Jミステリー 2022 SPRING [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
第一線のミステリ作家6人による全編新作書き下ろし短編アンソロジー。
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「リノベの女」(東野圭吾)
不動産会社で働く神尾真世(かみお・まよ)は、上松和美(うえまつ・かずみ)という女性からマンションのリフォームを依頼される。
和美は資産家の上松孝吉(こうきち)と結婚したが死別していた。しかし最近になって、二十数年にわたって音信不通だった兄・竹内祐作(たけうち・ゆうさく)が連絡をしてきたという。
真世の叔父・武史(たけし)の経営するバーで、和美は竹内と会うことになるがその場で竹内は「お前は妹の和美じゃない」と言い出した・・・
探偵役を務めるのは武史。和美の秘密を探ると同時に "兄妹間のトラブル" も解決してしまう。和美の抱えた事情はちょっとリアリティに欠けるようにも思うが、それをも押し切って読ませてしまうのは流石。
「ある部屋にて」(今村昌弘)
健吾(けんご)は恋人の優里(ゆり)が住むマンションにやってきた。しかし彼女から別れ話を切り出され、頭に血が上った健吾は優里を撲殺してしまう。
部屋にあったスーツケースに優里の死体を詰め終わった時、インターホンが鳴る。来客はヨレヨレのコートを着た男で、弁護士の白川と名乗った。優里の依頼で来たという。
健吾はとっさに「私は優里の兄だ」と名乗ってしまうが・・・
優里が不在の状況の不可解さを、白川がネチネチと健吾に問い詰め始めるので「刑事コロンボ」パターンの倒叙ミステリかと思いきや、ラストでは二重のひねりわざが炸裂する。
「立体パズル」(芦沢央)
脚本家の宮野雄一郎(みやの・ゆういちろう)の息子・翔大(しょうた)は保育園に通っているが、同級生の長内達幸(おさない・たつゆき)くんが保育園を休みだしたという。どうやら母親の実家に行っているらしい。
数日前には、33歳の独身男性が5歳の男児を刺し殺すという事件が起きていた。犯人は未だ逃走中だ。
雄一郎の妻がママ友たちから仕入れてきた情報によると、長内家が住んでいる邸宅には、5年前まで男児殺害犯が暮らしていたのだという。しかも、最近になって犯人が家の様子を覗きに来ていたらしい・・・
長内家の行動は、ある意味当然のことなのだが、雄一郎はその裏に潜む、もう一段深い理由に思い至ってしまう。これは子育てをしている親ならではの発想だろう。
「叶えよ、アフリカオニネズミ」(青柳碧人)
民間企業が設立した《ヤーキー地雷撤去研究所》は、カンボジアの地雷原から地雷を撤去する研究をしている。その研究所の一室で爆発があり、副所長の原竹安和(はらたけ・やすかず)が死亡した。
発見者は所員の永井愛理(ながい・あいり)。ネズミの世話のために宿直として泊まり込んでいた。この研究所は、訓練したネズミを地雷撤去に使うことを研究していた。
しかし研究の進捗は思わしくなく、死んだ原竹は本社に対して研究所の廃止を上申していた。一方で地雷マニアでもあり、地雷のサンプル品を集めるのが趣味だった。
現場は密室だったことから、誰かが火薬の入った地雷サンプルを用意して原竹に渡したのではないか?という疑いが持ち上がる・・・
現場をわざわざ密室にした理由がキモの作品かな。密室トリック自体はバカミスに近いけど(笑)。
「目撃者」(織守きょうや)
高部陽人(たかべ・はると)は妻子がありながら愛人との逢瀬を楽しんでいた。
ところがある晩、陽人が自宅マンションに帰り着くと、妻の彩花(あやか)が撲殺死体となっていた。
警察はマンションの出入り口にある防犯カメラの映像から犯人を割り出そうとするが、有力な容疑者が浮かんでこない。
犯行時、二歳の息子・朝陽(あさひ)は熟睡していたらしい。仮に犯行を目撃していたとしても証人能力はないだろう。ところが、その朝陽が陽人の犯行を示すようなことを言い出す。
「おとうさんが、どんってした。まま、いたいいたいした」・・・
この "証言" の解釈が本作のキモなんだが、これは気がついた人、けっこういるんじゃないかな。
「黒猫と薔薇の折り紙」(知念実希人)
未練を抱えたまま死んだ人間は "地縛霊" となって地上に残ろうとする。それを防ぐため、死神は "使い" を人間界に派遣した。"使い" はクロという名の猫の姿になり、日夜、死者が地縛霊にならないように活動している。
ある晩、クロは平間大河(ひらま・たいが)という青年が首吊り自殺をしようとしているのを阻止し、彼の記憶の中へ入っていく。
大河は結婚を約束した恋人・美穂(みほ)を残し、料理人になるために東京へ出て行った。7年後、料理人修行を終えて帰って来たが、美穂はすでに別の男と結婚し、娘まで生まれていた。
しかしその三ヶ月後、美穂の父から彼女が死んだと告げられる。そのうえ「美穂が死んだのはお前のせいだ」と罵られたのだった・・・
うーん、真相は感涙もののはずなんだが、今ひとつ私好みの話ではないので素直に感動できないなぁ・・・って思っていたら、ラストで意外な超展開が。
なんとこの話、長編の第一章を短編に改稿したとのこと。続きはぜひ長編のほうを読んでください、ということですね。
光文社さん、商売が上手い。
タグ:国内ミステリ
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