ハケンアニメ! [読書・青春小説]
評価:★★★★☆
映画化もされた長編小説。今回は ”観てから読む” パターンになった。
全体は四章構成になっていて、それぞれ中心人物が異なる。
「第一章 王子と猛獣使い」
有科香屋子(ありしな・かやこ)は、アニメーション製作会社・スタジオえっじのプロデューサー。現在の担当作品は、王子千晴(おうじ・ちはる)監督の新作『運命戦線リデルライト』。彼の得意とする ”魔法少女もの” だ。
王子は9年前の初監督作『光のヨスガ』で ”天才” との評価を得たものの、その後は監督としては沈黙の時間を過ごしていて、今回が復帰作となる。
しかし、製作発表まで1週間と迫ってきた時期に王子が失踪してしまう。制作側も混乱し、監督交代案まで取り沙汰される事態に。しかし王子の才能に惚れ込んだ香屋子は、徹底的に彼を守ろうとするのだが・・・
「第二章 女王様と風見鶏」
斎藤瞳(さいとう・ひとみ)はアニメ業界最大手のトウケイ動画に勤務している。大学の法学部を出て公務員をしていたが、アニメへの思いが断ちがたく、退職してこの業界に飛び込んだ。
ゲーム内アニメの製作で評価され、ついに新作アニメ『サウンドバック 奏の石』で初監督を務めることに。謎の敵に対して、主人公の少年少女たちが不思議な石の力を借りて戦うという王道ロボットアニメだ。しかしスタッフや声優たちと衝突を繰り返す日々で、製作は順調ではない。
担当プロデューサーは、敏腕と名高い行城(ゆきしろ)。スポンサーとの打ち合わせや販促イベントなどに次々に引っ張り出されて、こちらも瞳にとってはストレスの種だったが・・・
「第三章 軍隊アリと公務員」
並澤和奈(なみさわ・かずな)は、新潟県選永(えなが)市にあるアニメ原画スタジオ「ファインガーデン」のアニメーター。最近の担当作品が ”神作画” と評価され、アニメファンたちの人気を集めている。
選永市の風景が『サウンドバック』の舞台モデルとして使われたことから、市はアニメファンの ”聖地巡礼” を当て込んで観光振興を図ることになった。
担当者となったのは市の若手職員・宗森周平。彼は「ファインガーデン」に協力を依頼し、和奈が周平とともに ”街おこし” に取り組むことに。
最初はいやいや参加していた和奈だったが、素朴で実直を絵に描いたような周平を行動を共にしていくうち、だんだんと心境に変化が起こっていく・・・
「最終章 この世はサーカス」
選永市で行われる祭りに『サウンドバック』が参加することになり、瞳・行城に加えて王子と香屋子までやってきて、さながらカーテンコール状態に。
とにかく ”アニメ愛” にあふれた作品だと思う。アニメーターを初めとして、制作者の労働環境が概して劣悪であることもしっかり書かれているけれど、それを上回る ”情熱” もまたしっかり描かれている。
王子千晴、斎藤瞳、並澤和奈、三者三様の ”アニメ愛” が、読む者の心に染みていく。
特に「第二章」のラスト、行城と瞳のシーンは感動ものだ。最後の一行まで来たとき、涙腺が崩壊してしまった。
これは本書に登場するアニメ関係者全員、そしてアニメを愛するすべてのファン全員が抱く思いだろう。
作者は ”この一行” を書くために本作を書いたんじゃないかと思ったよ。
小説は終わっても、登場人物たちは作品世界の中で生き続ける。瞳や王子の次回作も知りたいし、和奈さんの ”ラブコメ”(笑) の様子も知りたいなぁ。続編熱烈希望。
最後に、原作小説を読んで改めて映画版について考えたことを。
本書は文庫で600ページあるのだが、番外編となる短編が40ページあるので、「ハケンアニメ!」本編は560ページほどになる。
これが2時間ちょっとの映画になったわけで、当然ながらかなりの内容がカットされてる。たいていの場合、「あのシーンがない」「あのキャラの出番が削られた」とかの不満が爆発するものだが、不思議と映画版を観てから本書を読んでも、そういう思いにほとんど駆られない。
まあ、映画→小説という順番だったからかもしれないけどね。逆だったら不満を覚えたのかもしれないが。
「第三章」の “街おこし” 部分を思い切ってカットし、『リデルライト』と『サウンドバック』の話に絞り込んだのが上手かったと思う。
この2作、小説では同一クールの放映ではあるものの時間帯は異なっていた。それを映画版では同一時間帯の放映に設定して ”天才監督 vs 気鋭の新人” の直接対決へと構成を変更し、瞳・王子・香屋子・行城の4人の同時進行の物語として描き出した。結果的にこれが大正解だったと思う。
原作小説での印象的なシーンや台詞も過不足なく取り込み、全体を目配せして効果的なところにしっかり織り込んである。
作中作となる『リデルライト』と『サウンドバック』も、どちらもしっかりとした作画&豪華声優陣で、単独の ”アニメ作品” としても実に魅力的に見える。両方とも1クール作品として映像化してほしくなったよ。
小説版とは異なるところも多分にあるのだけど、映画として成立させるためには有効なことだったと納得できる。2時間ちょっとの中できっちり起承転結をつけ、しかも終盤の盛り上がりも半端ない。
監督さんと脚本家の才能もまた素晴らしかったのだと思う。
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