冬期限定ボンボンショコラ事件 [読書・ミステリ]
冬期限定ボンボンショコラ事件 〈小市民〉シリーズ (創元推理文庫)
- 作者: 米澤 穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2024/04/30
評価:★★★★
"小市民" を目指す高校生、小鳩常悟朗と小佐内ゆきを主人公とした連作ミステリシリーズ第4巻。
学校帰りに川の堤防道路を歩いていた二人は轢き逃げ事故に巻き込まれてしまう。犯人の乗った車は逃げ、小佐内さんを庇った小鳩君は病院に担ぎ込まれる。
骨折で長期入院を余儀なくされた小鳩君のもとに、毎日小佐内さんからメッセージが届く。どうやら彼女は犯人捜しをしているらしい。
そして入院している小鳩君は過去に思いを馳せる。三年前、二人が "小市民" を目指すきっかけとなった事件を・・・
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小鳩君と小佐内さんは高校三年生の12月を迎え、入試が目前に迫っていた。しかしこの大事な時期に、二人は交通事故に遭遇してしまう。
学校帰りに堤防道路を歩いていた二人に、車が突っ込んできたのだ。とっさに小佐内さんを庇い、代わりに車に跳ね飛ばされた小鳩君は足の骨を折り、病院に搬送される。
緊急手術を受けた小鳩君は長期入院が確定し、当然ながら受験は無理。自動的に "浪人" が確定してしまう。
病室で過ごす小鳩君のもとに、小佐内さんからお見舞いとしてボンボンショコラが届く。事故の際にスマホが壊れてしまったので、手書きのメッセージも一緒に。どうやら彼女は逃げた犯人を捜しているらしい。
実は三年前にも同じ場所で同様の轢き逃げ事件が起こっていた。入院生活で時間だけはたっぷりある小鳩君は、三年前の事件を回想していく。
被害者は当時中学三年生だった小鳩君の同級生・日坂翔太郞。現場を訪れた小鳩君は、そこに落ちていた単語帳から、事故現場に居合わせた女子生徒・小佐内さんに辿り着く。
二人で調査を始めるが、現場の堤防道路は枝道がなく、逃走する際には必ず通過しなければならない交差点があった。しかし、そこにあったコンビニの防犯カメラに犯人の車は映っていない。つまり一種の ”密室状態からの犯人(?)消失” 事件となっていた・・・
これが小鳩君と小佐内さんの出会いであり、この事件で得た "教訓" によって、二人が "小市民" を目指すきっかけとなった事件でもある。
そして三年前のこの事件と今回の事件が、微妙なところでリンクしていることも明らかになっていく。
中盤から登場するある人物が本書のキーパーソンになるのだけど、この人物の "正体" については気がつく人も多いのではないかな。しかし作者が用意した真相はそれを幾重にも上回るもので、そのあたりは流石だと思う。
小鳩君の入院生活の描写がけっこうリアル。私自身の体験とリンクするところもあって読むのが辛いところもあった。なにしろ、ここ15年間で3回も入院したからね。経験だけは豊富だ(おいおい)。
小鳩君は大腿骨を骨折したので、寝返りも打てない。私も目の手術で入院した時には、一晩中うつ伏せで寝なければならなかった(寝返りを打って仰向けになると、看護師さんに無理矢理起こされてうつ伏せに戻された)。ベッドで自由な姿勢が取れないのはホントに辛い。
小鳩君は普通に歩けないので車椅子移動。私も使ったことがある。歩いてトイレまで行けないので、ベッドの隣に "おまる" を用意されたこともある。あれは情けなかった(笑)。
しかしいちばん辛いのは退屈なこと。昼間はTVを観たり読書をしたりで時間を潰せるのだが、夜が長い。午後9時の消灯から朝6時の起床までの9時間がホントに長い。睡眠導入剤をもらったりもしたが、4~5時間も眠れば目が覚めてしまう(動かないから疲れない。疲れないから眠くない。当たり前のことだが)。
健康な日常生活を取り戻すと、絶対にもう入院なんかしたくないって思うんだよねぇ・・・。ちょっと愚痴が過ぎましたかね。
閑話休題。
本書を以て ”春夏秋冬” スイーツ四部作の完結、主役二人の高校生活も終わりを迎える。
浪人が決まった小鳩君、京都の大学へ進学する(予定の)小佐内さん。
「友情」でもなく「愛情」でもなく、「互恵関係」で結ばれていた二人の仲もここで終わり、これからは別々の道を行くのか・・・とも思われたが、どうやら三年という時間は、二人の心にも変化を与えたようで、いままでとはちょっと異なる関係で、もう少し先まで続きそうだ。
二人の「大学生編」も期待したいけど、ここで終わったほうがきれいかなとも思う。
でも、短編でも良いから二人の "その後" が知りたい気持ちもある。
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