サイボーグ009 トリビュート [読書・SF]
評価:★★★★
1964年7月より連載が開始された、石ノ森章太郎のマンガ『サイボーグ009』。
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作者の逝去により未完となった作品だったが、2012年に生前の構想をベースとした小説『サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD'S WAR』が刊行されて、公式に "完結" を迎えた。このブログでも記事に書いた。
ただまあ、その内容があまりにも○○だったので、「もう『009』には金輪際、手を出すまい」と心に決めていた(おいおい)。
ところが、かみさんと二人で散歩中に立ち寄った書店の陳列棚で本書を見つけた(見つけてしまった)。思わず手に取り、パラパラめくっているうちに、気づいたらレジに並んでた。
「平和の戦士は死なず」(辻真先)
「アプローズ、アプローズ」(斜線堂有紀)
「孤独な耳」(高野史緖)
「八つの部屋」(酉島伝法)
「アルテミス・コーリング」(池澤春菜)
「wash」(長谷敏司)
「食火炭」(斧田小夜)
「海はどこにでも」(藤井太洋)
「クーブラ・カーン」(円城塔)
「ヤマトよ永遠に REBEL3199 第一章 黒の侵略」感想のようなモノ (1/3) [アニメーション]
ところどころ、かみさんのチャチャが入りますがご容赦を(えーっ)。
第一話 「秘密作戦発動! 新ヤマトへ向かえ!!」
■『パーセクのかぎしっぽ』
本編は、真田さんの朗読で始まる。
真田さんの前にいるのはサーシャ。彼女は何かを感じている? そんな超常の能力を持っている?
ちなみに真田さんの持っている本のタイトルは『パーセクのかぎしっぽ』(Blu-ray を一時停止して確認した)。早速かみさんが検索してた。見つかりませんでした(笑)。どうやら架空の本のようで。
「どうした、澪?」
■ベムラーゼ首相?
太陽系に領海侵犯にやって来たボラー艦隊。その指揮艦のブリッジには、ばかでかい肖像画が。スカルダートよりもデスラーよりも早いご登場です。
■”ウラリアの光”
「銀河の中心にあって、宇宙を凍てつかせる、魔女の吐息。ウラリアの光」
■タイトル
第十一番惑星をバックにタイトルがどどーんと。このへんはオリジナルを完コピ。
と書いてたら、第二章のBlu-rayの「新規描き下ろし特製スリーブ by 加藤直之」にしっかり描かれてます。やっぱり何かで再登場するのでしょう。
■南部重工
南部が父親の会社の機密にハッキングを仕掛けて重要情報を盗み出す。
■南部父
「あれはもうこちらへ向かっている」
「どうも父親というものは出遅れるな」
■三羽がらす
第一艦橋の三人組(南部・太田・相原)が揃って、しかも三人だけで行動して会話してるシーンというのは珍しい。改めて見てみると、それぞれ個性が異なっていてなかなか面白いものだ。こんなシーンもリメイクならではだろう。
■古代登場
いきなりプロポーズの練習シーンから入るというのも如何なモノかとも思ったが、これが「何事にも誠実であるが、とにかく不器用」(おいおい)という、リメイクにおける古代のキャラクターを端的に示してるとも思う。
しかし通信機をつけっぱなしで外部にダダ漏れというのはセキュリティ的にどうなのか。でもまあ、平時においてはあまり役に立たず(笑)、乱世において真価を発揮するというのもまた、古代のキャラクターなのだろう。
銀河艦内の女性陣には格好の話題を提供してしまったが、彼女らを観ていると古代は ”愛されキャラ” なのだな、とも思う。ガトランティス、デザリアムと果敢に渡り合ってきた指揮官も形無しだが、これも ”人望” の形のひとつではあるのかも知れない。
サーシャの検疫に二年というのは時間のかけ過ぎとも思ったが、その裏には真田さんの采配があるのだろう。
■土門、みやこ、板東、そして北野兄
三人はアスカでの勤務。『2205』から2年経ったからそれなりに経験も積んでるのだろう。
おそらく、本来は「古代守-北野誠也」という組み合わせだったはずが「古代進-南部康雄」になったのだろう、と勝手に思っている。
CVは鳥海浩輔さん。『シドニアの騎士』の弦打や『鉄血のオルフェンズ』の名瀬とか、とにかく女たらしの役のイメージがあったので、今回の配役はちょっと意外。でも生粋の軍人という雰囲気も上手く出すのはさすがベテラン。
■雪さん登場
司令部付幕僚としての登場。長官を補佐する参謀、というところか。
百合亜の台詞にある「ラグ」って何だろうって思って調べたら「タイムラグ」、つまり通信の遅延のことらしい。このあたりにも ”内通者” によるサボタージュがあったのだろう。
■義手?
