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或るギリシア棺の謎 [読書・ミステリ]


或るギリシア棺の謎 (光文社文庫 つ 12-17)

或るギリシア棺の謎 (光文社文庫 つ 12-17)

  • 作者: 柄刀一
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2024/02/14
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 篤志家・安堂朱海の弔問に訪れた南美希風。しかし葬儀を前にして謎の脅迫状が出現し、遺書の偽造が判明するなど朱海の死に他殺の疑いが持ち上がる。
 そして朱海の孫娘・夏摘は四年前に失踪し、一年前に刺殺死体となって発見されていた・・・

 柄刀一版『国名シリーズ』第二弾。今回は長編だ。

* * * * * * * * *

 主人公兼探偵役の南美希風(みなみ・みきかぜ)は、かつて心臓移植手術を受けていた。そのときに尽力してくれた恩人の篤志家・安堂朱海(あんどう・あけみ)が死去したとの報を受け、法医学者エリザベス・キッドリッジとともに、愛知県にある安藤家にやってくる。

 享年83。自然死かと思われた朱海だったが、殺害をほのめかす脅迫状のような謎の文書がみつかり、さらに残された遺書に偽造の疑いが持ち上がる。

 そして朱海の孫娘・夏摘(なつみ)は早くに夫を喪い、30歳だった四年前には失踪、一年前に刺殺死体となって発見されていた。

 司法解剖の結果、朱海の遺体からはヒ素と鉛が見つかり、毒による他殺と判明するのだが・・・


 安堂家は、戦国時代末期に漂着したギリシア人を祖とすると伝えられる。
 折しも江戸幕府の鎖国政策によって帰国の道を閉ざされた一族は、難破船を解体した木材を再利用してギリシア意匠の棺を製作、死後はその棺に納めらるれることで、故郷へ魂となって "帰還" することを願ってきた。

 しかし棺の数は多くなく、納められる許しを得られるのは血のつながった者のみ。だから、他家から嫁いできた者などは入れない。

 企業を営む一族の間にありがちな、複雑な人間関係もあり、人知れぬ思惑や葛藤、疑念や憎悪、そして欲望が一家の間には渦巻いていた。

 安堂家に産まれた朱海はギリシア棺に納められることになった。ちなみに夫の光深(みつふか)は婿養子のため、死亡しても安堂家の棺に納められることはない(血族以外には一般的な普通の棺が用意される)。

 しかしギリシア棺の収納庫の床に落ちていたのは、殺害をほのめかす脅迫状のような謎の文書。誰も立ち入れなかったはずの場所に、突然出現したことになる。

 四年前の夏摘の失踪の時も、一族内に犯人がいると思われたが、関係者全員にアリバイが成立していた。

 そして朱海の毒殺。しかし朱海と光深は夫婦のみで食事を摂っていて、第三者が毒を盛ることは不可能だった・・・


 本作は文庫で500ページ近いのだが、描かれているのは、美希風の安堂家到着から、葬儀の出棺までのおよそ二日間ほどの時間。

 しかも、終盤の160ページほどは、ほぼまるまる美希風による謎解きシーン。物証が少ない上に時間の壁もある。おのずと "推測" にならざるを得ない部分も多い。

 だからこそ、美希風の推理は堅実だ。推測とは云っても、そこに至るまでの論理をゆるがせにしない。他の可能性をひとつずつ排除していき、確実性を高め、堅牢な推論を積み重ねていく。

 ここのところが本作の目玉だ。五里霧中だった安堂家を巡る不可能な謎の数々が、綺麗にひもとかれていく。そしてそこに浮かび上がるのは、一族のくびきに囚われた者たちの哀しい運命だ。

 本家であるクイーンに負けじと、論理を前面に出した作品。派手さはないが、”ミステリを読む喜び” が味わえる作品だと思う。



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殺人者を乗せて 鉄道ミステリ傑作選 〈昭和国鉄篇III〉 [読書・ミステリ]


殺人者を乗せて 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編III〉 (双葉文庫)

殺人者を乗せて 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編III〉 (双葉文庫)

  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2021/12/16
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 鉄道ミステリ傑作選、第三弾。五編を収録。

* * * * * * * * * *

「『雷鳥九号』殺人事件」(西村京太郎)
 文庫で約130ページと、本書の半分を占める中編。
 大阪発金沢行きの特急『雷鳥九号』の車内で、会社社長・羽田真一郎の射殺死体が発見される。車掌の証言から、事件直前の被害者と車内で話していた女性・三浦由美子が容疑者として浮上、逮捕される。凶器の拳銃は下り線路の近くで発見された。しかし彼女は黙秘を貫いたまま裁判に臨むことに。
 ところが金沢市内で代議士の射殺死体が発見され、凶器が羽田殺害と同一の銃と判明する。しかも、死亡推定時刻から逆算すると、三浦由美子が大阪を発つ前に金沢で使用されていたことになる・・・
 いわば "拳銃のアリバイ"。拳銃発見現場へ赴いた十津川警部が、行き詰まった捜査の突破口を見つけるという、二時間ドラマそのまんまの展開。でもよくできてる。


「『殺意の風景』隆起海岸の巻[鵜の巣断崖]」(宮脇俊三)
 文庫で13ページほどの掌編。
 愛人・K子を殺害すべく、綿密なアリバイ工作を用意した "私"。二人で東北新幹線に乗って盛岡へと向かう。いくつか予想外の事態に遭遇するも、計画を細かく修正していく "私"。そして "その瞬間" がやってくるのだが・・・

「『殺意の風景』石油コンビナートの巻[徳山]」(宮脇俊三)
 こちらも文庫で13ページほどの掌編。
 (国会議員と思われる) "私" は、飛行機が満席と云うことで夜行列車で帰京することに。同行していた建設会社の社員は、"私" に徳山コンビナートの視察を勧める。途中下車しても、山陽新幹線を利用すれば、またこの列車に乗れるのだというが・・・

 二作とも、短いながらも意外かつ皮肉な結末を迎える。


「準急『皆生』」(天城一)
 ファッションデザイナー・江迎登志子(えごう・としこ)の絞殺死体が発見される。容疑者に浮上したのは、大阪でファッションの店を経営する船越昭三(ふなこし・しょうぞう)だった。
 しかし彼はアリバイを主張する。中国地方の山歩きに出ていて、岡山の新見駅で準急『皆生』に乗り遅れてしまった。そのため、犯行時刻までに東京へ着くことはできなかったというのだが・・・
 時刻表が三枚も挿入されるなど、なかなか込み入っている。私は時刻表があまり好きではないので往生したが、真相は意外にシンプル。


「浜名湖東方一五キロの地点」(森村誠一)
 朝田申六(あさだ・しんろく)は大学生。親の仕送りで何不自由なく暮らしているが、欲求不満に苛まれるという、なんとも贅沢な悩み。
 時代は70年安保闘争の頃。若い人は知らないかなぁ。判らない人はグーグル先生に聞いてください(笑)。
 朝田は思想的にはノンポリなのだが、彼が思いついたのはなぜか来日している海外要人の暗殺(おいおい)。
 特別列車に仕立てた新幹線で東京から大阪へ向かう要人を殺すために、朝田はある方法を思いつく。手製の爆弾を用意してことに臨むのだが・・・
 いくら日本の鉄道が時刻表通りきっちり運行するからと行って、これで成功するとはちょっと思えない。けどまあ、彼にとっては実行することに意味があるのだろう。
 そして結果はまさに因果応報。テロで歴史は変えられない(と信じたい)。



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『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第一章 黒の侵略』2回目鑑賞 & Blu-ray到着 [アニメーション]




※ネタバレはありません。


 昨日(26日)、『3199 第一章』かみさんと2回目の鑑賞に行って参りました。

 ところが家を出ようとした矢先、玄関にピンポーン。Blu-ray が届きました。「7/26に発送開始」ってメールをもらってましたから、届くのは早くても27日かなぁと思っていました。ちょっと嬉しくなりました。

 とは言ってもこれから映画館へ行かなければならないので、Blu-ray は神棚に上げて(笑)、出発しました。

 平日(金曜)の昼間にしては、けっこうお客さんが入ってましたね。ネットでチケットを取った時にはかなりガラガラだったので心配してたんですが、ひとまず安心。
 かみさんによると「年配女性のお一人様も多かったみたい」とのこと。わたしは全く気づきませんでしたよ。なにせ朴念仁なモノで。

 もちろん上映二週目の入場特典もゲット。

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 かみさんが「これは何?」と聞くので
「旧作で出てきた ”重核子爆弾” というモノで、
 リメイクでは ”グランドリバース” に相当するモノ」と答えました。
「ふーん。なんだかイカみたいね」
「イ、イカぁ???」
この人とは30年以上連れ添ってますが、未だに独特の感性には驚かされます。


 さて、家に帰ってきたら、Blu-rayの開封です。

 とても立派な段ボール容器に入ってます。

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Blu-ray。スリーブケースはグランドリバースを迎撃する地球艦隊。
本編とは異なる部分があるのだけど、イメージイラストってとこでしょう。

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Blu-ray 裏面。

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特典の「第一話シナリオ & 絵コンテ」と「メカニカル読本【地球編】」

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その裏面。

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イラストは古代・島・南部・太田・相原。
思えば彼らとも長いつき合いになりました。
いつか、こんなシーンが観られたらいいなぁ・・・


 Blu-ray の方も再生してみました。いちばん興味があったのはTVサイズのオープニング映像ですが、「おお、こう来たか」という感じですね。

 エンディングの歌がワンコーラスだけになってしまったのは、分かってはいましたが残念。映画館ではフルコーラス聴けましたからね。
 これを聞くためにも、もう何回か通いそう(笑)。




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漣の王国 [読書・ミステリ]


漣の王国 (創元推理文庫)

漣の王国 (創元推理文庫)

  • 作者: 岩下 悠子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/01/19

評価:★★★★


 綾部蓮。美貌と才能に恵まれ、周囲の人々を魅了する。そんな、あたかも異国の王様のような輝きを持った青年が、命を落とした。
 彼と共に学生時代を過ごした者たちを描く四つの物語を通じ、綾部の死の真相が浮かび上がる、連作ミステリ短編集。

