SSブログ

衣更月家の一族 [読書・ミステリ]

衣更月家の一族 (講談社文庫)

衣更月家の一族 (講談社文庫)

  • 作者: 深木章子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/02/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

文庫で100ページほどの4つの章の前後を
短い(数えたらどちらも4ページ)「プロローグ」と「エピローグ」で
挟み込むという構成。

「プロローグ」
美大の助教授・衣更月(きさらぎ)辰夫が
教え子の女子大生と無理心中事件を引き起こした。
辰夫55歳、相手は19歳という年齢差、
殺害方法は拳銃と、ワイドショーを大いに賑わせたが、
それも時の流れの彼方に忘れ去られていく。

「廣田家の殺人」
専業主婦・廣田優子が自宅の玄関で殺された。
近所の住民の目撃情報から、犯人は優子の妹・晴菜(はるな)の夫、
富坂弘毅と思われた。晴菜はギャンブル好きな夫に嫌気がさし、
家を出て優子の下へ身を寄せていたのだ。
やがて弘毅は警察へ出頭してくるが、
玄関先で先に襲ってきたのは優子のほうで
自分は正当防衛だったのだ、と主張する・・・

「楠原家の殺人」
堀ノ淵病院の職員たちによる暑気払いで景品として配られた宝くじ。
宴会の幹事だった事務職員・楠原雄哉は、幹事の余禄として
残ったくじを自分のものにするが、その中から3億円の当たりが出る。
同僚といざこざになった雄哉は病院を辞め、行方をくらましてしまう。
そして数ヶ月補、老舗菓子屋の店員・木村麻貴は
幼馴染みの男性に「楠原雄哉」と名乗らせて結婚を偽装、
偽の婚姻届まで提出して「楠原麻貴」となっていた・・・

「鷹尾家の殺人」
鷹尾奈津子は夫・耕平と離婚し、まだ幼い息子・耕介を残して家を出た。
成長した耕介は母を訪ねていくが、冷たくあしらわれてしまう。
それがトラウマとなり、彼は高校入学後に引きこもりとなった。
父・耕平は不動産業を営んでいたが先物取引で失敗し、
億単位の債務を抱えてしまう。そして奈津子はその保証人となっていた。
借金を巡って争っている両親を見ているうちに、
耕介は衝動的に2人を階段から突き落として殺害してしまう。
しかしそれを暴力団員・唐木沢(からきざわ)が見ていた・・・

一見して何の関連もない3つの事件で、いったいどこに
「衣更月家」が隠れてるんだか皆目見当がつかない。
しかしこれが4つめの章「衣更月家の一族」で
1つの事件に収斂していく。

3つの事件の要素を分解し、きれいに再構成してみせるのは
デビュー作「鬼畜の家」に登場した元警官の探偵・榊原聡。

真犯人がちょっと策を弄し過ぎな気もするが、
実録犯罪小説ではなくて本格ミステリなのだから、許容範囲だろう。

3つの事件のパートもそうだが、完全犯罪を狙う真犯人との
対決が描かれる「エピローグ」まで、飽きさせずに読ませる。
これが2作目とは思えないくらい達者だ。


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ: