叡智の覇者 水使いの森 [読書・ファンタジー]
評価:★★★★☆
カラマーハ帝国軍の侵攻で危機に瀕したイシヌ王国。しかし、ジーハ帝に嫁すべく帝家へ赴いた王女ラクスミィが、"夫" を廃して自らが帝位に就き、帝国を掌握することに成功するまでを描いたのが前作『幻影の戦』。
それから6年。国を潤す大河である ”青河” の水位が低下し始めた。それはこの「火の国」全体の命運を左右する危機を意味していた。
水位低下の原因は、"砂の領" に暮らす「見ゆる聞こゆる者」たちが、自分たちの生存のために新たな水路を建設したことにあった。
そしてイシヌ王家に激しい憎悪の念を抱く「見ゆる聞こゆる者」の頭領ハマーヌは、ラクスミィの駆る "万骨の術" を凌駕する "月影族の秘術" を身につけ、最強の丹術士となっていた・・・
『水使いの森』シリーズ、第三巻にして完結編。
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舞台は「火の国」と呼ばれる世界。いわゆる「魔道師」に相当する者は、この世界では "丹術士" と呼ばれる。
西方にある "砂の領" はイシヌ王家が、中央にある "草の領" はカラマーハ帝家が支配している。
皇帝ジーハは、イシヌ王家がもつ "治水の力" を我がものにすべく、侵攻を仕掛けてきた。圧倒的な戦力差にイシヌは降伏することに。
しかし、ジーハ帝に嫁ぐべく帝家へ赴いた王女ラクスミィは "夫" を廃して自らが帝位に就き、続く内乱を制して帝国を掌握することに成功する。(前作『幻影の戦』)
そして完結編となる本書は二部構成になっている。
第一部は、前巻『幻影の戦』と同時期の物語。
カラマーハ帝家の侵攻は "砂の領" 南部にも及んだ。そこにある "南境ノ町" は「見ゆる聞こゆる者」たちの本拠地。
彼らはかつて "砂の領" を支配していた一族に連なる者たちで、イシヌ王家に対して深い恨みを抱いている。
その一人で、第一巻『水使いの森』に登場していたハマーヌは〈式要らず〉の異名を持つ屈指の丹術士だった。そして10年後の今は「見ゆる聞こゆる者」たちの頭領となっていた。
カラマーハ帝国軍との戦闘で重傷を負ったハマーヌは、回復の途上で "月影族の秘術" に触れることになる。そして "新たな力" を得たハマーヌは、帝国軍を一気に駆逐してしまうほどの強大な丹術士となっていた。
第二部は、その6年後の物語。
「火の国」を潤す大河・青河(せいが)の水位が低下し始めた。それはこの世界全体の命運を左右する危機を意味していた。
帝都の地下には、巨大な "丹" の塊である乳海(にゅうかい)が存在し、それは水底に沈んでいることで安定を保っていた。
このまま青河の水量が減っていくと地下水の水位も低下する。もしも乳海が空気に触れると大爆発が起こり、広大な「火の国」全体が人の棲息できない地と化してしまう。
水位低下の原因は、"砂の領" に暮らす「見ゆる聞こゆる者」が、自分たちの生存のために青河の水源から "南境ノ町" へ向けて新たな水路を建設したことにあった。
ラクスミィは水源確保のために、軍を率いて "南境ノ町" へ向かう。
しかし自らの一族の生存のために、ハマーヌたちは一歩も引くことはできない。千年にわたって圧政を受けてきた「見ゆる聞こゆる者」には、"世界の安寧" を訴えるラクスミィの言葉さえも虚しく響くのみ。
そしてハマーヌが身につけた "月影族の秘術" は、ラクスミィの駆る "万骨の術" を凌駕するものだった・・・
第一部のハマーヌ、第二部のラクスミィと、二人が繰り出す「究極の丹術」の応酬の描写は迫力に満ちていて、ファンタジーを読む楽しさを存分に味わわせてくれる。
両雄の激突が「火の国」に何をもたらすのか、そして前巻のラストで姿を消したイシヌ王家当主にしてラクスミィの妹・アラーニャがどんな運命を選んだのか。そのあたりは、ぜひ読んで確かめていただきたい。
全三巻で、火の国の覇権と治水を巡る戦いには一旦終止符が打たれるが、すべてが解決したわけではない。得られた平穏も永続する保証はなく、波乱の要因はいくつも残されている。
しかし次の世代を担う(であろう)キャラたちも多く登場していることから、彼ら彼女らに望みをつなぐことになるのだろう。それゆえに、10~20年後あたりにまた新たな物語が始まってもおかしくない。
いつの日か、この世界の続編が読めたらいいな、と思っている。
タグ:ファンタジー
スオミの話をしよう [映画]
ネットの評価を見ると、今ひとつな数字が挙がってて、中にはけっこう厳しいことを書いてる人もいる。
だけど、かみさんが三谷幸喜のファンで「観に行きたい」って言うので、不安はあったのだけど映画館に足を運んだ。
結論から言うと、「そんなにひどくはなかったよ」
双手を挙げての ”大傑作” だとは思わないけど、114分間それなりに楽しんだし、時間や金を無駄にしたとは感じなかったから。
期待値のハードルを上げすぎた状態で観に行くと、ちょっとアテが外れるかも知れないけど(笑)。
それではあらすじから。
TOHOシネマズのサイトにあった紹介文を、編集したものを掲げる。
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その日、刑事・草野[西島秀俊]が訪れたのは著名な詩人・寒川[板東彌十郎]の豪邸。≪スオミ≫[長澤まさみ]が昨日から行方不明だという。スオミとは寒川の妻で、そして草野の元妻。
草野は、すぐに正式な捜査を開始すべきだと主張するが、寒川は「大ごとにするな」と言って聞かない。やがて屋敷に続々と集まってくる、スオミの過去を知る男たち。
スオミの最初の夫で元教師の魚山(ととやま)[遠藤憲一]、二番目の夫で怪しげな YouTuber の十勝[松坂桃李]、三番目の夫で警察官の宇賀神[小林隆]。
ちなみに草野は四番目の夫、寒川は五番目にして現在の夫だ。
誰が一番スオミを愛していたのか。誰が一番スオミに愛されていたのか。
スオミの安否そっちのけで、男たちは熱く語り合う。だが不思議なことに、彼らの思い出の中のスオミは、見た目も、性格も、まるで別人・・・。
スオミはどこへ消えたのか。スオミとは一体、何者なのか。
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記事の冒頭にも書いたけど、三谷幸喜作品なので大爆笑できるだろうって期待しすぎると、ちょっと肩透かしを食うかも。
ストーリーのほとんどが寒川の屋敷の中で進行したり、開幕早々に広間のシーンでとてつもなく長回しのワンカットがあったりと、舞台劇ふうの画面作り。
このへんも好みが分かれるかな。好きな人にはたまらないかも知れないが、合わない人には退屈に思えるかも知れない。
物語の設定がちょっと複雑なので、それが頭に入るまでの序盤はちょっと笑う余裕がないだろう。でも芸達者な役者さんばかりなので、中盤以降の流れに乗れればけっこう楽しく観られる(と思う)。
スオミの失踪が誘拐であることが判明し、後半は三谷幸喜お得意のミステリー・タッチになるが、コメディである基本は揺るがない。