* * * * * * * * * *

 綾部蓮(あやべ・れん)という青年が自殺とみられる遺体となって発見される。
 生前の彼は、美貌と才能に恵まれ、周囲の者は男女問わず魅了されてしまう、あたかも異国の王族のような青年だった。

 しかし生活は享楽的だった。つき合う女性は頻繁に入れ替わる(というか、彼の後ろにはつき合いたいと願っている女性が列をつくって待っている状態)し、大学時代に所属していた水泳部の練習も、およそ熱心とは言い難い(それでも大会ではしっかり上位に入ってしまう)。

 その綾部が、自殺と思われる遺体となって発見された。
 何が彼を死に追いやったのか?
 彼と直接/間接に関わった者たちによる四つの物語を通じ、彼の死の謎に迫っていく。


「スラマナの千の蓮」

 綾部と同じ大学に通う遠山瑛子(とおやま・えいこ)。彼女もまた綾部に憧れを抱いて水泳に取り組んでいた。練習はひたむきで、作中の表現でも "修行僧のよう" と形容されている。しかしそれが結果に結びつかない状態に忸怩たる思いを抱いている。

 そんなとき、彼女の前に医学部生の猫堂(ねこどう)が現れる。彼は北原舞(きたはら・まい)という学生が妊娠していると告げ、その父親を調べてくれたら、瑛子のタイム向上に協力するという。
 北原はプールサイドによく現れて、水泳部の練習を見ている女子学生だった。
 彼女の相手は綾部ではないかと考えた瑛子だったが・・・

 物語の中心にいるのは綾部なのだが、本作では猫堂というキャラがとにかく強烈。胡散臭くて変態的でやたら馴れ馴れしい。いったいこいつは何なんだ・・・とも思うが、ストーリーが進むにつれてその印象が変化していくのが面白い。

 ヒロインとなる瑛子さんはとにかくストイック。綾部への憧れを抱きつつも、生活の全てを水泳に賭けている。しかし記録が伸びないなど悩みは尽きない。
 こういうキャラは嫌いじゃない。おそらく多くの読者も彼女に好感を抱くのではないか。

 北原の妊娠騒ぎは、かなり意外な顛末を辿って幕となる。


「ヴェロニカの千の峰」

 「スラマナ-」の十数年後が舞台。

 京都の修道院で修行中の若い女性・森江絹子(もりえ・きぬこ)が失踪する。
 彼女の指導をしていた先輩シスターは、絹子が持っていた "あるもの" を手がかりに、彼女の過去に失踪の理由を求めていく。

 やがて、絹子が幼い頃にスイミングクラブに所属していて、そこで "シンちゃん" なる少年と出会っていたことを知る。絹子が "シンちゃん" に対して抱いていた感情が失踪に関係するとみた先輩シスターは、"シンちゃん" の行方を追う。

 そしてその過程で、"シンちゃん" が綾部蓮という青年と関わりがあったことを知るが、既に綾部はこの世を去っていた・・・

 綾部は本作では間接的にしかストーリーには関わってこないのだが、それでも、ここで描かれるのは彼に出会ったことで運命が変わっていってしまった者たちの人生だ。


「ジブリルの千の夏」

 東京で暮らす専業主婦・朝子(あさこ)のもとへ、一人の青年が現れる。
 彼は朝子が大学時代に留学生として知りあい、今は故郷の国で暮らしている女性・ライラから、”贈り物” を言付かってきたのだ。
 それをきっかけに朝子は十数年前の学生時代を回想する。

 大学生の一時期、綾部蓮と交際していた朝子だったが、半年後には綾部は別の女性に ”乗り換え” てしまっていた。
 傷心の朝子は、医学部で学んでいた留学生ライラと知りあう。ちなみに、作中の描写からライラはイスラム圏の出身のようだ。

 ライラを通じて医学部生の猫堂、彼の指導教授である狐塚(きつねづか)と知りあっていく朝子。彼らの中で勉学に励んでいたライラだったが、故郷の国で従兄弟との結婚が決まったことで、帰国が早まることになった。

 残り少なくなった期間を、ライラは猛然と勉学に励みだす。それも、まるで自分の命を削るかのように。そんな中、ライラは "ある騒ぎ" を起こした。朝子が受け取った贈り物は、それに関係するものだった・・・

 望まぬ結婚のために帰国していったライラ。しかし今の朝子もまた、心の通わぬ夫と暮らしている。異国で暮らしている友を思い、自分の生活に葛藤する朝子の姿が描かれていく。


「きみは億兆の泡沫(うたかた)」

 綾部が亡くなって三回忌を迎える頃。医学部を卒業して研修医となっていた猫堂は狐塚教授のもとを訪れ、意外なことを告げる。

 そこから時間軸は猫堂の大学生時代へと戻る。
 猫堂と綾部は、狐塚教授から "あること" を依頼されていたのだが・・・

 時系列的には「スラマナ-」の後日談だが、「ヴェロニカ-」「ジブリル-」で活躍したキャラたちも再登場し、綾部・瑛子・猫堂の関係が改めて描かれていく。そして綾部が死に至る事情も。

 ミステリとしてみるなら、探偵役は猫堂になるだろう。「きみは-」での活躍ぶりを見ていると、初登場時の曲者ぶりが嘘のようだ(一筋縄でいかないあたりは変わらないが)。
 瑛子とのやりとりまで微笑ましく感じられるなど、猫堂くんの ”化け” ぶりはスゴい。


