塞王の楯 [読書・歴史/時代小説]
評価:★★★★☆
時は戦国時代。
石垣職人 "穴太衆" の飛田匡介は、鉄壁の石垣を築くことで戦の絶える世を夢見る。
一方、鉄砲職人 "国友衆" の国友彦九郎は、鉄砲の脅威を以て戦なき世を目指す。
最強の楯と至高の矛を自負する二人が、関ヶ原の合戦前夜の大津城で激突する。その決着は・・・
第166回(2022年) 直木三十五賞 受賞作。
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※かなり長文です。
基本的には褒めてます。というか激賞してます。
でも、最後にちょっとだけ文句というか疑問点を書いてます。
悪しからず。
時は戦国。越前浅倉家は織田軍の侵攻によって滅亡した。その戦乱のさなか、家族を喪った少年・匡介(きょうすけ)は "穴太衆(あのうしゅう)" の飛田源斎(とびた・げんさい)に拾われる。
"穴太衆" は、城の石垣積みを請け負う職人集団。その中でも源斎率いる飛田屋は図抜けた存在であり、頭領の源斎は「塞王」(さいおう)と呼ばれていた。
匡介は石を扱うことにかけて非凡な才能を発揮して(作中では「石の "声" を聞くことができる」と評される)、頭角を現してゆき、やがて源斎からは次期頭領の指名を受けるまでに成長する。
幼少期に落城を経験した匡介は、どんな武器も通じない "鉄壁の石垣" を築くことができれば、戦いのなくなる世が来るのではないかと考えていた。。
一方、鉄砲製造の "国友衆"(くにともしゅう)は、伝来してきた鉄砲に独自の改良を施し、高機能化・大型化を実現してきた驚異の職能集団だ。頭の国友三落(さんらく)は「砲仙」(ほうせん)と呼ばれている。
三落の後継者と目されている若き鬼才・国友彦九郎(げんくろう)は、どんな守りも貫いてしまう ”最強の鉄砲” を創り出せば、その脅威によって戦は絶えると信じていた。
やがて太閤秀吉が没し、石田三成と徳川家康の間の緊張は、急速に高まっていく。
家康が上杉討伐へ向かった隙を突いて挙兵した三成は、軍勢を東へ進める。
近江の大名・京極高次(きょうごく・たかつぐ)は、当初は三成に与していたものの、突如軍を引き返して琵琶湖畔にある居城・大津城に立て籠もってしまう。
大津城の石垣修復を請け負っていた匡介たち穴太衆もまた、城内に籠もって作業を続けることに。
京極軍3000に対し、そこへ押し寄せたのは毛利元康率いる15,000の軍勢。その中には名将・立花宗茂(たちばな・むねしげ)、さらには彦九郎が率いる国友衆も、総力を挙げて作り上げた "新兵器" とともに参戦していた。
西へ向けて引き返してくる家康率いる東軍は、三成率いる西軍といずれ激突することになるわけだが、大津城を取り囲む毛利軍はその決戦までに三成軍に合流しなければならない。つまりいつまでも大津城に関わってはいられない。
逆に考えれば、大津城が持ちこたえている限り、三成は15,000の毛利軍を欠いたまま家康との決戦に臨まなければならない。
大津城の攻防は、図らずも天下の行方を左右する重要な戦いとなった。
激烈な攻撃を仕掛ける毛利方、そして国友衆。
必死の防戦を続ける京極方、そして穴太衆。
最強の楯を築こうとする「塞王」匡介と至高の矛を駆使する「砲仙」彦九郎。
道は違えど、戦のない世を目指す二人の死闘の行き着く先は・・・
読んでみてまず驚くのは、「石垣積み」のイメージがガラッと変わることだ。
石の切り出し・輸送・石積みと工程も職人も細分化され、綿密なスケジュールを以て計画的に実行されていく。さらには石もただ積むのではなく、最適な組み合わせや積む順番を事前に見極めるという緻密かつ繊細な作業が要求される。
さらに「積んだら終わり」ではない。壊れたら修復するのはもちろんだが、合戦に際しては組み替えたり、新たな石塀を建造したりと、戦術や状況に合わせて短時間で石組みを柔軟に変化させていく。
もっと驚くのは、攻城戦のまっただ中であっても作業を請け負うことだ。銃弾や矢が飛び交う中でも、下手をすれば白兵戦のさなかであっても、石を積み続ける。
職人は非戦闘員であるから、攻め手側も狙って殺すことはないが、それでも犠牲者は出る。まさに命がけの仕事だ。
寄せ手側の戦法・戦術に合わせて柔軟に石を組み替える。これは本書において随所で描かれる部分で、穴太衆、ひいては匡介の腕の見せ所でもある。
寄せ手側の裏を掻くために策を巡らす。石積みの頭領でありながら、匡介の主な仕事は意外にも "頭脳労働" だったりするのだ。
そしてそれが最大限に発揮されるのは本書の後半で描かれる大津城攻防戦だ。
「塞王」を目指す匡介と、「砲仙」の名を受け継いだ彦九郎。
二人がお互いの手の内を読んでゆくくだりは、さながらチェスの名手同士のよう。読み間違いはそのまま敗北につながるのだから必死だ。
京極側と毛利側の攻防を描くシーンが続くが、その根底にあるのは匡介と彦九郎の頭脳戦だ。
匡介のライバルとなる彦九郎は、物語上の立場としては敵なのだが "悪人" としては描かれない。彼もまた、彼なりに平和な世界を目指す理想を掲げていて、自分の行いがそれに近づく方法だと信じている。
戦なき世を目指すという同じ理想を抱きながらも、方法が異なることによってぶつかり合う二人は、実はお互いを最も良く理解する者同士でもある。
毛利方の立花宗茂は、他の武将たちの反対を押さえて国友衆が力を最大限に発揮できるように取り計らっていくという、さすがの智将ぶりを示す。
だが、本書の中でもっともユニークなのは、京極高次とその妻・初(はつ)だろう。この二人の異色ぶりは群を抜いている。
京極高次は、妹が豊臣秀吉の側室となり、織田信長の姪(淀君の妹)の初を妻に迎えた。そのため、彼女たちの "(尻の)七光り" で出世したとして、人々からは "蛍(ほたる)大名" と揶揄されていた。
しかし彼はそんなことは歯牙にもかけない。彼にとって大事なものは家臣であり、なにより領民を第一にするという姿勢を終始貫いていく。
外見も小太りで愛嬌のある体型で、大名としての威厳や貫禄とも全く無縁。誰に対しても人なつこく語りかけるという態度は戦国武将としてはいささか頼りない。だがそれ故に「自分たちが支えなければ」と家臣たちに思わせ、忠誠が集まるという不思議な人でもある。