私が観た回では、爆笑とまではいかなかったけど、後半ではけっこうクスクス笑いが起こってたよ。
登場する役者さんについて個別に書いていたら大変なので、4人に絞る。
まず序盤では、板東彌十郎演じる詩人の設定が面白い。
詩人と言えば「赤貧洗うがごとし」というイメージがあるが、彼は著作がことごとくベストセラーになっているようで、豪邸に暮らし、金庫には億単位の現金が入っている。それでいて極めてケチな守銭奴で、他人に対する態度も傲岸不遜そのもの。そんなイヤな奴なのに、人の心を打つ詩を書く。
まあ、仕事上の能力と人間性に相関はないからなぁ・・・とか、昔の同僚や上司を思い出してしまったよ(笑)。
5人の夫の前で、それぞれキャラを切り替えてみせる長澤まさみの上手さには驚かされた。さながら多重人格みたい。それも、ワンカットの中で5つの人格をすべて演じ分けてみせる。ここまでできる女優さんは稀ではないかな。
教師役の遠藤と三者面談に臨むシーンでは、中学生のスオミとその母親役を(もちろん合成なのだが)同一画面の中で演じ分ける。ここまで来ると天晴れとしか言い様がない(流石に中学生役は無理があったかな。せめて高校生にしてあげて)。
そして、スオミとともに現れる謎の女・薊(あざみ)を演じる宮澤エマもスゴかった。彼女もまたスオミ同様、いくつもの人格を演じ分けてみせる。
映画の宣伝では長澤まさみの演技ばかり紹介されてるみたいだが、どっこい宮澤エマの演技はそれに勝るとも劣らない。もっと評価されていい女優さんだ。
そして草野の部下・小磯を演じたのは瀬戸康史。『鎌倉殿の13人』でも、愛嬌たっぷりのお惚けキャラを演じてたが、本作でのコミカルな演技には凄い進歩を感じた。彼を主役にした喜劇映画を観てみたくなったよ。
ラストはメインキャラたち総登場のダンスシーンになる。
「ここ、必要なのかな?」という思いも頭の中をよぎるが(おいおい)、みんな一所懸命に踊ってるので観てあげましょう(笑)。
とくにオジサンたちは、練習が大変だったと推察する。お疲れ様でした。
そしてここでは、長澤まさみの歌を聴くことができる。これがまた素晴らしく上手い。なんともたいした役者さんになりましたねぇ。
タグ:日本映画
巨人たちの星 [読書・SF]
月面上で発見された宇宙服を着た死体。しかしその推定年代は五万年前・・・という魅力的な謎から始まった『星を継ぐ者』。
かつて存在した惑星ミネルヴァに生まれた知的生物ガニメアン。2500万年前に太陽系を旅立った彼らの宇宙船〈シャピアロン〉号が、相対論的時差によって現代の太陽系に帰り着き、人類とファースト・コンタクトを果たした『ガニメデの優しい巨人』。
新天地へと移住していったガニメアンたちを追って〈シャピアロン〉号が太陽系を離れた直後、冥王星の彼方から通信が届き始める。どうやら地球は、遙かな過去からガニメアンによって監視されていたらしい・・・
名作SFシリーズ、第三作。
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ガニメアンたちが移住先として選んだのは、地球から20光年離れた星系と思われた。〈シャピアロン〉号は仲間を追い、そこに存在する〈巨人たちの星〉を目指して太陽系を旅立った。
しかしその直後、〈巨人たちの星〉にいるガニメアンたちから地球に通信が届き始める。しかも、"彼ら" は〈シャピアロン〉号とまだ接触していないはずなのに、地球のデータ転送コードに則り、なおかつ英語でメッセージを伝えてきたのだ。
どうやら地球は、遙かな過去からガニメアンによって監視されていたらしい。国連は通信チームを組むが、各国の足並みの乱れから交信計画は遅々として進まない。
ガニメアン関係の調査チームを束ねる物理学者ヴィクター・ハント博士たちは、独自にガニメアンとの通信回線を開くことに成功した。これにより、アラスカの基地へ "彼ら" の宇宙船がやってくることに。
その宇宙船内で、改めて "コンタクト" を果たしたハントたちは、新たな事実を知らされる。
ガニメアンたちはテューリアンという統一政府をもつこと、周辺のいくつかの星系にも植民を果たしていること、地球の監視は、惑星ジェヴレンの住人たちに任されていたこと・・・
そしてなぜかテューリアンは、地球人に対して過度の警戒心を抱いているようだ。その原因は、ジェヴレン人の "報告" にあった。そこに描かれていたのは、現在の状況とはかけ離れた地球人の姿だったのだ・・・
物語はこの後、ジェヴレン人の正体、その遠大な野望、それに対抗しようとする地球側、テューリアン側の攻防を描いていく。
『星を継ぐ者』の記事にも書いたが、本書の刊行は1981年。なんと40年以上も前の作品だ。ソビエト連邦が国家として存続していたり、冷戦状態はとっくに終わり、思想的・宗教的対立も過去のこととなって世界が平和になり、軍縮で余った予算が宇宙開発に転用されているなど、作品内に描かれた2030年代の地球の姿は現在と比べると平和すぎて苦笑してしまう。
しかしそれ以外の部分、特にデータネットワーク社会の描写は、今読んでも全く古さを感じさせない。
本作ではさらに、ヴァーチャル・リアリティ、CGを駆使したフェイクニュース、仮想空間内での "戦争" などが登場する。これら40年前には空想の産物だったであろう技術が、現代では実用化されてしまった。
改めて読み直してみると、個々のシーンが容易に想像でき、より深く理解できるようになった。そういう意味では、今だからこそ読む価値があるとも思う。
ガニメアンたちは2500万年前に太陽系を離れたにもかかわらず、生物学的な外見はほとんど変化(進化)しておらず、科学技術も進歩してはいるが2500万年もの時間差があるとは思えない。読んだ感じでも、その差はせいぜい数十年~百年くらいというところ。
しかしそこはハードSFの巨匠ホーガン。しっかり、そのあたりの理由も説明されていく。これもなかなか意外な経緯が潜んでいる。
前二作では、男性キャラばかり目立って女性はほとんど存在感がなかったのだが、本作では女性が大活躍する。
国連宇宙軍本部長の秘書でハントの恋人でもあるリン・ガーランド、国連の合衆国代表カレン・ヘラーは、それぞれストーリー展開で重要な役割を担う。
本書が刊行された1981年は『スターウォーズ』ブームの真っ最中(『帝国の逆襲』の公開が1980年)。そのせいかは分からないが、クライマックスではスターウォーズ並みの大艦隊が宇宙を飛び交う。このあたりも読みどころだろう。
ラストでは、地球とテューリアンが手を携えて新たな未来へと歩み出すまでが描かれて大団円となる。
当初はここで終わって「三部作」とされていたが、この10年後の1991年には第四作『内なる宇宙』、2005年には第五作 "Mission to Minerva" が刊行された。
『内なる宇宙』は手元にあるので近々再読するつもり。第五作は『ミネルヴァ計画(仮題)』という名で邦訳刊行予定とアナウンスがあって、23年末か24年頭くらいの刊行のはずがまだ出てない。
いつになるんでしょうかね? ていうかホントに出るのかな?
