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魔偶の如き齎すもの [読書・ミステリ]


魔偶の如き齎すもの 刀城言耶 (講談社文庫)

魔偶の如き齎すもの 刀城言耶 (講談社文庫)

  • 作者: 三津田信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/06/15
評価:★★★★

 怪奇小説作家・刀城言耶(とうじょう・げんや)が探偵役を務めるシリーズの一冊。短編集としては3冊目で、彼が新人作家としてデビューした頃の話を収めている。


「妖服(ようふく)の如き切るもの」
 東京は神保町の隣、白砂坂(しらすざか)。坂道に沿って建つ4軒の家がある。
一番上の家には砂村剛義(つなよし)、一番下の家には砂村剛毅(ごうき)が住んでいる。2人は兄弟なのだが犬猿の仲。そして、いろいろ紆余曲折があって、剛義の息子・昭一は剛毅のもとで、剛毅の息子・和一は剛義のもとで暮らしていた。
 その剛義・剛毅の兄弟が、そろって同じ日、同じ時間帯に喉を切られて殺害される。しかも、ひとつの凶器が両方の殺人に使われていた。
 犯行時刻に、この2軒の間を移動した人物は目撃されていないことから、警察は昭一・和一による交換殺人を疑うが、凶器の受け渡し方法が分からない・・・
 凶器移動のトリック自体はミステリを読み慣れている人なら見当がついてしまうと思うのだけど、言耶による移動方法の検討シーンがなかなかの読み応え。
 物理的方法から心理的盲点まであらゆる可能性を挙げて検討をしていくのだが、内外の有名作品をある程度読んでいる人ほど楽しめるだろう。

「巫死(ふし)の如き甦るもの」
 西東京にある節織(ふしおり)村。そこの旧家・巫子見(ふしみ)家の息子・不二生(ふじお)は、戦争から復員してくると、家業を放り出して巫子見家所有の山にこもってしまい、仲間を集めて集団生活をするようになった。
 やがて自分たちの暮らす ”村” を高い塀で囲ってしまうが、当の不二生が不治の病に冒されていることが判明する。「死んでも必ず復活する」と独自の死生観を語り出した彼の元からは人が去り始め、最後に6人の女性が残った。
 そんなとき、凶悪事件の犯人を追う警察が ”村” に踏み込んだが、どこを探しても不二生の姿はない・・・。
 これも、事件発生までのディテールの積み重ねが分厚い。人間消失ネタは予想がつくのだけど、それでも面白く読ませるのは流石。

「獣家(けものや)の如き吸うもの」
 冒頭では、ある歩荷(ぼっか:山小屋への荷揚げを仕事とする者)の体験談が語られる。大歩危(おおぼけ)山の小屋への荷揚げが終えて下山するが、その途中で深い霧によって道に迷ってしまう。そこで彼が出くわしたのは、洋風の造りで奇怪な動物の彫刻が数多く刻まれた屋敷だった。中に入ったものの、”何か” がいる気配に恐れをなして、そこを逃げ出してしまう。
 次に語られるのは、この歩荷の話を又聞きした学生の話。この怪しい屋敷を見つけようと、大歩危山に登り始める。問題の家を発見したものの、彼もまた屋敷の異様な ”つくり” に恐れをなして逃げ帰ってしまう。
 この2つの体験談を持ち込まれた言耶は、彼らが出会ったそれぞれの屋敷に、決定的な ”構造の違い” があることを指摘する。しかし、同じ山中に、不気味な外見をもつ屋敷が2つもあるはずはない・・・
 建物を扱ったミステリはいくつかあるけど、これも予想はついた。けど自慢は出来ないんだな。なぜかと言うと、似たようなネタを扱った作品を、最近読んだばかりだったから(笑)。

「魔偶(まぐう)の如き齎(もたら)すもの」
 手にした者に幸福と禍(わざわい)を齎すという、”魔偶” と呼ばれる土偶が存在するらしい。骨董収集家の宝亀幹侍郎(ほうき・みきじろう)がそれを手に入れたという情報を聞いた言耶は、編集者の祖父江偲(そぶえ・しの)とともに宝亀家を訪れる。それは4つの出入り口を持つ、卍(まんじ)の形をした ”卍堂” という建物に収蔵されていた。
 その卍堂の中央部で、幹侍郎の身内である吾良(ごろう)が、何者かに殴打されて意識不明の状態で発見される。事件発生時、4つの出入り口にはそれぞれ人がいて現場は密室状態。犯人はその4人の中にいるはずなのだが・・・
 例によって言耶による推理が始まる。4人の容疑者それぞれについて犯人の可能性を逐一検討していく。
 ここがこのシリーズの見せ場なのだけど、今回は見事な背負い投げを食らってしまいました。振り返れば、伏線もきちんと張ってあって。いやもう脱帽です。

「椅人(いじん)の如き座るもの」
 裕福な材木商の家に生まれた鎖谷鋼三郎(くさりや・こうざぶろう)は、家業を3人の姉とその夫たちに譲り、自分は〈人間工房〉なるものを立ち上げた。そこで弟子の折田健吾と共に、一風変わった家具を作り始めたのだ。
 彼の作る家具はいずれも人体をデフォルメしたものばかり。例えば、人間が肘掛け椅子に座った状態をそのままの形で木工家具化したものが、タイトルになっている ”椅人” だ。
 しかし、そんな奇矯な家具が売れるはずもない。〈人間工房〉の維持費は、実家の援助に頼っていた。
 ある日の夕刻、祖父江偲は鋼三郎の元へ取材に訪れる。しかしその最中、実家の社員・元村が訪れて、専務が帰ってこないという。専務の照三は鋼三郎の姉の夫で、金食い虫の〈人間工房〉を巡って以前から衝突していた相手だった。
 鋼三郎によると、照三は朝8時頃にやってきて、午前中は事務室にこもって工房の帳簿を見ていたという。しかし昼に健吾が見に行くと既に姿はなかった。
 元村によると、近所の住人で照三が工房から帰って行く姿を目撃した者はいないのだというが・・・
 言耶が明かす内容は、読んでいてなんとなく頭に浮かんだ内容の、そのさらに一段上をいくもの。しかしまあ、よくこんなことを思いつくものです。


 最後に、本書をこれから読む人にアドバイス。
 「このシリーズを読むのは本書が初めて」って人はそうそういないとは思うのだけど、もしそういう人がいたら、シリーズの他の長編を何冊か読んでから本書にとりかかることをオススメする。そのほうが、より深く楽しめると思うから。



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