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三体III 死神永生 [読書・SF]


三体3 死神永生 上 (ハヤカワ文庫SF)

三体3 死神永生 上 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/06/19
  • メディア: 文庫
三体3 死神永生 下 (ハヤカワ文庫SF)

三体3 死神永生 下 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/06/19
  • メディア: 文庫

評価:★★★★ (シリーズ全3巻を通じて)


 太陽系へ迫る三体艦隊に対抗すべく立案された「面壁計画」。
 それと並行して進められていた「階梯計画」は、三体艦隊へ向けて有人探査機を送り込もうというものだった。それを推進したのは航空宇宙エンジニア・程心。そして "乗組員" として選ばれたのは彼女の旧友・雲天明だった。
 一方、面壁者・羅輯がつかんだ "この宇宙の真理"・「暗黒森林理論」。これによって三体艦隊との交渉の結果、二つの文明は危ういバランスのもとながら、相互の生存を保証する "抑止状態" へと移行する。しかし・・・

 世界的ベストセラー『三体』シリーズ第三巻にして完結編。

* * * * * * * * * *

 まず最初に星の数の説明をしよう。
『三体』が星4つ半、『三体II 黒暗森林』が星4つ半、そして本書『三体III 死神永生』が星3つ。よって、シリーズ全体を平均しての評価は星4つ、ということになる。
 本書だけ星が少ない理由は、これから書く。


 まずは本書の紹介から。

 本書は第一部から第六部までの構成なのだが、第一部では時間軸が巻き戻され、三体艦隊の地球襲来が明らかになって「面壁計画」が始まった頃が舞台となる。

 雲天明(ユン・ティエンミン)は30歳前の若さにもかかわらず、肺がんの末期で、合法化された「安楽死」を選ぼうとしていた。
 思い出されるのは、大学時代の同級生・程心(チェン・シン)のことばかり。雲天明は彼女に想いを寄せていたものの、ついに打ち明けられずに終わってしまった。彼は最期に、彼女に "ある贈り物" を残して「安楽死」の日を迎えた。しかし執行の直前になって、病室に程心が現れる。

 この程心がこの第三巻の主人公となる。

 大学卒業後、航空宇宙エンジニアとなった程心が参加したのは「階梯計画」。それは三体艦隊へ向けて有人探査機を送り込もうというものだった。
 しかし技術的な問題から、人間一人をそのまま送ることは不可能と判明、人間から脳だけを取り出し、それを探査機で送りこむという結論に。
 その候補者を安楽死を望む人間たちから選ぶことになり、雲天明に白羽の矢が立った。彼はその計画への参加に同意し、脳だけとなって宇宙の彼方へ飛び立っていった・・・


 そして第二部からは、『三体II 黒暗森林』後の時間軸へ戻る。

 面壁者・羅輯(ルオ・ジー)がつかんだ "この宇宙の真理"・「暗黒森林理論」。これによって三体艦隊と交渉の結果、二つの文明は危ういバランスのもとで、相互の生存を保証する "抑止状態" へと移行していた。

 これは一種の "相互確証破壊"。冷戦時代の米ソが、核兵器を持ちながら互いに撃てなかったのは、それが双方の破滅を意味していたから。
 羅輯は、"ある方法" をとれば三体世界を破滅に導ける手段を見いだしていた。三体艦隊が人類を攻撃すれば "ある方法" が発動される、というわけだ。

 そして "暗黒森林抑止" が始まって60年あまりの時が流れた。

 人工冬眠から目覚めた程心が見た地球は、"智子"(ソフォン)による基礎研究発展の妨害も無くなり、さらには三体文明からの技術供与もあって、地球の科学技術力はめざましい発展を遂げていた。

 抑止の要となる "ある方法" の発動キーを握る者は「執剣者」(sword holder:しっけんしゃ)と呼ばれ、初代「執剣者」は羅輯が務めていた。しかし彼も高齢となり、第二代として程心が選ばれる。

 しかし三体艦隊はこのときを待っていた。「執剣者」の引き継ぎ直後を狙って行動を起こし、"暗黒森林抑止" を覆すことに成功、"智子" を通じて全地球は三体文明の支配下に置かれてしまう・・・


 物語はこのあとも波乱の展開が続く。
 以下はネタバレを含むので、読まれる方はご注意を。



 第一巻から始まった「人類 vs 三体人」の戦いは、三体文明による地球制圧の後、"第三勢力"(人類・三体人以外の知的生命体)の出現で予想外の展開を迎える。もともと「暗黒森林理論」自体が第三勢力の存在を前提としたものだったのだけれど。

