沈黙のパレード [読書・ミステリ]
評価:★★★★
物理学者・湯川学が探偵役となる「ガリレオ」シリーズ、その9巻目だ。
並木沙織は、東京都菊野市の商店街にある定食屋「なみきや」の店主夫妻の娘。常連客や近所の人々からも愛される存在で、文字通り店の「看板娘」だった。
音楽的にも非凡なものをもち、その才能に惚れ込んだ音楽プロデューサーのもとでレッスンに励み、歌手としてのプロデビューを目指していた。
しかし彼女はある日突然失踪してしまう。
そして3年後、静岡県のゴミ屋敷が火災に遭い、その現場から発見された人骨が彼女のものと判明する。
その家に住んでいた老女の息子が蓮沼寛一。
23年前、12歳の少女が失踪して死体となって発見された事件の容疑者だったが、取り調べでは完全黙秘を貫く。殺人の直接的な証拠は出てこないまま、裁判では無罪を勝ち取っていた。
3年前に沙織が失踪した頃にも蓮沼が「なみきや」に通っていたことから、警察は蓮沼の身柄を拘束するが、今回も彼は事件について完全黙秘。検察は有罪が立証できないと蓮沼を釈放してしまう。
「疑わしきは被告人の利益に」「100人の犯罪者を見逃すことになっても、1人の冤罪者を出してはならない」
司法に関してはよく聞く言葉だし、その意義は充分に分かるのだが、なにぶん蓮沼のキャラが読者の神経を逆なでするように描かれているので、とにかくフラストレーションがたまる。まあそれだけ作者の筆力が優れていることでもあるのだけど。
「警察があてにならないのなら、自分たちの手で・・・」
沙織の遺族、常連客などの関係者など、生前の沙織を愛していた人々は密かに ”ある計画” を立て、その準備をすすめていく。
タイトルの ”パレード” とは、舞台となる菊野市で年に1回行われる「キクノ・ストーリー・パレード」のこと。仮装した参加者がパフォーマンスをしながら商店街を練り歩くもので、今年のパレード開催日が ”計画” の決行日だった。
探偵役となる湯川は、アメリカでの研究生活を終えて日本に戻り、菊野市にある大学の付属施設に勤務することになった。
警視庁の草薙刑事から沙織の事件のことを聞いた湯川は「なみきや」に通うようになり、店主夫妻や常連客とも顔なじみになっていく。パレード当日には現地で見学までしていた。
そしてパレードが終了した夜、蓮沼の死体が発見される・・・
今回は古典的某有名作品のネタを倒叙形式で語るのかと思いきや、もちろんそんな簡単な話ではない。
”計画” の内容は読者には知らされないのだが、どうやらその実行に当たっては予想外の事態が起こっていて、当初の予定とは異なる結果になってしまったらしい。
もちろん、何がどうなっていたのかは最後まで明かされないが。
湯川の推理は、蓮沼の殺害方法の検討から始まる。この部分はさほど理系の知識がなくても見当はつく。さらに湯川の ”捜査” は、「なみきや」を取り巻く人間関係にも分け入っていく。
最終的には ”真犯人” の特定に至るのだけど、その裏に隠れていた事情が明らかになると、ミステリ的にはともかく、物語としてはどうにもやるせなさが募る。
しかしそこで終わるのではなく、わずかなりとも ”救い” を提示してみせるのも、また湯川だ。
二重三重の構成で、どう転んでもネガティブな結末にしかなりそうもない物語を、きっちりエンタメとして成立させてみせた作者はやっぱり上手い。さすが当代一の人気作家さんだなあと思う。
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