タグ:SF
『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第二章 赤日の出撃』本予告&メインビジュアル公開 [アニメーション]
9/20に第二章の本予告とメインビジュアル(第二弾)が公開されました。
いささか遅くはなりましたが、それらについてつらつら思ったことを書いていきます。
■本予告
○山南「岩盤爆破!」
●小惑星(イカルス)に閃光が走り、岩盤に亀裂が入っていく
○山崎「フライホイール接続、点火!」
●第一艦橋の俯瞰
艦長席には山南、レーダー席には西条、機関長席には山崎。
戦術長席には古代、その右に島。
その他判別できるのは真田と桐生かな。
雪を喪った古代は「指揮が執れない状態」と公式サイトにあったので、
自分から降格を申し出たのか、それとも山南の判断か。
山南が艦長になるのは、オリジナル通りと言えばそうなんだが
ヤマト艦長の死亡率は異常に高いからねぇ・・・
『2199』第一話で山南が登場して「なるほど」って思ったのがもう12年前。
まさかこんなシーンが見られるとはねぇ・・・しばし感慨に耽ってしまう。
○山南「ヤマト発進!」
●崩壊する岩盤の中からヤマトが姿を現す
○アルフォン「1000年前にも地球を救ったイスカンダルの奇跡」
雪 「コスモリバース!」
ここでコスモリバースの名が出てくるということは、
やっぱりグランドリバースはそれと何らかの関係があるのかな。
第一章の記事でも書いたけど、グランドリバースは
何らかの環境復元or改変装置だと思ってたんだが
「特報2」では ”重核子爆弾” らしき台詞が飛び交って、あれれ・・・
だけど、これで私の説もちょっぴりは可能性が出てきたかな?
●グロデーズの艦首アップ
○ランベル「無限ベータ砲、発射!」
○スカルダート「我が名はスカルダート。
マザー・デザリアムの信認を受け、聖総統の座に就く者」
マザー・デザリアムとは何者?
『2205』で潘恵子さんが声を充ててたキャラかな?
いずれにしろスカルダートは最高権力者ではなく、
より上位の存在がいる模様。
●ワープアウトする艦隊群
ワープアウト時の描写がデザリアム艦と異なるので、ボラー連邦のフネか。
その後、一瞬だけ映るキャラのアップは、もしかしてベムラーゼ?
リメイクシリーズでは、各勢力ごとに
ワープアウト時のエフェクトが異なるからね。
●アスカを先導するコスモタイガー
○揚羽「指定座標まで誘導する」
●驚く表情の土門
●主砲を撃つアスカ、回避するのはグロデーズ?
○「余剰次元の過剰展開を検知」
●拡散波動砲を撃つアンドロメダ級。艦名はアルフェラッツとのこと。
公式サイトの「MECHANIC」に載ってましたね。
周囲にはカラクルム級の残骸が多数、浮遊しているので
第11番惑星の近傍かと思われる。
●古代のアップ
○山南「波動カートリッジ弾、発射用意!」
●波動防壁を展開してカラクルム級の残骸が漂う中を進むヤマト
●揚羽の頭を抑える山本
二人ともイカルスにいた模様。
●一瞬だけ映るスキンヘッドのデザリアム人
ヤマトを襲撃に現れるゴルバ(地球に侵攻してきた6基のうちのひとつ)の
指揮官だと思うのだけど、さて。
○アルフォン「私も学びたい。君たちのその ”愛” という感情を」
ガトランティスのズォーダーは ”愛” を知るが故に ”愛” を憎んだが
デザリアム人は ”愛” という概念そのものを知らない可能性も。
いずれにしろ、デザリアム人がどんなメンタリティーを持っているのかも
アルフォンを通じて描かれていくのかも知れない。
●市街地の瓦礫の上に立ち、グランドリバースを眺める永倉とキャロライン
○大統領「我々人類は、屈服を強いる者には断じて膝を折らない。
たとえそれが、我々自身の未来であったとしても」
やっぱりスカルダートは
「我々は未来人だ」ってカミングアウトするんですね。
それに対する(現在の)地球人側の決意表明。
ガミラスにもガトランティスにも屈しなかったわけだから
ここで諦めるわけにはいかない、と。
●ヤマト艦首の前に見えるのは、ゴルバの重力場収束式ベータ砲の砲口か
装填される波動カートリッジ弾
○古代「てーっ!!」
今回のPVでの古代の台詞はこれだけ(笑)。
●ゴルバに向かう波動カートリッジ弾
そしてタイトル『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第二章 赤日の出撃』
○山南「よく見ろデザリアム。これがヤマトだ!」
波動カートリッジ弾がゴルバを葬った後のシーンと思われる。
オリジナル版『ヤマトよ永遠に』の要素のうち、かなりの部分は第二章で開示されていくみたいですね。
旧作からのファンなら先刻ご承知のことは早々と済ませ、新要素で推していくということでしょう。期待します。
■メインビジュアル
キャラクターデザイン・結城信輝さんお描き下ろし。
「奪わせない。絶対に。」というコピーとともに、銃を構える古代と、デザリアム軍のアルフォンの姿が。そして彼の腕には(顔は見えないが)金髪のキャラクターが抱かれている。
かみさん「森雪?」
私 「いや、サーシャでしょ。髪の長さが違うし、雪は金髪じゃないし」
かみさん「そうだっけ?」
私 「旧作では金髪だったけど、リメイクシリーズでは
ちょっと落ち着いて栗色になってるでしょ」
かみさん「そうだっけ?」
私 「そうなんです!」
雪さんに続いてサーシャまでさらわれては、古代くんの立つ瀬がないからね。頑張ってもらいたいものです。
私が消える [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
元刑事の藤巻は、認知障碍の診断を受ける。一方、娘の祐美から介護施設に収容されている認知症の老人の身元調査を依頼される。
”最期の仕事” と思って引き受けたが、謎の勢力からの妨害・脅迫、関係者の誘拐、協力者の死亡など異常な事態が起こっていく。
やがて認知症老人の過去には、巨大な権力の闇が潜んでいたことが明らかになっていく・・・
