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今年読んだ本 ベスト30+30 [読書全般]


 世界的にはいろんなことが起こり、人類は滅びへの道を歩んでいるじゃないかと悲観的になりそうな2024年の暮れですが、皆様は如何にお過ごしでしょうか。
 私 mojo はなんとか無事に生きております。

 ということで(?)、年末恒例のランキング発表です。


■今年読んだ本 ベスト30+30

 毎回書いてますが、私 mojo の独断と偏見で決めてます。皆さんの評価と一致しない場合もあるかと思いますが、私の好みの問題ですので、石を投げたりせずに、笑ってご寛恕ください。

 ランキングの対象となるのは、原則としてオリジナルのフィクション作品のみです。映像作品のノベライズも含めていません。ノンフィクションも何冊か読んでるんですが、記事にはしてませんし、ランキングにも入れてません。これは例年通りです。

 なお、シリーズ作品や文庫化に際しての分冊化などの場合は ”1つ" にまとめてしまったものもあります。悪しからずご容赦ください。

 あと、挙げてある本の中にはまだ記事に書いてないものも含まれます。現時点で、読了したのにまだupしてない本が7作ほどあります。1月中にはupを終える予定です。


 それでは第1位~第10位まで。私の評価ではすべて星4つ半です。

第1位「爆弾」(呉勝浩)[講談社文庫]

第2位「黒牢城」(米澤穂信)[角川文庫]

第3位「塞王の楯 上下」 (今村翔吾)[集英社文庫]

第4位「シャドウ」(道尾秀介)[創元推理文庫]

第5位「檜垣澤家の炎上」(永嶋恵美)[新潮文庫]

第6位「水使いの森」「幻影の戦 水使いの森」「叡智の覇者 水使いの森」
     (庵野ゆき)[創元推理文庫]

第7位「アンダードッグス」(長浦京)[角川文庫]

第8位「スワン」(呉勝浩)[角川文庫]

第9位「おれたちの歌をうたえ」(呉勝浩)[文春文庫]

第10位「命の砦」(五十嵐貴久)[祥伝社文庫]


 つづいて第11位~第20位まで。すべて星4つです。

第11位「三体」「三体II 黒暗森林」「三体III 死神永生」
     (劉慈欣)[ハヤカワ文庫SF]
第12位「ボーンヤードは語らない」(市川憂人)[創元推理文庫]
第13位「揺籠のアディポクル」(市川憂人)[講談社文庫]
第14位「名探偵に甘美なる死を」(方丈貴恵)[創元推理文庫]
第15位「孤島の来訪者」(方丈貴恵)[創元推理文庫]
第16位「時空旅行者の砂時計」(方丈貴恵)[創元推理文庫]
第17位「密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック」
     (鴨崎暖炉)[宝島社文庫]
第18位「#真相をお話しします」(結城真一郎)[新潮文庫]
第19位「俺ではない炎上」(浅倉秋成)[双葉文庫]
第20位「竜の医師団1」「竜の医師団2」(庵野ゆき)[創元推理文庫]


つづいて第21位~第30位まで。こちらもすべて星4つ。

第21位「黄土館の殺人」(阿津川辰海)[講談社タイガ]
第22位「雷神」(道尾秀介)[新潮文庫]
第23位「或るギリシア棺の謎」(柄刀一)[光文社文庫]
第24位「六法推理」(五十嵐律人)[角川文庫]
第25位「ヴェルサイユ宮の聖殺人」(宮園ありあ)[ハヤカワ文庫JA]
第26位「続シャーロック・ホームズ対伊藤博文」(松岡圭佑)[角川文庫]
第27位「じんかん」(今村翔吾)[講談社文庫]
第28位「サイボーグ009 トリビュート」(辻真先他)[河出文庫]
第29位「護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧」
    「試練 護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧」(時武里帆)[新潮文庫]
第30位「ゴールデンタイムの消費期限」(斜線堂有紀)[角川文庫]


 ベスト30は以上なのですが、例年31~60位まで紹介しているので以下に掲げます。ここまでくると順位は余り意味がないので、読了順に載せます。みな星4つです。


<1月>
「久遠の島」(乾石智子)[創元推理文庫]
「若きウェルテルの怪死 梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション2」
 (梶龍雄)[徳間文庫]
「サーカスから来た執達吏」(夕木春央)[講談社文庫]

<2月>
「あと十五秒で死ぬ」(榊林銘)[創元推理文庫]
「不可逆少年」(五十嵐律人)[講談社文庫]
「潮首岬に郭公の鳴く」(平石貴樹)[光文社文庫]

<3月>
「立待岬の鴎が見ていた」(平石貴樹)[光文社文庫]
「円 劉慈欣短編集」(劉慈欣)[ハヤカワ文庫SF]
「invert 城塚翡翠倒叙集」(相沢沙呼)[講談社文庫]

<4月>
「推理大戦」(似鳥鶏)[講談社文庫]
「葉山宝石館の惨劇 梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション3」
 (梶龍雄)[徳間文庫]
「流浪地球 / 老神介護」(劉慈欣)[角川文庫]
「福家警部補の考察」(大倉崇裕)[創元推理文庫]

