首 [読書・ミステリ]
評価:★★★
岡山県の山奥の湯治場にやってきた映画のロケ隊。しかしその山中の滝にある "獄門岩" に監督の生首が晒された。三百年前に起こった事件を模倣するかのように・・・
表題作『首』を含む、金田一耕助の探偵譚四編を収録。
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「生ける死仮面」
東京都杉並区にアトリエを構える彫刻家・古川小六は、近所でも有名な男色家で、しばしば眉目秀麗な美少年を連れ込んでいた。
昭和2X年8月末、巡邏中の警官が異臭に気づき、アトリエに踏み込んだ。そこにいたのは号泣する小六、そしてベッドの上には少年の腐乱死体。
小六は死んだ少年のデスマスク(死者の顔から直接型を取って作った石膏像)を作成していた。そして公開されたデスマスクを見て少年の親が名乗り出てきたのだが・・・
情欲の果ての猟奇殺人と思いきや・・・発端と結末の落差の大きさに驚く一編。
「花園の悪魔」
東京から電車で一時間ほどの温泉場。そこの旅館に併設された庭園で、全裸の女の絞殺死体が発見される。被害者はヌードモデルの南条アケミ。
彼女は前夜、犯人と思われる男と旅館に投宿していた。容疑者として浮上したのは山崎欣之助という学生だったが、事件後に失踪していた・・・
単純な事件のようにみえて、真相は意外と錯綜している。ラストで犯人の末路が描かれるのも珍しいかな。
「蝋美人」
軽井沢の山中で発見された遺体。自殺とみられ、推定死後三ヶ月。しかし全裸の上に腐敗と損傷がひどく、生前の面影は全く残っていなかった。
法医学者・畔柳(くろやなぎ)博士は、この死体の頭蓋骨に蝋で肉付けし、生前の面影を再現すると発表した。
復元が完了し、公開された "死者の顔" は大騒ぎを引き起こした。それは殺人犯にして未だ逃亡中の女・立花マリと瓜二つだったのだ。
マリは元女優で、人気作家・伊沢信造の妻となった。しかし政界・教育界の名門である伊沢家の中では作家と女優のカップルは異端な存在。そして結婚して半年後、マリは信造を刺し殺して失踪していた・・・
文庫で約90ページと、本書の中で最も長い。畔柳博士をはじめとする登場人物たちの様々な思惑、復元された顔によって起こる新たな事件、そして真相も重層的。書き伸ばせば長編にもできるくらい密度が高い。
「首」
三百年前、中国地方の山奥の里で、名主の鎌田十衛門が何者かに殺されて山中の滝にある "獄門岩" に晒されるという事件があった。
そして一年前、里にある湯治旅館・熊の湯の養子が殺されて "獄門岩" に晒されるという事件が起こり、未解決になっていた。
そして今年、熊の湯にやってきた映画のロケ隊の監督が殺され、その首もまた同様に晒された。
熊の湯に "療養" に連れてこられた金田一耕助は、磯川警部の思惑通り(笑)、事件の解明に取り組むことに。
真相を明らかにすることが、必ずしも残された者たちを幸福にするわけではない。耕助と磯川警部の "大岡裁き" が見られる一編。
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