ボルテスV レガシー [映画]
1977~78年にかけて放映されたTVアニメ『超電磁マシーン ボルテスV』。
それまでのロボットアニメ(に限らずTVアニメ全般)は一話完結が主流だったのに対し、ストーリーの連続性を高め、全40話という尺を使って ”大河ドラマ” 的な物語を描くという野心作だった。
そしてTVアニメ放映から45年を経た2023年、フィリピンのクリエイターたちの手によってCGを駆使した実写作品として甦った。しかも全90話というボリュームで。
今回日本で公開された映画版は、その序盤の部分を編集したものだ。
まずは公式サイトの ”STORY” から
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ある日地球は突然攻撃を受けた。
宇宙のはるか彼方からプリンス・ザルドス率いる “ボアザン帝国” の軍が攻めてきたのだ。
これまでに見たこともない兵器の数々に、地球側の反撃は全く歯が立たない。
その圧倒的な戦況にありながら、プリンス・ザルドスは勝利を確実なものとするため、強力で巨大な戦力である獣型ロボット “ビースト・ファイター” を繰り出した。
その頃、地球の前線基地・ビッグファルコンには、スティーヴ、ビッグ・バート、リトル・ジョンのアームストロング3兄弟とマーク・ゴードン、ジェイミー・ロビンソンの5人が集められていた。
目的を告げられずに訓練に参加させられていた5人は、その時に初めてこれまでの訓練がボアザン星人と戦うためのものだったことを知る。スティーヴたち5人は、3兄弟の母でもあるマリアンヌ博士らの指示のもと、密かに製造されていた5機のマシンに乗り込み出撃した。
クロウ・ブーメランやボンバー・ミサイルといったマシンの武器は、ボアザン星人の兵器を打ち破ることに成功する。
しかし、屈強なビースト・ファイターには歯が立たない。その時にビッグファルコンの司令官・スミス博士から合体するよう指令が下る。
「レッツ・ボルトイン!」のかけ声で合体した5機のマシンは、巨大な人型ロボット “ボルテスV” となった。
ボルテスVが持つ特殊な超電磁テクノロジーを活かした様々な武器、そして天空剣を握り、スティーヴたちは果敢にビースト・ファイターに挑んでいく。
果たしてボルテス・チームの5人は、地球を守ることができるのか――
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本作の上映時間は97分ほど。決して長い尺ではない。見に行く前に危惧したのは、総集編的に駆け足で詰め込みな映画になっていないか、ということだった。ところが蓋を開けてみるとそれは全くの杞憂だった。
97分の尺で描かれるのは、原作アニメでいうと第1話と第2話。一話30分のTVアニメでは、実質的な尺は22分ほど。つまりこの映画は、44分のアニメを97分かけて実写で描くという、実に贅沢な尺の使い方をした映画だったのだ。
でもまあ、そもそも40話のストーリーを90話かけて描いてるのだから、おそらく全編にわたってこのようなつくりになっているのだろう。
以下、原作アニメを含めて本作について思ったことを書いていく。
■原作アニメのストーリーの革新性
昭和の時代、宇宙からの侵略者に対して地球のロボットが立ち向かう、というアニメは数多かった。だけど、他の星系からやってきた(当然、恒星間航行を可能とする技術を持っている)ということは、地球とは格段に科学技術格差があるということだ。
そんな、下手をすれば何世紀も進んだ科学力を持つ敵を相手に地球製のロボットが互角以上に戦える。考えてみればこれはおかしなことだ。たいていは天才的な科学者が登場して「こんなこともあろうかと開発していた」で済ませて(済まされて)しまっていたのだが・・・
原作アニメを初見したとき、私が驚きかつ感心したのは、本作ではその矛盾をきれいに説明して、ボルテスVが建造されるに至るまでの設定がしっかり用意されていたことだ。
しかもそれは初めから明かされているわけではなく、ストーリーの進行につれて伏線がまかれていき、そして「第28話」に至ってその全貌が明らかになるという流れになる。
なんとこの回には、戦闘シーンが全くない。つまり物語の根源に関わる ”過去の歴史” の開示、それのみに特化した内容になっている。
戦闘シーンがないということはボルテスVの活躍するシーンもないわけで、主役ロボットのおもちゃを売っているメーカーがロボットアニメのスポンサーになっていた当時では、およそあり得ない展開なのだが、スタッフはそれを押し切ったのだろう。
そしてこの設定は過去だけにとどまらない。現在進行中のストーリーにも関わってくる。
この手のヒーロー番組では後半になると敵がパワーアップしてくる。それによってピンチになったヒーロー側のロボットも、改造されたり新兵器が投入されたりするのだが、本作ではその ”ヒーロー側のパワーアップ” にもこの設定が活かされていて、実にドラマチックな逆転劇を見せてくれる。
さらに、この設定はロボットだけでなくキャラにも関わっていて(むしろ作品的にはこちらが主眼なのだろうが)、終盤のクライマックスを盛り上げる重要な ”要素” となっているのだが・・・もういい加減書いてきたので、これくらいにしておこう。
■心躍るビジュアル、合体シーンは感涙もの
映画の冒頭、ボルテスVの基地となるビッグファルコン、そして基地のある島(原作では「大鳥島」)の全景が映る。ビッグファルコンももちろんなのだが、島の全景も原作そのままの、鳥が羽を広げた形で再現されている。このあたり、終盤の展開を知っている人なら、高まる期待を抑えられないだろう。