 それでも『三体III』の下巻半ばまでは作品の基調は替わらない。"第三勢力" 登場後も、アニメ的とも思えるスペースオペラ的な展開が続いていく。
 例えば、敵性の知的生命体を滅ぼすために、敵星系の恒星を攻撃し、暴走させて星系全体を焼き尽くそうなんて、まんま『宇宙戦艦ヤマトIII』だったりする。

 そんな中、程心は三体艦隊に収容されていた雲天明との再会を果たす。三体世界のクローン技術によって肉体が再生された彼は、三体人の監視の下、程心を通じて人類に重要な情報をもたらそうとする。
 人類は彼から得られた情報をもとに、生き延びるための方策を探り始める。


 しかし、下巻半ばで出現した "一枚の紙" から、物語は大きく "変質" する。これまで続いてきた「人類 vs 三体人」の戦いから離れ、すべては時空の彼方へと猛然と突き進み始めるのだ。

 ここがこのシリーズの転回点であり、終着点へ向けての始まりになるのだが、ここをどう感じるかでこの三部作の評価が決まるだろう。

 私はこんなふうに感じた。
 例えば『スターウォーズ』シリーズを見ているつもりだったのに、最終章に入ったら突然『2001年宇宙の旅』が始まってしまったような。
 あるいは、(これは昔書いた、某小説の記事にも使った比喩だが)フランス料理のフルコースを食べていたら、メインディッシュで "北京ダック" が出てきた、みたいな。

 北京ダックだって高級料理だし、『2001年』だってSF映画の名作だ。だからといって、"出せばいい" というものではないだろう。出すならちゃんとTPOをわきまえてほしいと思う。
 本書下巻の半ば以降の展開は、少なくとも私にとっては「呆気にとられる」ものだったし、「期待していたものではなかった」といえる。

 人類が滅びるか、三体人が滅びるか、あるいは平和共存するか。第三勢力はそこに参加するかしないか。ストーリーはどう転んでもいいけれど、第一巻から始まった「人類 vs 三体人」の戦いにはきちんと決着がつくものと思っていた。

 しかし「そんなものは宇宙の運命に比べたら取るに足らないことだ」とばかりに放り出され、作品世界は時空の果てに向かって大暴走を始めていく。
 ”斜め上” どころではない超展開の連続で、私はすっかり置いてきぼりになってしまった。


 でもこの展開を評価する人も大勢いるんだよねぇ。実際、本も売れたし。
 Amazon でも高評価ばかりで低評価はほんの一握り。
 まあ、私の価値観がメジャーなモノではないのは、前から分かっていたことですが(笑)。


 キャラの描き方にも不満がある。特に本作のヒロインとなる程心。

 作中での彼女は、終始 "就いてはいけない地位" に就き、"してはいけない決断をする"、あるいは "しなければならない決断をしない" という、およそ主人公の器ではない行動をとり続ける。だから読んでいて、とても感情移入しにくいキャラになっている。

 雲天明に対する態度もそうだ。
 末期ガンになって階梯計画に加わった雲天明が、学生時代から自分に対して恋心を抱いていたことを知る。それ以降、彼のことを気に掛けるようになり、雲天明が宇宙の彼方へ飛びだった後も折に触れて彼のことを思いやる。

 そして三体艦隊に収容された雲天明と思いがけない再会を果たしたときには、彼が人類のために自分の責を果たそうとする姿に感銘を受ける。
 雲天明が太陽系を飛び立って以来、時が経つにつれて彼が程心にとって "大事な存在" となっていったことは間違いないだろう。それは恋愛感情ではなかったかも知れないが、それに近いものであったはずだ(と信じたい)。

 そして終盤近く、思いがけず雲天明と再会できる機会が巡ってくるが、わずかな差ですれ違い、今生の別れとなってしまう。
 とはいっても特に嘆くでもなく、ラスト近くにぽんと現れた男性とすぐにいい仲になってしまう。
 「そりゃぁないだろう・・・」そう思った読者は私だけではないと思うのだが。


 改めて第一巻の冒頭を思い出す。
 人類に絶望した葉文潔が異星文明を地球に呼び込むべく発信したメッセージは、文庫で2800ページ近くを費やした後、結局は彼女の願い通り人類に ”鉄槌” を下してくれたわけだ。
 でも私は、それを面白がることはできませんでした。
 たぶん、私のアタマが固くて古臭かったためなんでしょう。



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