<5月>
「天保十四年のキャリーオーバー」(五十嵐貴久)[PHP文芸文庫]
「ルパンの絆」(横関大)[講談社文庫]
「あらゆる薔薇のために」(潮谷験)[講談社文庫]
「臨床探偵と消えた脳病変」(淺ノ宮遼)[創元推理文庫]

<6月>
「八本目の槍」(今村翔吾)[新潮文庫]

<7月>
「漣の王国」(岩下悠子)[創元推理文庫]
「甘美なる誘拐」(平居紀一)[宝島社文庫]
「女と男、そして殺し屋」(石持浅海)[文春文庫]

<8月>
「白い巨塔」の誘拐」(平居紀一)[宝島社文庫]
「掃除機探偵の推理と冒険」(そえだ信)[ハヤカワ文庫JA]
「蝶として死す 平家物語推理抄」(羽生飛鳥)[創元推理文庫]

<9月>
「冬期限定ボンボンショコラ事件」(米澤穂信)[創元推理文庫]
「神の悪手」(芦沢央)[新潮文庫]

<10月>
「新しい世界で 座間味くんの推理」(石持浅海)[光文社文庫]
「レモンと殺人鬼」(くわがきあゆ)[宝島社文庫]
「爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー」(おぎぬまX)[宝島社文庫]
「幻月と探偵」(伊吹亜門)[角川文庫]

<11月><12月>
該当作なし


 ”今年読んだ本 ベスト30 + 30” についての発表は以上です。


 2024年に読んだフィクション作品は204冊。総ページ数は文庫で約79000ページ(私は基本的に文庫しか買わない人なので)。一日あたり218ページくらい読んでた計算になります。
 昨年(2023年)比で冊数は14冊減、一日あたりページ数で約12ページ減です。10月くらいまでは昨年を上回るペースで進んでたのですが、11月からぐっと減速しました。これは以前の記事にも書きましたが ”我が家の大事件” のためでしょう。
 これについては事態は収束しつつあるのですが、来年前半まで引きずりそうで2025年は200冊を割り込むかも知れません。まあこのあたりは神のみぞ知る、ってところかな。
 まあ来年も、焦らずのんびりと読書を楽しみたいと思ってます。


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レーテーの大河 [読書・冒険/サスペンス]


レーテーの大河 (講談社文庫 さ 121-3)

レーテーの大河 (講談社文庫 さ 121-3)

  • 作者: 斉藤 詠一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/07/12
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 太平洋戦争終結直前の昭和20年8月8日。ソビエト連邦は対日参戦を表明し、満州国に侵攻する。入植していた日本人開拓団の少年・耕平は、幼馴染みの早紀子・志郎とともに辛うじて日本への帰国を果たす。
 その18年後、東京オリンピック開催を翌年に控えた昭和38年。耕平のもとへ鉄道公安官がやってくる。列車から転落死した男の捜査だった。男は日本銀行で鉄道による現金輸送を担当していた。そして、早紀子と志郎がこの事件に関わっているらしい・・・

* * * * * * * * * *

 太平洋戦争末期の昭和20年8月8日。ソビエト連邦は対日参戦を表明し、満州国に侵攻してきた。入植していた日本人開拓団の少年・天城耕平(あまぎ・こうへい)は、幼馴染みの藤代早紀子(ふじしろ・さきこ)・小野寺志郎(おのでら・しろう)とともに辛うじて満州を脱出、日本への帰国を果たす。
 彼らを救ったのは、最上雄介(もがみ・ゆうすけ)と石原信彦(いしはら・のぶひこ)という二人の陸軍中尉だった。

 親を喪った三人は孤児院で育った。そして終戦から18年後の昭和38年、28歳となった耕平は工場で働き、早紀子は銀座のキャバレーのホステス、志郎はヤクザがらみの会社で羽振りのいい生活をしていた。
 しかし早紀子と志郎がある日突然、姿を消してしまう。戸惑う耕平のもとへやってきたのは鉄道公安官。目的は列車から転落死した男の捜査だ。男は日本銀行で鉄道による現金輸送を担当していた。

 ちなみに鉄道公安官とは、司法警察権を持つ国鉄(日本国有鉄道:JRの前身である鉄道会社)の職員だ。公安官制度は1987年(昭和62年)、国鉄の分割民営化に伴い廃止され、鉄道警察隊へ移行した。

 早紀子と志郎は現金輸送列車を襲うことを企んでいるのではないか? 疑う耕平のもとに「レーテー」と名乗る正体不明の人物からの手紙が届く・・・

 一方、元陸軍中尉だった最上は陸上自衛隊の三佐に、石原は防衛庁の官僚となっていた。二人は米軍の貨物を秘密裏に鉄道輸送する任務についたが・・・

 ストーリーは耕平のパートと最上・石原のパートが交互に語られていく。


 米軍が輸送しようとしている荷物の中身は、作中でいちおう明かされているのだが、たいていの読者は「いやいやそんなものじゃないでしょ、実は○○○なんでしょ?」って思うだろう。そしてたぶんそれは当たる(おいおい)。

 でもまあ作者にとって、そのあたりまでは想定内なのだと思う。その○○○を取り巻く者たちの思惑や野心を描いていくことが本作のキモなのだろう。
 そしてそれに早紀子と志郎がどう関わっているのか。ストーリーが進むにつれて耕平はそれを徐々に知っていくことになる。

