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ドッペルゲンガーの銃 [読書・ミステリ]


ドッペルゲンガーの銃 (文春文庫 く 40-2)

ドッペルゲンガーの銃 (文春文庫 く 40-2)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/10/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 主人公は女子高生・水折灯里(みずおり・あかり)。
 老舗出版社主催のミステリ短編賞に応募、佳作入選となって現役高校生作家としてデビューを果たした。しかし、担当編集者から第2作執筆の催促を受けるもネタが思い浮かばずに困り果てていた。

 灯里の兄・大介は警視庁捜査一課の刑事。彼女は兄からミステリネタになりそうな情報を得ようと、大介にくっついて捜査現場に潜り込むのだが・・・

 兄が刑事とはいえ、女子高生が犯罪現場に入りこむのは無理筋だろうと思うのだが、実は2人の父は警察庁の警視監という大幹部。よって、すんなり通ってしまうんだな。ミステリではよくある設定だけど。

 とまあこういう風に書いてくると灯里が探偵役かなぁと思いきや、そこはひとひねりされてる。意外な ”人物” が探偵として現れ、灯里はもっぱらワトソン役となる。

 扱われる事件はシリアスかつ凶悪なのだけど、この探偵役がたいへんユニークというか無茶苦茶なキャラなので、灯里とこの ”人物” との会話のシーンはユーモアたっぷり。このへんは作者の得意分野だろう。

 本書には彼女が出会った3つの不可能犯罪事件が収録されている。


「文豪の蔵」
 サブタイトルは ~密閉空間に突如出現した他殺死体について~。
 徳山蛙仙(あせん)は昭和初期~中期にかけて活躍した作家。その家と土蔵を相続した孫が土蔵を調べると、膨大な蔵書の中に大量の稀覯本、同時代の超有名作家たちのサイン本など、古書マニア垂涎のお宝の山が見つかった。
 さっそく蔵書の調査と整理が始まったが、その最中、土蔵の中で死体が発見される。被害者は調査に加わっていた大学国文科助教。しかし犯行推定時刻には土蔵は施錠されており、そこを開く唯一の鍵は衆人環視の中にあった・・・
 このトリックは単純だけど心理的な盲点をうまく突いてる。でも、謎解きのキモになるアイテムは、普通の人は思いつかないよなぁ・・


「ドッペルゲンガーの銃」
 ~二つの地点で同時に事件を起こす分身した殺人者について~。
 東京都足立区のコンビニに拳銃強盗が入った。強盗は銃を2発撃って店員を威嚇、現金3万円を奪って逃走した。
 その数分後、東京都大田区で殺人事件が起こる。被害者は私立探偵を営む傍ら、調査で得た情報で恐喝をしていた。遺体には2発の弾丸が撃ち込まれていた。
 2つの現場から採取した弾丸は線条痕が一致、同一の銃から発射されたものと断定された。しかし現場は25km離れており、通常の移動手段では1時間以上かかるのだが・・・
 ミステリを読みなれた人ならなんとなく見当はつくかな。でも、こんな策を弄した理由の方がメインか。


「翼の生えた殺意」
 ~痕跡を一切残さずに空中飛翔した犯人について~。
 資産家・兵頭(ひょうどう)雅臣の死体が自宅の離れで発見される。現場の状況から自殺と思われたが、殺人の可能性も排除できない。
 発見者は、雅臣と同居していた長男・秀一。1か月前に交通事故で足を骨折し、現在は車椅子で生活している。
 事件のあった夜には降雪があり、現場周辺の積雪に残っていたのは、離れに向かう雅臣の下駄の跡と、遺体発見時の秀一の車椅子の跡だけだった。
 これもミステリを読みなれた人なら、トリックはなんとなく見当はつくかな。でも、解決編を読むと「ここまでやるのか」とも思わさる。情景を想像すると、驚きを通り越して滑稽ですらあるが。


 その気になれば続編も作れる終わり方なので、いつか、無事に第2作を書き上げた(笑)女子高生作家・灯里さんに再会できるかも知れない。



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