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北緯43度のコールドケース [読書・ミステリ]


北緯43度のコールドケース (講談社文庫)

北緯43度のコールドケース (講談社文庫)

  • 作者: 伏尾美紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/03/15

評価:★★★☆


 北海道札幌市の郊外で、少女の死体が発見される。五年前に誘拐された島崎陽菜(当時三歳)だった。しかし遺体はつい最近死亡したものと思われた。五年間、何者かが育てていたらしい。
 遺体遺棄事件の捜査に加わったのは沢村依理子警部補。博士号を持つという異色の警察官だった。しかし事件の捜査は意外な展開を見せ、彼女自身の立場にも関わってくることに・・・

 第67回(2021年)江戸川乱歩賞受賞作。

* * * * * * * * * *

 タイトルの「コールドケース」(cold case)とは、"未解決事件" のことを指す。


 2018年1月4日。北海道札幌市郊外にある自動車修理工場の古い倉庫の中で、少女の死体が発見される。年末年始の休業中に運び込まれ、遺棄されたようだ。

 遺体は五年前に誘拐された島崎陽菜(しまざき・ひなた)と判明するが、つい最近死亡したものと思われた。五年間、何者かが育てていたらしい。


 2013年、当時三歳だった島崎陽菜は札幌市北西部にあった自宅から連れ去られた。その状況から複数犯の可能性が疑われた。
 三日後、父親の職場に犯人から連絡が入る。身代金は五千万円、受け渡し場所は札幌駅北口。

 父親から身代金の入ったバッグを受け取った犯人は改札口から中へ。ところが追いかける捜査員ともみ合いになってホームから転落、そこへ入ってきた電車で轢死してしまう。

 死亡したのは札幌市の無職・渡瀬勝(わたせ・まさる)33歳と判明するが、共犯者につながる手がかりも、陽菜も発見できず、事件は未解決となっていた。


 主人公の沢村依理子(さわむら・よりこ)は、博士号を持つ異色の警察官。現在は採用6年目の36歳、警部補だ。
 島崎陽菜遺体遺棄事件の捜査がメインのストーリーなのだが、それと並行して依理子の大学院時代から現在までの過去が描かれていく。

 彼女が想いを寄せる研究者が受けていたアカデミック・ハラスメント、失意のうちに院を中退して警察官の道へ。
 しかし博士号を持ちながらノン・キャリア、しかも女性という依理子は、男性優位の警察社会の中では "異物感" 満載の存在。真っ当に扱ってくれる上司や同僚もいるが、あからさまな反撥を見せる者も少なくない。

 そんな中、島崎陽菜誘拐事件の捜査資料がマスコミに流出するという不祥事が発生する。内部捜査を始めた上層部は、組織防衛のためには犯人をでっち上げることも辞さない構えを見せる。その "スケープゴート" として、依理子は "格好の餌食" だった。

 というわけで、自分の身に降りかかる火の粉を振り払いつつ、依里子は遺体遺棄事件の捜査に取り組む。その先に、誘拐事件の真の解決もあるはずだと信じて。


 終盤、依里子は遺棄事件の容疑者と一対一で対峙することに。理詰めで追い込みつつ、最期は相手の心の中にある ”弱み” に訴えかけるという展開は、評価が分かれるかも知れない。
 私もちょっと甘いかなぁとも思ったが、これが "依理子のやり方" なのだろう。


 昨年(2023年)には、依理子が登場する第二作『数学の女王』が刊行されている。これも文庫化されたら読もうと思っている。



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