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三体II 黒暗森林 [読書・SF]


三体2 黒暗森林 上 (ハヤカワ文庫SF)

三体2 黒暗森林 上 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/04/23
  • メディア: 文庫
三体2 黒暗森林 下 (ハヤカワ文庫SF)

三体2 黒暗森林 下 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/04/23
  • メディア: 文庫

 全世界で2900万部突破のベストセラーSF超大作、三部作の第二部。

 三体世界を発進した1000隻もの侵略艦隊の太陽系到達は400年後。
 人類は対抗策として四人の「面壁者」を選び出した。しかし三体世界の派遣した "破壁人" によって、面壁者の立てたプロジェクトは次々と破綻していく。
 そして「面壁者」最期の一人となった元天文学者・羅輯は、任務を放棄して隠遁生活に入っていた・・・

* * * * * * * * * *

 1967年、文化大革命で父を殺され、大学教授の地位を失った物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジュ)は、人類に絶望し、宇宙へ向けて地球文明への介入を促すメッセージを送る。
 それを受け取ったのは、"三体世界"(三つの恒星を巡る惑星) に暮らす異星人。過酷な惑星環境を脱出して新天地を求める三体人たちは、太陽系へ向けて侵略艦隊を派遣する。

 ちなみに、本書の作品世界ではいわゆる "ワープ航法" のような、物体が光速を越える空間跳躍等の超科学は登場しない。だから、三体艦隊の太陽系到着までには400年もの年月が必要となる。

 その間の人類文明の発達を阻止するために送り込まれたのが "智子"(ソフォン)。陽子一個の大きさの中にスーパーコンピュータを詰め込んだ、三体世界の超兵器だ。
 地球の情報通信に介入し、新たな基礎物理学の発展を妨害する。さらにはリアルタイムで地球のあらゆる情報を三体艦隊へ伝えることもできる(量子ゆらぎを利用することで、情報伝達については光速の壁を越えられるようだ)。

 さらに ”智子” が地球側のネットワークに介入することで、社会に不満を持つ地球人を集め、三体艦隊の到着を歓迎する「地球三体協会」(ETO)が組織され、三体世界からの指示を受けた妨害工作が始まっていた。


 ここまでが第一部。
 そして第二部では、人類の三体艦隊への対抗策が描かれる。


 地球の情報通信を把握している "智子" によって、人類のことはすべて三体世界へ筒抜けになってしまうが、個人の頭の中の思考までは読み取ることはできない。

 そこで国連惑星防衛理事会(PDC)は、「面壁計画」を始動させる。すなわち、四人の「面壁者」(wall facer:めんぺきしゃ)を選び出し、彼らに三体艦隊への対抗策を(頭の中で)独自に立案してもらう。
 そしてその実現のために、「面壁者」は("智子" への情報漏洩を防ぐために)その真意や目的を一切明かすこと無く、莫大な地球のリソースをほぼ無制限に利用することができる特権を与えられる。

 選ばれたのは、元アメリカ国防長官フレデリック・タイラー、前ベネズエラ大統領マニュエル・レイ・ディアス、元欧州委員会委員長で科学者のビル・ハインズ。
 そして四人目として選ばれたのが、元天文学者・羅輯(ルオ・ジー)だった。彼が第二部の主人公となる。

 他の三人と異なり、全く無名だった彼が選ばれたのは、ETOがなぜか執拗に彼の命を狙っていたから。彼には、三体人にとって何らかの脅威となる要素があるのではないか・・・そうPDCが判断したからで、それが何なのかは誰も分からない(もちろんストーリーが進めばそのあたりの理由も明らかになっていく)。

 とはいえ、自分が人類を救うという意識が全くない(おいおい)羅輯は、人類社会に背を向け、隠遁生活に入ってしまう。
 しかし「面壁者」には、自分の行動の理由を説明する義務はないので、彼の行動もまた容認されていく・・・


 400年にもわたる物語をどう語るのか、と思っていたのだが、本作の中では人工冬眠が早くから実用化されており、「面壁者」はもちろん、将来の宇宙軍の中核となる軍人や、一般人でも資金があれば冬眠できるようになっている。

 これにより、メインとなる登場人物たちは時の壁を越えて活躍できることになり、本書でも中盤から200年後の世界へと時間軸が跳ぶ。


 200年経っても "智子" による妨害は続き、画期的な技術革新などは起こっていない。しかし既存の技術をブラッシュアップすることで、人類は軍備をすすめてきた。
 軌道エレベーターも完成し、強力な宇宙艦隊も組織され、一般人には楽観的な見通しを持つ者も現れていた。

 しかし三体世界も黙って地球の準備を見ているはずもない。
 軍備拡張と並行して「面壁者」の立案した計画も進んでいたが、ETOは各「面壁者」のもとへ "破壁人" なる刺客を送り込んでいた。

