内なる宇宙 [読書・SF]
月面で発見された、宇宙服を着た遺体。それは五万年前のものだった・・・名作SF『星を継ぐもの』から始まる、地球人と異星人ガニメアンを巡る物語の4作目。
ガニメアンの庇護下にあるジェヴレン人は、今まで彼らの生活を支えていた巨大コンピュータ・システムを失い、社会が不安定化していた。
彼らを暫定統治しているガニメアンを支援すべく、地球人の科学者ヴィクター・ハント博士たちがジェヴレンにやってくる。ハントたちは、無気力化したジェヴレン人たちの背後に巨大な陰謀が存在することに気づくのだが・・・
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作者であるホーガンはよほど日本が好きなようで(日本でバカ売れしたからね)、本書の冒頭には「日本版への序」なる文章を寄せている。しかし、なんと本書の根底に関わるネタバレも書いてあるんだよねぇ。まあ、そこのところを明かしてしまっても本書は充分に面白いと、本人には自信があったのかも知れないが。
事前情報をなるべく入れずに読みたい人は、この「日本版への序」は飛ばしてしまおう。読んでいなくても全く支障はない。
逆に、あまり考えずに手っ取り早くストーリーの全体像をつかみたいなら、読んでおいた方がいいとも思う。
もっとも、本書の刊行された1991年ならともかく、現代では本書の内容に時代が追いついてしまっている部分もあるので、伏せられていたとしても読んでいるうちに気づいてしまう人も多いんじゃないかな。まあこのあたりは "お好み" で。
閑話休題。では本編の紹介を。
太古の時代より密かに人類社会に干渉し、地球人の進歩と台頭を抑えようとしてきたジェヴレン人。さらに彼らは、庇護者であるガニメアンに対する反乱まで企てていたが、ハントらが主導して仕掛けた "架空戦争" に敗れ、首謀者たちは一掃された。(前作『巨人たちの星』)
ガニメアンの社会は、彼らが築き上げた巨大AI&ネットワーク・システムである "ヴィザー" が社会の基本インフラとなっている。
ジェヴレン人も "ヴィザー" と同様の "ジェヴェックス" というシステムがあらゆる生活の基盤を司る重要インフラとなっていたが、"架空戦争" に敗れたことによって彼らは "ジェヴェックス" との接続を断たれてしまい、社会全体が不安定化していた。
そこで暫定統治に乗り出したガニメアンだったが、ジェヴレン人とは精神構造とメンタリティが異なるため、彼らの扱いに苦慮していた。
そこでガニメアンを支援するべく、地球の科学者ヴィクター・ハントたちがジェヴレンへやってきた。
ジェヴレン人たちは無気力化し、胡散臭い新興宗教が跋扈し始めていた。さらに、ある日を境に人格が全く別の他者のものへと入れ替わってしまう、という謎の現象が多発していた・・・
本作の重要なパーツは、社会を支えるインフラとしてのネットワーク・システムだ。ガニメアンが築き上げた "ヴィザー" はAI人格を備え、情報通信はもちろん社会のあらゆるものを制御している。
さらにVR技術も最高レベルへ到達している。脳神経に直接つながることで、五感のすべてに働きかけて究極の "体感" を実現している。
例えば地球にいながらして20光年先のガニメアンの星に立ち、そこでのすべてを五感を通じて "経験" することもできる。要するに、"究極の仮想現実体験" を可能にしているわけだ。
同様のことは "ジェヴェックス" でも実現できていたが、"架空戦争" に敗れたジェヴレン人は "ジェヴェックス" を利用することができなくなってしまう。
生活の利便性を一気に失ったジェヴレン人は無気力状態に陥り、社会は不安定化する。その間隙を縫うように胡散臭い新興宗教が勃興し、非合法で "ジェヴェックス" と接続できるサービスを提供する地下組織まで現れる。しかしそれらの背後には、"ある勢力" による陰謀が隠されていたのだ・・・
そして本書では、本編の合間にもう一つのストーリーが並行して語られていく。そこは一見すると地球の中世のようにも見えるのだが、我々の世界とは異なる物理法則に支配されている。
作中では便宜的に "ファンタズマゴリア" と呼ばれているのだが、この世界がどう本編のストーリーに関わってくるかが本作のキモだ。
冒頭にも書いたが、高度な情報通信環境やAIが進歩してきた現代は、本作の内容に "部分的に追いついて" きており、また未だ実現していなくても "その背中が見えてきた" 技術もある。何よりタイトルの『内なる宇宙』が大ヒントになっていたりする。
前作の時にも書いたけど、発表から33年経った現代でも面白く読めるし、現代だからこそ読む価値があるSFでもあろうと思う。
前作の記事で、シリーズ第五巻『ミネルヴァ計画(仮)』の刊行が遅れていると書いたが、いよいよこの12月に刊行されるらしい。
第三巻『巨人たちの星』の終盤で、ジェヴレンの反乱首謀者たちは逃亡中に時空を超越して "ある場所" へと転移してしまったことが示されていたのだが、その後どうなったかは判らないまま終わっていて、いささか消化不良の思いがあった。
しかし東京創元社の公式サイトによると、第五巻では彼らが再登場するとのこと。私も "あいつら" の行く末までちゃんと描かないと完結とは云えないと思っていたので、これは朗報。期待して待ちましょう。
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