レモンと殺人鬼 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
保険外交員をしていた小林妃奈が遺体で発見された。彼女には保険金殺人を行った疑惑があった。派遣社員として働く姉の美桜は、妹の潔白を証明すべく活動を始めるが・・・
第21回(2022年)『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作。
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10年前、父親を通り魔に殺された小林姉妹。母親も失踪し、姉妹は別々の親類に引き取られて成長してきた。
本書の主人公は姉の美桜(みお)。派遣会社として大学の事務室で働いている。そこへ妹・妃奈(ひな)の訃報がもたらされる。山中で遺棄された遺体となって発見されたのだ。死因は刺殺。刃物で十数カ所を刺されていた。
妃奈と最期に会ったのは四ヶ月前。そのとき話したのは、姉妹の父親を殺した男・佐神(さがみ)が刑期を終えて出所したことだった。
妃奈の身辺を取材していた週刊誌記者の報道で、一年前に彼女の元交際相手の男性(仮名A)が死亡していたこと、その生命保険金の受取人が妃奈になっていたことが判明する。そのため妃奈には保険金入手のためにAを殺害した疑惑が持ち上がってしまう。もちろん姉の美桜もマスコミにつきまとわれる身に。
そんなとき、美桜の前にジャーナリスト志望の学生・渚丈太郎(なぎさ・じょうたろう)が現れる。美桜は彼の助力を得て、妃奈の疑惑を晴らすべく行動を始める・・・
父親は通り魔に殺され、母親は失踪、親類の家に引き取られ、高校卒業後は派遣社員として勤務先を転々とし、収入も少なく生きていくのがやっと。自身の容姿についても全く自信がなく、歯並びが悪いこともあってコロナ禍が終わってもマスクを外して顔を晒すことができない。
とまあ、このように主人公の美桜が "不幸のデパート" 状態。それに加えて妹の保険金殺人疑惑が浮上して、精神的には満身創痍。
そんな彼女が、妃奈の真実を知るために、行動を起こしていく。
美桜の周囲には多くの人物が現れる。中学時代に美桜をイジメていた海野真凜(うみの・まりん)、農学部の学生でボランティアサークルを運営する桐宮(きりみや)、Aの次に妃奈と交際していた銅森(どうもり)、その幼馴染み兼用心棒の金田(かねだ)・・・。あからさまに胡散臭い人物もいるし、一見して善人そのものに感じられる人物までさまざまだ。
しかし妃奈を殺した人物はどこかにいるし、出所した佐神の行方も不明だ。ちなみに美桜は佐神の顔を知らない。犯行時に未成年だったために個人情報が開示されなかったためだ。
物語は終盤に向けてめまぐるしく状況が変転していく。解説には「二転三転四転五転の力業」とあるが、まさにその通り。ジェットコースターのように読者は翻弄されていく。
最後の最後で明らかになる「殺人鬼の正体」のインパクトはけっこう大きい。"すごい!" とか "やられた!" って感じる人も多いだろうけど、私はちょっと "作りすぎ" かなぁとも思った。まあこのあたりは好みの問題だろう。
殺人鬼の正体にもビックリだが、私が一番衝撃を受けたのは、中盤過ぎの "あるシーン"。これは直接的なネタバレにならないのだが、物語の根幹に関わる部分なのでここでは書かない。興味がわいた人はぜひ読んで確かめてください。
作者は本書の一年前に他の文学賞を受賞してデビューしているプロ作家とのこと。さすがの文章力にも納得だ。
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