第66回(2020年)江戸川乱歩賞受賞作。スピンオフ短編「春の旅」を併録。
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主人公・藤巻(ふじまき)は40歳の時に刑事を辞め、同時に離婚した。妻は一人娘の祐美(ゆみ)とともに大阪へ去り、藤巻は東京で住み込みのマンション管理人として20年を過ごしてきた。
元妻は祐美が高校生のときにガンで他界した。祐美は大学進学のために上京してきたことを機に、ときおり藤巻のもとを尋ねてくるようになった。いまは大学三年生で福祉を専攻し、学業の合間に介護施設でアルバイトをしている。
そんなとき、藤巻は交通事故に遭う。幸い大きな怪我はしなかったが、念のために頭部のCTを撮ったところ異常が見つかる。医師の診断は「軽度認知障碍(しょうがい)」。放置すれば五年後には50%の確率でアルツハイマー型認知症に移行するという。
ショックを受けている藤巻のところへ、祐美から相談を持ち込まれる。彼女がアルバイトをしている施設に収容されている老人の身元を調べてほしいという。
その老人は、施設の門の前に置き去りにされていた。認知症が進行していて会話もできないため、職員からは "門前(もんぜん)さん" と呼ばれていた。
身元を示すものはいっさい所持しておらず、警察に問い合わせても該当する行方不明者の届け出はない。そして本人は内臓を患っていて、あと三ヶ月ほどの命らしい。
"門前さん" のことが他人事と思えない藤巻は、これが ”最期の仕事” と引き受けることに。
施設の防犯カメラの映像から、"門前さん" を放置していった年配の女性に辿り着くことに成功する。
その女性・大山利代(おおやま・としよ)は、"門前さん" と24年間、内縁関係にあった。彼女によると "門前さん" の名は町田幸次(まちだ・こうじ)、71歳。
しかし、"町田幸次" もまた本名ではないらしい。所持していた品を調べると不審な点がぞろぞろと。
彼が持っていた「町田幸次」の免許証にある写真は "門前さん" とは別人。
2枚のパスポートに記された名はそれぞれ「成瀬道夫」「林 源文」。
異なる大学の二枚の学生証にはそれぞれ「中山喜一」「鴨井俊介」。
株式会社の社員証には「矢部光一」。
大阪の職安が発行した日雇い手帳には「小淵誠」・・・
いったい "門前さん" とは何者なのか。どんな人生を歩んできたのか。
ところが、調査をすすめる藤巻の前に、さまざまな妨害が現れる。命の危険を感じるような脅迫、資料の盗難、調査に協力を頼んだ弁護士の事務所は放火され、さらには大山利代が拉致されてしまう。どうやら組織的な "力" が働いているらしい。
"門前さん" の過去には、巨大な権力の闇が潜んでおり、藤巻はその"虎の尾"を踏んでしまったのか・・・
"門前さん" 探索のストーリーの合間合間に、藤巻の過去が挿入される。
彼が度重なる妨害にもかかわらず "門前さん" 探索を諦めないのは、認知症へのカウントダウンを迎えている自分にとって他人事に思えないことに加え、警察を辞め、妻子と別れる原因となった20年前の事件への "後悔" の念がある。
"門前さん" の正体を巡る謎は、所持品の不可解さもあってとても魅力的なのだが、それが明らかになっていく過程で、物語はどんどん陰湿さを増していく。
そんな中、祐美さんの存在が光っている。複雑な家庭環境のもとで育ったが、ひねくれることもなく、素直で気立ての良いお嬢さんに成長していて、彼女が登場するシーンには爽やかな空気が感じられる。
そして彼女の存在が、感動的なエンディングへとつながっていく。ラストシーンで藤巻がつぶやくひと言に、一気に涙腺が崩壊してしまったよ・・・
日本では高齢者の8人に1人が認知症になると云う。私も他人事ではない。
「春の旅」
本編から6年ほど前の話。
藤巻が管理人を務めるマンションに、内藤直樹(ないとう・なおき)という15歳の少年が現れる。ここに住む星川祐美(ほしかわ・ゆみ)という女性に逢いに来たという。彼女は高校生で空手の達人だとのこと。
藤巻の娘の祐美と同じ名だが、彼女は中学生で大阪在住、しかも妻の旧姓の堀田を名乗っているので別人なのは明らかだ。
しかしこのマンションには「星川祐美」に該当する女性はいない。藤巻は直樹を連れて、彼女が通っているという高校に向かうのだが・・・
終わってみれば、きっちりとできあがった日常の謎系ミステリ。前日譚なのだけど、本編読了後に読むことをススメする。
時空探偵 ドクター井筒の推理日記 [読書・ミステリ]
時空探偵 ドクター井筒の推理日記 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 平居 紀一
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2023/11/07
- メディア: 文庫
評価:★★★
主人公・井筒は研修医。友人と一緒に旅行に来た東北で、洞窟探検中にタイムスリップに巻き込まれてしまう。
転移先は99年前の大正12年6月の東京。井筒は近くにあった病院に居候しながら診療を手伝うことに。
文献を調べたところ、大地震が起こると99年後の世界へつながる "時空の扉" が開くらしい。次の地震は9月1日、いわゆる「関東大震災」だ。
井筒は事件や謎を解決しながら "その日" を待つのだが・・・
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2022年3月。研修医の井筒は友人の三杉と一緒に旅行に来た岩手県下閉伊(しもへい)郡で、洞窟探検中にタイムスリップに巻き込まれてしまう。
転移先は99年前の大正12年(1923年)6月の東京・王子。井筒は近くにあった病院に居候しながら診療を手伝うことに。
井筒が出現した場所では、小さいながらも2022年とつながる "穴" が開いているようで、三杉と話をしたり、ごく小さいものなら、もののやりとりもできる。