そして何よりボルテスVの合体シーン。アニメ版のアングルを完璧に再現し、さらに桁違いに緻密化されたビジュアル。もうこれだけで胸が熱くなる。
YouTube にはアニメ版との比較動画が上がっているが、その完成度は感涙ものだ。
■キャラの再現度
アニメのキャラを実写に落とし込む場合、「イメージが違う」というのは国内海外を問わず起こる問題だろう。
本作の場合、キャラの再現にも並々ならぬものを感じる。主役であるスティーブを含むアームストロング三兄弟(原作では剛三兄弟)は体格まで原作にそろえてあり、ビッグファルコンの指揮を執るリチャード・スミス博士(原作では浜口博士)が髪型と髭まで再現してるあたり、ちょっと笑ってしまう(褒めてます)。
敵となるボアザン星の指揮官プリンス・ザルドス(原作ではプリンス・ハイネル)と彼に仕える三人の幹部に至っては、コスチュームといいメイクといい文句のつけようがなく、まさに完璧だ。
■問題点:”冗長” なのか ”見せ場” なのか
本作の評価で多いのが「冗長だ」という意見だろう。上にも書いたが44分の作品を97分で描いてるのだから、そう感じるのもある意味当然だろう。私もそう感じた一人だ。
アニメ版の第2話までの映画化と聞けば、原作を知る人ならクライマックスにはアームストロング三兄弟の母親マリアンヌ博士(原作では剛光代博士)のエピソードがくるのだろう、と予想がつくだろう(実際そのとおりなのだが)。
そして実際、伸びた尺のうち、かなりの部分が彼女のエピソードに費やされている。
実は本作には、随所に「ここ、ちょっと長いなぁ」と感じさせる部分はあるのだが、おそらくそれをいちばん強く感じさせるのがこの部分だろう。
私自身も「かなり冗長」だという意見には同意する。だけど、観終わって少し時間をおいて考えてみて、思ったことがある。
「あれは冗長なのではなく、観客への大サービスなのではないか?」と。
ここでいう観客とは日本人ではなく、フィリピンの観客だ。
国が違えば好みも価値観も異なる。ならば映画の ”語り口” も異なってくるのではないか。
「観客の見たいものを見せる」のがエンタメの基本であり目的ならば、おそらくフィリピンでは、”あのシーン” を ”あの情感描写” で、そして ”あの長さ” を以て ”じっくり” と描くことこそが、”フィリピンのボルテスVのファン” が求めているものなのかも知れない、と。
もちろん原作のアニメ版では、尺の都合で描けなかったところやもっと時間をかけて見せたかったところもあるだろう。だからリブート版の本作が長くなるのはある程度理解できるのだが、おそらく日本人が編集したら70分から75分くらいに収めたのではないかと思う。そこの差が日本とフィリピンの感性というか好みの差なのだろう。
ところで、いま Wikipedia をみて驚いたのだけど、原版(フィリピン公開版)はなんと107分もあるらしい。ということは、日本版は原版を10分削ったものということになる。
それでも「冗長」って言われてしまうのだから、原版はどうなってるのだろう。ちょっと観てみたい気もしてくる(笑)。
■声優陣について
ボルテスVが合体を終えると、主役のスティーブが
「ボォォーール テェース、ファァーーーイブ!!!」って叫ぶ。
スティーブを演じたのは小林千晃さん。原作アニメでは白石ゆきなが(現:白石幸長)さんが演じているんだけど、小林さんのこのシーンでの演技がとっても素晴らしい。小林さんがキャスティングされたのは、この ”叫びの再現度” が決め手だったのでないかと個人的に思っている。
新旧の合体シーンは両方とも YouTube に上がっているので見比べる(そして ”叫び” を聞き比べる)のも一興かと。
プリンス・ザルドスは諏訪部順一さん。こちらも人気声優。自分から「ボルテスV」に出たい!ってアピールしての出演とか。こちらもファンなのですね。
原作のプリンス・ハイネルは美形キャラとして当時の女性ファンがたくさんついたらしい。フィリピン版の俳優さんはちょっとイメージが異なるかな、とも思うが、こちらの方がフィリピンでは受けがいいのでしょう。
あとちょっと気になったのが、ボアザン星の皇帝ズ・ザンジボル(原作ではズ・ザンバジル)の声優も諏訪部さんが務めていること。二人は血縁ではあるが(原作では従兄弟同士)声まで同じというのはちょっと理解に苦しむ。フィリピン版では何か別の設定があるのかしら?
そして終盤でメインを張るマリアンヌ博士役は堀江美都子さん。
原作での剛光代博士は、三兄弟を厳しく鍛え上げるスパルタな女性だったが、フィリピン版では細やかな愛情を注ぐ優しい母親として描かれている。このあたりも ”お国柄” なのだろう。
堀江さんが歌った『ボルテスVの歌』(作曲は小林亜星!)はフィリピンでは国家並みによく知られ、歌われているらしい。合体シーンでもちゃんと原作通りに流れる(なんとフィリピンの女性歌手が日本語で歌っている)。
そんなに愛されている作品に声優として参加できて、彼女も幸せだろう。
■終わりに
こんなに長く書くつもりは全くなかったのだけど、書き出したら止まらなくなってしまった(笑)。
映画版で描かれたのは冒頭部だけなので、続きが観たいなぁ。YouTube では、中盤~終盤の映像も一部上がっているのだけど、そのあたりの再現度も半端ない。いやでも期待してしまう。
TOKYO MX で短縮版(30分×20話)が放送されるらしいんだけど、残念ながら我が家では観られないんだよねぇ・・・
でもそっちより、元々の90話版が観たいな。どこかで配信されないかしら。
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