異端の聖女に捧げる鎮魂歌 [読書・ミステリ]
異端の聖女に捧げる鎮魂歌 (ハヤカワ文庫JA) [ 宮園 ありあ ]
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- 価格: 1,078 円
評価:★★★★
1783年10月のフランス。パンティエーブル公妃マリー=アメリーのもとへ手紙が届く。差出人はロワール川の孤島に建つ女子修道院の院長。内容は、近々修道院内で惨劇が起こるのではないかという懸念を伝えるものだった。
マリー=アメリーは、一年前に協力して殺人事件を解決した相棒ジャン=ジャック・ボーフランシュ大尉とともに女子修道院へ向かうが、男子禁制の修道院とあってジャン=ジャックは入れてもらえない。
そしてその直後から、修道女たちが続々と殺されていく・・・
アガサ・クリスティー賞受賞作『ヴェルサイユ宮の聖殺人』に続く第二作。
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フランス革命を数年後に控えた1783年。一年前のヴェルサイユ宮殿内ので殺人事件を解決したパンティエーブル公妃マリー=アメリーは一躍、時の人となった。
その彼女のもとへ手紙が届く。差出人はノートル=ダム女子修道院の院長。近いうちに、修道院内で "目を覆いたくなるような惨劇" が起こるのではないかという懸念を伝えるものだった。
マリー=アメリーは一年前の事件をともに探った相棒ジャン=ジャック・ボーフランシュ大尉と女官のラージュ伯爵夫人を伴ってパリを発つ。
ノートル=ダム女子修道院は、フランス中部を流れるロワール川の孤島に建つ城塞を改修したもの。厳しい戒律の中、少数の修道女たちが共同生活を営んでいる。
マリー=アメリーの一行は到着はしたものの、男子禁制の修道院とあってジャン=ジャックだけが追い返されてしまう。
修道院長は病床にあるとのことで姿を見せなかったが、副院長エリザベートは二人を受け入れ、修道院内に潜り込むことに。
一方、ジャン=ジャックは川の対岸にある街・トゥールへ向かい、そこでパリ警察捜査官ランベールと落ち合った。
トゥールにある聖マルタン大聖堂のギベール主任司祭が一週間前に変死するという事件が起こっていた。未来のトゥール大司教候補とみられていた人物の死亡事件に不安を覚えた現大司教が国王ルイ16世に泣きつき、そこで一年前にヴェルサイユ宮の事件を捜査したランベール(とジャン=ジャック)に白羽の矢が立ったのだ。
一方、ノートル=ダム女子修道院でも事件が起こる。14歳になったばかりの修道女見習いのアニュスが、変死体で見つかったのだ。
どちらの死体も目立った外傷はない。二つの死に関係はあるのか? しかし事件はこれだけでは終わらず、さらに修道女たちが殺害されていく・・・
前作で登場した処刑人シャルル=アンリ・サンソンは、死体に関する豊富な知識から、法医学的な知見を示してくれる貴重なキャラだったが、本作ではパリを遠く離れているため、彼の登場はない。
その代わり、彼の弟ルイ=シャルル・マルタン・サンソンが登場する。彼もまた現地での処刑人を勤めており、兄に代わってジャン=ジャックたちに協力する。
その結果分かったことは、ギベールもアニュスも目立った外傷はないのに、窒息死の症状を示していること。何らかの毒物が疑われるが、その正体が分からない(でもこれは、気がつく人はけっこういそう)。
事件が続き、死者が増えるということは、相対的に容疑者が絞られていくということ。修道院内で探りを入れるマリー=アメリーを取り巻くサスペンスも高まっていく。
終盤になると、彼女の危機を救うべくジャン=ジャックも命を賭けた行動に出る。ロマンス要素も高まり、二人の距離もぐっと近づいていく。
修道院に入る動機は人それぞれ。登場してくる修道女たちのキャラも多彩だ。純粋にキリスト教に帰依する者もいれば、花嫁修業の場として一時的に過ごすところと割り切っている者もいる。現世と縁を切ったように見えても、煩悩に悶々とする者もいる。
最終的に明らかになる真相は、捨てたはずの現世の因縁から逃れられない、人間の業の深さを感じさせるものだ。
現場となった女子修道院は、200年前の宗教戦争で処刑された者の亡霊が彷徨うという曰く付きの場所。これも物語を盛り上げる要素になっているのだが、具体的にどう関わるかは読んでのお楽しみだろう。
今回、マリー=アメリーとジャン=ジャックは、物語の八割方は別々に行動することになる。携帯電話など影も形も無い時代なのだが、二人は伝書鳩(!)を使って、意外と緊密に連絡を取り合っていく。この鳩、嵐の中でも果敢に飛んで、二人を繋いでくれるという健気さ。本作で一番頑張ってたのはこの鳩かも知れない(笑)。文庫の表紙にもしっかり描かれているし。
そのおかげか判らないが、一年前の事件から現在まで中途半端な状態だった二人の関係は、どうやら一歩前へ踏み出したようだ。巻末の後書きには次回作の予告もある。期待して待ちましょう。
タグ:時代ミステリ
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