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統計外事態 [読書・SF]

統計外事態 (ハヤカワ文庫JA)

統計外事態 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 芝村 裕吏
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/02/17
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

舞台は2041年。世界中の国家で少子化は進行していた。
日本でも20歳以下の若年層は人口の10%を切り、
半数の市町村が消滅している。

主人公・数宝数成(すうほう・かずなり)は統計分析官。
統計データの矛盾から犯罪を見つけだすことを生業としている。
仕事場は自宅(つまりテレワーク)。年齢は30代の終わり。
同居人は猫1匹。7年間つき合った彼女と別れたばかり。

そして彼はもう一つの仕事を兼業している。
政府が「国家安全保障業務の一部を外注」していて(おいおい)、
それを請け負っているのだ。
国内で起こる陰謀や事件に立ち向かっている現場の ”工作員” に対して
統計データを利用した指示を送る(もちろん自宅から)という仕事だ。

ある日、数成は静岡県の廃村(限界集落)での水道消費量が
通常の7200倍になっていることに気づく。原因を調べるため、
現地へ入った彼の前に現れたのは、なんと全裸の少女たち(!)
しかしその瞳には全く意思の光が感じられず、さながらロボットのよう。

恐怖に駆られて逃げ帰ってた数成は
後輩で飲み仲間の伊藤くんに事情を打ち明けるが、
その時、既に ”謎の敵” は行動を開始しており、
数成はサイバーテロリストに仕立て上げられて
警察に追われる身となってしまっていた。

真相を突き止め、身の潔白を晴らすべく数成と伊藤くんは
現場となった集落へ向かうのだが・・・

てっきり、”敵” は宇宙人か未来人かと思ってたのだが
後半になって明らかになる少女たちの ”正体” は、意外と地味。
2041年という未来を舞台にしているわりにSF味も薄いかな。

そう感じるのは、「近未来SF」という言葉が持つイメージに、
現実世界の進歩がかなりの部分で追いついてきた、
ということでもあるのだろう。

 もっとも、本書に登場する技術が
 20年後の世界だったら可能になっているのか、
 といわれたらかなり疑問な気もするが。

とはいっても、さすがに終盤の展開は ”人類の未来” にも関わるなど
大風呂敷が広がって、かなり「近未来SF」っぽくなる(笑)。

あちこちに伏線も張ってあって、ミステリ要素もかなりある。

SFとしてはちょっと不満だったけど、バディものとしてみると
かなり面白い。とくに主役2人の掛け合いが楽しい。

これは作者の持ち味だと思うのだけど
シリアスな場面でも、地の文や会話にはユーモアが溢れていて
ときおりニヤリとしながらストーリーを追いかけることになる。
楽しい読書の時間が得られるのは間違いない。

数成の相棒を務める伊藤くんのキャラも面白い。
初登場時からけっこう謎めいている、というか胡散臭いのだが(笑)、
彼の ”正体” を巡っては二度驚かされる。
一度目は予想の範囲内だったが、二度目はちょっとびっくり。
私も「えーっ」って声が出そうになったよ。


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