彼が西軍から離反したのも「このままでは近江が戦場になり、領民が苦しむ」という思いから。よって領民もすべて大津城内に収容しての籠城戦となった。
高次の妻・初に至っては、夫以上の天然キャラ。大名の妻などと云うプライドは欠片もなく、極めて腰が低い。石垣を修復する穴太衆に対しても分け隔てなく親しく接し、やがて彼らから圧倒的な信望を集めていく。
血なまぐさい合戦が続く本書に於いて、京極夫妻は唯一にして最大の "癒やしキャラ"(笑) となっている。二人が登場するシーンでは、自然と口元がほころんでしまう。
初の侍女・夏帆(かほ)と匡介のロマンスの行方など、読みどころは多いのだけど、もういい加減長くなったのでそろそろ終わりにしよう。
終盤における死闘激闘をくぐり抜けた先の終章にいたり、読者は深い満足感を味わいながら本を閉じることになるだろう。
直木賞受賞も納得の、傑作戦国エンタメ大作だ。
・・・と、ここまでは本作を褒めてるのだけど、この記事の冒頭に書いたとおり、ちょっと文句というか疑問点がある。
作中、大津城の外堀(水のない空堀)に琵琶湖から水を引き入れる、というシーンがある。ところが(文中の記述によると)堀の地面は琵琶湖の水面より標高が高いのだ。
水を引き込むための ”仕掛け” の工事については、作中で細かく描写されている。どうやらサイフォンの原理を使っているようなのだが、そもそもサイフォンは、途中に高低差があってもいいが、流れの終点(外堀)の水面が起点(琵琶湖)の水面よりも低くなければ機能しない。
外堀の中央部を掘って深い部分をつくり、そこに水を引き入れているので、その部分だけは湖面よりも低いのかなとも思ったのだが、後半になったら毛利軍に “仕掛け“ を破壊されて水が琵琶湖に抜けてしまう、という下りがあるので、やはり湖面よりも高いところへ ”引いた” ようだ。
この ”水を引く” 工事のところで私は読むのを中断し、しばし考え込んでしまった。どうにも理解できなかったからだ。
これは私だけかと思ったのだけど、ネットを見てみたら同じ疑問を持った人はけっこういるようだ。
おそらくこの本の読者には「読んでいて気がつかなかった人」「気づいたけど気にしなかった人」「気にはなったけどとりあえず読み続けた人(私はこれ)」など、いろいろな人がいたのだろう。
でもネットの感想をみてみると「気になって読むのをやめてしまった人」も一定数いるようだ。
「あまりのリアリティのなさに、読む気が失せた」「ファンタジーになってしまった」と酷評する人もいる。
このエピソード、物語の構成において必要不可欠か、と言われたらそうでもないと思う。この部分抜きでもストーリーに大きな支障はないし、作者の力量なら充分に盛り上げることができたと思う。
この部分に作者がどれくらいの ”思い入れ” があったのかはわからないが、このせいで読者の一部を失っているとしたらもったいないことだ。
最後まで読んでもらえれば、クライマックスでの ”あの感動” が味わえたのだが・・・
フィクションなのだから、多少史実と異なる部分や誇張された部分があってもいいとは思うが、「物理法則を無視するのはやり過ぎだ」という意見もうなずける。
私などは「これだけ面白いのだから、まあいいか」って思ってしまったのだけど、そういう人ばかりではない、ということだ。
ちなみに、私も無条件で受け入れたわけではない。
私は本書に星★5つをつけてもいいかな、と思った。
だけど星★4つ半にしたのは、ここの部分があったから。
ものすごい傑作だと思っただけに、ちょっと残念でした。
タグ:歴史・時代小説
実家暮らしのホームズ [読書・ミステリ]
実家暮らしのホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2024/01/11
- メディア: 文庫
評価:★★★
ミステリ・マニアの資産家オリバー・オコンネルが率いる財団は "探偵発掘プロジェクト" を実施したが、その予選で最高得点を叩き出した人物は、なぜか本選には現れなかった。
財団の調査で判明したその人物の正体は、実家暮らしのひきこもりの日本人青年だった。彼は財団を騙した代償として、様々な事件の解決に当たることになったのだが・・・
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ミステリ・マニアの資産家オリバー・オコンネルが率いる財団は "探偵発掘プロジェクト" を実施した。四次にわたる予選を通過した12名には、本選参加を条件に3万ドルの報奨金が与えられた。
しかし、予選で最高得点を叩き出した人物は、なぜか本選には現れなかった。
財団の調査で判明したその人物の正体は、24歳の日本人で、実家暮らしのひきこもり青年・判治(はんじ)リヒトだった。
彼は財団から報奨金3万ドルの返還を求められたが、既にもう使い果たした後だった。そこで財団は、その代償として様々な事件の解決にリヒトに命じることになった。
財団の代理人として現れた女性ホルツマン・ユキとともに、リヒトは警察も解決できなかった怪事件に挑んでいく。
「Case 1 8ビットの遺言」
オリバー・オコンネルの親友だったIT企業社長・城ノ戸純(きのと・じゅん)が自身の別荘で刺殺された。犯人は被害者の生活パターンをよく知った者と思われた。リヒトは遺体の不自然な状況から "ある意味" を読み取るのだが・・・
リヒトは "何でもお見通し" のホームズ型の探偵なのだけど、この状況から○○○を思いつくというのはちょっとマニアック過ぎるかも。
「Case 2 自殺予告配信」
『ナチュラル・ボーン・コレクター』と名乗る若い男性ユーザーが一本の動画を投稿した。内容は "24時間以内に自分を見つけてくれなければ自殺する" というもの。
投稿者の父親から通報があって警察が自宅に乗り込んだが、既に本人は姿を消していた。
居場所のヒントは彼の部屋に残されているはずとリヒトは判断するが、"コレクター" を名乗るだけあって、部屋の中は雑多な収蔵物であふれかえっていた。しかしリヒトはたちまちのうちにそこから手がかりを見つけだす・・・
○○○○○○○○○というアイテムもなかなか。これ気づく人いるのかな? 少なくとも私だったら絶対ダメだな。
「Case 3 撲殺モラトリアム」
資産家の高須忠彦(たかす・ただひこ)が撲殺された。彼は脳疾患を患って身体が不自由だったが、介護をしている貴久代(きくよ)と春子(はるこ)という二人の娘に対してDVを振るっていた。警察の調べに対し春子が犯行を自供したのだが、状況に不可解な点が多い・・・
犯行動機の異様さも被害者の性格の悪さ(笑)もひねりが効いている。読後感はイヤミスに近いが。
「Case 4 零下二十五度の石棺」
漁港の冷凍倉庫で死体が発見された。睡眠薬を飲んで眠った状態で放置されたことによる凍死だった。遺体の持っていたスマホには遺書とみられるメッセージが残されており、さらに倉庫の扉の内部側レバーにはロープが結びつけられて固定されているという密室状態。自殺の可能性も疑われたが・・・
リヒトが遺書の偽造を見抜くくだりは相変わらずマニアック。盲点と云えばそうなのだけど。
密室トリックはある意味 "一発芸" なので見当がつく人もいそう。リヒトが出張ってこなくても、警察が地道に捜査すればたどり着ける気もするが。
「Case 5 ダイムの遺言」
「Case 1」で殺害された城ノ戸社長からオリバー・オコンネル宛てに書簡が届いた。それは城ノ戸が生前、顧問弁護士に託してあったもので、死亡して半年後に投函することになっていた。内容は漢字だけで書かれた謎の文字列による暗号だったが、リヒトは一瞥しただけで解読する見当をつけてしまう。
手紙には、城ノ戸の娘・北条千恵子(ほうじょう・ちえこ)ともに暗号を解読してほしいとあった。リヒトたちは彼女を連れて「Case 1」の舞台となった城ノ戸の別荘に向かうのだが・・・
○の○○が○○れた○○○がそのまま暗号解読表になるとは。云われてみれば "なるほど" なアイデアではある。
しかしそれはとっかかりに過ぎず、真の解答に至るまでは二転三転するなどひねりが効いてる(効き過ぎてる)。
さらに「Case 1」で持ち越されていた謎が「Case 5」で解明されるなど、この二編は前後編になってるとも云える。
そして最期に得られた "もの" も、まあこんなことよく思いついたと感心してしまう。
リヒトが負った3万ドルの借金は事件解決のたびに減額されるのだが、今回の五件を通じてもさほど減っていないので、さらなる続編があるのかも知れない。
ひねくれ者のリヒトはともかく(おいおい)、ホルツマン・ユキさんはいいキャラをしているので、彼女にはまた会いたいかな(笑)。
タグ:国内ミステリ
鬼哭の剣 [読書・歴史/時代小説]
鬼哭【きこく】の剣【けん】 (ハヤカワ文庫JA JAジ 20-1)
- 作者: 進藤 玄洋
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2022/04/09
評価:★★☆
元禄2年(1689年)、弘前藩津軽家の江戸屋敷の門前に死骸が放置される。遺体は津軽家の忠臣・蠣崎仁右衛門のもので、首が切断され、口には黒百合が咥えさせられていた。
津軽家嫡男・津軽信重は剣の同門である越前屋充右衛門とともに真相を探り始める。やがてすべての根源が20年前の蝦夷地にあることが明らかになっていくのだが・・・
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舞台は元禄2年(1689年)の江戸。
津軽家嫡男・津軽信重(つがる・のぶしげ)は毎晩のように吉原通いをする放蕩者だが、ある日、遊郭で客の接待をしていた越前屋充右衛門(えちぜんや・みつえもん)という男と知りあう。
二人はともに二十代の若者。町人ながら剣の道場に通っている充右衛門が小野派一刀流の同門であり、しかも信重と並んで一門中でも屈指の腕前を持つと知り、二人は急速に親しくなっていく。
そんなとき、弘前藩津軽家の江戸屋敷の門前に死骸が放置されるという事件が起こる。遺体は津軽家の忠臣・蠣崎仁右衛門(かきざき・にえもん)のもので、首が切断され、口には黒百合が咥えさせられていた。
蠣崎を父のように慕っていた信重は仇討ちを誓い、充右衛門とともに真相を探り始める。
事件の原因は蠣崎の過去にあるとみた信重は、自身の父親であり、かつ事情を知るであろう津軽家当主・信政と対峙する。
一方、充右衛門も両親が自分に対して何か隠し事を持っていることを知る。
やがて、信重と充右衛門は、20年前からの因縁でつながっていたことが明らかになっていくのだが・・・
・・・と書いていくと、二人の因縁を探っていく話かと思われるが、さにあらず。
本書は「序章 寛文九年(1669年) 十月二十二日 松前」という章から始まっているのだが、ここで描かれているのは蝦夷地で起こった、いわゆる "シャクシャインの戦い" が終結する顛末だ。
あからさまには描かれていないが、これが事件の背景にあるのは明らかで、これを読んだあとで本編に進むと、登場人物の過去や背負った事情がある程度推察できてしまう。
本来だったら、ここは主役二人の探索行の中で明らかになっていく内容で、本編の中では中盤以降に置かれるべき章だともいえる。
冒頭に置かれたことで、全体の見通しはとてもよくなった(なりすぎた)。格段に判りやすくなったのだが、同時にミステリ的な楽しみは半減したとも云える。この構成は好みが分かれるのではないかと思う。
父親に反発して、藩が潰れても構わないと思いつつ放蕩を続ける信重。自らの出自を知って悩む充右衛門。
主役二人もいいけれど、充右衛門に思いを寄せる振袖新造(ふりそでしんぞ:未だ客を取っていない遊女見習い)の初音(はつね)など、脇キャラも魅力的だ。
ちなみに、初音さんの "物語における着地点" も描かれるのだけど、うーん、彼女はこれでよかったのでしょうか・・・
遺体放置事件に絡む謎のいくつかは、美濃部平四郎(みのべ・へいしろう)という北町奉行所の同心が主役二人に協力して解明されていき、それが20年前の出来事へとつながっていく。