三杉の協力で過去の文献を調べたところ、大地震が起こるたびに王子と下閉伊の間に99年の時を繋ぐ "時空の扉" が開くらしい。次の地震が起こる9月1日、いわゆる「関東大震災」の日に、井筒は2022年へ帰ることができそうだ。
井筒は "その日" を待ちながらも、病院や周囲の人々がらみの事件に巻き込まれていく。
井筒が身を寄せたの病院の院長・村岡は、井筒の身元に不審なものを感じているが、医学の知識(それも99年未来の)を持つことから、診療の手伝いをすることを黙認している。
村岡の姪で女学校一年生のさつきは "お転婆" を絵に描いたような娘、彼女と同い年の従兄弟で、京都から所用で出てきた秀樹は "本の虫"。対照的な二人を "相棒" に、井筒の探偵譚が綴られていく。
「第一話 黄泉平坂石」
西洋料理店・牡丹亭(ぼたんてい)の主人・西谷(にしたに)が持ち込んできた相談は、夫人の不妊だった。12年前に出産した子は夭折、翌年に第二子を妊娠したが流産。それ以後ずっと、妊娠の兆候が見られないという。最近は神頼みにも精を出している。しかし井筒の診断でも不妊の理由は不明だった。
タイトルの「黄泉平坂石」(よもつひらさかいし)というのは、夫人が身につけているお守り石の名。出雲地方にある "千曳岩"(ちびきいわ)という岩の欠片をお守りに仕立てたものだという。
夫人の不妊と並行して、最近になって近所に出没する不審な鍵屋の存在、なぜか背中に塗料を塗られている迷い犬など、不穏なエピソードが語られていき、それがやがて事件へとつながっていく。
終盤には夫人が不妊に至った理由も明らかになる。これは「ある事実」を知っていればすぐに気がつくのだが、知らない人の方が多そう(私はたまたま知ってたけど)。
「第二話 とりかえばや事件」
村岡の姪の珠緒(たまお)は大阪の商家に嫁に行ったが、最近体調が思わしくないのだという。そこで井筒が大阪まで "往診" に赴くことになった。姉(珠緒)の顔を見たいというさつきと、京都まで帰るという秀樹を連れて、三人で東海道線に乗り込む。そしてせっかくの旅行と云うことで、村岡の計らいで途中の箱根で観光をすることに。
ところが宿に到着して早々、マサさんという若い男が困っているところに遭遇する。相部屋の島崎という青年宛てに来た手紙を間違って開封して読んでしまったのだという。
ところが手紙の内容は、脈絡のない5つの英文からなるもので、しかもさつきによると、みな文法的な誤りがあるという。それを皮切りに宿の周囲で不審な出来事が起こり始める。
そしてマサさんの上京が決まり、歓送会が開かれる。ところがその最中、何者かが宿に侵入する。ところが賊は、"間違った英文" の手紙を盗み、そして "文法的に正しい英文" の手紙を残していったのだ・・・
手紙の件を含め、一見すると何の脈絡もなさそうな出来事の羅列に、読んでいても五里霧中。ところが終盤に至るとすべてのパーツが綺麗に組み上がって、一枚の絵が完成する。
本書の中でミステリ的にはいちばん秀逸だと思うのだが、本当のサプライズはラストに訪れる。あまり書くとネタバレになるけど、海外の某古典的有名短編を思わせるエンディング。
「第三話 妖変の鉄拵え」
近づいてくる ”9月1日” にやきもきしながらも、大阪に着いた井筒はさっそく珠緒を診察する。最新の検査技術がないので心許ないが、とりあえずの治療を施すことに。
珠緒の嫁いだ造り酒屋の近所を散策した井筒は、古武術の道場を見つける。中を覗いたところ、船曳(ふなびき)という巨漢が道場主の平泉春蔵(ひらいずみ・しゅんぞう)に立ち会いを要求していた。どうやら道場破りらしい。しかし平泉は相手にしなかった。
その二日後、花火見物の帰りに道場に寄った井筒は、平泉と船曳が戦う場面に遭遇する。船曳の猛攻に平泉は窮地に陥るが、一瞬の後に形勢は逆転する。見ていた井筒にも何が起こったのか分からないうちに船曳は倒されて病院に運ばれるが、診察の結果、受け身をとった形跡がないことが判明する。いったい平泉はどんな技を使ったのか・・・
そしてここのラストでも、「第二話」同様のサプライズが炸裂する。
「エピローグ」の前半では、大震災の起こった9月1日を迎える。井筒の運命については読んでのお楽しみとしておこう。
後半は後日譚になり、本書に登場した "ある人物" の "その後" が語られる。この幕切れはちょっと切ない。でもそれがいい。
幽霊男 [読書・ミステリ]
金田一耕助ファイル10 幽霊男<金田一耕助ファイル> (角川文庫)
- 作者: 横溝 正史
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2013/05/31
ヌードモデル仲介業「共栄美術倶楽部」に現れた男は "幽霊男" と名乗った。彼の依頼を受けたモデルがホテルの浴室で死体となって発見される。
そこから、モデルたちが次々に殺されるという事件が続いていく。
猟奇的な犯罪を繰り返す "幽霊男" に金田一耕助が挑む。
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神田神保町にある「共栄美術倶楽部」は、ヌード写真愛好家たちのためにモデルを貸し出す仲介業を行っている。
ある日の夕刻、そこに現れたのは異様な風体の男だった。長髪にベレー帽、黒いサングラスにマフラー、そしてかかとまで届きそうなロングコート。
男は「佐川幽霊男(さがわ・ゆれお)」と名乗った。本名の由良男(ゆらお)をもじった "ペンネーム" だという。
"幽霊男" は小林恵子(こばやし・けいこ)というモデルを指名し、西荻窪にあるという彼のアトリエに行くことに。しかしその恵子が、駿河台のホテルの浴室で死体となって発見される。
西荻窪では、空き家となったアトリエが発見される。そこには一ヶ月前まで津村一彦という画家が住んでいた。彼は精神が不安定になっており、妻に連れられて郷里の岡山に帰る途中で逃げだして行方不明になっていた。
なんと彼には吸血癖があり、しばしば妻が与えた血を舐めていたのだという。