土門たちと別れた後、艦内を歩くシーンで右手がアップになるのだけど、あれは義手(機械化された手)のように見える。
実は映画館で最初に見た後、かみさんには「旧作の『ヤマトよ永遠に』に出てくる暗黒星団帝国の人間は、実は体のほとんどを機械化していた」って話した。
■波動共鳴機雷群
ピンポイントでグランドリバースの前面にあったけど、そもそも小惑星帯全域(を含む、球状の宙域すべて)に敷設しておくなんてのは無理だから、事前に軌道を予測してばら撒いたんだろうと理解。
■コスモリバースシステム
未だ銀河の艦内にあって利用されている模様。
■神崎の過去
銀河副長の神崎恵は、どうやら夫と子どもを喪っているらしいという過去が明かされる。
雪とサーシャと三人で家族になることをためらう古代の背中を押す。
■司令部
機雷群を突破したグランドリバースは火星宙域へ。
「やるでしょうね、むこうの言葉を信じているのなら。同じ地球人であっても」
■オペレーションDAD
藤堂長官は ”オペレーションDAD” を発動する。予告編の記事でも書いたけど、予想通り「ディフェンス・アゲンスト・デザリアム」の略でしたね。
■火星迎撃戦
火星空域へワープアウトするアスカ、続いて同じくアスカ級6隻がワープアウト。グランドリバース迎撃の ”第一波” となる。
全艦連動しての防壁弾発射と同時に、BGM「巨大戦艦グロデーズ」開始。
アスカ級による渾身の防壁弾攻撃、続く第28護衛隊(ドレッドノート級、アルデバラン、ヒュウガ)三隻による拡散波動砲の一斉射も効果なく、グランドリバースはそれを突破。
■地球司令部
グランドリバース迎撃の ”第三波”、自律防空システム(無人艦隊)が出動するが、他の艦隊に動きはない。
雪は冷静に分析していてるみたいだけど、長官に対してはけっこうずけずけとした物言い。いやあ雪さん、強くなったねえ。それも自分の能力に自信をもっているからだろう。
■無人艦隊出撃
空軍に出向していた島が、無人艦隊を統括するコマンド艦グラディエイターの艦長として登場する。
『2205』終盤で古代がイスカンダルへ向かっていた時、副長の島がヤマトを指揮していたはずなのだが、画面上ではほとんど描かれなかったのがちょっと不満だった。今回は指揮ぶりも堂々としたもの。こんな颯爽とした姿が見られて私は満足。
「アタック!」ってかけ声とともに攻撃開始。このシーン、好きだなぁ。
そしてデザリアム艦隊の出現で窮地に陥った島たちを救うのが南部というのも、また良い。
■グランドリバース降下
「目標は大気圏に突入」という台詞から ”お馴染み” のBGMが流れ、グランドリバースの降着までが描かれる。
■「ヤマトニ集結セヨ」
縁側で酒を飲んでる佐渡先生。アナライザーの頭部から新アナライザーの声が聞こえる。「ヤマトニ集結セヨ」。それは銀河にも、ヒュウガにも、アスカにも届く。
北野艦長のコンソールには
「封緘命令書 Sealed Order ■地球連邦防衛軍 特命第806号
の文字が。オペレーションDAD発動に伴い、封印が解かれたというか。
「地球最後の希望、ヤマトハ生キイテル」
作中では明らかにされないけど、Blu-ray 同梱のシナリオには ”小惑星イカルス” ってしっかり書いてある。
(続く)
女王蜂 [読書・ミステリ]
伊豆半島の南、月琴島にある大道寺家は、源頼朝の血を引くとの伝説がある旧家。その一人娘・智子は18歳となり、”絶世の美女” へと成長していた。
横溝正史ブームのさなかに映画化もされた有名作。
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本書を始めて読んだのは高校生の頃。たぶん土曜日だったと思うのだが、学校帰りの昼下がりに近所の本屋で買った。家に帰って読み始めたら夢中になってしまい、夕食前までに文庫で400ページ以上あった本書を読み終わってしまった。当時の文庫は今よりも活字が小さかったのだけど、それも全く苦にならなかったよ。当時は近眼でもなかったし・・・なんとも懐かしい思い出だ。
伊豆半島の先端・下田の南方沖に浮かぶ月琴(げっきん)島。そこに住まう大道寺(だいどうじ)家は、源頼朝の血を引くとの伝説がある旧家だ。