そのあたりはよくできているのだけど、上にも書いたように冒頭で盛大にネタバレされてしまっているので、どうしても ”答え合わせ” をしている感が否めない。ちょっと残念というか、もったいない気がする。
遺体事件自体は中盤までに決着がつき、終盤はサスペンス劇に移行する。クライマックスでは「時代劇」らしい剣戟シーンもある。
本書は「ハヤカワ時代ミステリ文庫」と銘打たれたレーベルの一冊。とはいうものの、上記のように ”時代ミステリ” よりも "判りやすい時代劇" を目指したつくりになっている。そのあたりはちょっと私の好みとは合わないと感じた。
タグ:時代ミステリ
『ヤマトよ永遠に REBEL 3199 第二部 赤日の出撃』を観てきました [アニメーション]
※本編のネタバレはありません。
場所はMOVIXさいたま、13:40からの回です。
かみさんと二人で行ったのですが、土曜の午後とあってほぼ満席でしたね。
客層についてですが、近年は若い人も女性も増えてきましたが、「2205」以降で感じるのは、年配のカップル(我々もですが)が特に増えてきたんじゃないかな、ってこと。開場前でロビーで待ってる人々を見てるとそう感じます。
サーシャ人気でしょうか(笑)。
思えば、2012年に「2199」が始まった頃は、見事なまでに「ひとりオッサン」ばっかりでしたよねぇ・・・女性はほんと少なかった記憶が・・・
さて、例によって内容には触れませんが、ネタバレしないようにちょっと感想を書くと・・・
●とにかく情報量が多い(これは毎回だけど)
●オリジナル版を知ってる人からすると
「この時点でここまで明かしちゃうのか!」ってびっくり。
○○○○○○まで出てきたのには正直驚いた。
●いままでのリメイクシリーズでもストーリーの改変はあったけど、
ここまで先の読めない状況に迷い込んだのは初めてかも。
●雪さん強い。サーシャかわいい(おいおい)。
●古代に関しては・・・長い目で見てあげましょう(笑)。
既に「第三章 群青のアステロイド」のティザービジュアルと特報も公開されてます。やっぱり今回のシリーズのサブタイトルは「色づくし」なのですね。
「第三章」の特報についてはまた別記事に書こうと思ってますが、ちょっと遅れるかも知れません。
実はこの「第二章」だって、本来は別の映画館での、別の上映回に行く予定だったのです。ところが今週になって、プライベートで ”大事件” が勃発しまして、全部の予定がきれいさっぱり吹っ飛んでしまいました。
それからは毎日その ”大事件” の後処理に追われて、こりゃしばらく映画館に行くのは無理かなぁ・・・と思っていたのですが、この日だけひょっこりと時間がとれたので、行って参りました。
たぶん映画館で二回目が見られるのはかなり先になりそう。まあ、公開二週目のどこかでは行けると思ってるのですが・・・
ちなみに読書記録の記事は、書きためたストックがかなりあったので途切れずにアップしてます。あと一週間くらいは保つかな? でもそのころには少し余裕ができてまた本が読めるようになってる・・・といいなぁ。
”大事件” の内容については、まあそのうちに・・・
蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale [読書・ファンタジー]
蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 花田 一三六
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2021/02/17
評価:★★
蒸気錬金術によって急速に発展しつつある大英帝国。
売れない小説家の「私」は、大西洋上の国アヴァロンへの旅行記を執筆することに。謎の紳士を通じて手に入れた "妖精型幻燈種" を相棒に旅立つが、それが謎の大男や美女が入り乱れる冒険の始まりだった・・・
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舞台となるのはパラレルワールドの英国。そこは蒸気錬金術(stealchemy)が発達した世界。stealchemy は steam + alchemy で、この世界は科学技術の代わりに蒸気機関と錬金術が融合した技術体系が基盤になっているようだ。
主人公の「私」は売れない小説家。糊口を凌ぐために、編集者から提案された旅行記執筆のため、太平洋上の国アヴァロンに旅立つことに。
アヴァロンは〈使い手〉(ムーヴァ)の島とも呼ばれる。〈恩寵〉(ギフト)の力を元にした〈理法〉(ロー)という超常現象を操る人々が住まうところだ(〈恩寵〉は蒸気錬金の上位技術という説もあるらしいが)。
過去には大英帝国がアヴァロンを征服すべく侵攻したものの、手痛い失敗を喫したらしい。
旅立つにあたり、「私」は謎の紳士を通じて〈帽子〉を手に入れた。正式名称は蒸気錬金式幻燈機。帽子に蒸気錬金機関を組み込んだもので、"起動" すると妖精型幻燈種(ファントム)が現れる。姿形は十代の女の子だが、身長は万年筆と同じくらい(文庫表紙のイラストがそれ)。
最初の起動のくだりで名前の設定を求められたりと、そのあたりの描写はPCのセットアップのようだ。ちなみに「私」は "彼女" をポーシャと名付ける。
主な機能は秘書としてのもの。スケジュール管理や資料の整理・保存や取材の記録など。会話形式で操作するのだが、この "妖精"、とにかく口が悪い(笑)。
「私」に対してタメ口で "ご主人様" への敬意など欠片もない。まあ本書は、「私」とポーシャのバディものとも言えるので、そのあたりは "お約束の設定" なのかも知れないが。
ポーシャの設定をPCに例えたが、現代はAIの進歩が著しい。スマホの中に収まったAIが探偵役を務めるミステリまで書かれてるくらい。そのうちAIが人間とタメ口で会話を交わしながら仕事をする時代も遠からず来そうだし。
「進歩した科学は魔法と見分けがつかない」という言葉があるが、まさにそんな時代を迎えつつある。
だから「帽子と一体化した妖精型の秘書」というのも、それだけではファンタジーの物語を引っ張るアイテムとしては弱いかな。
もちろん作者はそれが判ってるのだろう。ポーシャの機能が桁外れに高いらしいこと、"彼女" の出自には何らかの事情がありそうなこと、などを匂わせながらストーリーは進行していく。
「私」がアヴァロンに上陸してから、謎の大男が現れて襲ってきたり、美女が現れて救ってくれたり、なんだかよく分からないうちに(笑)、騒動に巻き込まれていく。終盤にはアヴァロンを統べる "大賢者" なるものまで姿を現してくるのだが・・・
大抵は、物語が進むうちに "敵" の狙いやら "ポーシャ" の抱えた秘密やらが徐々に明かされていくものなのだが、最期までよく分からないまま。
理解できた人もいるのかも知れないが、私のアタマではよく分かりませんでした(おいおい)。
そして何より、主人公がダメ人間過ぎるように思う。何事にも自信がなく、何をやらせても不器用で、物事を満足にこなすことができない。
自分から冒険に飛び込んでいくようなタイプではないので、必然的に ”巻き込まれ型” の主人公にならざるを得ない。
ところが ”巻き込まれた” 後も、一向にシャキッとせず、状況に流されていく。普通は物語が進行していくうちに少しは変わっていくと思うのだが・・・
もっとも、これはシリーズものの一巻めだから、なのかも知れない。次巻以降で新たな展開と主人公の成長がある、のかも知れない。
だけど・・・いまのところ続巻はない(本書の初刊は2021年2月)。
ポーシャの設定とキャラはよくできてて面白いと思うのだけどね。
タグ:ファンタジー
黒牢城 [読書・ミステリ]
評価:★★★★☆
時は戦国時代。本能寺の変より四年前、荒木村重は織田信長に叛旗を翻し、有岡城に立て籠もった。さらに織田方の使者としてやってきた小寺(黒田)官兵衛まで城内に幽閉してしまう。
しかし有岡城内では次々に不可解な事件が起こっていく。放置しては人心に迷いが生じ、城が落ちるきっかけになりかねない。
窮地に陥った村重は、囚人となった官兵衛に謎解きを求めるのだが・・・
本作は第12回山田風太郞賞、第166回直木賞、第22回本格ミステリ大賞を受賞、さらに主要ミステリランキングで軒並み1位を獲得したという超話題作。
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本書は摂津国川辺郡(現・兵庫県伊丹市)にあった有岡城が舞台となる。物語の99%はこの城内、あるいは城の周辺で進行する。
本能寺の変の四年前の天正6年(1578年)、荒木村重(あらき・むらしげ)は織田信長に叛旗を翻し、有岡城に立て籠もった。
有岡城は東西0.8km、南北1.7km。周囲に堀と土塀を巡らし、内部には町屋敷や町家(町人や武士の居住地)がある。村重は籠城にあたり、家臣や周辺住民まですべて城内に収容している。
さらに村重は、織田方の使者としてやってきた黒田官兵衛(くろだ・かんべえ)の説得にも応じず、彼を捕らえて城内に幽閉してしまう。
織田方は大軍を動員し、有岡城を取り囲んでの持久戦が始まる。本書はそこから有岡城落城までの一年間、四つの季節を描いている。
籠城はしたものの、援軍となるはずの毛利軍が待てど暮らせどやってこない。城内に不安が広がる中、不可解な事件が続発していく。これを放置しておいては混乱に拍車が掛かり、城が落ちるきっかけになりかねない。窮地に陥った村重は、囚人となった官兵衛に謎解きを求めるのだが・・・
「第一章 雪夜灯籠」
冬。
大和田城に詰めていた荒木方の武将・安部二右衛門(あべ・にえもん)が織田方へ寝返ってしまった。人質として有岡城内に入っていた二右衛門の子・自念(じねん)は11歳。裏切りがあれば人質は殺されるのが戦国の世の習いであったが、村重は思うところがあって彼を生かしておくことを命じる。
しかしその自念が殺害される。現場は自念が居住していた村重の屋敷の納戸。周囲には監視の目があり、庭に面した戸は開いていたが、そこには一面の雪が積もっており、下手人の足跡はもちろん、何の痕跡も残っていなかった・・・
いわゆる ”衆人環視の中の不可能犯罪” である。
「第二章 花影手柄」
春。
有岡城内に籠もる軍勢は村重の家臣だけではなく、いくつかの勢力の混成軍である。しかし籠城が長引くにつれ、諸派の間での軋轢が起こっていた。
特に鈴木孫六(すずき・まごろく)が率いる雑賀(さいか)衆と、高山大慮(たかやま・ダリヨ:キリシタンとしての洗礼名)が率いる高槻衆との確執が目立った。それを憂う村重は一計を案じる。
双方の精兵を20名ずつを起用し、村重自らが指揮を執って織田方の大津長昌(おおつ・ながまさ)の陣への小規模な夜襲を敢行したのだ。
夜襲は成功し、雑賀衆と高槻衆はそれぞれ二つずつ武士の首を上げてきた。内訳は老武者と若武者それぞれ一つずつ。そこへ長昌討ち死にとの報が入ってきた。長昌の年齢から考えると若武者のはず。ならば、長昌の首を取ったのはどちらなのか?
ガス抜きのために行った夜襲が、かえって双方の対立を深めかねない事態になり、村重は苦慮することに。
「第三章 遠雷念仏」
夏。
周辺の武将も次々に織田に降り、有岡城は孤立無援に陥りつつあった。しかし城内は依然として抗戦派が優勢な状況だった。
しかし村重は廻国僧(かいこくそう:諸国を巡りながら布教活動を行う僧)の無辺(むへん)を通じ、明智光秀に降伏の仲介をしてもらうための工作を続けていた(光秀の娘が村重の息子に嫁いでいる)。
しかし明智側は、村重が降る証しとして〈申寅〉(さるとら)を要求してきた。〈申寅〉は村重が所有する茶器の中でも最も有名なものだ。
村重から〈申寅〉を預かった無辺は、夜陰に乗じて城を抜け出すために町家(城内の居住区)の外れにある庵で時を待つことになった。
しかしその無辺が殺され、〈申寅〉が持ち去られるという事件が発生する。村重は周囲の証言を集め、無辺が庵に入った昼から遺体が発見される翌朝までの時系列に沿った関係者の動きをまとめるが、下手人は浮かんでこない・・・
「第四章 落日孤影」
秋。
「第三章」のラストに於いて、無辺を殺した下手人は死亡してしまうのだが、村重はその状況に疑問を覚える。城内に裏切り者が潜んでいるのではないか?
