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ダブルトーン [読書・SF]


ダブルトーン (徳間文庫)

ダブルトーン (徳間文庫)

  • 作者: 梶尾真治
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/02/07
評価:★★★☆

 主人公・田村裕美(ゆみ)は30代初め。パート勤めの主婦だ。5年前に結婚した夫・洋平と保育園に通い始めた娘・亜美との3人で、熊本に暮らしている。
 倦怠期というわけではないが、仕事疲れからか家での洋平は怠惰で、夫婦の会話も減った。そんな日々の生活に単調さと夢の無さを感じ始めている。

 もう一人の主人公は中野由巳(ゆみ)。24歳のOL。学生時代のアルバイト先だった〈タカタ企画〉にそのまま就職した。会社の業務は広告代理店の下請けだ。
 社員が3人しかいないので仕事は多岐にわたるが、そのぶん給料もいい。アパートで一人暮らしをしながらも、充実感を覚える日々を過ごしている。

 裕美は最近、不思議な体験を続けていた。
 朝になって目覚めると、中野由巳という別人になっていて、1日のあいだ由巳の生活を経験する。そして翌朝は裕美に戻っているのだ。
 そして、”由巳だった” 間に裕美が経験したことも、記憶としては頭の中にしっかり残っている。

 そして同じことは、由巳のほうにも起こっていた。朝になると裕美になり、裕美の生活を経験し、翌朝には由巳に戻る。

 裕美と由巳の2人は、記憶を共有しつつ生活を続けているのだ。

 そしてある日、由巳の会社〈タカタ企画〉に洋平が現れた。彼は文房具販売の営業職なので、そのセールスのためにやってきたのだ。
 裕美の記憶から相手が洋平であることに気づき、驚く由巳。しかし目の前の洋平は裕美の記憶の中と異なり、営業スマイルもあるのだろうが、なかなか魅力的に見えてちょっと心が動いてしまう。

 それ以降、洋平はちょくちょく〈タカタ企画〉に顔を出すようになる。どうやら、彼は由巳に好意を寄せているらしい。そして由巳もまた、彼に惹かれるものを感じ始めてしまう。

 しかし彼には、裕美という妻と、亜美という娘がいるはずではないのか?
 コイツは妻子がいることを隠して独身OLを籠絡しようとしている極悪不倫男(笑)なのか?

 疑問に思った由巳は、洋平の家族のことを調べ始めるが、そこで意外な事実を知ることになる・・・


 ここまでのストーリー紹介で気づく人もいるだろうし、”意外な事実” の内容まで読み進めれば、たいていの人がわかるだろう。
 本書の基本となるアイデアは、何年か前にヒットした某アニメ映画によく似ている。あえて題名は挙げないけど、分かる人は多いと思う。

 まあ、古今東西、さまざまなアイデアや物語のパターンは、数多の作品で繰り返し使われてきたわけで、似ているからといってそれが問題になるわけでないのだけど、ちょっと時期が悪かったかな。やっぱり人口に膾炙した作品だったからねぇ、”アレ” は。本作も、もう数年あとの発表だったらよかったと思う。

 もちろん、ベテランの梶尾真治のことだから、似たようなアイデアから出発しても、かなり雰囲気の異なる物語に仕上げてきている。

 文庫本の裏表紙にある惹句の最後には ”ラブ・サスペンス” とある。
 その宣伝文句の通り、SFとして始まり、サスペンスとして進行し、終盤では再びSFとして締めくくられるのだけど、ミステリとしても読めるかな。


 メインのストーリー以外での本書の読みどころは、由巳の変化かな。

 公私にわたり充実した独身貴族の由巳は、結婚する気などさらさらなく生きているのだけど、洋平に出会ったことで心に波立つものを感じ始める。
 結婚したことで得られる幸せもあれば、失う幸せもある。そしてそれは結婚しない場合でも同じ。
 人間には手が2本しかないからね。2つのものをつかんでいたら、3つめはつかめない。それを得ようと思ったら、どちらか片方を手放さなければならない。

 ラストシーンに由巳さんが登場するのだけど、彼女が幸せになってくれたらいいなあ・・・って思いながら本を閉じた。



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