殺人事件のせいか、共栄美術倶楽部は大繁盛(おいおい)。常連客を招いての例会(モデル撮影会)を開くことになった。場所は伊豆半島のS温泉(頭文字表記だが、作中で『女王蜂』事件に言及されているので、修善寺のことだろう)。
招かれた常連客たちは、それぞれモデルを伴ってホテルの庭で撮影に勤しむ。ところが庭園内の一角で、モデルの都筑貞子(つづき・さだこ)の死体が発見される。切断された両脚が、花畑の地面から "生えた" ように安置され、さらに腰から上の部分は小さな池の中に座った状態で置かれ、上から注ぐ小さな滝に打たれていた・・・
殺人事件以外にも、"幽霊男" はいろいろな騒ぎを引き起こしていく。モデルの一人を誘拐して解放したり、小道具のテープレコーダーを駆使して自分の存在をアピールしたり・・・
現代風に云うと「劇場犯罪型のシリアルキラー」というところか。死体損壊を含む猟奇的な犯行と合わせて、江戸川乱歩の通俗長編と少年探偵シリーズをミックスしたような雰囲気だ。
幽霊男の正体ではないかと目された津村一彦も、どうやら "幽霊男" に操られているのではないかとの推測が立つのだが、共犯者は津村だけではないらしい。
共犯者を安易に設定してしまうと、ミステリ的な興味が薄れてしまうようにも思うのだがこのあたりは流石の巨匠。これを利用してフーダニットの面でのサプライズにつなげているあたりホントに上手いと思う。多くのキャラを縦横に動かす交通整理はお手のものなのだろう。
己の欲望のままに人を殺害し、遺体を損壊・蹂躙している "幽霊男" の犯行の数々、複数の共犯者の存在、そして中盤から突然現れる "マダムX" なる謎の婦人。
読んでいると、混迷極まるこの展開にちゃんと決着がつけられるのか疑ってしまうのだが、「横溝正史」の名はダテではない。すべてが解明されると、いろんな出来事がきっちりピースの一つとしてハマってしまう。
序盤を読み返してみると、かなり重要な情報がけっこう早い時期に開示されていることが分かる。表面的な猟奇性と怪奇性に目を奪われがちだが、その裏側にはミステリとしての "計算" がしっかり隠れている。
それでもラストシーンには呆れかえるやら苦笑させられるやら。本格ミステリの構造の上に猟奇とエログロを配した物語のエンディングにこんな場面を持ってくるなんて、作品のトーンは最後までブレないんですねぇ。
タグ:国内ミステリ
みとりねこ [読書・その他]
評価:★★★
「猫」を主役に書かれた7つの短編を収める。
『旅猫リポート』の外伝2編、『アンマーとぼくら』のスピンオフ1編を含む。
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「ハチジカン ~旅猫リポート外伝~」
小学生のサトルが拾った猫は "ハチ" と名付けられ、彼の家の飼い猫になった。しかし両親が事故で亡くなったことで、サトルは叔母のもとで暮らすことに。
行き場を失ったハチは、サトルの遠縁の家に引き取られることになった。そこにはツトムという、サトルと同い年の末っ子がいた。ツトムの成長にサトルの姿を重ね合わせながら、ハチの時間が過ぎていく。
そしてツトムが高校1年生になった夏、サトルがハチに会いに来ることになったが・・・
「こぼれたび ~旅猫リポート外伝~」
宮脇悟(サトル)は、"ある事情" で飼い猫のナナを手放すことになった。そこで日本中の知人を訪ねてナナの引き取ってもらえる先を探している。
今回やってきたのは神戸。大学時代のゼミの恩師・久保田寿志(くぼた・ひさし)を訪ねることに。
悟が学生の時に、久保田との間に "ある出来事" があって、二人の間には感情的な "しこり" が残っていたのだが・・・
「猫の島」
長編『アンマーとぼくら』のスピンオフ。
カメラマンの父は、母と死別した後に再婚して北海道から沖縄へ移り住むことになった。
父の再婚相手は晴子(はるこ)さんというが、小学生のリョウ("ぼく")はまだ母のことが忘れられず、まだ彼女を「お母さん」とは呼べないでいた。
そんなとき、父が突然「猫の島へ行こう」と言い出す。石垣島の近くにある竹富島だ。
"ぼく” は、そこで知りあったおばあさんから、父と晴子さんがはじめて島にやってきた時の話を聞くのだが・・・
「トムめ」
文庫でわずか5ページの掌編。
飼い猫のトムとの日々の暮らしを、日記風に綴ったもの。
「シュレーディンガーの猫」
佃香里(つくだ・かおり)の夫・ツクダケイスケは中堅の漫画家だが、漫画を描くこと意外は生活能力皆無な社会不適合者だった。香里は妊娠中から育児生活には多くの困難が待ち受けていると覚悟していた。
ところが、香里の里帰り出産中にケイスケが捨て猫を拾ったことで、彼の生活は激変していく。猫の世話のついで(おいおい)に赤ん坊の世話もするようになったのだ。香里は呆れながらも「結果オーライ」とケイスケの変化を受け入れていくのだが・・・
本書の中で一番楽しんだ作品。ケイスケが育児(育猫?)に悩んでSNSに助けを求める下りも面白いが、ネット民から帰ってくる "回答" がまた爆笑もの。
まさに「終わりよければすべてよし」を地で行く作品。
「粉飾決算」
貰い手がつかなくて家に回ってきた "トラ"、その次にやってきた "天"。
2匹の猫が父と過ごしていく日々を、家族の目を通して描く短編。
猫、そして家族との関わりの中で浮かんでくるのは、父の人間像。何事にも無頓着で無愛想、ついでに不器用。口は悪いが、それは気が利く言い回しが苦手なだけで、"飾る" とか "取り繕う" という言葉とはおよそ無縁。
猫に対してもことさら可愛がる様子は見せないのだが、父に懐いていく様子から、猫たちには父の "心のうち" が見えていたのかも知れない。
「みとりねこ」
桜庭(さくらば)家に飼われている猫・浩太(こうた)。20年間、次男坊の浩美(ひろみ)と一緒に過ごしてきた。そして最近、浩太はなぜか "肉球はんこ"(小皿に残った醤油などを肉球につけて、テーブルクロスの上などにポンポンしていく)を覚えて、お母さんに怒られてばかり(笑)。だが、浩太には浩太なりの理由があったのだ・・・
