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月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿 [読書・ミステリ]


月と太陽の盤: 碁盤師・吉井利仙の事件簿 (光文社文庫)

月と太陽の盤: 碁盤師・吉井利仙の事件簿 (光文社文庫)

  • 作者: 悠介, 宮内
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/07/11
  • メディア: 文庫

評価:★★★

 主人公兼探偵役を務めるのは碁盤師・吉井利仙(りせん)。
 かつては囲碁の棋士だったが、五十路に入った今は囲碁用の碁盤作りを生業としており、日本各地を巡って碁盤に適した木材を探し回る日々を送っている。

 サブレギュラーは3人。
 まず利仙の弟子・愼(しん)。16歳ながら将来を嘱望されている新進棋士だ。利仙に憧れ、押しかけ弟子となっている。
 その姉弟子の蛍衣(けい)。こちらは18歳の女流棋士だ。
 そして碁盤贋作師の安斎優。碁盤は高いものだと1000万円台もするらしいから、碁盤の贋作も横行するのだという。

「青葉の盤」
 山口の山中にいた利仙と愼は、逸美という女性と出会う。
 彼女の父・昭雪(しょうせつ)はかつて碁盤師だったが、彼の作った碁盤を巡って当時の本因坊と確執が生じた。それによって仕事を失い、やがて昭雪は不審な死を遂げた・・・
 昭雪の死の謎と碁盤の謎が解かれる。後者の方は素人には分からないけれど、本作によって ”碁盤つくり” というものの奥深さを教えてくれる。

「焔の盤」
 美術館で展示されることになった碁盤・〈紅炎〉。しかし利仙の前に現れた贋作師・安斎は、自分の手元にある方こそ本物で、展示予定のものが贋作なのだという・・・
 碁盤の真贋を巡る駆け引きがコン・ゲーム的に描かれる。

「花急ぐ榧」
 利仙が過去に不出来な碁盤をつくっていたという。安斎からそう聞かされた愼と蛍衣は、新潟の山中に呼び出される。
 そこで安斎が語り出したのは、20年以上前の思い出話。彼と利仙と、”Y” という女性の3人が過ごした日々のことだった・・・
 男女の愛憎を巡る物語は、ちょっと連城三紀彦を思わせる。ただ、連城作品ではたいてい悲劇的な結末で終わるのだが、こちらはひと味違うラストを迎える。

「月と太陽の盤」
 囲碁のタイトル〈九星位〉戦の朝、九星位保持者の笠原八段が墜落死体で発見される。場所はタイトル戦が行われるビル〈岩淵記念館〉の中庭。
 笠原は対戦前日から記念館に泊まり込んでいた。セキュリティが厳しく、建物への出入りはできなかったことから、記念館内に滞在していた他の棋士が容疑者となるが・・・
 文庫で80ページと本書の中でいちばん長く、かつ本格ミステリらしい作品。途中からは安斎も顔を出し、事態を混乱させつつ(笑)、真相への手がかりももたらす。
 探偵役はほとんど愼が務めるが、もちろん利仙もラストに登場して物語を締める。

「深草少将」
 18歳となった愼は、メキシコで1年間、囲碁の普及活動に携わることになった。旅立つ前にもう一度利仙に会いたいと思った愼は京都にやってきた。すると、愼が泊まった部屋の前に、一粒の榧の実が置かれていた。これは利仙が持ってきたものと思われた。これは何を意味するのか?
 師を探す愼は、やっとのことで見つけることができたのだが・・・
 本作はミステリというよりは、利仙が ”人生の師” として愼に語るアドバイスがメインかな。

「サンチャゴの浜辺」
 利仙(と思われる男)がメキシコを訪れたときのエピソード。
 上記の4編とは異なるテイストで「番外編」ともいうべき内容だ。時系列的にも「深草少将」よりも前だと思われる。
 他の4編はみな日本国内を舞台とし、物語的にもそこで完結するのだけど、この作品は国際情勢にも関わっていて、宮内悠介らしいといえばらしい。

 私は囲碁に関しては何も知らないのだけど、それでも本作を楽しむには支障はない。碁の世界や碁盤作りに関する蘊蓄もたっぷりあって、そちらも楽しめる。

 安斎優というキャラがまたユニークだ。悪役なんだけど何となく憎めない。悪いことはするけれど、暴力よりは頭脳労働に重きを置いていることもあるだろう。
 利仙とは不倶戴天の敵同士であるけれどライバルとも言える。ともに棋士として過ごした時期もあり、ある種の友情も感じていそうだ。

 蛍衣さんもなかなか魅力的な女性だ。愼に対しては姉みたいな接し方だけど、「深草少将」以降はもうちょっと関係に変化が起こりそうな気配も窺われる。

 できればこのキャラたちのその後の物語が読みたいなぁ、と思う。


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