 作者は本業は脚本家のようだ。『相棒』『科捜研の女』などのミステリ・ドラマの脚本を多く手掛けているとのこと。ならば、本書のストーリー展開やキャラ描写が手慣れた感じなのも頷ける。



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小原乃梨子さん ご逝去 [日々の生活と雑感]



 また一人、昭和の時代から活躍されていた名声憂が鬼籍に入られました。
 小原乃梨子さん、享年88。


 小原さんの出演作を、私の記憶と共に振り返ってみます。

 私が小原さんの声を知ったのは、たぶん1970年の『海底少年マリン』(マリン役)からですね。

 74年の『アルプスの少女ハイジ』は観ていなかったので、ペーター役で出ていたことは後で知りました。私はこのとき裏番組だった『宇宙戦艦ヤマト』を観ていたもので(笑)。小原さんは『ヤマト』が低視聴率で ”撃沈” されてしまった一因になった人です(おいおい)。
 でも、4年後の78年には『宇宙戦艦ヤマト2』にサーベラー役で参加してくれました。映画とは違って黒髪の、いわゆる ”黒サーベラー” のほうね。

 75年から始まった『タイムボカン』シリーズの ”三悪人” のリーダー役では楽しませてもらいました。

 そして78年の『未来少年コナン』では堂々の主役。個人的には宮崎駿の最高傑作だと思っている作品です。『ナウシカ』も『ラピュタ』も『カリオストロ』もみんなここから始まってますから。

 79年からは『ドラえもん』が始まります。流石にこの頃には、この手の低年齢向けアニメを見る頻度は下がってましたが、それでも夜のゴールデンタイムでの放送でしたから、しょっちゅう目にする機会を得ていました。

 82年TV版『超時空要塞マクロス』と84年映画版の『愛・おぼえていますか』のクローディア、そして『クラッシャージョウ』(83年の映画と89年のOVA)のリッキーも忘れ難い。

 その他にも、洋画の吹き替えに多数参加されてます。Wikipediaの「出演」欄を観ると、まさに「枚挙に暇がない」状態。


 人間の生には限りがありますから、いつかは別れの時が来ます。分かってはいるのだけど、やはり昔から慣れ親しんだ声優さんの訃報は哀しいものです。

 ご冥福をお祈りいたします。
 合掌。


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天の川の舟乗り [読書・ミステリ]


天の川の舟乗り: 名探偵音野順の事件簿 (創元推理文庫)

天の川の舟乗り: 名探偵音野順の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/02/17
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 極度の弱気で引きこもりの名探偵・音野順。その助手にしてミステリ作家の白瀬白夜は、事件のたびに苦労して相棒を引っ張り出して解決へと導いていく。
 シリーズ第三弾の短編集。4作を収録。

* * * * * * * * * *

「人形の村」

 白瀬白夜(しらせ・びゃくや)の友人・旗屋千一(はたや・せんいち)は、5年前に経験した事件を語り出す。

 オカルト情報誌の編集部で働いていた旗屋のもとに、「私の家には髪の毛が伸びる人形がある」という投書が舞い込む。
 投稿者である田島未知子(たじま・みちこ)の家を訪れた旗屋は、人形が置いてある部屋で一晩を過ごすことに。
 何事も無く迎えた朝、彼女の両親に未知子のことを訪ねたところ、「娘は一年前に死んだ」という・・・

 怪談めいた話から、音野順(おとの・じゅん)は周到な犯罪計画を暴き出す。不可解な事象も、視点を変えてみれば合理的に説明されてしまうという見本のような話。


「天の川の舟乗り」

 文庫で約170ページの中編。本書のおよそ半分を占める。

 全国でも有数の深さを持つ真宵(まよい)湖は、地元・金延(きんのべ)村の住民からは「迷い湖」と呼ばれている。
 そこでは深夜の湖上、水面から数m上空を小舟が "飛んでいた" という目撃談が語られる。それはUFOだったのか・・・?
 さらに、その湖には未確認の巨大水棲生物までいるとの噂があり、住民たちはその生き物(UMA)を "マッシー" と名付け、村おこしに利用していた(笑)。

 音野順の事務所を訪れたのは松前乙姫(まつまえ・おとひめ)という若い女性。彼女の住む金延村では毎年、金塊祭(きんかいまつり)が行われる。金塊を載せた神輿で村中を練り歩くというものだ。

 ところが、今年の祭を前にして予告状が舞い込んできた。
 「祭の夜 金塊を頂く 怪盗マゼラン」

 しかし祭で使う金塊は、とっくの昔に現金化されて村の振興のために使われてしまっており、いまの "金塊" は、ただの石を金色に塗ったもので全く価値はないのだという。
 しかし "金塊" が盗まれて、偽物であると判ってしまうと村の観光に差し支える。そこで、金塊祭保存会長・松前周五郎(しゅうごろう)の娘である乙姫が依頼にやってきたのだ。