 舞台となるのは、東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。東京は建設ラッシュに沸き、復興が順調に進んでいるようにも見えるが、その裏では "ある陰謀" が進んでいる。
 その根底にはかつての戦争が ”遺したもの” が潜んでいる。世界大戦は終わっても時代は冷戦を迎え、平和の裏には戦争の陰が潜む。18年の時を超え、孤児三人組や最上・石原はそれと対峙することになる。

 冒険アクション的なストーリーなのだが、「終章」に至るとミステリ的な "絵解き" も行われる。
 しかし「エピローグ」で語られる本書の終着点は、哀しい。その行動を選んだ人物の心情もよく分かるのだけど。


 作者は2018年に『到達不能極』でデビューし、第二作『クメールの瞳』を経て、本作が三作めとなる。
 『到達不能極』は思いっきり大風呂敷を広げた(広げすぎた?)壮大なホラ話だったが、二作目では伝奇的要素は残しつつも地に足がついた作風へと変化した。

 そして本作では、伝奇的要素もなくなり、ある意味オーソドックスな冒険小説になっている。これは "成長" なのかも知れないけど、私としてはやっぱり第一作の "脳天気な荒唐無稽さ"(笑) がとても好きなので、ちょっと残念な気も。
 たぶん、本作の路線が今後の主流になるのだろうけど、何年かに一作でいいから、また "壮大なホラ話" を読ませてほしいなぁ。期待してます。



タグ:サスペンス
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勾玉の巫女と乱世の覇王 [読書・ファンタジー]


勾玉の巫女と乱世の覇王 (ハルキ文庫 た 26-1 時代小説文庫)

勾玉の巫女と乱世の覇王 (ハルキ文庫 た 26-1 時代小説文庫)

  • 作者: 高代 亞樹
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2018/03/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★



 時は戦国、南伊勢の宿儺村に暮らす少年・真吉は、追い剥ぎに母を殺された少女・小夜と出会い、村の一員として迎え入れた。
 しかし、天下布武を目指す織田信長が北伊勢へと軍勢を進めてきた。真吉の無事を願う小夜の祈りが、「お南無様」と呼ばれる超常の存在を甦らせる。
 「戦の世を終わらせる」と豪語する「お南無様」は小夜を引き連れて織田信長の動向を探り始める。その一方で、真吉は小夜を取り戻すたために壇ノ浦に沈んだ神剣の探索に赴くが・・・

 第9回角川春樹小説賞最終候補作となった戦国ファンタジー。

* * * * * * * * * *

 時は戦国、永禄十年(1567年)。有名な桶狭間の戦いから7年後。
 主人公の少年・真吉(しんきち)は数え年で14歳。南伊勢の宿儺(すくな)村の長の息子として生まれた。
 村にある古い祠には、「お南無様」と呼ばれる "神" が祀られていた。

 ある日、彼は追い剥ぎに母を殺されて記憶を失った少女・サヨと出会う。身寄りのない彼女を ”よそ者” として受け入れようとしない村人たちに対し、真吉はサヨを許嫁として迎え入れると宣言する。
 祖母の取りなしもあり、サヨは "小夜" という字を与えられ、真吉の家で暮らすことになる。

 そして一年後。「天下布武」を唱える織田信長は、北伊勢へと軍勢を進めてきた。宿儺村もまた戦渦に巻き込まれようとしていた。

 真吉の無事を願う小夜の祈りは、村に眠る「お南無様」と呼ばれる超常の存在を甦らせてしまう。
 身の丈六尺(1.8m)を超え、隆々とした筋肉をまとい、蓬髪に加え全身を黒い剛毛が覆う異形の怪物だ。しかも超常の力を振るう、まさに "神" の如き存在。

 「戦の世を終わらせる」と豪語する「お南無様」は、小夜を引き連れて織田信長の動向を探り始める。最初はいやいやだった小夜だが、次第に記憶を甦らせ、自らの "定め" を見いだしていく。
 一方、真吉は小夜を取り戻すために、壇ノ浦に沈んだ三種の神器の一つ、神剣(天叢雲剣:あめのむらくものつるぎ)の探索に赴くのだが・・・


 こう書いてくると、真吉と「お南無様」の戦いが始まるように思われるが、どうしてどうして、仮にも "神さま" なので一介の子どもがそうそう対抗できるわけもない。

 「お南無様」との戦いを主に担当するのは、京の公家・裏部惟敦(うらべ・これあつ)とその配下の者たち。裏部は神祇官に仕え、帝から託された古来よりの秘命を司る。それは「お南無様」が現れたらこれを倒し、封じること。
 ちなみに「お南無様」というのは宿儺村の者たちがそう呼んでいるだけで、実は ”真の名” があり、その正体はラスト近くで明らかになる。

 ストーリーが進むにつれて「お南無様」がいかなる方法で「戦の世を終わらせ」ようとしているのかがわかってくるのだが、これは結構早い段階で予想がつくだろう。

 私は和風のヒロイック・ファンタジーな展開を期待していたのだけど、受ける印象は伝奇アクション時代劇、というところ。
 クライマックスでの戦いも、もうちょっと派手になるかと思ったのだけど、意外と堅実なところで収めた感じ。まあ「お南無様」がゴジラ並に完全無敵だったら話に収拾がつかなくなるので、これくらいの案配でいいのかも知れない。