 そして、三体艦隊も着実に迫ってきていた。その中で、速度を上げて本隊よりも先に太陽系に到達しようとしている "探査機" と思われる物体を検知した人類は、それを捕獲すべく、2000隻に及ぶ宇宙艦隊を出撃させるのだが・・・


 この手の "侵略もの" というのは、まずは侵略される側が圧倒的に不利な状況に追い込まれるのが "お約束"。
 本書もその例に漏れず、人類は絶体絶命な危機に陥ってしまうのだが、そのあたりは読んでいただくしかない。
 地球を飛び出し、宇宙空間にまで広がった舞台の上で、作者の筆もノリノリだ。ここまできたら、やっぱり最終巻が読みたくなるだろう。いやあ上手い。




 さて、以下は感想。

 致命的なネタバレはないと思うけど、本作の後半の展開に触れる内容になるので、これから読もうと思っている人は読まないことを推奨します。


 "智子" の存在によって八方塞がりになってしまった人類が、なんとか事態を打開しようと始めた「面壁計画」。羅輯以外の三人は、それぞれ計画を立案、実現へ向けて動いていくのだが、後半になって "仕事人" ならぬ "破壁人" によってその正体が暴かれていく。
 まあ、超絶的な技術格差がある敵に対して、効果的な対策が簡単に実現できるわけもないだろう・・・と思っていたのだが、明るみに出たその計画の中には、「いくらなんでもそれはないだろう」的なものもあったりする。

 読んでいてちょっと驚いたのは、登場人物の一人が『銀河英雄伝説』(田中芳樹)の登場人物、ヤン・ウェンリーの台詞を引用するシーンがあったこと。
 中国でも翻訳出版されてるようなので、作者も読んでいるのだろう。もっとも、現在の中国の政治状況を見てると、『銀英伝』の "民主政治vs専制政治" の描かれ方は当局に嫌われるんじゃ無いかなぁ・・・なんて、心配してしまう。発禁になっちゃったりして(笑)。余計なお世話かも知れないが・・・

 閑話休題。
 そんな目で本作を眺めると、大艦隊が宇宙を押し渡っていくのは『銀英伝』的と云えなくもない。まあ私が連想したのは『宇宙戦艦ヤマト』の白色彗星帝国だったけど。
 ついでに云うと、三体艦隊の "探査機" と思われていた飛翔体が実は強力な兵器で、いとも簡単に人類の生殺与奪権を握ってしまう・・・というのも、同シリーズの映画『ヤマトよ永遠に』の冒頭部分を彷彿とさせる。
 まあ、星間戦争をテーマにしたスペースオペラなら、展開が似てくるのは仕方がないとも思うが。

 最期に、肝心の主役・羅輯についてもちょっと触れておこう。

 「面壁者」として地球を救うことを求められた彼だが、その任務を放棄してしまう彼はおよそ主人公らしくない。
 そんでもって、望めば何でも叶えられることをいいことに「ボクはこんな女の子に逢いたい」って、自分の ”理想の女性像” をてんこ盛りした願望(おいおい)を通そうとするのは如何なものか。

 ところが彼の周囲にいるスタッフがまた優秀で、しかもリソースも使い放題だから、ちゃんと望み通りのお嬢さんを見つけてくるんだから、なんともはや。
 もちろん羅輯は彼女に一目惚れ、女の子のほうも彼のことを憎からず思うようになり・・・。
 このあたり「いったい私は何を読まされているんだろう」(笑)と思ってたんだが、これが後々の展開に関わっていくあたり、ちゃんと計算はしてあるんだね。

 そして三人の「面壁者」による計画が潰え、三体艦隊の "探査機" によって絶望のどん底に叩き落とされた人類。いよいよ、ここで働かなかったら、羅輯くんは主人公じゃないだろう。

 というわけで、最後の最後に彼がひねり出した "秘策" が明らかになって本作は幕となる。だけど、その内容については評価が分かれるような気がする。

 「その発想はなかった!」と驚く人(実際、このアイデアは見たことも聞いたこともなかった)もいれば、「思ってたのと違う」と拍子抜けした人もいるだろう。正直なところ、私も納得するまでちょっと時間が掛かったことは書いておこう。
 もっとも、『三体』シリーズ全体の成功を見れば、このアイデアは読者に広く受け入れられたのだろうとは思うが。

 とはいっても、この "秘策" ひとつで形勢逆転、というわけではない。
 圧倒的な破壊力をこめた張り手一発で、土俵外へ吹っ飛ばされそうになった人類が、辛うじて徳俵に足が引っかかって踏みとどまった、という状況だ。

 さて、これからどうなる・・・というところで「つづく」。
 しっかり完結編へ興味をつなぐあたり、やっぱりよくできてる(笑)。



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