 白瀬は音野を強引に連れ出して金延村にやってくる。

 祭が始まり、神輿は収納庫を兼ねた洞窟を出発、何事も無く村中を回った後に洞窟へ帰還するが、その中では住民が一人、死体となっていた。
 洞窟の入り口の扉には錠前が掛かっており、そのカギは、置かれていた松前家から持ち出されていないという・・・

 犯人は密室状態の洞窟へ如何にして出入りをしたか。
 明らかになるのは大胆極まる物理トリック。文章に書くのは簡単だが、実際に行ってみるとかなり難しいように思う。バカミスネタともいえる。でもまあ、そのあたりを云々するのは野暮というものだろう。
 それよりも、犯人の哀しい動機のほうが印象に残る。


「怪人対音野要」

 イギリスの古城に招かれてきたのは、世界的な指揮者・音野要(かなめ)。順の兄である。
 古城で古い楽器群が発見され、城を所有する富豪ヘンリーから鑑定を頼まれたのだ。

 城にいたのは、音楽家のダニエル、ヘンリーの息子ロイ、そして使用人のアダム。しかし要が城に着いた早々、ダニエルが殺害される。

 犯人と思われる黒マスクの男は、城の地下へ逃げ込んだ。そこには地下牢があり、さらに外部へ通じる出口もあったが、その先は、折からの豪雨で水量が増した川に面しており、ここから逃げることはできない。
 黒マスクの怪人はどこへ消えたのか・・・?

 密室状態からの人間消失。こちらも意表を突いた物理トリックが炸裂する。実現可能性はともかく、こんなおバカなトリック(褒めてます)を思いつくセンスを賛美しよう。


「マッシー再び」

 「天の川の舟乗り」事件の舞台となった金延村で再び不可解な事件が起こる。

 村を観光で訪れていた客が、道ばたで死体となって発見された。
 全身を打撲し、直接の死因は頭部への強い衝撃。そして現場近くには、金塊祭で使われる "金塊"(石を金色に塗ったニセモノ)が落ちていた。

 被害者と共に村を訪れていた堀川(ほりかわ)という男が第一容疑者となったが、彼は事件の前から右肩を骨折しており、重いものを持ち上げることはできなかった。

 さらに遺体の周囲には、バラバラになった神輿、そして大量の砂が散らばっている。まるで "マッシー" が歩いた跡のような。果たして、"マッシー" が "犯人" なのか・・・?
 乙姫の依頼で再び村を訪れた音野順が謎を解く。

 これもまた奇想天外な物理トリック(というか物理的方法)が披露される。本書の中ではいちばん無理がありそう、というかいちばんバカバカしい(繰り返しますが褒めてます)。
 まあそれを言ったら本書に登場するトリックはどれをとっても五十歩百歩だが(おいおい)、ここまでくるともはや様式美の世界か。天晴れである。



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#拡散希望 その炎上、濡れ衣です [読書・冒険/サスペンス]


#拡散希望 その炎上、濡れ衣です (宝島社文庫)

#拡散希望 その炎上、濡れ衣です (宝島社文庫)

  • 作者: 冨長 御堂
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2023/03/07
  • メディア: 文庫
 

評価:★★★☆


 ウエディング・プランナーの藍原ひかるは、同僚が手掛けた披露宴でのトラブル収拾に手を貸した。しかし、新婦からの投稿で式場が ”炎上” してしまう。
 そしてなぜか、その矛先がひかるに向かってくることに・・・

* * * * * * * * * *

 ホテルチェーン「ハルモニア上野」の婚礼部で、ウエディング・プランナーとして働く藍原(あいはら)ひかるは、顧客からの評判も高く、社内でも指折りの評価を得ていた。

 そこを訪れたのが、野間口修平(のまぐち・しゅうへい)と麻生詩絵里(あそう・しえり)のカップル。二人の担当となったのは、ひかるの同僚の美濃昭彦(みの・あきひこ)。

 美濃は外部から転職してきて、その後はあちこちの部署を転々としてきた。婚礼部への異動も二度目。その理由は、ストーリーの進行とともに明らかになっていくのだが、要するに "使えない奴" なのだ。
 ひと言で云えばズボラ。根拠が無いくせにやたら楽観的なので仕事は遅いし、顧客との大事な約束事も忘れる。報告や連絡も穴だらけ。困っても相談など一切しない、というか自分が困った状況になっていることに気づかない。

 そんな奴がなんでクビにならないんだ・・・と思うところだが、なぜかのうのうとしている。その理由は後半になって明らかになるのだが、まあ予想通りの背景がある。

 その美濃が担当する野間口・麻生カップルもまた、家庭内にいろいろな事情を抱えてるらしく、式の内容がなかなか決まらないし、そのせいか何度も会場まで足を運んでくる。
 普通のカップルよりも、より注意深く対応する必要があるカップルに対し、よりによって一番関わってはいけない人物が担当になってしまった・・・ここに今回の騒動の根幹がある。

 当然ながら式はトラブルの連続となり、途中からヘルプに入ったひかるの尽力でなんとか収拾して終わった。しかし夫妻の怒りは収まらず、式場へ抗議にやってきた。

 美濃と婚礼部のマネージャー・大森が対応に当たるが、その際、夫妻の追求を逸らすために、トラブルの原因となった人物としてひかるの名を挙げ、責任を押しつけてしまう。

 式場の対応に納得できない夫妻は、SNSに投稿してしまう。さらに悪いことに、新婦・詩絵里の友人・根岸公恵(ねぎし・きみえ)が、夫婦を "応援" すべく過激な投稿を続ける。どんどん騒ぎは広がり、事態は収拾不能状態に。
 かくして、ネット上には『A原、死んで詫びろ』という書き込みがあふれかえることに・・・

