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アンソロジー 隠す [読書・ミステリ]

アンソロジー 隠す (文春文庫)

アンソロジー 隠す (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

女性作家によるグループ〈アミの会(仮)〉による
競作アンソロジー。特に ”ミステリ” とは銘打っていないんだけど
執筆陣の大半がミステリ作家と見なされてる方で、そのせいか
収録されてる作品もミステリかミステリ寄りのものが多い。

「理由(わけ)」(柴田よしき)
イラストイレーター・辻内美希が人気タレント・松本茂義を刺した。
美希の担当した広告イラストを、松本がTVでこき下ろしたのが
動機と思われたが、美希はそれが理由ではないという・・・
いやはや女の恨みというものは恐ろしい。

「自宅警備員の憂鬱」(永嶋恵美)
主人公・愛美(まなみ)は5年前から引きこもりになっていた。
ある日、中学2年生の弟・颯太(そうた)が友人の成瀬良樹を
連れ帰ってきた。良樹は超進学校の私立中学の生徒だった。
しかし2人の話に疑問を抱いた愛美は、真相を探り出そうとする・・・
愛美さんの洞察力が光る一編だが、それだけの賢さがあるのなら
社会復帰して充分にやっていけるよねぇ。
彼女の ”その後” が知りたいなと切に思う。

「誰にも言えない」(松尾由美)
アメリカから来て、沢村家にホームステイしていたリンジー。
沢村夫妻との関係は良好だったが、ある日を境に彼女の扱いが急変する。
家庭内での行動にやたら制限をつけるようになったのだ。
悩んだリンジーは私立探偵の安西に相談を持ちかけるが・・・
彼女を巡る ”日常の謎” は安西によって解決されるんだけど
安西自身のプライベートも気になる。これ、シリーズものなのかな?

「撫桜亭(ぶおうてい)奇譚」(福田和代)
小栗上野介の埋蔵金伝説が残る地に自宅を構えたのは、
不動産王と呼ばれた岡崎東馬(とうま)だった。
その東馬が亡くなり、長男の卓也、次男の行広、三男の紀夫の間で
遺産相続の話が持ち上がるが・・・
長編にしたら面白そう。

「骨になるまで」(新津きよみ)
主人公・美里(みさと)の母方の祖母・志野(しの)が亡くなった。
その葬儀の後、志野の弟・敦から意外なことを聞く。
志野は二度結婚していて、二人目の夫が美里の祖父だった。
さらに、志野は最初の結婚で男子を産んだが、
その子どもを残して婚家を去ったのだという・・・
母親というのは有難いものだなぁというのを再確認する一編。

「アリババと四十の死体」(光原百合)
実直な商人アリババを狙う盗賊団の陰謀を、
賢い奴隷女モルギアナが見抜き、みごと盗賊を撃退する
彼女の功績を認めたアリババは、彼女を息子カシムの嫁にするのだが。
賢女なんだけど○○でもあるモルギアナさんが魅力的。
彼女くらいの強かさがないと生きていけない世界なんだね。

「まだ折れていない剣」(光原百合)
冒頭にG・K・チェスタトンの「折れた剣」の一部が引用されてる。
有名な「木の葉はどこに隠す?」にまつわるセント・クレア将軍を
主役に据えた話。

「バースデーブーケをあなたに」(大崎梢)
94歳の早瀬美奈子は認知症を患い、ケアハウスに入居している。
その彼女のもとへ、毎年誕生日には花束が贈られてくる。
送り主は ”M” というイニシャルだけが記されている。
”M” は誰かと問われるたびに、彼女は異なる人物を挙げるのだが・・・
美奈子の周囲の人々が皆、温かい心の持ち主なのがいいね。

「甘い生活」(近藤史恵)
千尋は、幼い頃から他人の持ち物が無性に欲しくなるたちであった。
小学5年生の時、同級生の沙苗が大事にしていた
オレンジ色のボールペンを盗み取ることに成功する。
そして9年後。大学生になった千尋は孝紀という青年と知り合う。
千尋は、孝紀の恋人から彼を奪取することに成功するが・・・
ラストはいささかホラーだね。

「水彩画」(松村比呂美)
大学生・芳賀塔子の母親・悠子は高名な画家だったが、
塔子には母から愛された記憶はなかった。
しかしその母が突然、甲斐甲斐しく塔子の世話を焼き始めた・・・
ラストシーンがちょっと感動的。

「少年少女秘密基地」(加納朋子)
小学生のカイセイとジンタンは、夏休みに自転車で遠出をしたときに
一軒の空き家を見つけ、そこを2人の ”秘密基地” として遊び始める。
そして、その空き家に残された痕跡から二人は気づく。
彼ら以外にも、幼い女の子の2人組も出入りしているらしいこと、
さらに、不審な大人も出入りしているらしいこと・・・
『少年少女飛行倶楽部』の番外編というか前日譚。

「心残り」(篠田真由美)
語り手は、伊豆下田から出てきて東京の資産家に奉公している少女。
若い後妻が浮気をしたために南伊豆の別荘に追いやられ、
少女も奥方の浮気の監視役を兼ねて別荘で働くことになる。
しかし、浮気相手との仲を裂かれた奥方は自殺してしまう・・・
短いんだけどミステリとしての密度は濃い。
時代の雰囲気も良く出ている。

特に気に入ったのは
「理由」「誰にも言えない」「バースデーブーケをあなたに」「水彩画」
の4作かなあ。

「骨になるまで」「甘い生活」「心残り」は
私の中ではイヤミスに入りそうで、ちょっと苦手。
とは言っても、ミステリとしての出来は悪くない。

なかなかレベルの高い作品が揃ってると思う。
総じて、とても楽しいアンソロジーでした。


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