爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー [読書・ミステリ]
評価:★★★★
東京・町田で起こった誘拐事件。しかし誘拐犯が何者かに殺害されてしまう。救出された少年は典型的な特撮ヒーローのような絵を描いて見せ、「正義のヒーロー」が助けてくれたと語った・・・
町田の街を徘徊する、ヒーローのコスチュームに身を包んだ殺人鬼。イベント運営会社で働く志村は、真相を突き止めようと活動を始めるが・・・
第21回(2023年)『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉。
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東京・町田にあるイベント運営会社マチダ・ヒーロー・ファクトリー(MHF)は、"ご当地ヒーロー"・「マチダーマン」のTVドラマ制作や、CMのための "企業ヒーロー" の企画製作も請け負っている。
本書の主人公はそこで働く志村弾(しむら・だん)。デザイナーという肩書きながら、ご当地ヒーロー「マチダーマン」のショーを運営する裏方としての仕事の方がはるかに多い。ワンマン社長の下、日々こき使われていた。
去年、地元企業から受注し、志村がデザインしたヒーロー・"シャドウジャスティス" はスーツまで完成していたが、発注した企業が倒産したためにお蔵入りとなっていた。
ちなみにそのデザインは文庫表紙のイラストになっている。イメージとしては『宇○刑○ギ○バ○』を思い浮かべていただけばいいだろう。
そんなとき、少年の誘拐事件が発生するが、意外な形で解決する。犯人が廃工場で絞殺死体となって見つかったのだ。
救出された少年は「正義のヒーロー」が助けてくれたと語った。そして彼の描いた絵を見て志村は仰天する。少年が描いた絵は、"シャドウジャスティス" によく似ていたのだ。
志村がMHFの倉庫を確認したところ、"シャドウジャスティス" のスーツは姿を消していた。社内の誰かが持ち出し、誘拐犯の殺害に利用したのか?・・・
読んでいてまず驚かされるのは、主人公の志村が働くMHFのブラック企業・パワハラ体質ぶり。ワンマン社長の気分次第で社員は振り回されるているし、失敗すると他の社員が見ている前で、屈辱的な "罰" が課される。この "罰" の内容は、あまりにも品が悪すぎてここに記すことも憚られる。興味がある方は一読してみていただきたい。胸が悪くなること請け合いである(おいおい)。
しかしそんな会社の中にもプロ意識をもつスタッフはいる。ヒーローや怪人のデザイン、スーツの製作&メンテナンス、観客を前にショーを運営する裏方たち。誰が欠けてもヒーロー・ショーは成り立たない。
実際に舞台に経つのは俳優たちだが、こちらもショーを足がかりに上を目指す野心満々のヒーロー担当若手俳優、ショー進行の屋台骨となっている悪役担当のベテラン俳優など、彼らの思いも様々。
作中、志村と協力関係となる私立探偵・仁科(にしな)。彼もまた自前のヒーロー〈真実の探求者・ディテクティバイン〉として活動している(これによる収入はほぼゼロなので、ほとんど趣味の域)。そのために、ヒーロー・スーツも持ち歩いている(車の中に常備)。単なる賑やかしキャラかとも思っていたが、終盤では意外に重要な役回りとなる。
殺人犯が誘拐犯の居所をどうやって知ったのかという根本的な謎もあるが、第二の犠牲者が発生することで犯人の動機の謎も浮上してくる。
作者はお笑い芸人やギャグ漫画家という前歴があるためか、殺人やパワハラという暗鬱な内容を扱いながらも語り口はコメディ調で、あまり深刻な気持ちにならずに楽しく読み進めていくことができる。
MHFの社員たちのキャラも濃いし、作中で描かれるヒーロー・ショーでのドタバタぶりなど笑えるシーンも多いのだが、そんな中にちゃっかり伏線を張り、ミステリとしてきちんと着地してみせるのは流石だ。
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