 自分のあずかり知らぬところで炎上騒ぎの当事者となってしまったひかるは茫然自失してしまう。
 当然ながら上司たちはひかるを庇うどころか、職場から隔離し、野間口夫妻と接触させまいとする。
 しかしそれは夫妻からすれば「責任者が逃げている」と受け取られ、火に油を注ぐ結果になってしまう。

 絶体絶命の危機に陥ったひかるが出会ったのは、弁護士の九印葉桜(くいん・はざくら)。彼女はひかるに訴訟を起こすことを提案する。その相手は・・・


 ネット社会である現代ならではのサスペンスだろう。

 厄介なのは、炎上騒ぎに加担している人間の、たぶん99%は "善意" や "正義感" から、式場とひかるを叩く書き込みをしているのだろうということ。
 ただ、自分が正しいと信じている人間ほど、行動の制限が効かなくなりがちだ。だからどんどんエスカレートしていく。
 世界中で起こっている戦争・紛争だって、みんな当事者同士が "自分の正義" を信じてるんだから。

 物語はひかるが訴訟を決意し、相手側に訴状を突きつけるところまで進んでいく。もちろん、訴訟が起こされると分かった時点で、この騒ぎに関わった人間は慌てだす。だいたい、軽い気持ちで参加している者が大半だから、自分の形勢が悪くなると簡単に逃げ出すわけだ。
 というより、次第に飽きてきて、次の新しい話題に移って行ってしまう、ってことなのかも知れない。その程度のことなのだけど、そうなるまでの間は、非難の対象となった当事者にとっては耐えられない時間だろう。


 個人的には、ちゃんと裁判の内容まで描いて、事態の原因や責任の追及まできっちり世間に対して明らかにしてほしかったなぁとも思わないでもない。
 でもそこまで書かなかったのは、裁判が終わる頃にはネット上ではこんな騒ぎは綺麗さっぱり忘れ去られていて「いまさら」ってことになってるだろう・・・てことなのかも知れない。そこまで作者が考えたのかどうかは分からないが。


 作者はこれが小説デビューらしいが、キャラの書き分けも上手い。特にひかるの数少ない味方となる同僚・四ノ宮祐斗(しのみや・ゆうと)の、飄々としたところがとてもいい。
 炎上するひかるのパートではハラハラしたし、美濃の "働きぶり" を描くパートではホントに腹が立つなど、筆力も充分にある。
 作者の経歴を見ると、編集やライターや脚本執筆など、文章に関わる仕事をしてこられたようなので納得できる。

 ミステリでもSFでもないけれど、とても楽しく読ませてもらいました。



タグ:サスペンス
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『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第一章 黒の侵略』を観てきました [アニメーション]


※ネタバレはありません。


 去る7/20(土)、『3199 第一章』を観てきました。場所はMOVIXさいたま。

3199_1MV.jpg

 かみさんも退職したので、初日の金曜だって行けたはずなのですが、残念ながら7/19(金)は母が病院に通う日で、私が送迎しなければなりません。なんだかんだで一日かかってしまうので無理。

 じゃあ夜の部に行けばいいだろう・・とはいかないんですねぇ。こちらもまた別の理由があって、夜は外出しづらい事情があるのですよ。
 だから、6/12夜の「完成披露舞台挨拶」も、7/19夜の「スタッフによる初日舞台挨拶」も、7/21夜の「キャストによる上映記念舞台挨拶」も行けなかったんですよねぇ・・・何とかなりませんかねぇ。

 閑話休題。

 というわけで、記念すべき初回鑑賞は7/20(土)となりました。そして一回目の上映はなんと朝7:55から。かなり早起きをしなければなりませんでした。

 この日のMOVIXさいたまは7:30営業開始とのことですが、7:35くらいに着いたらもうけっこうなお客さんの数が。やっぱり『KINGDOM』は強い(笑)。

 『ヤマトよ永遠に』もけっこう入ってましたよ。年配率が高いのは毎度のことですが、若いお客さんもいます。私の前に並んでたのは20代と思われる女性でしたね。

 まずは森雪役の桑島法子さんのナレーションによる「これまでの宇宙戦艦ヤマト」。YouTube にも挙がってるのでご覧になった方も多いでしょう。
 20分くらいあるのですが、とてもよかったです。観ているといろいろ思いだして、ときどき涙が出てきたり。以前の記事にも書きましたが、桑島さんが森雪役で本当によかったと思いました。

 さて、肝心の本編ですが・・・私もかみさんも、とても楽しみました!

