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冬の朝、そっと担任を突き落とす [読書・ミステリ]


冬の朝、そっと担任を突き落とす(新潮文庫nex)

冬の朝、そっと担任を突き落とす(新潮文庫nex)

  • 作者: 白河三兎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/12/23


評価:★★☆

高校で理系特進クラスの担任をしていた教師・穴井直人は
ある朝、校舎の窓から転落死を遂げる。

現場に遺書はなく、学校も事件を有耶無耶にしようとしていたが
クラスの生徒たちはみなその理由を知っていた。
教え子との ”淫行” を暴かれたからだ、と。

本書のタイトルは何とも物騒だが、これは自らの言動によって
自殺に向かおうとする担任の ”背中を押してしまった” あるいは
”追い込んでしまった” と思っている生徒たちを描いた物語だからだ

物語は自殺事件の直後から始まる。
穴井が担任していたクラスに中西美紀という女生徒が転入してくるが
彼女は転校初日から穴井の ”遺書探し” を宣言する。

 理系特進クラスは1クラスしかないので、
 理系の優秀な生徒はここにしか転入できないわけだ。
 ちなみに穴井の代わりは副担任だった女性教師が代行しているが、
 彼女は学校側の方針に従い、生徒に対しては
 一切、事件について語らない。

美紀の出現はクラス内に一石を投じ、波紋は広がっていく。
本書は全五章からなるのだが、それぞれ異なる生徒が語り手となって
クラス内の複雑な人間関係が浮き彫りになってくる。そして、
後半に向かうにつれて穴井の自殺直前の状況も明らかになっていく。

と書いてくると中西美紀が ”探偵役” となって
転落死事件の真相を暴いていく・・・って展開になると
思うかも知れないが、その後の物語は予想の斜め上をいく。

中盤過ぎには美紀自身の ”衝撃の過去” が明らかになるのだが、
これは文字通りの ”衝撃” で、こんなに驚かされたのは久しぶりだ。

本作の中で、”探偵役” に一番近いのは田嶋春という女子生徒だろう。
そう、本書は『田嶋春にはなりたくない』の主人公だった
”あの” 田嶋春嬢のシリーズでもあったのだ。

 もっともこちらの方が時系列的には過去で
 『田嶋春ー』では大学生だった彼女は、こちらでは高校生。
 穴井が担任していたクラスの生徒として登場する。

『田嶋春ー』でもその変人ぶりを遺憾なく発揮(笑)していた彼女だが
こちらではそれに輪をかけた奇矯ぶり。
その背景となる、彼女の家庭環境や家族の事情なども明らかになる。

本編中では章ごとの語り手となるメインキャラたちの影に
見え隠れしているが、要所要所では顔を出してきて
その鋭い洞察力は、隠されていた真実を次第に明らかにしていく・・・

高校生同士の会話劇の巧みさはもう、この著者の独壇場といえる。
でもそれは、私の苦手なドロドロなシーンでもあったりするわけで(苦笑)
読み進めるのは正直言ってキツかった。
星の数が少なめなのもそれが理由。

”自殺事件” の真相は最後まで明示はされないが、いくつかの描写を
手がかりに考えれば、”そういうことだったのか” と読者には伝わる。

中西美紀が投じた石が広げた波紋は、次第に大きくなり、
エピローグでの大波乱につながる。
ここへもっていくまでのストーリーテリングはもう達人の域だ。



ちなみに、文庫版の表紙の女子高生2人だが、
左側のボーイッシュな子が中西美紀、右側のメガネっ娘が田嶋春、
だと思う(笑)。


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