 真吉と小夜の決着のつけ方も、最初は「それでいいのかな?」とも思ったが、「終章」まで読んでみると「これはこれで上手い結末なのかも」と考えが変わった。


 真吉に闘技「とおの技(わざ)」を教える青年・壮介(そうすけ)、真吉の叔父の宗玄(そうげん)和尚、神剣を探す真吉をサポートするお冴(さえ)など、サブキャラにも印象的な登場人物が多い。
 その中でも真吉の母・多実(たみ)が小夜を自分の娘のように可愛がる姿には心が温まるし、真吉の理解者である祖母・"お婆(ばば)" は、序盤でとてもいい味を出している。


 褒めてるような、けなしているような文章になってしまったが、このタイプの小説は珍しいとも思うので、もっと読んでみたいものだ。ネットで探したけど、作者の著書は今のところこれ一冊だけみたい。



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地獄の門 [読書・冒険/サスペンス]


地獄の門 上 (竹書房文庫)

地獄の門 上 (竹書房文庫)

  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2017/12/08
地獄の門 下 (竹書房文庫)

地獄の門 下 (竹書房文庫)

  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2017/12/08

評価:★★★


 第二次世界大戦末期の1944年。アマゾンの奥地・"地獄の門" で、ナチス・ドイツと日本軍が何かを企んでいるらしいとの情報が入る。動物学者でアメリカ陸軍大尉でもあるマックレディは "地獄の門" への潜入を命じられるのだが・・・

* * * * * * * * * *

 「プロローグ」は1944年2月。ウクライナの戦場で、ソビエト連邦の赤軍が謎の飛行物体から散布された謎の兵器によって全滅する様子が描かれる。

 そして本編に入ると時間軸が一ヶ月巻戻され、1944年1月の南米・アマゾンが舞台となる。
 動物学者でアメリカ陸軍大尉でもあるマックレディは、上官に呼び出され、新たな任務を命じられる。アマゾンで日本軍の潜水艦が発見されたという。川を遡上中に座礁したものと思われた。

 これがなんと伊400型。全長122mという当時最大の潜水艦だ。発見された時は積荷も含めてもぬけの殻で、どんな人間が何を運んでいたのかは不明。
 彼らの目的地は川の上流にある "地獄の門" と呼ばれる地と思われた。切り立った断崖に囲まれた谷で、一年中深い霧に覆われており、航空機からの偵察を阻んでいる。
 三週間前に送り込んだレンジャー部隊は消息を絶った。おそらく全滅したのだろう。

 マックレディに与えられた任務は、単身 "地獄の門" へ潜入し、潜水艦を送り込んだ者たちの意図を確かめること。
 マックレディはアマゾンに暮らす親友にして植物学者スローンとその妻の助けを受け、現地へと向かうのだが・・・


 「プロローグ」の内容から、"地獄の門" で行われているのは飛行物体と新兵器の開発と見当がつく。
 実際、現地に入り込んでいたのはナチス親衛隊。彼らの目的は有人ロケット兵器の開発だ。そして彼らに協力しているのが日本人微生物学者の木村。悪名高き「731部隊」の石井四郎中将の指導を受けていたという設定で、要するに生物兵器の開発を行っている(”731部隊”・”石井四郎” について分からない人はググってください)。
 つまり、アメリカの首都ワシントンに細菌兵器をばら撒こうとしているのだ。


 ・・・と書いてくると、マックレディが枢軸国側の秘密開発基地を破壊してめでたしめでたし、という話かと思われるだろう。
 そして舞台が秘境なので「インディ・ジョーンズ+007」みたいなアクションものかな、って私も勝手に思っていた。

 でも、読み始めてかなり早い段階で「ちょっと違う」と感じ始めるだろう。それは "第三勢力" が登場してくること。そしてそれは人間ではない。”生物” なのだが、”彼ら” は高度な知能のみならず、ある "特殊な能力" をも併せ持つ、なんとも厄介で凶暴な存在なのだ。
 ・・・ってボカして書いてるんだけど、実は文庫の表紙イラストで思いっきりネタバレしてるのは如何なものかと思う(笑)。

 基本的には ナチス+日本軍 の野望を打ち砕こうとするマックレディの物語なのだが、そこに "彼ら" が絡むことで「スカッとするアクションもの」から「予想外にホラーな作品」へと変化していく。それに加えて、ジャングルに棲息する危険な生き物などの襲撃がてんこ盛りなど、私にとってはちょっと苦手なシーンも多い。

 というわけで、私の期待していた物語とはかなり違っていたのだが、本国アメリカでは好評だったらしく、マックレディを主役としてシリーズ化されているとのこと。
 そういう目で見ると、次作につながる要素もいくつかある。でも邦訳は出ていなさそう(笑)。

 アマゾンの奥地でナチスと日本軍が協力して新兵器開発、というかなり荒唐無稽な話なのだが、巻末に「真偽の確認」という文章が載っていて、どこまでが事実でどこからがフィクションか、というのが文庫で20ページ近くを充てて詳細に書かれている。
 これを読むと、大きな嘘を支えるためには、細かい事実をかなり積み重ねて固めてあるのがよくわかる。



タグ:サスペンス
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爆弾 [読書・冒険/サスペンス]