 高密度な情報のてんこ盛りながら、「予想通り」の部分と、「予想以上」の部分と、「予想外」の部分いい塩梅に配合されていたように思います。
 そしてあのED! 未見の方はお楽しみに・・・とだけ書いておきます。


 さて、上映終了後は近くのファーストフードで軽食を。いちおう朝食は摂ってきたのですが、量を抑えていたので。そして食べながらの「おさらい」です。

 かみさんは「新たなる旅立ち」以降の旧作を観ていないので、頭の中に「?」が渦巻いているようで、それを私にぶつけてきます。
 「んー、それはたぶん○○だと思うんだよねー」
 何せリメイクですから、設定等も旧作とは異なる可能性もある。だから私の答えもおのずと ”推測” が多くなるのですが・・・


 そんな「おさらい」を済ませ、近くの書店で時間を潰していよいよ本日2回目の鑑賞。11:30の回です。
 7:55の回よりお客さん多め。ほぼ満席に近いんじゃないかなぁ。

 そして12:50に上映終了。かみさんに「わかった?」と聞いたら、
「説明を聞いたからけっこう分かったけど、
 あと2回くらい観ればもっとよく分かるかも」だそうです。


 そこから家に直帰したのですが、この日の関東は酷暑日。「熱中症のおそれがあるので、外出は控えてください」という ”お触れ” が出ていたのですが、私とかみさんは最寄り駅から家まで、炎天下を歩いて帰りました(おいおい)。
 もちろん途中でコンビニによって涼み、水分補給もしましたから無事に帰り着きましたよ(笑)。

 上映2週目に入ったら、また観に行く予定。
 詳しい ”感想もどき” は、また別記事に。限定上映が終わる頃にはアップできるかな。

 本日の戦果。

20240720a.jpg

 森雪さん、楽しそうで何より。
 本編にはこんなシーン、絶対ないだろうなぁ・・・


 おまけ。
 「monoマガジン No.942 2024.8.2号」

20240720b.jpg

 ちなみに旧作『ヤマトよ永遠に』は1980年8月2日上映開始。そこに引っかけたのかな?
 「ヤマト」特集は40Pくらいあるけど、『REBEL3199』関連は8Pくらいで、旧作紹介や旧作関連グッズを扱う部分が大半ですね。


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黄土館の殺人 [読書・ミステリ]


黄土館の殺人 〈館四重奏〉 (講談社タイガ)

黄土館の殺人 〈館四重奏〉 (講談社タイガ)

  • 作者: 阿津川辰海
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/02/15

評価:★★★★


 世界的アーティスト・土塔雷蔵とその一家が住む「荒土館」がある一帯を地震が襲う。復讐のために館へ向かっていた一人の男は、館と外部を結ぶ唯一の道路を塞ぐ土砂崩れの前で立往生してしまう。
 そのとき、土砂の向こう側から女の声が。それは、"交換殺人" の申し入れだった。かくして、土砂に隔てられた館の内と外とで、二つの殺人計画が進行していく。
 そして名探偵・葛城輝義は、この土砂崩れのために友人たちと引き離され、館に入ることができないでいた・・・

 『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』に続く、シリーズ第三作。

* * * * * * * * * *

 『紅蓮館-』事件から3年後、語り手の "僕" こと田所信哉(たどころ・しんや)と名探偵・葛城輝義(かつらぎ・てるよし)は20歳の大学生となっていた。

 二人の元に手紙が届く。差出人は『紅蓮館-』事件をともに切り抜けた元探偵・飛鳥井光流(あすかい・ひかる)。彼女は "助け" を求めてきたのだ。

 世界的アーティスト・土塔雷蔵(どとう・らいぞう)が中国地方の山中に建てた「荒土館(こうどかん)」。そこに彼女は滞在しているのだが、ある理由から、事件の発生を予感していた。

 田所と葛城、さらに友人の三谷緑郎(みたに・ろくろう)を加えた三人は「荒土館」を目指すが、その途中で地震に遭遇、発生した土砂崩れによって田所と三谷は館側、葛城は外部側へと分断されてしまう・・・


 本書は三部構成になっている。


「第一部 名探偵・葛城輝義の冒険」

 小笠原恒治(おがさわら・つねはる)は復讐の念を胸に「荒土館」へ向かっていたが、途中で地震に遭遇、土砂崩れの前で立ち往生してしまう。

 そのとき、土砂の向こう側から女の声が。それは、"交換殺人" を申し入れるものだった。
 女が土塔雷蔵を殺す、その代わりに小笠原は、〈いおり庵〉と云う旅館の若女将・満島蛍(みつしま・けい)を殺す。

 申し出を受け容れた小笠原は〈いおり庵〉にやってくるが、そこには土砂崩れで田所たちとはぐれた葛城が既に投宿していた。
 ここから小笠原は満島を殺害する計画に着手するのだが・・・

 小笠原vs葛城 の倒叙ミステリ、という趣き。本書は文庫で約600ページあるのだが、この第一部だけで140ページほど。


「第二部 助手・田所信哉の回想」

 第一部と並行して、荒土館内部で起こる連続殺人事件が描かれていく。

 険しい崖に囲まれた館は、地震によって外部へつながる唯一の道路が断たれ、孤立してしまう。しかも何者かが仕掛けた "妨害装置" によって電波も遮断されたので、電話もネットも通じない。

 そして土塔雷蔵、その息子、三人の娘、二人の来客、そして飛鳥井・田所・三谷。合計10人が集った館で、次々と奇怪な殺人事件が起こっていく。

 館の中庭にある高さ5mもの像が掲げている剣に突き刺さった死体。人体をそこまで持ち上げることはもちろん、周囲には遺体を投げ下ろせる場所もない。

 館の塔の頂にある部屋で見つかった銃撃死体。しかし周囲には狙撃できる地点が存在しない。空中から銃弾が放たれたのか?

