消えた断章 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
連作短篇集『交換殺人はいかが?』で登場した君原樹来(じゅらい)。12歳の小学6年生ながら、桁外れの洞察力を示し、解決済みの過去の事件に隠された ”真相” を見つけだしてきた。
本書は樹来君が登場するシリーズの2冊目だが、前作から10年後を描いている。
樹来くんは大学4年生となり、法学部に通いながらミステリ作家を目指している22歳の青年として登場する。
本書の冒頭では、ある誘拐事件が描かれる。
子どもが掠われた両親のもとに、犯人から電話がかかってくる。警察関係者も居合わす中、身代金を要求する相手に父親が言い放つ。
「断る! 私は誘拐犯と取引する気はない」
のっけからびっくりさせられる展開で「掴みはオッケー」だ(笑)。
そして本編の開幕だ。
君原樹来は、3歳下の妹・麻亜知(まあち)に頼まれて彼女の同級生・葛木夕夏(かつらぎ・ゆうか)と会うことになる。
10年前、夕夏は誘拐事件の被害者となった。犯人は彼女の叔父。しかし身代金奪取に失敗し、叔父は夕夏を解放した後に失踪した。
当時8歳だったこともあり、事件の記憶もほとんどない夕夏だったが、最近になって刑事が訪れ、事件について聞かれたという。
さらに刑事は、夕夏に幼い男の子の写真を見せた。この子に見覚えはないか、と。
刑事の前では否定したが、彼女には記憶があった。その男の子が死体となっているところを見た記憶が。
樹来は、多摩丘陵で白骨化した男の子の死体が発見されていたニュースを知り、夕夏のために10年前の事件との関わりを調べ始めるが・・・
”ヒロイン” となる夕夏さんは、大学1年生ながら童顔で可憐な美少女。樹来とはミステリ好きという読書の趣味も一致して、2人はたちまち打ち解けてゆく。
おお、今回は樹来と夕夏のラブコメ路線で行くのかなぁ~と思いきや、この作者のミステリがそんなカワイイ展開に終わるはずもない(笑)。
物語が進むにつれて明らかになるのは、誘拐事件をきっかけに崩壊していった夕夏の家庭のこと、また、ほぼ同時期に別の誘拐事件が起こっていたこと、そして2つの事件に絡んで多くの死者が出ていたこと・・・
いやぁ、どんどん凄惨さを増していく事件の様相に、読んでいて驚かされるばかり。
でもいちばん驚かされるのは、樹来が導き出した推理の中身だ。
10年前の鋭い推理力は未だ健在、というか磨きがかかったようで、ラスト80ページをかけて語られる樹来の推理は圧巻だ。
いままで現れていた ”事実” が次から次へとひっくり返り、事件の様相がネガからポジへと切り替わるように鮮やかに反転していく。
書いてて思ったが「ネガ」とか「ポジ」って言葉、デジタル写真の時代にあっては、ほとんど死語だよねぇ。ああ、フィルム写真の時代は遠くなりけり(笑)。
前作で登場した元刑事の祖父・継彦(つぐひこ)は今作でも健在。10年後の今は老人ホームに入っているが、樹来の調査に協力し、推理の構築にも関わるなど要所要所で活躍する。
いまのところ続巻は出てないけど、次が読みたくなるシリーズだ。
コメント 0