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試練 護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧 [読書・冒険/サスペンス]



評価:★★★★


 ヘリコプター搭載型護衛艦・あおぎりは、一般人を載せた体験航海へと出港した。しかしそこへ救難信号が入る。直ちに救助のヘリが発進するが、その直後、艦内で急病人が発生、直ちに病院へ搬送しなければ命に関わるという。連続する非常事態に、新任艦長・早乙女碧の決断は・・・

 『護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧』続編登場。

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 前作『護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧』のラストから一週間後から始まるので、ストーリーも連続している。

 主人公・早乙女碧(さおとめ・みどり)は44歳の二等海佐。「あおぎり」艦長を拝命し、呉へやってくるが、着任して最初の訓練航海へ出向しようとする直前、女性隊員の一人が定刻までに帰艦していないという事態が発生する。それを碧が無事に解決へと導いた顛末を描いたのが前作。


 そして今作。未帰艦事件以外の案件(主に人間関係)は前作からそのまま持ち越している。砲術士の坂上三尉は相変わらず退職したがっているし、副長の暮林(くればやし)三佐は新任女性艦長である碧を軽く見ているような節があるし、新任の飛行長である晴山芽衣(はれやま・めい)三佐は、同期としての気易さからかもともとの性格なのか、碧に対してずけずけと云いたいことを云う。

 「第二章 訓練発射」では、四国沖の太平洋上での対潜水艦戦闘訓練の模様が描かれる。目標に対してアスロック(ASROC:Anti Submarine ROCket:対潜ミサイル)を発射するものだ。実弾ではなく模擬弾を使うのだが、訓練後はそれを回収しなければならない。しかし折からの悪天候で、回収は難しいと思われた。しかし碧は、あえて回収用の作業艇を発進させる。それは無謀な "賭け" にも見えたのだが・・・

 そして「第三章 体験航海」「第四章 救難信号」では、連続する非常事態に直面する碧の対応が描かれる。

 公募で集まった100名の一般人、TVや新聞の報道関係者、ついでに諸般の事情で堀田司令まで乗り込んだ「あおぎり」は呉を出港し、体験航海へ。
 順調にイベントをこなす中、救難信号が飛び込んでくる。海上自衛隊の練習機T-5が洋上に不時着したらしい。乗員3名の安否は不明だ。

 ここで堀田司令とひと揉めあるのだが、碧は救援に向かうことを決め、搭載ヘリを発艦させる。
 ところがその直後、艦内の一般人が急病を発症し、直ちに病院へ搬送しなければ命に関わるおそれがあることが判明する。碧の下した結論は・・・


 碧が背負っているものはあまりにも大きい。女性隊員が増えてきたとはいえ、まだまだ男性優位の考えが残る組織で、艦長として200人近い乗員をを束ねなければならない。隊員間の人間関係にも目配りしなければならない。必ずしも一枚岩ではない幹部たちをどうまとめるか。
 それに加えて本作では、救難信号と艦内の急病人という緊急事態の連続パンチ。護ろうとする命を対して優先順位をつけなければならないような状況にも直面する。

 しかしピンチはチャンスでもある。困難な局面を切り開こうとする碧の決断に応え、奮闘する隊員たちのプロフェッショナルぶりが随所で発揮される。
 大きいものはもちろん救助活動だが、小さいものでは一般人の子どもの迷子騒ぎや乗客同士の感情的なトラブルに至るまで、隊員たちは与えられた使命に対して最大限の努力を注ぎ込んでいく。まさに「一所懸命」(一つ処に命を賭ける)だ、

 隊員たちが一丸となって "壁" を超えていくことによって、クルー間の人間関係も変化し、若手も成長していく。
 そして乗り組んでいる一般人たちも、奮闘する「あおぎり」の隊員たちを目の当たりにして次第に共感を深めていき、やがて事態の推移に対して隊員たちと一緒に一喜一憂するようになっていく。このあたりが実に感動的に綴られているので、読んでいてしばしば目頭が熱くなってしまった。

 読みどころは盛り沢山の本作なのだが、注目点を一つだけ挙げるとしたら、坂上三曹だろう。序盤の彼と中盤以降の彼はほとんど別人の様相。何がどう変わるのかは読んでのお楽しみにしておこう(笑)。

 このシリーズはいまのところこの第二作までしか出ていないのだけど、続きが読みたいなぁ。護衛艦も異動がけっこうあるようなので、乗員の入れ替わりもあるだろう。新たな「あおぎり」の航海に "乗艦" できることを願っている。




タグ:サスペンス
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