死亡時の疑問を解明し、裏切り者を特定しようとする村重だが・・・
戦国時代に屈指の軍師と謳われた官兵衛を安楽椅子探偵に起用するというアイデアが抜群に光る作品だ。
対する荒木村重も、決して無能ではない。むしろ推理能力としては常人の遙か上を行く。つまり本書は二人の探偵の対決という側面も持っている。
官兵衛は村重から城内で起こった事件の概要を聞いて推理を巡らせるのだが、「それはこれこれこういうこと」と答えてしまっては敵である村重を利することになってしまう。
だから官兵衛は素直に答えない。答えないのだが、全くの無回答ではなく、意味深な言葉を発するのだ。そして村重は、その言葉に隠された真相へのヒントを自ら読み解いていく、というのが二人の推理合戦のパターンとなる。
本書は連作歴史ミステリとしても秀逸なのだが、それだけで各種ミステリランキングを制覇することはできない。本書の一番のキモは、物語全体に張り巡らされた "仕掛け" にある。 終盤に至ると、「第一章」から始まった一連の事件が再解釈され、村重はそこに意外なつながりがあったことを知ることになる。
そして官兵衛。地下牢に閉じ込められ、生死を村重に握られていても、一年にわたる幽閉生活を無為に過ごすような人間ではない。胸の中にひとつの "謀(はかりごと)" を秘めながら、村重との対峙を続けてきたのだ。
だから「第四章」の終盤に至り、官兵衛は村重にこう言い放つ。
「我が策は、すでに成ったのでござる」と。
本書のメイン探偵は官兵衛なのだが、ホームズ役というよりモリアーティ役と呼んだ方がふさわしいのかも知れない。
ネットの書評では『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターに例える人もいるらしいが。
ネタバレになるのでこれ以上書かないが、本書が絶賛された理由は、まさにこのような "ミステリの多重構造" にあるのだろう。
「終章」では籠城が終わるまでの経緯に加え、作中人物たちの "その後" が語られる。
有岡城が落城に至るまでに荒木村重がどう振る舞ったのかは、歴史に詳しい人なら先刻ご承知のことかも知れないが、それを知らなかった私は想定外の成り行きに驚かされた。
村重以外の人物も、いかにもな生涯を送った者もあり、意外な末路を辿った者もあり。戦国時代の "人生いろいろ" がうかがえる。
そして最後には官兵衛自身のことが語られる。ここの部分は知識としては知っていたのだが、作者は "このシーン" で締める、と決めていたのだろう。これも読んでのお楽しみとしておこう。
異端の聖女に捧げる鎮魂歌 [読書・ミステリ]
異端の聖女に捧げる鎮魂歌 (ハヤカワ文庫JA) [ 宮園 ありあ ]
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 1,078 円
評価:★★★★
1783年10月のフランス。パンティエーブル公妃マリー=アメリーのもとへ手紙が届く。差出人はロワール川の孤島に建つ女子修道院の院長。内容は、近々修道院内で惨劇が起こるのではないかという懸念を伝えるものだった。
マリー=アメリーは、一年前に協力して殺人事件を解決した相棒ジャン=ジャック・ボーフランシュ大尉とともに女子修道院へ向かうが、男子禁制の修道院とあってジャン=ジャックは入れてもらえない。
そしてその直後から、修道女たちが続々と殺されていく・・・
アガサ・クリスティー賞受賞作『ヴェルサイユ宮の聖殺人』に続く第二作。
* * * * * * * * * *
フランス革命を数年後に控えた1783年。一年前のヴェルサイユ宮殿内ので殺人事件を解決したパンティエーブル公妃マリー=アメリーは一躍、時の人となった。
その彼女のもとへ手紙が届く。差出人はノートル=ダム女子修道院の院長。近いうちに、修道院内で "目を覆いたくなるような惨劇" が起こるのではないかという懸念を伝えるものだった。
マリー=アメリーは一年前の事件をともに探った相棒ジャン=ジャック・ボーフランシュ大尉と女官のラージュ伯爵夫人を伴ってパリを発つ。
ノートル=ダム女子修道院は、フランス中部を流れるロワール川の孤島に建つ城塞を改修したもの。厳しい戒律の中、少数の修道女たちが共同生活を営んでいる。
マリー=アメリーの一行は到着はしたものの、男子禁制の修道院とあってジャン=ジャックだけが追い返されてしまう。
修道院長は病床にあるとのことで姿を見せなかったが、副院長エリザベートは二人を受け入れ、修道院内に潜り込むことに。
一方、ジャン=ジャックは川の対岸にある街・トゥールへ向かい、そこでパリ警察捜査官ランベールと落ち合った。
トゥールにある聖マルタン大聖堂のギベール主任司祭が一週間前に変死するという事件が起こっていた。未来のトゥール大司教候補とみられていた人物の死亡事件に不安を覚えた現大司教が国王ルイ16世に泣きつき、そこで一年前にヴェルサイユ宮の事件を捜査したランベール(とジャン=ジャック)に白羽の矢が立ったのだ。
一方、ノートル=ダム女子修道院でも事件が起こる。14歳になったばかりの修道女見習いのアニュスが、変死体で見つかったのだ。
どちらの死体も目立った外傷はない。二つの死に関係はあるのか? しかし事件はこれだけでは終わらず、さらに修道女たちが殺害されていく・・・
前作で登場した処刑人シャルル=アンリ・サンソンは、死体に関する豊富な知識から、法医学的な知見を示してくれる貴重なキャラだったが、本作ではパリを遠く離れているため、彼の登場はない。
その代わり、彼の弟ルイ=シャルル・マルタン・サンソンが登場する。彼もまた現地での処刑人を勤めており、兄に代わってジャン=ジャックたちに協力する。
その結果分かったことは、ギベールもアニュスも目立った外傷はないのに、窒息死の症状を示していること。何らかの毒物が疑われるが、その正体が分からない(でもこれは、気がつく人はけっこういそう)。
事件が続き、死者が増えるということは、相対的に容疑者が絞られていくということ。修道院内で探りを入れるマリー=アメリーを取り巻くサスペンスも高まっていく。
終盤になると、彼女の危機を救うべくジャン=ジャックも命を賭けた行動に出る。ロマンス要素も高まり、二人の距離もぐっと近づいていく。
修道院に入る動機は人それぞれ。登場してくる修道女たちのキャラも多彩だ。純粋にキリスト教に帰依する者もいれば、花嫁修業の場として一時的に過ごすところと割り切っている者もいる。現世と縁を切ったように見えても、煩悩に悶々とする者もいる。
最終的に明らかになる真相は、捨てたはずの現世の因縁から逃れられない、人間の業の深さを感じさせるものだ。
現場となった女子修道院は、200年前の宗教戦争で処刑された者の亡霊が彷徨うという曰く付きの場所。これも物語を盛り上げる要素になっているのだが、具体的にどう関わるかは読んでのお楽しみだろう。
今回、マリー=アメリーとジャン=ジャックは、物語の八割方は別々に行動することになる。携帯電話など影も形も無い時代なのだが、二人は伝書鳩(!)を使って、意外と緊密に連絡を取り合っていく。この鳩、嵐の中でも果敢に飛んで、二人を繋いでくれるという健気さ。本作で一番頑張ってたのはこの鳩かも知れない(笑)。文庫の表紙にもしっかり描かれているし。
そのおかげか判らないが、一年前の事件から現在まで中途半端な状態だった二人の関係は、どうやら一歩前へ踏み出したようだ。巻末の後書きには次回作の予告もある。期待して待ちましょう。
