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烏は主を選ばない [読書・ファンタジー]

烏は主を選ばない (文春文庫)

烏は主を選ばない (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

平安時代をモデルとしたと思しき世界。
人間の代わりにこの世界を治めるのは、
"鳥" に化身する力を持った "八咫烏" (やたがらす)の末裔。
今上陛下は "金烏代(きんうだい)" と呼ばれていて、
それを支えるのは東・南・西・北の大貴族四家。

皇太子である若宮の后選びが始まり、
四つの家からそれぞれ后候補の姫が
"桜花宮" へと集められることになった。

そこを舞台に四人の姫達が、后の座を巡って繰り広げた
"女の戦い" を描いたのが前作「烏に単は似合わない」。


しかしこの前作、終盤まで若宮がほとんど出てこない。
途中で登場するシーンも数えるほどで、それもワンカット程度。

 もっとも、ラスト近くで突然現れた後は、快刀乱麻の大活躍で
 混迷を極めていた状況を一気に解決してしまう。
 終わってみれば美味しいところをみんな持っていってしまうという
 とんでもない人だったが。

その若宮様が、嫁候補の娘たちが火花を散らしている間、
一体何をしていたのかを描いたのが本書。
つまり前作と本書は時系列的には同じ時間帯を描いているわけだ。

 解説によると、作者の最初の構想では
 両者を一つの小説にまとめるつもりだったらしい。

だが、読んでみるとストーリー上のからみはほとんどないし
登場人物の重複も少ない。
同一シーンをそれぞれの視点から描いた処はあるけれど。
だから、前作を読んでいなくてもとりあえずは困らない。
もちろん、読んでいればそれなりに楽しめる箇所は増えると思うが。

閑話休題。


主人公は、北家に仕える郷長の息子・雪哉。
地元で、ある騒ぎを起こしたをきっかけに、
なぜか若宮の側近くに仕えることになり、都にやってくる。

ところが宮様は "うつけ" との噂も高い曰わく付きの人物。
実際、雪哉にトンデモナイ量の仕事を押しつけるし、
宮廷のしきたりは平気で無視するし、
いかがわしいところには頻繁に出入りするし、もうやりたい放題。

しかも若宮には兄宮・長束(なつか)がおり、
こちらは品行方正、立ち居振る舞いも堂々としていて
どうみてもこちらの方がふさわしそうなものだが、
先代のご指名で、兄を差し置いて若宮が世継ぎに決まったという経緯。

当然ながら若宮の即位に不満を持つものは多く、
中には武力に訴える者も出てきていた。

要するに、若宮様はお家騒動の渦中にあり、
命の危険も感じる日々を過ごしていたわけで
そりゃあ、お后候補のところに来て
呑気に花嫁選びなんぞしているわけにはいかなかったのでしょう。

誰かを后に決めたら、その姫もまた
襲撃対象になる可能性もあるわけで。

というわけで、若宮不在のまま前作は
進行せざるを得なかったということですね。


さて本書の方だが、とにかく雪哉というキャラ設定がうまい。
田舎鄕氏の次男坊がごぼう抜きで皇太子側近になってしまう。
実際、頭は良く回るし行動もてきぱきとしていて働き者。
しかしながら、地元で平凡に一生を過ごしたかったと思っていて
もともと出世欲とは無縁だった。
つまり嫌々ながらの宮仕えなのである。

だから、若宮に対して遠慮というものがない。
常軌を逸した振る舞いに対しては
「馬鹿かあんた!」とツッコみを入れ、若宮がボケを返す。
もう二人の会話はほとんど漫才である。

しかしながら、若宮の "うつけ" は世を忍ぶ仮の姿。
前作ラストの活躍でもわかるように頭脳明晰で肝も据わってる。

この二人が "漫才" をしながら(笑)、宮廷に潜む陰謀を暴いていく。
誰が敵で誰が味方か。そして黒幕はどこにいるのか。
終盤で明らかになる "真相" も意外なもので、たいしたものだ、

前作ラストほどの衝撃はないかも知れないが、
それは前作が良く出来すぎていたからだろう。
新人の第二作としては、充分に水準を超えた出来で、楽しく読める。

これを当時21歳だった女子大生が書いていることに改めて驚かされる。
現在は大学院に進学して、勉学と創作を続けているというのだから
ホントたいしたものだ。

解説によると、前作と本作は、
シリーズ全体では序章にあたるのだという。
第3作「黄金の烏」から本筋が始まるとのことで、
さらに第4作「空棺の烏」も最近刊行された。
とても楽しみなシリーズになってきた。


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