ラストはなかなか感動もの。こんな話を読まされたら、泣いてしまうではないか・・・
以下は蛇足。ちょっと思い出話をする。
私の実家にも猫がいた。家の中で飼うのが当たり前の現代と違い、昭和の頃だから放し飼いが当たり前だった。
最初の三毛猫(どういう経緯で飼われるようになったのかは覚えていない)は早死にした。
二代目の三毛猫(どこかからもらってきたはずなのだが、そのへんの記憶も曖昧)は、なぜか先代に模様がそっくりだったので「これは先代の生まれ変わりだ」と家族と言い合ったものだ。
一度、行方不明になったことがあって「どこかで車にでも轢かれたか」と思ってたら、ふた月くらい後にひょっこりと帰ってきた。いったい何があったのか。猫は話してくれないので今でも謎だ(笑)。
二代目は初代よりは長生きしたが、私が中学の頃に亡くなってしまった。仔猫を産んだばかりの時だった(あの頃は不妊手術を受けさせる方が珍しい時代だった)。病気だったのか産後の肥立ちが悪かったのかわからないが、三毛が二匹、茶トラが一匹、白黒のぶちが一匹、計四匹の仔猫を残して逝ってしまった。
三毛と茶トラはすぐにもらい手が決まったが、ぶち猫はなかなか決まらなかった。模様が地味だったからかも知れない(笑)。そんなときに母猫が急逝したものだから、ぶち猫は母猫の後を継いでそのまま実家で飼われることになった。
数年後、実家が家を建て替えることになった。ぶち猫は棟上げが済んだ頃から、天気の良い日には組まれた材木のてっぺんまで登り、そこに座り込んで周囲を眺め回すようになった。自分の縄張りの確認だったのだろう。大工さんも猫好きだったのか、邪険にはしていなかったようだ。
このぶち猫は、私が二十代後半になるくらいまでは生きてたので、当時としては長生きだったと思う。
それ以来、実家では猫を飼っていないが、妹は嫁に行った先で飼い始めた。今でも三匹飼ってる。旦那より大事にしていたようだ(おいおい)。
本書を読んだら、ちょっと昔を思い出してしまった。いまでも猫は可愛いと思うけど、放し飼いされていた時代を知っているので、家の中だけで過ごさせるのは可哀想だと思うし、何より死なれた時の哀しさに耐えられそうもない。だから飼わないことにしている。
NHKでたまに放送される「猫歩き」が何よりも楽しみだ(笑)。
タグ:ユーモア
幻影の戦 水使いの森 [読書・ファンタジー]
評価:★★★★
イシヌ王国の女王が逝去した。隣国のカラマーハ帝家はこの機に乗じて大軍を以て出陣、さらには次期当主アラーニャに対し、皇帝ジーハに嫁ぐよう要求してきた。
王国はアラーニャの双子の姉・ラクスミィの指揮の下に果敢な抵抗を続けるが、帝国軍の手段を選ばない猛攻に次第に疲弊していく。
王国の危機を救うべく、ラクスミィが選んだ道は・・・
創元ファンタジィ新人賞優秀賞受賞作『水使いの森』、その続編登場。
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砂漠の地・"砂の領" を治めるイシヌ王家は代々、豊富な水源を支配する力を受け継いできた。そこに生まれた双子の姫、ラクスミィとアラーニャ。決まり通りに妹姫アラーニャが次期当主と定められたが、姉姫ラクスミィを推す者もいた。そんな王宮内の紛糾を畏れたラクスミィは砂漠へと "家出" した。
しかしそれが伝説の砂漠の民・水蜘蛛族、かつての砂漠の支配者の末裔 "見ゆる聞こゆる者" たち、そしてイシヌの治水能力を手に入れようと画策する東の大国・カラマーハ帝家といくつもの勢力が絡む "大騒ぎ" へと広がっていった顛末が語られたのが、前作『水使いの森』。
本作はその10年後、イシヌ王国の女王が逝去するところから始まる。
自分がいなくなったあとの王国の行く末を憂う女王は、娘たちに秘術〈万骨の術〉を記した書の在処を伝えていた。
しかしイシヌの東、"草の領" を統治する大国・カラマーハ帝家はこの機を逃さず、大軍を以てイシヌに進撃してくる。さらには次期当主アラーニャに対して皇帝ジーハのもとへ嫁ぐように要求してきた。
王国は姉姫ラクスミィの指揮の下に果敢な抵抗を続けていく。
前作で8歳だった彼女も今作では18歳。立派に成長した凜々しい姿を見せる。
イシヌ王家の "第一の家臣" にして、アラーニャを護る "剣" であることを自任し、カラマーハ軍との戦いでも自ら陣頭に立って兵士を鼓舞をする。まさに自他共に認める "姫将軍" ぶりだ。
しかし物量では圧倒的な劣勢。それに加えて帝国軍の手段を選ばぬ非人道的な戦術、王宮内に潜入した暗殺者の跳梁など、イシヌは徐々に追い込まれていく。
このままでは滅亡を待つだけと判断したラクスミィは、禁断の秘術〈万骨の術〉の封印を解くことに・・・
ここまでが「第一部」、本書の前半部。
そして後半の「第二部」に入ると、ラクスミィはジーハ帝に嫁すべく、自ら敵地であるカラマーハ帝家へと乗り込んでいく。
あれ? 嫁に来いと言われたのは妹アラーニャの方だったんじゃないか? そうなんだけど、その辺の事情はネタバレになるのでぜひ読んでいただきたい。
第二部に入ると、展開がめまぐるしい。あっという間に○○○○が□□□したりと、ラクスミィは帝国内に大きな波乱を呼び起こしていく。
このあたりを見ていると、つくづく前作『水使いの森』は序章に過ぎなかったんだなぁと思う。
もちろん物語としても十分面白かったんだけど、前作で行われた世界設定の説明や多くのキャラの深掘りなどは、すべてこの『幻影の戦』のための下準備だったようにも思える。
それくらい、本作での物語の密度は高く、登場人物たちの運命の変転は想定外かつドラマチックだ。
特にイシヌの次期当主となるアラーニャ。前作ではあまり出番がなかったが、本作ではラクスミィと並んで最重要キャラとなる。カラマーハへの隷属は拒みつつ、すべての戦を終わらせようと "ある選択" をするのだが、このあたりも本書の読みどころだろう。
