#拡散希望 その炎上、濡れ衣です [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★★☆
ウエディング・プランナーの藍原ひかるは、同僚が手掛けた披露宴でのトラブル収拾に手を貸した。しかし、新婦からの投稿で式場が ”炎上” してしまう。
そしてなぜか、その矛先がひかるに向かってくることに・・・
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ホテルチェーン「ハルモニア上野」の婚礼部で、ウエディング・プランナーとして働く藍原(あいはら)ひかるは、顧客からの評判も高く、社内でも指折りの評価を得ていた。
そこを訪れたのが、野間口修平(のまぐち・しゅうへい)と麻生詩絵里(あそう・しえり)のカップル。二人の担当となったのは、ひかるの同僚の美濃昭彦(みの・あきひこ)。
美濃は外部から転職してきて、その後はあちこちの部署を転々としてきた。婚礼部への異動も二度目。その理由は、ストーリーの進行とともに明らかになっていくのだが、要するに "使えない奴" なのだ。
ひと言で云えばズボラ。根拠が無いくせにやたら楽観的なので仕事は遅いし、顧客との大事な約束事も忘れる。報告や連絡も穴だらけ。困っても相談など一切しない、というか自分が困った状況になっていることに気づかない。
そんな奴がなんでクビにならないんだ・・・と思うところだが、なぜかのうのうとしている。その理由は後半になって明らかになるのだが、まあ予想通りの背景がある。
その美濃が担当する野間口・麻生カップルもまた、家庭内にいろいろな事情を抱えてるらしく、式の内容がなかなか決まらないし、そのせいか何度も会場まで足を運んでくる。
普通のカップルよりも、より注意深く対応する必要があるカップルに対し、よりによって一番関わってはいけない人物が担当になってしまった・・・ここに今回の騒動の根幹がある。
当然ながら式はトラブルの連続となり、途中からヘルプに入ったひかるの尽力でなんとか収拾して終わった。しかし夫妻の怒りは収まらず、式場へ抗議にやってきた。
美濃と婚礼部のマネージャー・大森が対応に当たるが、その際、夫妻の追求を逸らすために、トラブルの原因となった人物としてひかるの名を挙げ、責任を押しつけてしまう。
式場の対応に納得できない夫妻は、SNSに投稿してしまう。さらに悪いことに、新婦・詩絵里の友人・根岸公恵(ねぎし・きみえ)が、夫婦を "応援" すべく過激な投稿を続ける。どんどん騒ぎは広がり、事態は収拾不能状態に。
かくして、ネット上には『A原、死んで詫びろ』という書き込みがあふれかえることに・・・
自分のあずかり知らぬところで炎上騒ぎの当事者となってしまったひかるは茫然自失してしまう。
当然ながら上司たちはひかるを庇うどころか、職場から隔離し、野間口夫妻と接触させまいとする。
しかしそれは夫妻からすれば「責任者が逃げている」と受け取られ、火に油を注ぐ結果になってしまう。
絶体絶命の危機に陥ったひかるが出会ったのは、弁護士の九印葉桜(くいん・はざくら)。彼女はひかるに訴訟を起こすことを提案する。その相手は・・・
ネット社会である現代ならではのサスペンスだろう。
厄介なのは、炎上騒ぎに加担している人間の、たぶん99%は "善意" や "正義感" から、式場とひかるを叩く書き込みをしているのだろうということ。
ただ、自分が正しいと信じている人間ほど、行動の制限が効かなくなりがちだ。だからどんどんエスカレートしていく。
世界中で起こっている戦争・紛争だって、みんな当事者同士が "自分の正義" を信じてるんだから。
物語はひかるが訴訟を決意し、相手側に訴状を突きつけるところまで進んでいく。もちろん、訴訟が起こされると分かった時点で、この騒ぎに関わった人間は慌てだす。だいたい、軽い気持ちで参加している者が大半だから、自分の形勢が悪くなると簡単に逃げ出すわけだ。
というより、次第に飽きてきて、次の新しい話題に移って行ってしまう、ってことなのかも知れない。その程度のことなのだけど、そうなるまでの間は、非難の対象となった当事者にとっては耐えられない時間だろう。
個人的には、ちゃんと裁判の内容まで描いて、事態の原因や責任の追及まできっちり世間に対して明らかにしてほしかったなぁとも思わないでもない。
でもそこまで書かなかったのは、裁判が終わる頃にはネット上ではこんな騒ぎは綺麗さっぱり忘れ去られていて「いまさら」ってことになってるだろう・・・てことなのかも知れない。そこまで作者が考えたのかどうかは分からないが。
作者はこれが小説デビューらしいが、キャラの書き分けも上手い。特にひかるの数少ない味方となる同僚・四ノ宮祐斗(しのみや・ゆうと)の、飄々としたところがとてもいい。
炎上するひかるのパートではハラハラしたし、美濃の "働きぶり" を描くパートではホントに腹が立つなど、筆力も充分にある。
作者の経歴を見ると、編集やライターや脚本執筆など、文章に関わる仕事をしてこられたようなので納得できる。
ミステリでもSFでもないけれど、とても楽しく読ませてもらいました。
タグ:サスペンス
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