タグ:時代ミステリ
続シャーロック・ホームズ対伊藤博文 [読書・ミステリ]
続シャーロック・ホームズ対伊藤博文 (角川文庫) [ 松岡 圭祐 ]
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 1,012 円
評価:★★★★
探偵を引退し、養蜂家となっていたホームズの元へ訃報が届く。伊藤博文が満州で暗殺されたと。
しかしホームズの前に謎の女が現れ、小さな仏像を残して去って行く。その背には伊藤博文暗殺の陰に何らかの陰謀の存在を示唆する文章が刻まれていた。
日本で行われる「惜別の会」へ出席すべく、ホームズはワトソンと共に日本へやってくるのだが・・・
* * * * * * * * * *
本書はタイトル通り『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』の続編となっている。
1891年、ライヘンバッハの滝でモリアーティ教授を葬った後、日本へ渡ったホームズが、「大津事件」(訪日中のロシア皇太子が日本人警官に襲撃された事件)を巡り不審な行動を取るロシアを相手に、伊藤博文と協力して立ち向かうというのが前作。
本書はその19年後のエピソードとなる。
よく続編のキャッチコピーに「ストーリーは独立しているので本書から読んでも大丈夫」なんてのがあるが、本作に限っては「ぜひ前作を読んでから」と云いたい。
ストーリーの連続性はほとんどないが、前作で培われたホームズと伊藤との関係が本書の根底になっていて、二人の物語は本書で完結するとも言えるので、この二作はいわば前後編と云ってもあながち間違いではないだろう。
閑話休題。
49歳となったホームズは、ある事件の解決にケチをつけられたことをきっかけに探偵を引退し、養蜂家となった。
その6年後、彼の元へ訃報が届く。伊藤博文が満州で朝鮮の民族活動家・安重根(アン・ジュングン)によって暗殺された、と。
しかしホームズの前に謎の女が現れ、小さな木製の仏像を残して去って行く。その仏像の背には英文で「伊藤博文を殺したのは安重根ではない」と刻まれていた。
伊藤の暗殺から半年後に開かれる「惜別の会」は、列強各国の首脳・準首脳が集ってくるという大がかりなもの。それに参加するためにホームズはワトソンと共に日本へやってくる。
しかし日本の政治家たちは、ホームズへ招待状を送った覚えはないという。しかし二人が受け取った招待状は正式なものと同じ用紙、同じ封筒を用いたもので、偽造は困難だった。
ホームズとワトソンは、招待状が作成・発送された経緯の調査を始めるが、そこで担当者が死亡する場面に遭遇する。
伊藤が暗殺された満州の哈爾浜(ハルピン)駅での現場にも不審な点があったことが判明、さらに遺体の搬送状況にも疑問点が浮上していく。
やがて一連の事態の裏に潜んでいた "ある陰謀" が、「惜別の会」に向かって収斂していく。・・・
物語の中盤では、ある驚愕の事実が明かされる。これは破壊力抜群なのだが、同時に「いくらなんでもそれはないだろう」とも云えるもの。ネタバレになるので書かないが、これから読む人はお楽しみに(笑)。
前作から19年が経ち、ホームズは55歳、ワトソンは57歳になっている。
ホームズは引退して養蜂業、ワトソンは医師を続けながら数年前に再婚、二人の子どもをもうけている。
日々の生活に物足りないものを感じていたホームズは、久々に訪れた "謎" の解明に張り切るが、安定した家庭を持ったワトソンはなかなか日本行きに同意しようとしない。このあたりの対比も面白い。
日本では伊藤の遺族も登場するが、ここでも時の流れは感じられる。芸妓上がりだが英語を達者に操る梅子は、すっかり大政治家の奥方(未亡人だが)らしく貫禄がつき、前作でおきゃんなお嬢さんだった娘の生子(いくこ)は落ち着いた人妻になっている。
そして伊藤の長男(庶子だが)・文吉(ぶんきち)は25歳となり、本書ではホームズ・ワトソンに次ぐメインキャラの一人で登場シーンも多い。
文吉は首相・桂太郎の五女・寿満子(すまこ)と婚約しているのだが、なんと彼女はまだ13歳(!)である。まあ閨閥づくりのための政略結婚だったのだろう。
ただ、文吉は言動の端々から寿満子を大事にしていることが窺われるし、そんな文吉のことを寿満子の方も憎からず思っていそうなところが救いではある。
寿満子嬢の登場シーンは多くないのだけど、終盤に至ると俄然、スポットライトが当たる。悪党に掠われて人質にされてしまうと云う "王道ヒロイン"(笑)になってしまうのだ。文吉君は彼女を救うために右往左往することになる。
物語は「惜別の会」を舞台にした、犯人vsホームズの活劇シーンでクライマックスを迎える。前作と合わせて、明治時代の日本でホームズが活躍する冒険譚を二作、とても楽しませてもらった。
作者は明智小五郎を主役にした作品も書いているのだけど、これからもこういうパスティーシュを書いてほしいなあ。売れっ子なので忙しいだろうけど。
最期に余計なことを。
作中での寿満子さんは、身体が丈夫でなさそうな描写があり、父親の桂首相がそれを嘆くシーンがあった。だけど wikipedia によると、文吉と結婚した寿満子さんはなんと7人の子宝に恵まれたらしい。夫婦仲も良かったのだろう。
宇宙戦艦ヤマト 黎明編 第2部 マリグナント・メモリー [アニメーション]
宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 第2部 マリグナント・メモリー (単行本)
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2024/11/01
1974年に始まったTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」はシリーズ化され、1983年の「完結編」で幕を閉じるが、2009年に「復活編」として蘇ることになった。
26年もの時を隔てた復活であり、作品内でも17年が経過している。登場人物も大幅に入れ替わり、ヤマトのメインクルーについては艦長の古代進、機関長の徳川太助以外はなじみのないメンバーになってしまった。
それだけが原因ではないと思うが興行的には不振に終わり、予定されていた第二部以降は未だ制作されていない。
この「黎明編」は、「完結編」と「復活編」の間の空白の時期を小説の形で埋めていこうという企画だ。
「黎明編 第1部 アクエリアス・アルゴリズム」については3年ほど前にこのブログで記事に書いている。
その記事を適宜引用しながら、先日刊行された「第2部 マリグナント・メモリー」について書いていこう。
なお、未読の方のために内容紹介は最小限に留めようと思う。
「第1部」の時間軸は「完結編」から12年後、「復活編」の5年前の2215年。
「第2部」ではさらにその2年後の2217年から始まる。
主人公・古代進とその妻・雪は35歳、2人の間に生まれた一人娘の美雪は13歳になっている。
「完結編」で起こった ”銀河衝突” に伴って、ボラー連邦とガルマン・ガミラス帝国両宙域内で大量の難民が発生していた。
「第1部」のラストにおいて、古代は非政府組織・銀河難民救助隊の代表となり、特殊救難艦〈オリオン〉を駆って活動している。
ボラー連邦宙域にある惑星ブイヌイへ援助物資を輸送するためにやってきた古代たちは、ボラー系の住民とガルマン系の住民との間の対立を解決する。