昭和7年。この島を日下部達哉(くさかべ・たつや)と速水欽造(はやみ・きんぞう)という2人の若者が訪れた。二週間後、彼らは島を去るが、大道寺家の一人娘・琴絵(ことえ)は自分が妊娠していることを知る。父親は達哉だった。
琴絵の懐妊を知らされた達哉は島を再訪する。しかし彼は "ある事情" から「日下部達哉」という名は偽名であり、琴絵とは結婚できないと打ち明ける。
"達哉" の親友だった欽造は、"ある人物" から依頼され、生まれてくる子と琴絵のために形式的に大道寺家に婿入りすることになった。以後、彼は東京に居を構えながらも、月琴島の大道寺家にとっての経済的な後ろ盾となっていく。
そして月満ちて琴絵が出産したのが本書のヒロイン・智子(ともこ)だ。しかし琴絵は智子が生まれて5年後、早逝してしまう。
生前の琴絵は、戸籍上の夫である欽造とは一度も同衾したことはなかったというが、彼は大道寺家の下女だった蔦代(つたよ)を実質的な妻として迎えており、長男・文彦(ふみひこ)を儲けていた。つまり智子と文彦は血のつながらない姉弟ということになる。
そして時間軸は昭和26年へ。月琴島に暮らす智子は美しく成長し、18歳の誕生日を迎えた。彼女は亡き母の遺言に従い、祖母の槙(まき)、長年にわたり家庭教師を務めてきた神尾秀子(かみお・ひでこ)女史を伴って島を出て、東京の義父・欽造のもとへ向かうことになった。目的は婿選びである。
しかしそれに先立ち、欽造のもとへは差出人不明の脅迫状が届いていた。
「警告
そして、大道寺家の一行が東京への旅の途中で宿泊する修善寺のホテルには、はやくも3人の花婿候補たちが智子を出迎えるべく待ち受けていた・・・
・・・というのが、物語開始時点までの状況。こういう、不穏極まりない設定(褒めてます)を作らせたら横溝の右に出る者はいないだろう。
そして物語が始まると、脅迫状の通りに智子の周囲の男たちが次々と殺されていく。
本書のミステリとしての紹介はこれまでにしよう。whodunit(犯人当て)、密室トリック、ともによくできているのだけど、本書にはもう一つ、大きな要素がある。それはヒロイン・智子を巡る男たちのドラマだ。
これ以降の文章は、一部ネタバレを含むので、これから本書を読もうと考えておられる方はスルーされることを推奨する。
作中で "絶世の美女" と形容されている智子だが、いわゆる美少女とはいささかイメージが異なる。
智子さんの周囲には、男たちを惹きつけ、その理性を失わせてしまう "場(フィールド)" みたいなものが発生しているようなのだ。
要するに、智子さん自身に限って云えば ”正統派のお嬢様” なのだが、彼女の言動や立ち居振る舞いに ”惑わされて” しまった一部の男たちが、勝手に暴走し始めてしまう。
そこで登場してくるのが、"日下部達哉" の父親、すなわち智子の祖父にあたる人物である。"彼" は物語の表舞台には出てこない(だがその正体は物語のかなり早い時点で明かされる)のだが、ずっと陰から智子の成長を見守ってきた。欽造と琴絵との縁組みを推し進めたのも "彼" である。
智子の婿選びについても、欽造が用意した3人の候補者(みな良家の御曹司だが曲者揃い)が気に入らず、彼女にとって最もふさわしい(と "彼" が考える)人物を呼び寄せる。
そこで "彼" は、連太郎と智子を引き逢わせることを画策する。
本書はミステリとしてはよくできていると思うのだが、智子と連太郎のラブ・ストーリーとしてみると、いささかバランスが悪いことは否めない。
でも、妄想するんだよねえ。私の素人考えなんだけど、いっそのこと金田一耕助は出さずに、殺人事件の容疑者に仕立て上げられた連太郎自身を主役にして、智子を巡る陰謀を探っていくサスペンス仕立てにしたら面白かったんじゃないかなぁ、なんて。そうすれば二人のロマンスももっと盛り上がっただろう。そんなバージョンも読んでみたかったな、と思う。
本作は横溝正史ブームのさなか、『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』『獄門島』に続く市川崑監督の第四弾として1978年に映画化された。
