映画が嫌いな人もいるかと思うけど、
映画好きな人なら読んで損は無いんじゃないかな。


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mojo

そうじろうさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2016-05-12 21:58) 

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