しかしその帰路、謎の大型戦闘艦に襲われたボラー連邦の船から救難信号を受ける。その戦闘艦はガルマン・ガミラスのものだった・・・
一方、地球連邦科学局は太陽系から0.3光年のところにUGR(未確認ガンマ線発生源)を発見した。古代雪を艦長として波動実験艦ムサシが派遣され、その調査の結果、UGRは移動するブラックホールと判明、3年後には地球を直撃することがわかった。
直ちに中心に対策が練られ、20億の地球人を脱出させる移民船の建造が決定される。
そしてアクエリアスの水柱の名残である氷塊の中では、科学局長官・真田の指揮の下、宇宙戦艦ヤマトの再建が始まっていた・・・
古代・雪をはじめとする ”かつてヤマトに乗っていた者たち” と、”これからヤマトに乗り組むことになる者たち” を描いていく基本線は変わらない。
古代の指揮の下、難民保護に活躍する者たち。そしてヤマト再建の現場で奮闘する者たち。”これからヤマトに乗り組むことになる者たち” が、それぞれ ”与えられた場” で励む様子が語られていく。
あまり書くとネタバレになるのだけど、本巻の終わり頃になると、「復活編」の冒頭部につながる気配が見えてくる。
かつてSNS上で、「復活編」を個人小説としてリメイクした〈非公式ノベライズ〉なるものを発表していた人がいた。私も(全部ではないが)目を通し、「よくできてるなあ」と感心した覚えがある。
巻末の後書きを読むと、著者の塙龍之氏は、どうやらその〈非公式ノベライズ〉を書いていた人らしい。
私は「復活編」そのものには肯定的ではないのだが、この「黎明編」の行っている試みには素直に敬意を表したい。
溢れるヤマト愛で、なんとか「復活編」を盛り上げようという情熱には頭が下がる。そしてなにより、「復活編」を観たときに感じた違和感やがっかり感が「黎明編」からはきれいに消えているのは驚きだ。
進行の具合から考えて、「黎明編」はおそらく次の第3巻で終わり、映像版の「復活編」へ続くことになるのだろうが、ここまできたらいっそのこと「復活編」そのものもこの執筆体制でノベライズしたらいいんじゃないかな。
もしそうなれば、最後まで付き合ってもいいと思わせる、それだけのものを持っているシリーズだ。
多少は無理筋な展開があっても、それをノリと勢いで押し切ってしまうのが良くも悪くも「ヤマト」という作品。
前巻もそうだったが、本書もそういう「ヤマトらしさ」を存分に発揮している作品だ。
往年のヤマトファンにとっては、楽しい読書の時間を与えてくれる作品になっているだろう。
試練 護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧 [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★★★
ヘリコプター搭載型護衛艦・あおぎりは、一般人を載せた体験航海へと出港した。しかしそこへ救難信号が入る。直ちに救助のヘリが発進するが、その直後、艦内で急病人が発生、直ちに病院へ搬送しなければ命に関わるという。連続する非常事態に、新任艦長・早乙女碧の決断は・・・
『護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧』続編登場。
* * * * * * * * * *
前作『護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧』のラストから一週間後から始まるので、ストーリーも連続している。
主人公・早乙女碧(さおとめ・みどり)は44歳の二等海佐。「あおぎり」艦長を拝命し、呉へやってくるが、着任して最初の訓練航海へ出向しようとする直前、女性隊員の一人が定刻までに帰艦していないという事態が発生する。それを碧が無事に解決へと導いた顛末を描いたのが前作。
そして今作。未帰艦事件以外の案件(主に人間関係)は前作からそのまま持ち越している。砲術士の坂上三尉は相変わらず退職したがっているし、副長の暮林(くればやし)三佐は新任女性艦長である碧を軽く見ているような節があるし、新任の飛行長である晴山芽衣(はれやま・めい)三佐は、同期としての気易さからかもともとの性格なのか、碧に対してずけずけと云いたいことを云う。
「第二章 訓練発射」では、四国沖の太平洋上での対潜水艦戦闘訓練の模様が描かれる。目標に対してアスロック(ASROC:Anti Submarine ROCket:対潜ミサイル)を発射するものだ。実弾ではなく模擬弾を使うのだが、訓練後はそれを回収しなければならない。しかし折からの悪天候で、回収は難しいと思われた。しかし碧は、あえて回収用の作業艇を発進させる。それは無謀な "賭け" にも見えたのだが・・・
そして「第三章 体験航海」「第四章 救難信号」では、連続する非常事態に直面する碧の対応が描かれる。
公募で集まった100名の一般人、TVや新聞の報道関係者、ついでに諸般の事情で堀田司令まで乗り込んだ「あおぎり」は呉を出港し、体験航海へ。
順調にイベントをこなす中、救難信号が飛び込んでくる。海上自衛隊の練習機T-5が洋上に不時着したらしい。乗員3名の安否は不明だ。
ここで堀田司令とひと揉めあるのだが、碧は救援に向かうことを決め、搭載ヘリを発艦させる。
ところがその直後、艦内の一般人が急病を発症し、直ちに病院へ搬送しなければ命に関わるおそれがあることが判明する。碧の下した結論は・・・
碧が背負っているものはあまりにも大きい。女性隊員が増えてきたとはいえ、まだまだ男性優位の考えが残る組織で、艦長として200人近い乗員をを束ねなければならない。隊員間の人間関係にも目配りしなければならない。必ずしも一枚岩ではない幹部たちをどうまとめるか。
それに加えて本作では、救難信号と艦内の急病人という緊急事態の連続パンチ。護ろうとする命を対して優先順位をつけなければならないような状況にも直面する。
しかしピンチはチャンスでもある。困難な局面を切り開こうとする碧の決断に応え、奮闘する隊員たちのプロフェッショナルぶりが随所で発揮される。
大きいものはもちろん救助活動だが、小さいものでは一般人の子どもの迷子騒ぎや乗客同士の感情的なトラブルに至るまで、隊員たちは与えられた使命に対して最大限の努力を注ぎ込んでいく。まさに「一所懸命」(一つ処に命を賭ける)だ、
隊員たちが一丸となって "壁" を超えていくことによって、クルー間の人間関係も変化し、若手も成長していく。
そして乗り組んでいる一般人たちも、奮闘する「あおぎり」の隊員たちを目の当たりにして次第に共感を深めていき、やがて事態の推移に対して隊員たちと一緒に一喜一憂するようになっていく。このあたりが実に感動的に綴られているので、読んでいてしばしば目頭が熱くなってしまった。
読みどころは盛り沢山の本作なのだが、注目点を一つだけ挙げるとしたら、坂上三曹だろう。序盤の彼と中盤以降の彼はほとんど別人の様相。何がどう変わるのかは読んでのお楽しみにしておこう(笑)。
このシリーズはいまのところこの第二作までしか出ていないのだけど、続きが読みたいなぁ。護衛艦も異動がけっこうあるようなので、乗員の入れ替わりもあるだろう。新たな「あおぎり」の航海に "乗艦" できることを願っている。
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