ちなみに智子を演じたのは、本作でデビューした中井貴惠さん(当時は早稲田大学の2年生で20歳)。"男を惑わせる" 要素は控えめで、どちらかというと活発で健康的なお嬢さんという雰囲気が前面に出ている智子さんだった。
余談だが、映画公開からかなり経ったころ、「もし山口百恵が智子を演じていたらどうだったろう」ってふと思ったことがある。百恵さんもこの頃は19歳だったはずだからね。
ところがつい先日、ネットで「(本作のために)市川崑監督が山口百恵にオファーしていた」という噂を拾った。これがもし本当だったとしたら、私なんぞが思いつくようなことは巨匠ならばとっくに考えていた、ってことですね。
市川崑監督の映画版では、多門連太郎は沖雅也さんが演じている。こちらのほうが原作のイメージに近いとは思うが、やっぱり出番は多くなく、ラブ・ストーリーとしては消化不良な感が否めなかった。
水使いの森 [読書・ファンタジー]
評価:★★★★
砂漠の国・砂の領を統べるイシヌ王家に双子の女児が生まれた。双子の姉姫・ミイアは自分が国の乱れとなることを悟り、王宮から逃げ出す。
砂漠で彼女を拾ったのは、西方の森深くに棲み、"水使い" の力を操る伝説の水蜘蛛族だった。
しかしミイアを巡り、砂漠の覇権を狙う者たちが蠢き始める・・・
第4回創元ファンタジィ新人賞・優秀賞受賞作。
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舞台となるのは、広大な "火の国" の西方を占める「砂の領」と呼ばれる地域。そこを統べるイシヌ王家に双子の女児が生まれた。
習わし通りに、妹姫のアリアが世継ぎと定められるが、姉姫・ミイアは妹に先んじて "水使い" の力を身につけてしまった。
王宮近くには「天の門」と呼ばれる、大量の水が湧き出す場所があり、それが "火の国" の大地を潤し、人々の暮らしを支えていた。水を操る "水使い" の力は、イシヌ王家の権力の源泉だ。王位争いなどが生じれば、王家の支配をゆるがすことになる。
幼いながらも、自分の存在が国の乱れにつながることを察したミイアは、王宮から逃げ出す。
砂漠で彼女を拾って保護したのは、西方の森深くに棲む伝説の水蜘蛛族。彼らもまた "水使い" の力を操る者たちだった。
そして砂漠の覇権を狙う者たちは、ミイアの行方を追い始める・・・
まず、登場するキャラクターも多彩かつ魅力的だ。
主人公のミイアは8歳だが、生まれもあって偉そうな口をきくのはご愛敬だろう。世継ぎで妹のアリアはなかなかおおらかな性格で、生来の器の大きさを感じさせる。
二人の母である女王は、本来は忌むべきとされる双子をそのまま育ててきた、慣例に囚われない人物。
王家に仕える二人の武将は、王位継承についての考え方が異なる(これが後半になって国内に波乱を生じさせる遠因となる)。
そして「砂の領」の東隣に位置する「草の領」を支配するカラマーハ帝家は、西方への勢力拡張を虎視眈々と狙っている。
いわゆるファンタジー世界の魔法使い・魔道師は、この世界では "丹術士(たんじゅつし)" と呼ばれる。
彼らを束ねるカンタヴァは、かつてこの地を支配していた一族に連なる者で、イシヌ王家からの支配権奪還を目論む。
そしてカンタヴァのもとでミイアを探す風丹術士のハマーヌ、その相棒の光丹術士・ウルーシャは、体格も性格も正反対のコンビだ。貧しい階級出身の彼らは立身出世のためにミイアを探す過程で、水蜘蛛族の存在に気づいていく。
水蜘蛛族は全身に刺青を入れることで "水使い" の力の制御を行う術を持っていた。ミイアを保護したタータは、一族の中でも指折りの "彫り手" の一人。
しかしタータに対して反撥する者もいて、一族も一枚岩ではない。
このように、キャラ設定と世界設定が絶妙にリンクしていて、砂漠の国の覇権を巡る騒乱が語られていく。
本作は三部作になっていて、次巻は本作の10年後が舞台らしい。本書を読んでいると、それに向けての伏線と思われる記述があちこちにある。
続巻も手元にあるので、近々読む予定。
揺籠のアディポクル [読書・ミステリ]
評価:★★★★
無菌病棟〈クレイドル〉に入院しているタケルとコノハ。患者は彼ら二人だけ。しかし施設を嵐が襲い、外界への通路を断たれてしまう。