爆弾【電子限定特典付き】 (講談社文庫)

爆弾【電子限定特典付き】 (講談社文庫)

  • 作者: 呉勝浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/07/12

評価:★★★★☆


 暴行で逮捕された男はスズキタゴサクと名乗った。自称49歳、冴えない服装でいがぐり頭には10円ハゲ。その男が取調室で不穏なことを言い出す。
「秋葉原で10時に何かあります」
 その言葉通り、秋葉原の空きビルの三階で爆発が起こる。
「これから三度。次は一時間後に爆発します」
 ”ただの霊感” だととぼけてみせるスズキタゴサク。しかし彼こそ爆破事件の張本人と見なした警視庁は特殊犯捜査係を彼の取り調べに宛て、情報引き出そうとするのだが・・・

* * * * * * * * * *

 自称スズキタゴサク、49歳。酒に酔って自動販売機を蹴り、店員に暴行を働いて野方署(東京都中野区)に逮捕された。

 ビール腹を抱えた、いかにも冴えない外見の中年男。いがぐり頭の後頭部には10円玉より大きなハゲまである。そんなスズキだが、取調に当たった刑事・等々力(とどろき)に対して不穏なことを言い出す。
「秋葉原で10時に何かあります」」
 その言葉通り、秋葉原の空きビルの三階で爆発が起こる。
 スズキはさらに云う。
「これから三度。次は一時間後に爆発します」

 ”ただの霊感” だととぼけてみせるスズキこそ爆破事件の張本人と見なし、警視庁は特殊犯捜査係の清宮(きよみや)とその部下・類家(るいけ)を野方署に派遣し、彼から情報を引き出そうとする。
 特殊犯捜査係は誘拐や立てこもりといった現在進行形の事件を専門に扱い、交渉や駆け引きの訓練を積んだプロフェッショナルだ。

 特殊犯係の投入によってスズキの取り調べから外された等々力だったが、スズキが清宮との会話の中で ”ハセベユウコウ” という名前を出したと聞いて驚く。
 長谷部有孔はかつて等々力の同僚だった刑事で、四年前に ”不祥事” を起こして退職、その三ヶ月後に自殺していた。等々力はスズキと長谷部の接点を探り始めるが・・・

 取調室におけるスズキは実に饒舌だ。本書は文庫で500ページほどあるのだがその大半はスズキとの会話シーンで占められている。
 質問に対してはのらりくらりと受け流し、肝心なことは全く漏らさない。爆弾の在処についてクイズ形式のゲームまで提案してきて、捜査陣を翻弄していく。

 ”ああ言えばこう言う” スズキなのだが、それでいて彼の言葉には、聞く者の心に突き刺さる ”毒” が籠もっている。誰もが持っている心の暗部を、スズキの言葉は実に巧みに ”刺激” してくるのだ。
 彼の言葉は彼にとって最強の武器だ。相手の心を揺さぶり、操ろうとする。彼と対峙し続ける者たちは、いつのまにか彼の術中にハマっていくことになる。

 一方で、取調室の外で苦闘する捜査員の姿も描かれていく。
 長谷部有孔を追う等々力、爆弾を探して奔走する交番勤務の警官・倖田紗良(こうだ・さら)、その同僚の矢吹(やぶき)。彼らもまた事前にスズキが仕掛けていた ”罠” に翻弄されていく。

 そんな圧倒的な存在感を示すスズキの物語が、転回点を迎えるのは中盤過ぎ。清宮に代わって類家がスズキと向き合うことになってから。
 この類家というのもなかなか強烈なキャラクターで、スズキという ”怪物” に対抗するには、彼のような極端な変人(ある意味スズキと同類かとも思わせる)を登場させなければならなかったのだろう。
 風貌もスズキに負けてない。チリチリパーマに丸眼鏡という描写で、私は子門真人(往年のアニソン歌手で『およげ!たいやききん』を歌ったので有名)を思い出したよ。
 本書の後半は、この2人の ”尋常でない掛け合い” が大きな読みどころとなっていく。

 連続する爆発を食い止め、犠牲者を出さずに解決を図る警察をあざ笑うかのようにスズキの ”計画” は進行していく。サスペンスたっぷりの展開ながら、ミステリ要素もしっかり盛り込んである。
 終盤で明かされる ”スズキが犯行に至るまで” の真相はその意外さに驚かされる。そして彼の ”真の動機” については、読者は最期まで翻弄されるだろう。


 500ページを一気読みさせる牽引力をもつ本作は、発売当時の各種ミステリランキングを総ナメにしたのも納得の傑作だ。

 そして今年になって続編『爆弾2 法廷占拠』が刊行された。スズキタゴサクの物語はまだ終わらないらしい。



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ブログ引っ越しのお知らせ [このブログについて]


 現在このブログがお世話になっている「SSブログ」が2025年3月31日(月)を以てサービス終了とのアナウンスがありました。
 よってこのブログは、同日を以て ”消滅” することになりました。

 改めて始めた時期を確認したら、最初の記事は2006年1月2日にアップしてます。ということは開始以来19年、年を明ければ20年目に突入することに。
 何事にも根気のない私のことで、始めた当初はこんなに長続きするとは思いませんでした。実際、途中には1年以上中断していた時期もありました。