 そして、誰も出入りできなかったはずの建物の中に、突如として死体が出現する。

 まさに不可能犯罪のてんこもり。自分自身も命の危険を感じた田所は、持参したPCで克明に記録を残していくが・・・

 地震発生から60時間以上が経過し、やっとのことで救助隊が到着、生存者が救出されるまでが描かれる。この部分が約300ページ。


「第三部 探偵・飛鳥井光流の復活」

 ここは文庫で約150ページ。田所の書いた手記と、独自に入手した情報を元に、葛城による謎解きが始まる・・・


 ミステリをけっこう読んできた人なら、ストーリーが進んでいくにつれて、なんとなく「この人物が犯人じゃないかなぁ」と思い当たるようになるだろう。往年の某名作を思い出す人もいるかも知れない。

 じゃあ凡作かというと全くそんなことはない。論理的にそれを説明するのはかなり難しそうだし(少なくとも私のアタマでは無理)、各不可能犯罪のトリックに至っては皆目見当がつかない(作中ではいくつか仮説が提示されるが、悉く否定されていく)。
 そういう意味では「頂上は見えているのに、そこまでの登山道が霧に閉ざされている」ような作品と感じた。

 そして、明かされてみるとトリックはかなり大がかりなもので、もちろんこの場所だからこそ可能な犯罪。「館ミステリはこうでなくては!」と思わせる。
 読者の思考の盲点を突く部分もあるし、細かいところまで計算された作品だと言えるだろう。

 このシリーズは四部作とアナウンスされている。ということは次作が最終巻となる。
 葛城と田所はどんな結末を迎えるのか? 三谷と飛鳥井は再登場するのか?
 いろいろ興味は沸くが、期待して待ちましょう。



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密漁海域 1991根室中間線 [読書・冒険/サスペンス]


密漁海域 1991根室中間線 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

密漁海域 1991根室中間線 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 亀野 仁
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2022/12/05
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 1991年、元海上保安士の宮島咲月は、北海道・羅臼で "特攻船" (北方領土近海で違法操業をする漁船)に乗り込むことになった。
 その頃、日本漁船を攻撃して乗組員を殺害、漁獲物を強奪していく謎の攻撃船 "海魔" が出現していた。そして咲月の周囲にも謎の襲撃者が。
 これは海魔と関係があるのか? そして海魔の目的、そして正体とは・・・

* * * * * * * * * *

 北朝鮮の密漁船を臨検中、誤って同僚を死なせてしまった宮島咲月(みやじま・さつき)。海上保安庁を退職した彼女は、北海道の羅臼(らうす)で "特攻船" に乗ることになった。それは、地元のヤクザが乗り込み、ソ連近海で違法操業をする漁船のことだ。

 彼女を誘ったのは地元ヤクザの幹部・歳桃(さいとう)。昭和の映画に出てくるような、義理人情に厚い、昔気質の親分肌の男だ(彼が辿ってきた過去も作中で明かされる)。

 咲月の乗り込んだ特攻船は順調に "漁獲量" を稼いでいくが、その頃、日本漁船を攻撃して乗組員を殺害、漁獲物を強奪していく謎の攻撃船 "海魔" が現れるようになっていた。

 生存者の証言によると、"海魔" の乗員には「大柄な白人」がいたという。そして、"漁" を終えて帰港した咲月の前にも二人組の白人が現れた。辛うじて彼らの襲撃を逃れた咲月だったが、今度は歳桃が襲われてしまう・・・


 運命に翻弄されて、仲間を喪い、職を失い、家族からも疎まれ、流れ落ちた先で拾ってくれた恩人さえも救えなかった咲月。後半はそんな彼女の反撃が描かれる。

 "海魔" の脅威に対抗すべく、漁船員たちは "自警団" を組織、その自警船の一隻に乗り込んだ咲月が "海魔" と繰り広げる、壮烈な銃撃戦がクライマッスとなる。

 そして最期に明かされるのは、"海魔" の意外な目的と、その正体。

 冒険小説のフォーマット通りに、宮島咲月という女性の半生が描かれていく。


 主な舞台となるのは知床半島の羅臼、そして網走。
 道東には三回ほど旅行に行ったことがある。一回目は大学時代の友人と、二回目はかみさんと、三回目は家族で。二度目の時には知床半島を横断する国道の途中で、エゾシカに出会ったのもいい思い出だ。
 観光地というイメージしかなかったけど、本書ではそこで暮らす人々の様子も描かれ、ちょっと修正されたように思う。
 あと、作品の背景になっている1991年頃は、北海道の東の果てのほうにもバブルの波が押し寄せていたらしい。これも驚いたことの一つ。

 第一作「暗黒自治区」と比べると、ウエットな描写は増えたけどアクションは減ったかな。
 どちらがいいかは人によると思うけど、私は前作のほうが好きかなぁ。



タグ:サスペンス
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