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続シャーロック・ホームズ対伊藤博文 [読書・ミステリ]



評価:★★★★


 探偵を引退し、養蜂家となっていたホームズの元へ訃報が届く。伊藤博文が満州で暗殺されたと。
 しかしホームズの前に謎の女が現れ、小さな仏像を残して去って行く。その背には伊藤博文暗殺の陰に何らかの陰謀の存在を示唆する文章が刻まれていた。
 日本で行われる「惜別の会」へ出席すべく、ホームズはワトソンと共に日本へやってくるのだが・・・

* * * * * * * * * *

 本書はタイトル通り『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』の続編となっている。
 1891年、ライヘンバッハの滝でモリアーティ教授を葬った後、日本へ渡ったホームズが、「大津事件」(訪日中のロシア皇太子が日本人警官に襲撃された事件)を巡り不審な行動を取るロシアを相手に、伊藤博文と協力して立ち向かうというのが前作。
 本書はその19年後のエピソードとなる。

 よく続編のキャッチコピーに「ストーリーは独立しているので本書から読んでも大丈夫」なんてのがあるが、本作に限っては「ぜひ前作を読んでから」と云いたい。
 ストーリーの連続性はほとんどないが、前作で培われたホームズと伊藤との関係が本書の根底になっていて、二人の物語は本書で完結するとも言えるので、この二作はいわば前後編と云ってもあながち間違いではないだろう。

 閑話休題。


 49歳となったホームズは、ある事件の解決にケチをつけられたことをきっかけに探偵を引退し、養蜂家となった。
 その6年後、彼の元へ訃報が届く。伊藤博文が満州で朝鮮の民族活動家・安重根(アン・ジュングン)によって暗殺された、と。

 しかしホームズの前に謎の女が現れ、小さな木製の仏像を残して去って行く。その仏像の背には英文で「伊藤博文を殺したのは安重根ではない」と刻まれていた。

 伊藤の暗殺から半年後に開かれる「惜別の会」は、列強各国の首脳・準首脳が集ってくるという大がかりなもの。それに参加するためにホームズはワトソンと共に日本へやってくる。
 しかし日本の政治家たちは、ホームズへ招待状を送った覚えはないという。しかし二人が受け取った招待状は正式なものと同じ用紙、同じ封筒を用いたもので、偽造は困難だった。
 ホームズとワトソンは、招待状が作成・発送された経緯の調査を始めるが、そこで担当者が死亡する場面に遭遇する。

 伊藤が暗殺された満州の哈爾浜(ハルピン)駅での現場にも不審な点があったことが判明、さらに遺体の搬送状況にも疑問点が浮上していく。

 やがて一連の事態の裏に潜んでいた "ある陰謀" が、「惜別の会」に向かって収斂していく。・・・


 物語の中盤では、ある驚愕の事実が明かされる。これは破壊力抜群なのだが、同時に「いくらなんでもそれはないだろう」とも云えるもの。ネタバレになるので書かないが、これから読む人はお楽しみに(笑)。


 前作から19年が経ち、ホームズは55歳、ワトソンは57歳になっている。
 ホームズは引退して養蜂業、ワトソンは医師を続けながら数年前に再婚、二人の子どもをもうけている。
 日々の生活に物足りないものを感じていたホームズは、久々に訪れた "謎" の解明に張り切るが、安定した家庭を持ったワトソンはなかなか日本行きに同意しようとしない。このあたりの対比も面白い。

 日本では伊藤の遺族も登場するが、ここでも時の流れは感じられる。芸妓上がりだが英語を達者に操る梅子は、すっかり大政治家の奥方(未亡人だが)らしく貫禄がつき、前作でおきゃんなお嬢さんだった娘の生子(いくこ)は落ち着いた人妻になっている。
 そして伊藤の長男(庶子だが)・文吉(ぶんきち)は25歳となり、本書ではホームズ・ワトソンに次ぐメインキャラの一人で登場シーンも多い。

 文吉は首相・桂太郎の五女・寿満子(すまこ)と婚約しているのだが、なんと彼女はまだ13歳(!)である。まあ閨閥づくりのための政略結婚だったのだろう。
 ただ、文吉は言動の端々から寿満子を大事にしていることが窺われるし、そんな文吉のことを寿満子の方も憎からず思っていそうなところが救いではある。

 寿満子嬢の登場シーンは多くないのだけど、終盤に至ると俄然、スポットライトが当たる。悪党に掠われて人質にされてしまうと云う "王道ヒロイン"(笑)になってしまうのだ。文吉君は彼女を救うために右往左往することになる。

 物語は「惜別の会」を舞台にした、犯人vsホームズの活劇シーンでクライマックスを迎える。前作と合わせて、明治時代の日本でホームズが活躍する冒険譚を二作、とても楽しませてもらった。
 作者は明智小五郎を主役にした作品も書いているのだけど、これからもこういうパスティーシュを書いてほしいなあ。売れっ子なので忙しいだろうけど。


 最期に余計なことを。
 作中での寿満子さんは、身体が丈夫でなさそうな描写があり、父親の桂首相がそれを嘆くシーンがあった。だけど wikipedia によると、文吉と結婚した寿満子さんはなんと7人の子宝に恵まれたらしい。夫婦仲も良かったのだろう。



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