 X(旧twitter) や Instagram など SNS も多様化し、「blog というツールは先細りなのかなぁ」と思わないでもないのですが、このブログの記事を書くことが私の生きがい・・・とまでは言いませんが(笑)、もうほとんど生活習慣になっているので、もう少し続けていきたいと思っています。

 ”下手の横好き” と言いますが、私は文章を書くこと自体は嫌いではありません。30年くらい昔のことですが、当時の同僚で、私の書いた文章を褒めてくれた人もいたのですよ。ただ、サンプル数が1というのは少なすぎますが(笑)
 私にとって好き勝手なことを書き散らせるこのブログは、よいストレス解消と気分転換の場になっています。下手な文章を読まされる皆さんには災難かも知れませんが(おいおい)。

 さて、”消滅” の時を迎えつつあるこのブログですが、「SSブログ」の運営元から「Seesaaブログ」への移行ツールが提供されているので、そちらへの ”引っ越し” をしようと考えています。
 そのツールを利用することで、ブログデータの移行が自動で行われるほか、一定期間、移行元の「SSブログ」から移行先の「Seesaaブログ」へとリダイレクトが行われるとのことなので、引っ越し後に私のブログが ”行方不明” になることはない・・・はずです(笑)。

 肝心の移行時期ですが、とりあえず年内は「SSブログ」でお世話になり、年が明けてからなるべく早い時期(1月の頭くらい)での ”引っ越し” を考えています。

 引っ越し自体はまだ先のことですが、とりあえずご連絡まで。




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竜の医師団 1/2 [読書・ファンタジー]


竜の医師団1 (創元推理文庫)

竜の医師団1 (創元推理文庫)

  • 作者: 庵野 ゆき
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/02/29
竜の医師団2 (創元推理文庫)

竜の医師団2 (創元推理文庫)

  • 作者: 庵野 ゆき
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/03/18


評価:★★★★


 人の世に豊穣をもたらす竜という存在。だがひとたび竜が病を得た時、破滅をももたらすことになる。そんな竜に治療を施すのが〈竜の医師団〉だ。
 "竜の医師" を志す少年少女たちの成長を描く異世界ファンタジィ。

* * * * * * * * * *

 舞台となるのは極北の国カランバス。そこにある "竜の巣" には、〈竜王〉ディドウスが住まう。
 推定年齢は4120歳。生まれたのは記録に残る人間の歴史をさらに2000年以上遡った太古のことで、現時点で最高齢の竜でもある。
 体長は推定1460馬身(1馬身を2.5mとすると約3600m)、翼を広げると3333馬身(同8300m)。体重に至っては推定すら不可能。"彼が動く" ことは、まさに "山が動く" ようなもの。

 人の世に豊穣をもたらしてきた竜という存在だが、ひとたび竜が病を得れば、それは巨大な災厄ともなる。そこで、竜の病に治療を施す役を果たすのが〈竜の医師団〉だ。

 ディドウスも齢を重ね、ここのところめっきり弱ってきた。身体のあちこちにガタが来ているようで、病に悩まされるようになってきた。

 本作は、そんな竜の "治療" を描いた連作短編となっている。


「カルテ1 咽喉(のど)の痛みと、竜の爆炎」
 咳による不眠、呼吸困難、偏頭痛、

「カルテ2 全身の痒みと、竜の爪」
 難治性の全身掻痒感

「カルテ3 もの忘れ、ふらつき、そして竜巻」
 認知機能の低下

「カルテ4 死の舞踏と、竜の愛」
 不随意運動ともの忘れ

 いずれも、人間にも同様の症状が出るものばかりだが、竜のことであるから人間のそれが当てはまらない可能性もある。
 竜との意思疎通もできないわけではないが、所詮異種族であるから完璧は望むべくもない。そして何より、寿命が人間とは桁違いに長い。"竜の一生" の間に人間のほうは100世代くらい超えてしまうので、"過去の病歴・治療歴" が不明だし、記録があったとしてもあてにならない。

 それでも、竜の治療を続けるのが〈竜の医師団〉だ。国家の壁を越えて集った医師たちが日夜研究を重ね、治療法の進歩を求め続ける。

 物語はその〈竜の騎士団〉のもとで、新たな "竜の医師" を目指す若者たちの視点から描かれる。

 主人公兼語り手のリョウは16歳。"ヤポネ人" という出自故に迫害され、初等教育さえ受けられなかった。従って医師団への入団試験では筆記が0点。しかし竜と対峙する覚悟と度胸を示し、みごと入団を勝ち取る。しかし勉強面では小学校舎からやり直しとなる(笑)。
 そしてなにより、彼にはヤポネ人特有の "特殊能力" が備わっていた。それは竜の医師としては、とても強力な ”武器” となるものだ。

 リョウの相棒となるレオニートは、名門オバロフ家の御曹司。驚異的な記憶力と豊富な知識で筆記は満点。しかし「血を見るのが苦手」という、医師としては致命的な欠点を抱えている。