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タケルは13歳の中学生。学校で授業中に気分が悪くなり、下校中に気を失った。意識を取り戻した時、彼は〈クレイドル〉と呼ばれる無菌病棟に入院していた。
そこは外界から完全に隔離された施設。8人分の個室が用意されており、太陽電池を備えていて停電しても機能を維持できる。かつては満室だったこともあったが、現在は二人のみ。もう一人はタケルと同い年の少女・コノハ。左腕は球体関節を模した義手になっている。
患者が外界の菌と接触しないように、〈クレイドル〉に出入りする医師・看護師は頭からつま先まですっぽり覆われた "無菌服" を着用しなければならない。
「Part.1:Cradle」では、タケルとコノハの物語が綴られる。
病気の不安や外へ出られないストレスなどで、当初はことごとく衝突していた二人だが、やがて少しずつ打ち解けるようになり、お互いの距離を縮めていく。退院して、二人で外の世界を歩くことを夢見るようにもなる。
しかしある夜、病棟が大きな嵐に見舞われ、〈クレイドル〉と外界を繋ぐ唯一の通路が、屋上から落下してきた貯水槽によって押しつぶされてしまう。
さらに、タケルは死体となったコノハを発見する。胸を刺され、凶器のメスは病室の外の廊下に投げ捨てられていた。
続く「Interlude(I)」では、タケルが入院してくる前、〈クレイドル〉にコノハを含めて8人の患者がいた頃のエピソードが語られる。
そして「Part.2:Hospital」では、意を決して "外界" へ脱出したタケルの冒険行が語られる。
外部との連絡を絶たれるという異常事態にも拘わらず、医師も看護師も含めて救援が一向に現れない。
続く「Interlude(II)」でも、なかなかショッキングなエピソードが語られる。そして最終章「Par.3:Adipocere」に至り、タケルは二人が感染していた疾病の正体、コノハ殺害の真相、そして衝撃的な○○の○○を知ることになる。
おもわず「まさか!」って叫びそうになった(叫ばなかったけど)真相は、すんなりとは納得できなかったのだけど、序盤を読み返してみると、けっこう早い時期から重要な事項があちこちに記述してあったことが分かる。ただ、初読時にはそれが伏線だと気づかないんだよねぇ・・・。いやあ、参りました。脱帽です。
ミステリとしても鋭い切れ味の作品なんだけど、メインとなるのはタケルとコノハの物語。お約束のボーイ・ミーツ・ガールから始まる典型的なラブ・ストーリーなのだが、途中でコノハが亡くなってしまうことで、悲恋となるのが確定してしまう。
女と男、そして殺し屋 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
経営コンサルタントの富澤充、通信販売業を営む鴻池知栄。二人の副業は殺し屋だ。お互いの存在は知らないが、時に "仕事" の場で相手の影を感じることもある。
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経営コンサルタントの富澤充(とみざわ・みつる)、ネットで通信販売を営む鴻池知栄(こうのいけ・ちえ)。しかし二人は殺し屋を副業にしていた。お互いの存在は知らないが、時に "仕事" の場で相手の影を感じることもある。
「遠くで殺して」
「ペアルック」
「父の形見」
「二人の標的」
「女と男、そして殺し屋」
文庫で120ページほどある中編。富澤と知栄の競演が楽しめる。
知栄の今回の標的は床田輝子(とこだ・てるこ)・72歳。一歳上の夫と二人暮らしだ。条件は「来年の2月12日までに殺すこと」。
床田輝子は9ヶ月前に車のアクセルとブレーキを踏み間違え、死亡事故を起こしていた。被害者は植木佐緒里(うえき・さおり)。雄太の母親だった。
3年前に父を、9ヶ月前に母を、相次いで交通事故で喪った雄太はそれ以降、一人暮らしをしていた。賠償金や生命保険で生活費や学費の心配はないようだ。母親を喪ったショックからも立ち直ったようで、現在は難関で知られる関東工科大学を目指して受験勉強に励んでいる。模試でもB判定がでているらしい。彼の夢は「事故を起こさない車をつくること」。
