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蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale [読書・ファンタジー]


蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale (ハヤカワ文庫JA)

蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 花田 一三六
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/02/17

評価:★★


 蒸気錬金術によって急速に発展しつつある大英帝国。
 売れない小説家の「私」は、大西洋上の国アヴァロンへの旅行記を執筆することに。謎の紳士を通じて手に入れた "妖精型幻燈種" を相棒に旅立つが、それが謎の大男や美女が入り乱れる冒険の始まりだった・・・

* * * * * * * * * *

 舞台となるのはパラレルワールドの英国。そこは蒸気錬金術(stealchemy)が発達した世界。stealchemy は steam + alchemy で、この世界は科学技術の代わりに蒸気機関と錬金術が融合した技術体系が基盤になっているようだ。

 主人公の「私」は売れない小説家。糊口を凌ぐために、編集者から提案された旅行記執筆のため、太平洋上の国アヴァロンに旅立つことに。

 アヴァロンは〈使い手〉(ムーヴァ)の島とも呼ばれる。〈恩寵〉(ギフト)の力を元にした〈理法〉(ロー)という超常現象を操る人々が住まうところだ(〈恩寵〉は蒸気錬金の上位技術という説もあるらしいが)。
 過去には大英帝国がアヴァロンを征服すべく侵攻したものの、手痛い失敗を喫したらしい。

 旅立つにあたり、「私」は謎の紳士を通じて〈帽子〉を手に入れた。正式名称は蒸気錬金式幻燈機。帽子に蒸気錬金機関を組み込んだもので、"起動" すると妖精型幻燈種(ファントム)が現れる。姿形は十代の女の子だが、身長は万年筆と同じくらい(文庫表紙のイラストがそれ)。

 最初の起動のくだりで名前の設定を求められたりと、そのあたりの描写はPCのセットアップのようだ。ちなみに「私」は "彼女" をポーシャと名付ける。
 主な機能は秘書としてのもの。スケジュール管理や資料の整理・保存や取材の記録など。会話形式で操作するのだが、この "妖精"、とにかく口が悪い(笑)。
 「私」に対してタメ口で "ご主人様" への敬意など欠片もない。まあ本書は、「私」とポーシャのバディものとも言えるので、そのあたりは "お約束の設定" なのかも知れないが。

 ポーシャの設定をPCに例えたが、現代はAIの進歩が著しい。スマホの中に収まったAIが探偵役を務めるミステリまで書かれてるくらい。そのうちAIが人間とタメ口で会話を交わしながら仕事をする時代も遠からず来そうだし。
 「進歩した科学は魔法と見分けがつかない」という言葉があるが、まさにそんな時代を迎えつつある。

 だから「帽子と一体化した妖精型の秘書」というのも、それだけではファンタジーの物語を引っ張るアイテムとしては弱いかな。
 もちろん作者はそれが判ってるのだろう。ポーシャの機能が桁外れに高いらしいこと、"彼女" の出自には何らかの事情がありそうなこと、などを匂わせながらストーリーは進行していく。

 「私」がアヴァロンに上陸してから、謎の大男が現れて襲ってきたり、美女が現れて救ってくれたり、なんだかよく分からないうちに(笑)、騒動に巻き込まれていく。終盤にはアヴァロンを統べる "大賢者" なるものまで姿を現してくるのだが・・・

 大抵は、物語が進むうちに "敵" の狙いやら "ポーシャ" の抱えた秘密やらが徐々に明かされていくものなのだが、最期までよく分からないまま。
 理解できた人もいるのかも知れないが、私のアタマではよく分かりませんでした(おいおい)。

 そして何より、主人公がダメ人間過ぎるように思う。何事にも自信がなく、何をやらせても不器用で、物事を満足にこなすことができない。
 自分から冒険に飛び込んでいくようなタイプではないので、必然的に ”巻き込まれ型” の主人公にならざるを得ない。
 ところが ”巻き込まれた” 後も、一向にシャキッとせず、状況に流されていく。普通は物語が進行していくうちに少しは変わっていくと思うのだが・・・

 もっとも、これはシリーズものの一巻めだから、なのかも知れない。次巻以降で新たな展開と主人公の成長がある、のかも知れない。
 だけど・・・いまのところ続巻はない(本書の初刊は2021年2月)。

 ポーシャの設定とキャラはよくできてて面白いと思うのだけどね。



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