 ストーリーが進むにつれ、竜とこの世の関わり、ヤポネ人の過去、レオニートの実家であるオバロフ家の役割などが徐々に明かされていく。

 この二人に "竜の巣" 生まれの少女でメカに堪能なリリが加わって、主役三人組となる。

 サブキャラも多彩でユニークだ。医師団の各セクションのリーダーも個性的なのだが、なかでもリョウとレオニートの指導教官となる竜血管科内科長カイナ・ニーナは、突出している。
 突拍子もないことを言い出し、それを自らの行動で実現してしまうと云う途轍もない突破力を持った人。本書はリョウやレオニートたちが彼女に振り回されていく様子を延々と綴ったもの、といっても過言ではないだろう(笑)。

 基本的にはコメディ調ですすんでいくのだが、終盤になるとシリアスな度合いが増していく。

「カルテ5 咽喉の痛みと、竜の暴走 ~診断編~」
「カルテ6 咽喉の痛みと、竜の暴走 ~治療編~」
 においては、高齢で次第に弱っていくディドウスに、医師としてどう対処していくか、という難問が持ち上がる。

 人間においてもこれは避けて通れず、なおかつ正解のない問題なのだが、このテーマ設定は作者の一人(「庵野ゆき」は女性2人の合作ペンネーム)が医師であると云うこともあるのだろう。

 本書は「1」「2」と刊行され、ストーリー的には一区切り着いているのでこれで完結とも思われるが、成長したリョウたちや〈竜の医師団〉のその後も知りたいと思わせる。いつの日か続編が登場することを期待したい。




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#真相をお話しします [読書・ミステリ]


#真相をお話しします(新潮文庫)

#真相をお話しします(新潮文庫)

  • 作者: 結城真一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/06/26

評価:★★★★


 2018年、『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞してデビューした作者の第一短編集。
 第74回日本推理作家協会賞短編部門受賞作『♯拡散希望』を収録。

* * * * * * * * * *

「惨者面談」
 大学生の片桐は、アルバイトで家庭教師派遣会社の営業をしている。希望する親子と面談して、家庭教師を "売り込む" ことが仕事だ。
 その日訪れたのは、12歳の男の子・悠をもつ矢野家。予約の時間に着いたものの、なぜか10分ほど待たされる。中に通され、母親と悠との三者面談が始まるが、どうにも話がかみ合わず、戸惑うばかり。そのとき、悠のとった "ある行動" から、片桐は違和感の正体に気づく・・・
 矢野家の "秘密" も意外だが、ラストにはさらにもうひとひねり。これが作者のプロデビュー短編第一作というのだからたいしたもの。


「ヤリモク」
 主人公の "僕" は42歳の妻子持ちだが、独身と偽ってマッチングアプリで知りあった女性を "お持ち帰り" している。
 その夜も "23歳のOL" と自称する女性の部屋に上がり込むことに成功するのだが、"僕" は彼女の言動に疑惑を感じ始めていた・・・
 この後の展開はある程度予想がつくのだが、作者はそのさらに上を行く。そのあたりも良くできているのだが、特筆すべきは "僕" が女漁りを始めた理由だろう。その身勝手さに呆れかえってしまうのだが、それが皮肉の効いたラストにつながる。上手い。


「パンドラ」
 子どもに恵まれなかった翼と香織の夫婦は三年間の不妊治療の末、一人娘の真夏(まなつ)を授かった。
 そして真夏が二歳になった時、翼は精子提供を始めた。AID(非配偶者間人工授精:無精子症の男性が子を得るために適用される)に協力するためだ。
 そして15年後。翼の前に「あなたの娘です」と名乗る14歳の少女・翔子(しょうこ)が現れた。翼は15年前に彼女の母親・美子(よしこ)と会った時のこと、そのときの美子の不可解な言動のことを思い出す・・・
 美子が精子提供者に翼を選んだ理由も意表を突くものだが、それだけに納まらずにさらなるサプライズを持ってくる。


「三角奸計」
 桐山、茂木、宇治原は学生時代からの腐れ縁の男三人組だ。大阪に異動になった茂木が偶然、宇治原に再会したことから、東京の桐山を加えて "リモート飲み会" が開かれることになった。
 しかしその最中、宇治原から桐山に不穏なメッセージが届く。
 「いまからあいつを殺しに行く」
 どうやら、宇治原の彼女が浮気をしているらしいのだが・・・
 コロナですっかりおなじみになった "リモート飲み会" だが、これをテーマにしたミステリは意外に見かけなかったように思う。本書の中ではいちばんトリッキーな作品だろう。


「♯拡散希望」
 匁島(もんめじま)は長崎の西方沖に浮かぶ、人口150人ほどの小さな島。小学生は三年生4人のみ。語り手のチョモと桑島砂鉄(くわじま・さてつ)と安西口紅(あんざい・るーじゅ)の家族は島へ移住してきた。立花凛子(たちばな・りんこ)だけが島の出身だ。
 その凛子が、ある日突然「YouTuberにならない?」と言い出す。親が中古の iPhone を買ってくれたのだという。
 そんな頃、島を訪れていた旅行客と思われる男が長崎駅の前で刺殺されるという事件が起こる。犯人はすぐ捕まったものの、なぜかその日から島の住民たちがチョモたちに対してよそよそしい態度を取り始める・・・
 後半で起こる "もう一つの殺人事件" の解明もよくできているが、それ以上に4人を取り巻いていた "意外すぎる状況" には驚かされる。
 「孤島」「小学生」「YouTube」という三題噺をここまで本格ミステリとして練り上げた作者の手腕はたいしたもの。
 日本推理作家協会賞短編部門受賞も納得の傑作だと思う。