あと意外だったのは、カラマーハに武力で及ばない分、イシヌは情報収集と調略には余念がないこと。
カラマーハ帝家内の情報を "鳥(伝書鳩?)" を利用していち早く入手する体制を整えていたり、帝家内の高官二名を "密偵" として寝返らせていたり、など。このあたりはストーリー展開にも重要な要素として効いてくる。
そして、イシヌ王家の物語と並行して語られるのが、"水使いの力" をイシヌ王家と分け合う、水蜘蛛族の物語。
彼らもまたカラマーハ帝国軍の猛攻を受けて全滅の危機を迎えるのだが、彼らの辿る道も意外な形でイシヌ家と交わっていく。
イシヌ王国とカラマーハ帝家を巡る騒乱は、本書で一応の収束を見るが、世界の情勢は未だ安寧にはほど遠い。
第三巻にして完結編『叡智の覇者』も、手元にあるので近々読む予定。
タグ:ファンタジー
神様のたまご 下北沢センナリ劇場の事件簿 [読書・ミステリ]
神様のたまご 下北沢センナリ劇場の事件簿 (文春文庫 い 113-1)
- 作者: 稲羽 白菟
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2024/04/09
- メディア: 文庫
評価:★★★
大学進学のために上京した竹本光汰朗は、祖母が経営する小劇場・下北沢センナリ劇場で支配人助手としてアルバイトを始める。
劇場界隈で起こる、演劇やミュージシャンがらみの怪事の数々。劇場支配人のウィリアム近松太郎は、光汰朗を相棒に鮮やかに解決していく。
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大学進学のために上京した竹本光汰朗(たけもと・こうたろう)は、祖父が開業し祖母が経営する下北沢センナリ劇場へやってくる。そこは隣接する二つのアパートを改装しただけの小劇場だ。光汰朗はそこで支配人の助手としてアルバイトを始める。
劇場支配人の名はウィリアム近松太郎(ちかまつ・たろう)。日本とイギリスの血を引き、有名な東西の劇作家の名をもつ彼は、優れた推理力も持っていた。
劇場界隈で起こる、演劇やミュージシャンがらみの怪事の数々を、近松と光汰朗のコンビが解決していく連作ミステリ短編集。
「ACT.1 神さまのたまご The Adventure of the Blue Carbuncle」
下北沢センナリ劇場で行われる、劇団「江戸前ベイシティボーイズ」の公演直前に、小道具の指輪が玉子型のケースごと盗まれてしまう。ところがその指輪は主演女優の私物で、「見つからない限り舞台には出ない」と彼女は言い出す。公演開始まであと一時間と迫ってきたが・・・
解決してみれば "コロンブスの卵" だった事件、といえるかな。そちらよりも、作中で語られるシャーロック・ホームズの短編『青い紅玉』についての蘊蓄(矛盾するタイトルの解釈)が面白い。
「ACT.2 死と乙女 Death and the Maiden」
助手として初出勤した光汰朗の最初の仕事は、外出した近松の代わりに事務所の留守番をすることだった。そこへ掛かってきた電話で、劇団「大人になろうぜ」の "ブタカン" なる人物がそちらへ向かっているとの連絡が。
やがて降り出した豪雨の中、事務所へ二人の来客が現れる。まず "鈴木" と名乗る全身黒ずくめの男が、そしてもう一人は "神田" という巨漢。
「劇場の設備を見せてほしい」と鈴木が言い出し、三人で舞台へ向かう。しかしそこで突然、鈴木が照明を消したために劇場内が真っ暗に・・・
whatdunit(何が起こっているのか)のミステリ。これも明かされてみれば至極当たり前の事件だが、それを感じとらせないのは上手い。
「ACT.3 シルヤキミ DO YOU KNOW?」
古着屋の掃除中に見つかった古いCDには、女性ボーカルによる「シルヤキミ」という曲が記録されていた。島崎藤村の詩に曲をつけたもので、"AKIRA" という人物が作曲したらしい。録音されたのは23年前だった。
ところがその曲のメロディーが、下北沢のインディーズバンド・RAI-JIN(ライジン)の「DO YOU KNOW」という曲と同一であることがわかり、盗作ではないかとの疑惑が持ち上がる。
近松たちは「シルヤキミ」を歌う女性ボーカルの正体を追い始めるが・・・
下北沢を再開発する方針を巡ってバンド同士の確執があるという設定が面白い。地元愛に溢れるがゆえの対立なのだろうが。
「ACT.4 マクロプロスの旅 The Makropulos Exploration」
喜寿を迎えた演劇人・堀田(ほった)は、最近体験した奇怪な話を始めた。
年に何回か訪れる、下北沢を深い霧が覆う深夜に、堀田は見た。警報の鳴り止まない ”開かずの踏切” の向こうで、全身白ずくめの男が優雅な舞踏を見せていたことを。
それは堀田の旧友で "暗黒舞踏家" の艮雄一(うしとら・ゆういち)だった。しかし彼は30年近く前に他界していたはずだった・・・
ちなみに「暗黒舞踏」とは前衛芸術の舞踏形式のひとつだ。
近松の活躍で真相が明かされるが、それでも謎の一部は残されるホラー風味の話。なんとなく往年の特撮TVドラマ『怪奇大作戦』を思わせる一編。
「ACT.5 藤十郎の鯉 Fuji Juro's Love」
歌舞伎を現代風にアレンジした作品を上演している劇団「藤十郎(ふじ・じゅうろう)一座」。
五年前、センナリ小劇場で上演された「鯉つかみ」のさなか、代表の藤十郎が衆人環視の舞台上から忽然と姿を消すという事件が起こった。もちろん劇場内からも見つからない。
公演前にアパートが引き払われ、携帯も解約されていたことから計画的な失踪と思われたのだが、誰もその動機に心当たりがない・・・
横溝正史の『幽霊座』をオマージュした作品。舞台上からの人間消失トリックはなんとなく見当がつくが、それは真相の1/4に過ぎない。残り3/4の方にこそ本作の真髄がある。
レギュラーキャラたちも五年前ということで若く、そのころに演劇に関わっていた者も多い。
ミステリ度も本書でいちばん濃いが、それよりも青春小説の雰囲気をより強く感じる一編。