現在、彼の生活全般の面倒を見ているのは、隣家に住む幼馴染み・葛西実花(かさい・みか)。同じ学校に通うクラスメイトでもある。毎日雄太の家に行き、一緒に勉強もするなど、ほとんど通い妻状態(笑)。
幼馴染みで同級生、家が隣同士で、二人揃って優等生という、なんともマンガのようなカップルだ。
富澤も知栄も、それぞれの標的の周辺調査を通して依頼の内容に疑問を覚えていく。お互いの存在に気づかない二人だが、調査の過程で何度かすれ違っていく。やがて「2月12日」が、関東工科大学の合格発表の日だと判明するのだが・・・
正直なところ、それぞれの殺人を依頼してきた者たちの正体も動機も、実行日について「2月12日」に拘る理由もさっぱり見当がつかないまま、ストーリーは進行していく。
ラストにひねりの利いた "ひと言" があるのがこのシリーズの特徴のひとつなのだが、今回の知栄が発する最期の台詞には全くひねりがない。
田中敦子さん、ご逝去 [日々の生活と雑感]
1995年の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』以来、30年近く演じてこられた草薙素子役があまりにも有名ですが、それ以外にも多くの役を演じておられます。私が好きなのは『シドニアの騎士』のサマリでしたね。
彼女が演じる ”戦う女性” は、凜としてカッコよく、とてつもなく力強く、そして深い知性と信頼性抜群のリーダーシップを併せ持つ。まさにパーフェクト・ソルジャー。
田中さんの声を最後に聞いたのは今年1月~3月に放映された『勇気爆発バーンブレイバーン』のクーヌス役でした。時期を考えると、闘病しながらの出演だったのでしょう。そのプロ意識には頭が下がります。
最近、ベテランの声優さんたちの訃報が続きます。ですが、ご高齢であればともかく、人生百年時代の61歳はあまりにも早すぎでしょう。
ごゆっくりお休みください。
予告状ブラック・オア・ホワイト ご近所専門探偵物語 [読書・ミステリ]
予告状ブラック・オア・ホワイト ご近所専門探偵物語 (創元推理文庫)
- 作者: 市井 豊
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2019/02/20
評価:★★★
真面目が取り柄の派遣社員・渡会透子は、探偵・九条清春の秘書を務めている。怠け者でズボラな九条だが、かつては全国を股に掛けた名探偵だったらしい。しかし今は地元・川崎の街で起こった事件専門の "ご近所専門探偵" となっている。
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派遣社員の渡会透子(わたらい・とうこ)は生真面目さが取り柄の25歳。よく云えば責任感が強く謹厳実直、悪く云えば堅物で面白みがない性格だ。そんな彼女が、なぜか日本有数の企業体・九条グループ会長の目にとまり、彼の孫・九条清春(くじょう・きよはる)の秘書を務めることに。
「予告状ブラック・オア・ホワイト」
「桐江さんちの宝物」
「嘘つきの街」
「おかえりエーデルワイス」
「絵馬に願いを」
日常の謎系でも、川崎市内限定というニッチな(笑)ミステリ。川崎市といえば、横浜市の影に隠れがちでちょっとマイナーなイメージを持っていたのだが、調べたら何と人口154万人という堂々の大都市。さいたま市より20万人も多く、千葉市の1.5倍くらいあるんだからビックリである。さすが神奈川県(笑)。
本書で一番印象に残ったのは「嘘つきの街」かな。whatdunit のミステリとしてはちょっと弱いとも思うけど、「いい話」なので読後感がとてもよい。
正反対な性格の透子と九条のコンビも良い味を出してる。九条がとぼけた言動をするたびに、透子さんが(頭の中で)九条に右ストレートを叩き込んだり、ボディプレスをかけたり、一本背負いを決めたりするところは爆笑もの。次は何を食らわせるんだろうと楽しみになってしまった(笑)。
雷神 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