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悪魔のひじの家 [読書・ミステリ]


悪魔のひじの家 (創元推理文庫)

悪魔のひじの家 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/06/28
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 亡霊が出るとの噂があるバークリー家の屋敷。前当主クローヴィスが死亡し、遺産を相続することになったのは孫のニック。しかし現当主となったペニントンが密室状態の中で銃撃を受けるという事件が起こる・・・

* * * * * * * * * *

 歴史学者のガレットは旅行先のパリでフェイという女性と出会い、激しい恋に落ちた。しかし再会を約束した場所に彼女は現れず、そのまま一年が過ぎた。

 イングランド南東部、"悪魔のひじ"(Satan's Elbow)と呼ばれる地に建つ緑樹館は、18世紀の悪名高きワイルドフェア判事の亡霊が出没するという曰く付きの屋敷だ。
 そこに住まうバークリー家の当主クローヴィスが亡くなり、次男のペニントンが新当主となったが、財産はすべて、亡き長男ニコラスの息子であるニックに与えるとの遺言が残されていた。

 ニックは友人のガレットを伴って緑樹館に向かうことに。そしてその列車内でガレットはフェイと意外な再会を果たす。彼女の親友デイドラがペニントンの妻となっており、フェイはその伝手でペニントンの秘書を務めているという。

 ニックたちが緑樹館へ着いたそのとき、銃声が響き渡る。そして彼らは不可解な事態に直面することに。 
 何者かがペニントンに向かって銃を撃ったが、それはなぜか空包だったこと、犯人が逃げたとされる窓は、内側からカギが掛かっていたこと・・・

 その数時間後、ペニントンは再び銃撃を受ける。弾丸は辛うじて心臓を外れたが、意識不明で瀕死の重体となってしまう。
 そして現場となった部屋には凶器の拳銃が残され、さらにドアも窓も施錠された完全な密室だった・・・

 ペニントンを取り巻く者たちは、彼の妹で兄同様に相続人から外されたエステル、ペニントンとは二十歳以上年の離れた妻デイドラ、顧問弁護士のアンドリュー、主治医のエドワード、そして秘書のフェイ・・・
 みな一癖ありそうで、何らかの事情を抱え込んだ様子が見える者ばかり。肝心の相続人ニックでさえ、遺産は一切受け取らないと云いだす(父ニコラスがひと財産築いたので、たしかに金に不自由はしていないのだが)。

 しかし、たまたま現場へやってきていたギディオン・フェル博士が事件に首を突っ込むことになり・・・


 本書の初刊は1965年。ついでに云うと作中時間は1964年。ジョン・ディクスン・カーの経歴から云うと晩年の作ということになる。
 でも読んでみて、老け込んだ感じは全くない。登場人物はみなキャラが立っているし、ストーリーテラーとしての腕はいささかも鈍っていない。

 肝心の密室トリックはどうか。それ自体は目新しいものではなく、同様のトリックを使った作品は多いだろう。だけど、小道具の扱いや、事前に起こったイベントを組み合わせ、密室という "不可能状況" へとつなげていくあたりの展開がとても上手いと思う。
 トリックそのもののインパクトはさほどではなくても、密室を成立させていく "段取り" がしっかりとできあがっているので、フェル博士の謎解きによって「あれがここにつながるのか」「なるほど」「そうだったのか」って素直に腑に落ちる。これはやはりベテランの円熟味だろうと思う。

 そしてカーと云えば、作中にロマンスを盛り込むことも特徴の一つ。本書でもガレットとフェイの、近づきそうでなかなか近づかない仲を、これまた上手に描いてみせる。
 そしてやっぱり最期の一行がいい。ベタかもしれないが、エンタメのラストはかくあるべしと云うお手本のようなエンディング。私は大好きだ。



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音響効果技師・柏原満さん ご逝去 [アニメーション]



 アニメ『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの音響効果を担当した、音響効果技師の柏原満さんが、11月18日に亡くなりました。91歳とのことです。

 1974年放送開始の『宇宙戦艦ヤマト』第一作の頃は家庭用VTRがまだ普及しておらず、私はTV放送の音をそのままカセットテープに録音しては何回も聞いていたものです。
 台詞を暗記するほど聞き込みましたし、それと同時に宮川泰氏の音楽の素晴らしさを知りました。そしてもう一つ気づいたのが、「効果音」というものの存在でした。

 ヤマトの主砲発射音や補助エンジン始動から波動エンジン点火に至るまでの一連の重厚な音の連なり、波動砲のエネルギー充填から発射に至るまでの劇的な響きに心を躍らせたと思えば、白色彗星が進むシーンで流れる音に、なんとも不穏な思いをかき立てられていったものです。

 宇宙空間には音は存在しないはずなのに、柏原さんの描きだす ”ヤマト宇宙” には、観る者の心を揺り動かす ”音” が満ち満ちていました。

 多くの才能が結集して作られた作品ですが、柏原さんの音響もまた、それ抜きでは『ヤマト』という作品が成立し得なかった重要なピースだったと感じます。

 そしてそれは50年の時を経ても、私たちの心の中に鳴り響いています。

 素晴らしい作品を創り出していただき、ありがとうございました。
 ご冥福をお祈りいたします。

 合掌。



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