小料理屋を営む藤原幸人は娘の夕見と二人暮らし。しかし、一本の脅迫電話が平和な生活を揺るがせる。
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主人公・藤原幸人(ふじわら・ゆきひと)は小料理屋を経営しているが、妻の悦子(えつこ)が交通事故で死亡してしまう。しかもそれは、当時4歳の娘・夕見(ゆみ)が引き起こしたものだったという、かなりショッキングなエピソードが冒頭で語られる。
夕見本人はそれを全く知らずに成長し、19歳となった今は大学で写真を学びながら、時に父の店を手伝っている。
心労で体調を崩した幸人に、夕見が遠出を提案する。行く先は新潟県羽田上(はたかみ)村。幸人と姉・亜沙美(あさみ)の故郷だった。
31年前、姉弟の両親である南人(みなと)と英(はな)の夫婦は村で居酒屋を経営していた。しかし村の祭りである〈神鳴講〉(かみなりこう)の夜、英の変死体が発見される。
毒殺事件の容疑者として南人の名が挙がったが逮捕までは至らず、彼は姉弟を連れて村を出たのだった。
幸人・亜沙美・夕見の三人は身分を偽って村に入り、当時を知る者たちに話を聞いて回るのだが、そのさなかに "脅迫者" も姿を現し、それが殺人事件につながっていく・・・
舞台となる羽田上村は山中の寒村。冬場の雷が名物で、雷神を祀った雷電神社がある。
30年前に落雷に撃たれた時、姉の亜沙美は17歳。片耳の聴力を失い、身体にはやけどの跡が残る。そのためか、47歳の今まで独身だ。弟の幸人とともに落雷前後の記憶も失っている。
過去を探る幸人たちの協力者として現れるのが郷土史研究家の彩根(あやね)。一見すると胡散臭い人物なのだが、実は作者の他の作品にも出てくるキャラクターで「何も解決しない探偵みたいなもの」。
夕見は大学で写真を専攻しているという設定だが、それが彩根と知りあうきっかけになったり、南人が毒殺事件の直前に撮影していた写真が真相解明の突破口になったりと、そのあたりのつなげ方は上手いと思う。
登場人物は多いが、事件の重要関係者はさほど多くない。それでも真犯人にはかなり意外性を感じるのは、展開と語りの妙があるのだろう。それこそベテランの技か。
甘美なる誘拐 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
真二と悠人はヤクザの下っ端。兄貴分にこき使われている最中、殺人事件に巻き込まれる。
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真二と悠人はヤクザの下っ端。兄貴分の荒木田からこき使われる毎日だ。
一方、調布で自動車部品店を営む植草浩一と菜々美の親娘は、地上げ屋からの嫌がらせに苦しんでいた。打開策のためになけなしの資金を投入するが、それがそのまま手形詐欺に遭って騙し取られてしまう。このままでは廃業を待つだけだ。
物語の序盤は、この二つのパートが交互に語られていく。そして章の合間の「インタールード」では、新興宗教ニルヴァーナの教祖の孫娘・春香の誘拐事件が描かれる。
そしてこれ以外にも様々な細かいエピソードが積み重ねられていく。ストーリーに直接関係しない(と思われる)ような、些細なことも多いのだが、これらが終盤になると、ジグソーパズルのピースとなって組み上がっていき、大きな絵が完成していく。しかも完成する絵は、当初の予想とは全く異なるものだ。
殺人事件から始まった物語は途中から誘拐事件へと移行する。ストーリーの行き着く先が見えなくて戸惑っていたら、なんと終盤では○○○○○○へと驚愕の展開を迎える。
中性的な優男で頭脳派の真二、ガタイが良くて関西弁で語る肉体派の悠人。主役二人を含めて数多くのキャラが登場するが、端役まで含めてみな個性的でしっかりキャラ立ちしている。
そんな多彩なキャラたちを駆使して重層的なストーリーを語りきり、しかも読者にミステリ的なサプライズを与える。この才能は新人離れしていると思う。
そして終わってみれば、殺人事件も地上げ屋に苦しむ親娘も誘拐された教祖の孫娘も、みんな綺麗に納まるべきところに納まるという、理想的な大団円。エンタメとしても傑作だ。